山岸竜之介のプライベート・スタジオ|Private Studio 2025

山岸竜之介のプライベート・スタジオ|Private Studio 2025

プロデューサー/アレンジャーとして研鑽を積む実験場

 ブルースやロックをルーツに持ち、シンガー・ソングライターとしてのソロ活動のほか、変態紳士クラブなどのサポートを行ってきたギタリストの山岸竜之介。近年はプレイヤーとしてだけでなく、アレンジャー/プロデューサーとしてトラックを制作するなど、活動のフィールドを広げている。その拠点となっているプライベート・スタジオにお邪魔した。

スタジオは防音扉が備わった一室。ギター・アンプのマイク録音も行えるので、音作りや機材の実験が気軽にできるようになったという。部屋の片面に大量のギター/ベース、反対側に機材というレイアウトだ

スタジオは防音扉が備わった一室。ギター・アンプのマイク録音も行えるので、音作りや機材の実験が気軽にできるようになったという。部屋の片面に大量のギター/ベース、反対側に機材というレイアウトだ

ミックスのためにAD/DAを追求

 山岸の制作スペースは都内の自宅の一室にある。大阪生まれの山岸が上京したのは2020年2月。当時は現在と別の場所に部屋を借りており、情勢もあって自宅での録音環境を見直すようになった時期だと言う。

 「コロナ禍でライブも延期や中止になり、スタジオにも行けなくなってしまって、エンジニアから“遠隔でレコーディングを進めたい”というオファーも増えてきました。家にこもることが多くなり、そんな状況で何ができるのかを考えたときに、やはり制作環境を整えることだろうと思ったんです。もちろんギタリストというのがメインにありますが、“ギターだけが好き”ということはなくて。作編曲の中で鳴るギターが好きなんです。DAWを触りはじめたくらいから楽曲を総括的に見る立場に憧れもありましたし、そういった仕事に力を入れていこうと動いていきました。この3~4年は大きな転機でしたね」

 自宅制作を始めたのは15歳くらいのころ。仕事でもらったギャラを元手に、中古パソコンとAPPLE Logic Pro、安いオーディオ・インターフェースをそろえたそうだ。

 「実際に自分で録ってみると、スタジオで録ったプロの音とのあまりの違いに唖然としてしまいました。そこからオーディオ・インターフェースやケーブルの細かな違いを意識するようになったんです」

 制作の仕事を進める中、音出しの問題で自宅でギター録音が思うようにできず、防音施工がされている部屋を探すようになった。現在の部屋へと引っ越したのは約1年前だ。

 「扉も防音になっているので、アコギはもちろん、ギター・アンプも録ることができます。アンプ・ヘッドを変えてみるなど、いろいろな実験ができるようになってうれしいですね。引っ越したくらいの時期はミックスやマスタリングまでする仕事も多く、音の違いを捉えるためにいろいろな機材を試すようになりました」

 そんな山岸が導入したオーディオ・インターフェースは、ANTELOPE AUDIO Orion Studio Synergy Core。130dBのダイナミック・レンジを持つ高品位なAD/DAを搭載する。

 「以前はUNIVERSAL AUDIO Apollo Twinを使っていましたが、この部屋でミックスしたものをマスタリング・スタジオで聴くと、200~300Hz辺りが大きく出てしまっている気がしたんです。その帯域の聴き分けがよりできるようなAD/DAを考えたとき、ANTELOPE AUDIOが候補になりました。良いミックスの9割は録り音とアレンジにかかっていると思っているので、AD/DAにはかなりこだわりましたね」

APPLE MacBook Proをクラムシェル・モードで使用し、DAWはLogic Proを愛用。外部ディスプレイの手前には、MIDIキーボードのNEKTAR Impact GX61を設置している。ちなみに以前はWindows PCを別に用意し、VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Vienna Ensemble Proを使ってプラグインによるCPU負荷を分散させていたそうだ

APPLE MacBook Proをクラムシェル・モードで使用し、DAWはLogic Proを愛用。外部ディスプレイの手前には、MIDIキーボードのNEKTAR Impact GX61を設置している。ちなみに以前はWindows PCを別に用意し、VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Vienna Ensemble Proを使ってプラグインによるCPU負荷を分散させていたそうだ

