Masayoshi Fujitaのプライベート・スタジオ|Private Studio 2025

自然からインスパイアされて音が生まれる。新作の方向性を決定づけた山間のアトリエ

 ビブラフォン/マリンバ奏者であり、生楽器とエレクトロニクスを巧みに融合したサウンドを生み出す作曲家のMasayoshi Fujita。2006年よりドイツ・ベルリンを拠点に活動していたが、現在は兵庫県北部の自然豊かな町へと移住している。作曲にも影響を与えたという現在のプライベート・スタジオ環境について、Fujitaに聞いた。

平面図

元保育所として使われていた建物のワンフロアをスタジオとして使用。広い空間に楽器や機材を配置し、自在に移動できるようにしている

景色に溶け込むような音を探した

 Fujitaがスタジオを構えるのは兵庫県香美町。約6割が自然公園区域に指定され、海/山/里という豊かな自然に囲まれた町だ。

 「妻の仕事の関係で香美町に住むことを決め、2020年1月に移住しました。縁もゆかりもない場所ではありましたが、いろいろな出会いに恵まれたんです。スタジオを造る場所を探していたところ、以前に保育所として使われていた建物を紹介いただけて、今は町から借りてスタジオとして利用しています」

デスク周り

デスク周り。パソコンはAPPLE MacBook Proで、DAWは制作でLogic Pro、ライブでABLETON Liveを使用する。デスク左端のレコーダーSONY PCM-D100はフィールド・レコーディングで活用しており、『Migratory』収録の「Higurashi」で聴こえるひぐらしの鳴き声もこれで録ったもの。奥の机にはオープン・リールのAKAI 4000D ProとVICTORのステレオ・カセット・システムMK-22、その手前に電子キーボードCASIO SK-5が置かれている

MUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL906

スピーカーはMUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL906。こちらも特注のカラーとなっている。Fujitaは"生楽器との相性が良い"と評する

ADAM AUDIO T10S

サブウーファーはADAM AUDIO T10Sを採用。RL906は自然なサウンドだが超低域の表現が足りず、最近になってT10Sを導入したとのこと。フット・ペダルでT10Sのオン/オフを切り替えながらモニターできることが気に入っているという

 2024年9月リリースの「Migratory」は、すべての曲をこのスタジオで制作した初の作品となる。この空間や環境が作品に与えた影響はあったのだろうか?

 「前作『Bird Ambience』は自分の中のセパレーションを取っ払って作ったアルバムで、とても重要な過程でしたが、振り返ると結構カオティックな作品になったと感じています。それで、次作はもう少し1つのことにフォーカスしたものにしようと考えていました。そうした考えの中でここに移住して過ごしているうち、アンビエントな雰囲気がしっくり来るようになったんです。明確なノイズやビートはなんとなく合わず、ここの景色に溶け込むような音を探す時間が多くなりました」

 スタジオがある場所は、広いワンフロア。ヴイブラフォンやマリンバのほか、ピアノ、ドラムといった楽器をセッティングしており、マイクを立ててすぐに録音ができるようになっている。

 「ドイツではスタジオを借りて使うことも多かったのですが、毎回セッティングをしなければいけないし、それで創作が中断される感覚もありました。常にすべてが置いてあり、すぐに録音ができる環境を整えることを重視していましたね。また、用途によって配置を変更できるように柔軟性も考慮していて、機材や机などは動かしやすいものを採用しました」

ビブラフォンとドラム、パーカッションなど

ビブラフォンとドラム、パーカッションなど。ビブラフォンはMUSSER製で、Fujitaが20年以上前に個人輸入して購入したものだ

マリンバ

マリンバは日本のKOROGI製。帰国後に購入したもので、特注でパイプ部分を黒にした。足元にはMIDIフット・スイッチのKEITH MCMILLEN INSTRUMENTS 12 Stepがあり、Liveのセッションビューなどをコントロールしている

YAMAHA アップライト・ピアノ

YAMAHAのアップライト・ピアノは保育所時代に使われていたもので、もともとこの建物にあったという。椅子代わりにしている跳び箱も同様だ。"完璧なコンディションではないけど、かわいらしく趣のある音がする"とFujitaは語る。収音はAKG C 414で行っている

 デスクにはAPPLE Logic Proを立ち上げたMacBook Proと、オーディオ・インターフェースのRME Fireface UCXが置かれている。デスクの横にはミキサーのALLEN&HEATHMixWizard WZ4 16:2の姿も。マイク録音の際はマイクプリのVINTECH AUDIO 273を使うことが多いと語る。

 「ビブラフォンはマイクの相性に左右されやすい楽器で、合わないマイクだと変なピークが出てしまうこともあります。いろいろと試したところ、スモール・ダイアフラムは合うことが多いことに気付きました。今はNEUMANNKM 184を使っていて、それと273の組み合わせがビブラフォンとマリンバにマッチするんです。演奏者が聴いている音と同じようなサウンドにうまくまとめてくれます」

マイク

マイクはSHURE SM57、ELECTRO-VOICE RE320、AKG C 414、NEUMANN KM 184、OKTAVA MK-012を愛用。ビブラフォンやマリンバには特にスモール・ダイアフラムが合うようだ。SM57はサンプリングなどで、RE320はキックなどに使っている

