プロデューサー/アレンジャーとして研鑽を積む実験場
ブルースやロックをルーツに持ち、シンガー・ソングライターとしてのソロ活動のほか、変態紳士クラブなどのサポートを行ってきたギタリストの山岸竜之介。近年はプレイヤーとしてだけでなく、アレンジャー/プロデューサーとしてトラックを制作するなど、活動のフィールドを広げている。その拠点となっているプライベート・スタジオにお邪魔した。
ミックスのためにAD/DAを追求
山岸の制作スペースは都内の自宅の一室にある。大阪生まれの山岸が上京したのは2020年2月。当時は現在と別の場所に部屋を借りており、情勢もあって自宅での録音環境を見直すようになった時期だと言う。
「コロナ禍でライブも延期や中止になり、スタジオにも行けなくなってしまって、エンジニアから“遠隔でレコーディングを進めたい”というオファーも増えてきました。家にこもることが多くなり、そんな状況で何ができるのかを考えたときに、やはり制作環境を整えることだろうと思ったんです。もちろんギタリストというのがメインにありますが、“ギターだけが好き”ということはなくて。作編曲の中で鳴るギターが好きなんです。DAWを触りはじめたくらいから楽曲を総括的に見る立場に憧れもありましたし、そういった仕事に力を入れていこうと動いていきました。この3~4年は大きな転機でしたね」
自宅制作を始めたのは15歳くらいのころ。仕事でもらったギャラを元手に、中古パソコンとAPPLE Logic Pro、安いオーディオ・インターフェースをそろえたそうだ。
「実際に自分で録ってみると、スタジオで録ったプロの音とのあまりの違いに唖然としてしまいました。そこからオーディオ・インターフェースやケーブルの細かな違いを意識するようになったんです」
制作の仕事を進める中、音出しの問題で自宅でギター録音が思うようにできず、防音施工がされている部屋を探すようになった。現在の部屋へと引っ越したのは約1年前だ。
「扉も防音になっているので、アコギはもちろん、ギター・アンプも録ることができます。アンプ・ヘッドを変えてみるなど、いろいろな実験ができるようになってうれしいですね。引っ越したくらいの時期はミックスやマスタリングまでする仕事も多く、音の違いを捉えるためにいろいろな機材を試すようになりました」
そんな山岸が導入したオーディオ・インターフェースは、ANTELOPE AUDIO Orion Studio Synergy Core。130dBのダイナミック・レンジを持つ高品位なAD/DAを搭載する。
「以前はUNIVERSAL AUDIO Apollo Twinを使っていましたが、この部屋でミックスしたものをマスタリング・スタジオで聴くと、200~300Hz辺りが大きく出てしまっている気がしたんです。その帯域の聴き分けがよりできるようなAD/DAを考えたとき、ANTELOPE AUDIOが候補になりました。良いミックスの9割は録り音とアレンジにかかっていると思っているので、AD/DAにはかなりこだわりましたね」
人と曲を作るのが楽しい
モニターにはJBL 104-BTとNEUMANN KH 80のスピーカーを使用。104-BTはラジカセ的な役割で、メインはKH 80だそうだ。
「YAMAHA HS5を10年近く気に入って使っていましたが、さらに低域と高域の両方がしっかり見えるものを探してKH 80にたどり着いたんです。測定マイクと組み合わせたDSP補正機能も魅力で、補正後はスピーカー音量の大小にかかわらず聴きたい帯域をしっかりモニターできるようになりました」
部屋にはギター・アンプとキャビネット前に立てたマイクが置かれているが、基本的には実機を鳴らして録っているのだろうか?
「近年はNEURAL DSP Quad Cortexで音作りをしています。アンプ・シミュレーター・プラグインを使うこともありますが、基本的にはアレンジ段階で音を作り込んでしまって、リアンプ的な作業はしません。とはいえ最近になって実機のアンプを鳴らすことも多くなってきました。MATCHLESS Chieftainはすごく古いモデルでスピーカー部分が気に入っており、SENNHEISER E 906で録ることが多いです。もしくは、音が漏れないようにクローゼットにセットしているORANGEのキャビネットを鳴らしています。それ以外のアンプ・ヘッドは、UNIVERSAL AUDIO OX Amp Top Boxを通して録っていますね」
この数年でプロデューサー/アレンジャーとしての才覚を発揮してきた山岸。プライベート・スタジオは、その活動を支える大切な場所になっている。
「ギターを弾く時間はもちろんですが、やっぱり人と一緒に曲を作っている時間がとても楽しくて。ディレクションをしたり、機材の研究をしたり、誰かに演奏してもらって録ったり……今後もどんどんそういうことをしていきたいので、いずれは10人くらい一緒に入って作業ができるスタジオを造ってみたいです」
Equipment
Computer:APPLE MacBook Pro
DAW:APPLE Logic Pro
Audio I/O:ANTELOPE AUDIO Orion Studio Synergy Core
Speaker:JBL 104-BT、NEUMANN KH 80
Headphone:NEUMANN NDH 30、SONY MDR-CD900ST、YAMAHA HPH-MT8
Other:NEURAL DSP Quad Cortex(Guitar Processor)、AKG C451 B、NEUMANN MA 1、NEUMANN TLM 103、SENNHEISER E906、SHURE SM7B(Microphone)
Close up!
制作とライブの音作りを支える新世代のギター・プロセッサー
NEURAL DSP Quad Cortexは制作用とライブ用に1台ずつ持っていて、それぞれに同じプリセットをコピーして使っています。歌もののプロデュースやアレンジの仕事では、ボーカルとギター音色のリレーションが大事になってきますし、実機のアンプを鳴らして録ってしまうとリコールが難しくなるんです。そのため、基本的にQuad Cortexで音を作って録音しています。ちなみに、作った音色はプリセット名にボーカルの名前を入れるなどして管理していますよ。
Profile
山岸竜之介:1999年、大阪府生まれ。2013年にムッシュかまやつ(g)、KenKen(b)と共にLIFE IS GROOVEを結成。変態紳士クラブなど、さまざまなアーティストのレコーディングやライブにも参加している。アレンジャー/プロデューサーとしても多方面で活動。
Recent Work
『NEO ROCK』
山岸竜之介