モニター・スピーカーはNEUMANN KH 80(写真右)とJBL 104-BT(同左)。KH 80は測定マイクを使って再生環境に合わせたDSP補正ができ、山岸もその効果を実感しているとのことだ。JBL 104-BTはラジカセ・チェックのような役割を果たしてい

モニター・スピーカーはNEUMANN KH 80(写真右)とJBL 104-BT(同左)。KH 80は測定マイクを使って再生環境に合わせたDSP補正ができ、山岸もその効果を実感しているとのことだ。JBL 104-BTはラジカセ・チェックのような役割を果たしてい

山岸所有のヘッドホン。手前から、NEUMANN NDH 30、SONY MDR-CD900ST、YAMAHA HPH-MT8だ。NDH 30はスピーカーのKH 80のキャラクターが気に入ったことで導入したそう

山岸所有のヘッドホン。手前から、NEUMANN NDH 30、SONY MDR-CD900ST、YAMAHA HPH-MT8だ。NDH 30はスピーカーのKH 80のキャラクターが気に入ったことで導入したそう

左から、NEUMANN MA 1、SENNHEISER E 906、AKG C451 B、NEUMANN TLM 103、SHURE SM7B。MA 1はKH 80に使用する測定マイクだ。ボーカルはSM7BかTLM 103で録るとのこと。最新作『NEO ROCK』では主にSM7Bを使っており、「コンデンサー・マイクほどの空間表現はないが、良い意味で音像が近いのが気に入っている」と山岸は語る

左から、NEUMANN MA 1、SENNHEISER E 906、AKG C451 B、NEUMANN TLM 103、SHURE SM7B。MA 1はKH 80に使用する測定マイクだ。ボーカルはSM7BかTLM 103で録るとのこと。最新作『NEO ROCK』では主にSM7Bを使っており、「コンデンサー・マイクほどの空間表現はないが、良い意味で音像が近いのが気に入っている」と山岸は語る

スタジオ内の壁面には、山岸によって吸音材が貼り付けられている。特にデスクに向かって左後ろのコーナーに音がたまりやすく、試行錯誤した結果、丸いクッションを取り付けたことで解決したそうだ

スタジオ内の壁面には、山岸によって吸音材が貼り付けられている。特にデスクに向かって左後ろのコーナーに音がたまりやすく、試行錯誤した結果、丸いクッションを取り付けたことで解決したそうだ

人と曲を作るのが楽しい

 モニターにはJBL 104-BTとNEUMANN KH 80のスピーカーを使用。104-BTはラジカセ的な役割で、メインはKH 80だそうだ。

 「YAMAHA HS5を10年近く気に入って使っていましたが、さらに低域と高域の両方がしっかり見えるものを探してKH 80にたどり着いたんです。測定マイクと組み合わせたDSP補正機能も魅力で、補正後はスピーカー音量の大小にかかわらず聴きたい帯域をしっかりモニターできるようになりました」

 部屋にはギター・アンプとキャビネット前に立てたマイクが置かれているが、基本的には実機を鳴らして録っているのだろうか?

 「近年はNEURAL DSP Quad Cortexで音作りをしています。アンプ・シミュレーター・プラグインを使うこともありますが、基本的にはアレンジ段階で音を作り込んでしまって、リアンプ的な作業はしません。とはいえ最近になって実機のアンプを鳴らすことも多くなってきました。MATCHLESS Chieftainはすごく古いモデルでスピーカー部分が気に入っており、SENNHEISER E 906で録ることが多いです。もしくは、音が漏れないようにクローゼットにセットしているORANGEのキャビネットを鳴らしています。それ以外のアンプ・ヘッドは、UNIVERSAL AUDIO OX Amp Top Boxを通して録っていますね」

 この数年でプロデューサー/アレンジャーとしての才覚を発揮してきた山岸。プライベート・スタジオは、その活動を支える大切な場所になっている。

 「ギターを弾く時間はもちろんですが、やっぱり人と一緒に曲を作っている時間がとても楽しくて。ディレクションをしたり、機材の研究をしたり、誰かに演奏してもらって録ったり……今後もどんどんそういうことをしていきたいので、いずれは10人くらい一緒に入って作業ができるスタジオを造ってみたいです」

