自然からインスパイアされて音が生まれる。新作の方向性を決定づけた山間のアトリエ
ビブラフォン/マリンバ奏者であり、生楽器とエレクトロニクスを巧みに融合したサウンドを生み出す作曲家のMasayoshi Fujita。2006年よりドイツ・ベルリンを拠点に活動していたが、現在は兵庫県北部の自然豊かな町へと移住している。作曲にも影響を与えたという現在のプライベート・スタジオ環境について、Fujitaに聞いた。
景色に溶け込むような音を探した
Fujitaがスタジオを構えるのは兵庫県香美町。約6割が自然公園区域に指定され、海/山/里という豊かな自然に囲まれた町だ。
「妻の仕事の関係で香美町に住むことを決め、2020年1月に移住しました。縁もゆかりもない場所ではありましたが、いろいろな出会いに恵まれたんです。スタジオを造る場所を探していたところ、以前に保育所として使われていた建物を紹介いただけて、今は町から借りてスタジオとして利用しています」
2024年9月リリースの「Migratory」は、すべての曲をこのスタジオで制作した初の作品となる。この空間や環境が作品に与えた影響はあったのだろうか?
「前作『Bird Ambience』は自分の中のセパレーションを取っ払って作ったアルバムで、とても重要な過程でしたが、振り返ると結構カオティックな作品になったと感じています。それで、次作はもう少し1つのことにフォーカスしたものにしようと考えていました。そうした考えの中でここに移住して過ごしているうち、アンビエントな雰囲気がしっくり来るようになったんです。明確なノイズやビートはなんとなく合わず、ここの景色に溶け込むような音を探す時間が多くなりました」
スタジオがある場所は、広いワンフロア。ヴイブラフォンやマリンバのほか、ピアノ、ドラムといった楽器をセッティングしており、マイクを立ててすぐに録音ができるようになっている。
「ドイツではスタジオを借りて使うことも多かったのですが、毎回セッティングをしなければいけないし、それで創作が中断される感覚もありました。常にすべてが置いてあり、すぐに録音ができる環境を整えることを重視していましたね。また、用途によって配置を変更できるように柔軟性も考慮していて、機材や机などは動かしやすいものを採用しました」
デスクにはAPPLE Logic Proを立ち上げたMacBook Proと、オーディオ・インターフェースのRME Fireface UCXが置かれている。デスクの横にはミキサーのALLEN&HEATHMixWizard WZ4 16:2の姿も。マイク録音の際はマイクプリのVINTECH AUDIO 273を使うことが多いと語る。
「ビブラフォンはマイクの相性に左右されやすい楽器で、合わないマイクだと変なピークが出てしまうこともあります。いろいろと試したところ、スモール・ダイアフラムは合うことが多いことに気付きました。今はNEUMANNKM 184を使っていて、それと273の組み合わせがビブラフォンとマリンバにマッチするんです。演奏者が聴いている音と同じようなサウンドにうまくまとめてくれます」
この場所でできることを掘り下げたい
Fujitaのエレクトロニック面を支えるのが、CLAVIA Nord Modular G2とNord Micro Modular。主に前者は制作で、後者はライブで活用している。Nord Modular G2はMIDIキーボードとしても愛用しており、シンセとして使う際はプリセットを元にエディットするそうだ。「以前、オウテカが自分たちのプリセットをネット上に公開していたんです。それを自分なりに改造して使うことがかなり多いですね」とFujita。Nord Micro Modularはシンセ兼エフェクターとして多用している。
「今となってはエフェクターとしての扱いが多くなってきました。もっと特殊な音を作りたいときは、ユーロラック・ケース内のモジュールを使っています。シンセとして使う場合は、KORG NanoKey Studioで演奏していますね」
ライブ時に欠かせないのはABLETON Live。セッション・ビューをルーパーとして使い、パフォーマンスを行っている。「Liveは本当にライブ演奏のことを考えて作られている気がします。かゆいところに手が届く便利さを持っていますね。ライブでは、MIDIフット・スイッチのKEITH MCMILLEN INSTRUMENTS 12 Stepを使ってLiveをコントロールしています」
5年近くの日々をこの土地とスタジオで過ごしてきたFujita。今後の展望についても聞いてみた。
「前々から、山の中で音楽を作りたいという思いがあったので、今は本当に夢の環境に居られていると感じています。『Migratory』ができたことで、やっと自分のやりたいことがスタートできました。これからこの場所でどのようなことができるのか、さらに試していきたいですね。スタジオ環境で言えば、天井を抜いて頭上の空間を広げ、より良い響きを作ってみたいとも考えています」
Equipment
Computer:APPLE MacBook Pro
DAW:APPLE Logic Pro、ABLETON Live
Audio I/O:RME Fireface UCX Speaker:MUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL906
Speaker:MUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL906
Headphone:SONY MDR-CD900ST
Other:ALLEN&HEATH MixWizard WZ4 16:2(Mixer)、CLAVIA Nord Micro Modular、Nord Modular G2(Synth)、DOEPFER A-106-5 SEM(Multimode Filter)、MFB Dual LFO(LFO)、 THE HARVESTMAN Tyme Sefari+A Sound Of Thunder(Looper)、AKG C 414、ELECTRO- VOICE RE320、NEUMANN KM 184、OKTAVA MK-012、SHURE SM57(Microphone)
Close up!
ライブ・パフォーマンスで活躍するシンセ&エフェクト・モジュール
これらは主にライブで使っている機材です。CLAVIA Nord Micro Modularは、最近ではエフェクターとしての活用がメイン。シンセとして演奏する際はMIDIコントローラーのKORG NanoKey Studioを使います。ユーロラック・ケースに入っているものは、特殊な効果を演出したいときに使うモジュールで、右からDOEPFER A-106-5 SEM(マルチモード・フィルター)、MFB Dual LFO(LFO)、THE HARVESTMAN Tyme Sefari(ルーパー)。ラックのフロント側には、Tyme Sefariのサーキット・ベンディング用モジュールであるA Sound Of Thunderを取り付けています。Nord Micro Modularの上にあるのは、リバーブ・エフェクターのSOURCE AUDIO Ventrisです
Profile
Masayoshi Fujita:ビブラフォン&マリンバ奏者/作曲家。イレースト・テープス・レコーズに所属し、これまで11枚のアルバムをリリース。ヨーロッパをはじめ、世界各国でのコンサートやフェスティバルなどに出演するほか、映画などさまざまな映像作品への楽曲提供も行う。
Recent Work
『Migratory』
Masayoshi Fujita
(インパートメント)
特集|Private Studio 2025