10代で注目されたトラック・メイカーが10年後の未来に手にしたマイ・スタジオ
2010年代中盤に、10代でKawaii Future Bassの旗手として注目され、その後は星野源の楽曲アレンジに参加するなど活躍してきたトラック・メイカー、Snail's House。アコースティックエンジニアリングが音響設計を手掛ける新たなプライベート・スタジオを見せてくれた。
BloomとRiftが重要プラグイン
この7年ほどで3回の引っ越しを経験しているSnail's House。一度は東京の都市部にも住んだが、以降は郊外に移り、現在も閑静なエリアに身を置く。プライベート・スタジオは自宅の1階にあって、時間を決めずに気ままに音楽制作をしているという。
「何か思いついたときに入って、2~3時間である程度の形にしたら休憩して、それから続きをやるような感じ。思いつきで作ることが多いので、気持ちが乗らないときはスタジオに入らず、MVの監修をやったり、先々のプロジェクトについて考えたりしています」
住む場所というのは、作品に影響を与えるのだろうか?
「東京の真ん中にいた頃は、気忙しさが曲に出ていたかもしれません。郊外に越してからは川や田んぼを見る機会が増えて、そういうのにダイレクトに影響されたものができたと思います。『Imaginarium』っていうアルバムが一例ですね。ああいうチルな方向の作品には、そのときあったことや自分が見たもの、心情などがダイレクトに反映されています。一方、エレクトロニックなほうに寄った曲では、自分が新しく体験した技術や新しい音を使って楽しんでいます」
最近、新しく手に入れて気に入っているのはOEKSOUNDのプラグインBloom。入力信号の周波数特性を解析し、ダイナミックに補正するトーン・シェイパーだ。これをソフト・シンセのLENNARDIGITAL Sylenth1に合わせるのがSnail's House流。
Sylenth1は好きでよく使っているんですが、ユニゾンするときや左右へ広げるときに位相ズレが目立ちやすく、周波数的に暴れることがある。その暴れをBloomで落ち着けるような感じです。Bloomは、やりすぎた音作りをうまくまとめて、ちゃんと聴ける音にしてくれるから好きですね。積極的な音作りに使うプラグインでは、MINIMAL AUDIOのRiftが大活躍しています。ひずみを中心とするマルチエフェクトで、プリセットがすごく優秀。例えば、チップチューン系の矩形波シンセはハイがキツく聴こえがちですけど、Riftでディストーションやリバーブをかけると俄然、柔らかくなります。Rift+Sylenth1は一番よく使う組み合わせですね」
iPhoneはコンプ感がよく分かる
スタジオの核はIMAGE-LINE SOFTWAREのDAWソフトFL Studio。複数の音源およびフレーズのセットである“Pattern”をプレイリスト(タイムラインの画面)上に自由に配置して、楽曲を構成することができる。幾つかのDAWを経験してきたSnail's Houseだが、FL Studioについては「思いついた曲をそのまま形にしやすいという点では一番だと思います」と評価。ミックスやマスタリングまでFL Studioでこなすことが多い。
「曲を作るときにテンションが上がっていると、つい音量を上げてしまうので、気づいたら各トラックがレベル・オーバーしています(笑)。もう、赤つきまくりで。だからマスターにKILOHEARTS Gainというプラグインを挿して、音量を下げるんです。FL Studioはエンジニアリングよりも曲作りに向いていると思うので、ミックス中に限界を感じたらPRESONUS Studio Oneに切り替えて作業します。Studio Oneは僕が初めて使ったDAWで、ミックスがすごくやりやすいんです」
モニター・スピーカーはBAREFOOT SOUND MicroMain45を使用。曲ができたらAPPLE iPhoneを使い、内蔵スピーカーや数千円の有線イヤホンでもチェックする。
「iPhoneの内蔵スピーカーは結構、粗が見えるんです。特にコンプレッションの感じがよく分かり、つぶしすぎていると明らかに奇麗に聴こえないから、そうならないように音作りする。iPhoneのほかカー・ステレオでもチェックするようにしていて、特に低域や中域の出方を見ています。“中域のカットEQ、削る帯域を間違えたな……”といった発見ができますからね。とは言え、もう1ペアくらいモニター・スピーカーが欲しいと思っていて、興味があるのはAMPHIONです」
7年前、まだ小さな部屋で音楽を作っていたSnail's Houseは、今やこれだけのスタジオを手にするアーティストとなった。しかし本人としては「ものすごく飛躍したいという欲はあまりなくて、現状維持をテーマにやってきた結果」と考えている。
「だから、今後もモチベーションをキープして、自分が作りたい作品、みんなが聴きたいものを作っていきたいですね」
Equipment
Computer:Windows
DAW:ABLETON Live、BITWIG Bitwig Studio、IMAGE-LINE SOFTWARE FL Studio、PRESONUS Studio One
Audio I/O:PRISM SOUND Titan
Speaker:BAREFOOT SOUND MicroMain45
Headphone:FOCAL Clear MG Pro、水月雨(MOONDROP)楽園-PARA
Other:MOOG DFAM、Mother-32、KORG Minilogue XD、MAKE NOISE 0-Coast、TEENAGE ENGINEERING OP-1 Field、OP-1、YAMAHA Reface CS(All Synth)、YAMAHA Seqtrak(Workstation)、SOLID STATE LOGIC Six(Mixer)
Close up!
ハードウェア・シンセはやっぱりMOOGが好き
所有するハードウェア・シンセの中で一番好きなのは、MOOGのDFAMです。例えば、ピッチ・エンベロープをかけたときのピッチの振れ幅みたいなものが、ソフト・シンセとは全然違って際限がない感じなんです。低域も、深いところまで奇麗に出ますよね。
Profile
Snail's House:Kawaii Future Bassの第一人者。当初は主にアメリカで曲がヒット。2018年の上半期には、Spotify「海外で最も再生された日本人アーティスト」の9位に。星野源の楽曲アレンジを務めたことで、さらに知名度を上げた。YouTubeチャンネル登録者数は135万人。
Recent Work
『うたかた』
Snail's House
(studiosnail)