ALLEN&HEATH MixWizard WZ4 16:2

ミキサーのALLEN&HEATH MixWizard WZ4 16:2。下のラックにはパッチベイのSAMSON S-Patch Plus、マイクプリのVINTECH AUDIO 2 73とパワー・サプライがセットされている。NEUMANN KM 184と273の組み合わせが、ビブラフォンやマリンバの収音に合っているそうだ

この場所でできることを掘り下げたい

 Fujitaのエレクトロニック面を支えるのが、CLAVIA Nord Modular G2とNord Micro Modular。主に前者は制作で、後者はライブで活用している。Nord Modular G2はMIDIキーボードとしても愛用しており、シンセとして使う際はプリセットを元にエディットするそうだ。「以前、オウテカが自分たちのプリセットをネット上に公開していたんです。それを自分なりに改造して使うことがかなり多いですね」とFujita。Nord Micro Modularはシンセ兼エフェクターとして多用している。

 「今となってはエフェクターとしての扱いが多くなってきました。もっと特殊な音を作りたいときは、ユーロラック・ケース内のモジュールを使っています。シンセとして使う場合は、KORG NanoKey Studioで演奏していますね」

シンセのCLAVIA Nord Modular G2、専用エディター・ソフトを立ち上げたMacBook Pro、Nord Modular G2

シンセのCLAVIA Nord Modular G2と、専用エディター・ソフトを立ち上げたMacBook Pro。Nord Modular G2はモジュラー・システムのシンセで、専用エディター・ソフトでモジュールをパッチングして音作りを行う。Fujitaはオウテカが配布していたプリセットを元に音を作ることが多いとのこと

エフェクターなどの小物類

エフェクターなどの小物類。下の段にあるMACKIE 1202-VLZ3はライブ用ミキサーだ。その上段にあるのはラック型リバーブのALESIS Microverb II。右側のノブでリバーブ・タイプを切り替え可能で、切り替わるタイミングでリバーブが途切れる効果が面白く、ライブ中にも回すそうだ。多用したせいで1台が故障し、もう1台手に入れたとのこと

 ライブ時に欠かせないのはABLETON Live。セッション・ビューをルーパーとして使い、パフォーマンスを行っている。「Liveは本当にライブ演奏のことを考えて作られている気がします。かゆいところに手が届く便利さを持っていますね。ライブでは、MIDIフット・スイッチのKEITH MCMILLEN INSTRUMENTS 12 Stepを使ってLiveをコントロールしています」

 5年近くの日々をこの土地とスタジオで過ごしてきたFujita。今後の展望についても聞いてみた。

 「前々から、山の中で音楽を作りたいという思いがあったので、今は本当に夢の環境に居られていると感じています。『Migratory』ができたことで、やっと自分のやりたいことがスタートできました。これからこの場所でどのようなことができるのか、さらに試していきたいですね。スタジオ環境で言えば、天井を抜いて頭上の空間を広げ、より良い響きを作ってみたいとも考えています」

Equipment

Computer:APPLE MacBook Pro

DAW:APPLE Logic Pro、ABLETON Live

Audio I/O:RME Fireface UCX Speaker:MUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL906

Speaker:MUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL906

Headphone:SONY MDR-CD900ST

Other:ALLEN&HEATH MixWizard WZ4 16:2(Mixer)、CLAVIA Nord Micro Modular、Nord Modular G2(Synth)、DOEPFER A-106-5 SEM(Multimode Filter)、MFB Dual LFO(LFO)、 THE HARVESTMAN Tyme Sefari+A Sound Of Thunder(Looper)、AKG C 414、ELECTRO- VOICE RE320、NEUMANN KM 184、OKTAVA MK-012、SHURE SM57(Microphone)

Close up!

ライブ・パフォーマンスで活躍するシンセ&エフェクト・モジュール

ユーロラックのモジュール、SOURCE AUDIO Ventris、CLAVIA Nord Micro Modular

ライブでメインに活躍しているユーロラックのモジュール(写真左)とSOURCE AUDIO Ventris(同右上)、CLAVIA Nord Micro Modular(同右下)。ユーロラック・ケースはDOEPFER A-100 MC Rawを改造したそうだ

 これらは主にライブで使っている機材です。CLAVIA Nord Micro Modularは、最近ではエフェクターとしての活用がメイン。シンセとして演奏する際はMIDIコントローラーのKORG NanoKey Studioを使います。ユーロラック・ケースに入っているものは、特殊な効果を演出したいときに使うモジュールで、右からDOEPFER A-106-5 SEM(マルチモード・フィルター)、MFB Dual LFO(LFO)、THE HARVESTMAN Tyme Sefari(ルーパー)。ラックのフロント側には、Tyme Sefariのサーキット・ベンディング用モジュールであるA Sound Of Thunderを取り付けています。Nord Micro Modularの上にあるのは、リバーブ・エフェクターのSOURCE AUDIO Ventrisです

 Profile 

Masayoshi Fujita:ビブラフォン&マリンバ奏者/作曲家。イレースト・テープス・レコーズに所属し、これまで11枚のアルバムをリリース。ヨーロッパをはじめ、世界各国でのコンサートやフェスティバルなどに出演するほか、映画などさまざまな映像作品への楽曲提供も行う。

 Recent Work 

『Migratory』

Masayoshi Fujita

(インパートメント)

特集|Private Studio 2025