ギター・アンプ。上からEVH 5150III、KOCH Jupiter 45 Head、MATCHLESS Chieftainが積まれている。EVH 5150IIIは最近手に入れたもので、「サンレコのバックナンバーでURUHAさん(the GazettE)のインタビューを読み、購入したんです」と山岸。Chieftainの左側にはUNIVERSAL AUDIO OX Amp Top Boxの姿がある

ギター・アンプ。上からEVH 5150III、KOCH Jupiter 45 Head、MATCHLESS Chieftainが積まれている。EVH 5150IIIは最近手に入れたもので、「サンレコのバックナンバーでURUHAさん(the GazettE)のインタビューを読み、購入したんです」と山岸。Chieftainの左側にはUNIVERSAL AUDIO OX Amp Top Boxの姿がある

5150IIIの上に置かれたエフェクター。左からBAE Hot Fuzz(ファズ)、JAN RAY Vemuram(オーバードライブ)、IBANEZ TS9(オーバードライブ)

5150IIIの上に置かれたエフェクター。左からBAE Hot Fuzz(ファズ)、JAN RAY Vemuram(オーバードライブ)、IBANEZ TS9(オーバードライブ)

ラックに並んだギター・コレクションの一部。比較的最近までは少なかったそうだが、毎月1本ペースで増えていき、現在のラインナップになったそう

ラックに並んだギター・コレクションの一部。比較的最近までは少なかったそうだが、毎月1本ペースで増えていき、現在のラインナップになったそう

コレクションから紹介してもらった1本。山岸が10代の頃にバイトをしていたビンテージ・ギター・ショップ、Guitar Tribeで昨年購入したGIBSON Les Paul Standardだ。1968年製で、もともとはP-90が載っているモデルだが、前オーナーの手によってPAFレプリカのピックアップに換装され、1957年仕様のような見た目になっている

コレクションから紹介してもらった1本。山岸が10代の頃にバイトをしていたビンテージ・ギター・ショップ、Guitar Tribeで昨年購入したGIBSON Les Paul Standardだ。1968年製で、もともとはP-90が載っているモデルだが、前オーナーの手によってPAFレプリカのピックアップに換装され、1957年仕様のような見た目になっている

Equipment

Computer:APPLE MacBook Pro

DAW:APPLE Logic Pro

Audio I/O:ANTELOPE AUDIO Orion Studio Synergy Core

Speaker:JBL 104-BT、NEUMANN KH 80

Headphone:NEUMANN NDH 30、SONY MDR-CD900ST、YAMAHA HPH-MT8

Other:NEURAL DSP Quad Cortex(Guitar Processor)、AKG C451 B、NEUMANN MA 1、NEUMANN TLM 103、SENNHEISER E906、SHURE SM7B(Microphone)

Close up!

制作とライブの音作りを支える新世代のギター・プロセッサー

 NEURAL DSP Quad Cortexは制作用とライブ用に1台ずつ持っていて、それぞれに同じプリセットをコピーして使っています。歌もののプロデュースやアレンジの仕事では、ボーカルとギター音色のリレーションが大事になってきますし、実機のアンプを鳴らして録ってしまうとリコールが難しくなるんです。そのため、基本的にQuad Cortexで音を作って録音しています。ちなみに、作った音色はプリセット名にボーカルの名前を入れるなどして管理していますよ。

写真下がNEURAL DSP Quad Cortex、上がANTELOPE AUDIO Orion Studio Synergy Core。Orion StudioにはQuad CortexやUNIVERSAL AUDIO OX Amp Top Box、DIなどを接続しており、すぐに録音できるようにセットアップしているとのこと

写真下がNEURAL DSP Quad Cortex、上がANTELOPE AUDIO Orion Studio Synergy Core。Orion StudioにはQuad CortexやUNIVERSAL AUDIO OX Amp Top Box、DIなどを接続しており、すぐに録音できるようにセットアップしているとのこと

 Profile 

山岸竜之介

山岸竜之介:1999年、大阪府生まれ。2013年にムッシュかまやつ(g)、KenKen(b)と共にLIFE IS GROOVEを結成。変態紳士クラブなど、さまざまなアーティストのレコーディングやライブにも参加している。アレンジャー/プロデューサーとしても多方面で活動。

 Recent Work 

『NEO ROCK』山岸竜之介

『NEO ROCK』
山岸竜之介

特集|Private Studio 2025