ハレトキドキのプライベート・スタジオ|Private Studio 2025

HTD Studio

新旧さまざまな機器をそろえ、ハイブリッドな最新サウンドを生み出す制作部屋

 トラック・メイカーのユウフジシマとボーカルのみさつんによるユニット=ハレトキドキ。2018年に結成し、1980~2000年代のサウンドを基調に、現代のアプローチを取り入れた新世代のアーティストだ。こだわりの音が生まれるHTD Studioへ伺い2人に話を聞いた。

スタジオ図面

HTD Studioはマンションの一室に、作業しやすいようにこだわりの機材を並べ、電源から音質にこだわったスタジオになっている

電源、ケーブルから音質にこだわる

 トラック・メイカーとして活動していたユウフジシマとみさつんが出会ったのはInstagramを通して、仮歌を歌ってほしいと依頼したのがきっかけだったという。「当時は、このスタジオではなかったんですけど、仮歌を録った瞬間に“これはいけるぞ”と思って、ブラッシュアップした後1stシングル「キスミー」としてリリースしたんですよ」とフジシマが語る。

デスク周り

デスク上のディスプレイにはAVID Pro Toolsが立ち上がっている。作曲、アレンジにはPRESONUS Studio Oneを使用しており、Pro Toolsはレコーディングとミックス、マスタリング用だ。TAOCのスピーカー・スタンドに置かれたモニター・スピーカーはFOCAL Trio6 BE。スタンドのおかげでローがしっかり確認でき、作業効率も向上したそう。普段の作業はスピーカーとヘッドホン半々くらいで行っており、細部の音を確認したい際はヘッドホンを使うそうだ

FOCALのClear MG Professional(左)とListen Professional()

ヘッドホンはFOCALのClear MG Professional(左)とListen Professional(右)で、オープン型、クローズド型を用意。前述のモニター・スピーカーとメーカーをそろえることで、チェックする際の判断がしやすいという

APPLE Mac Studio

マシンはAPPLE Mac Studio。USB端子にはACOUSTIC REVIVE RUT-1K、LA N端子にはRLT-1Kを接続しているほか、ケーブル類もACOUSTIC REVIVEでそろえ、ノイズ対策を施しているという

 現在のTHD Studioに引っ越してから2年ほどたち、基本的には当時の機材を移行させたそうだが、まず改善したのは電源からだったそうだ。フジシマがこう続ける。

 「200Vの電源トランスPRO CABLE STH-1520Aを導入したところ、音の変化をすごく実感しましたね。それまでもACOUSTIC REVIVEの電源やケーブルなどを使っていて、音質にはこだわっていたんですけど、200Vから115Vへダウン・アイソレーションして機材を動かすことでさらに向上したと思います」

PRO CABLE STH-1520A

デスク下の奥には200V仕様の電源トランスPRO CABLE STH-1520Aが置かれていた

ACOUSTIC REVIVE RTP Absolute

電源タップはACOUSTIC REVIVE RTP Absoluteで統一している

 フジシマの音楽の原体験を聞くと、「幼少期から小室哲哉さんはじめ、m.o.v.eのt-kimuraさんなど、エイベックスのアーティストが好きだったんです。MVに登場するシンセなどを見て、上京した10代のころに初めてのシンセ、KORG Tritonを買いました。同じ時期にYAMAHA AW4416も買って、機材集めにどんどんハマっていって、少しずつ増やしていきながら楽曲制作をしていました」と言う。一方みさつんは、歌は好きで歌っていたものの、機材に関しては全くの初心者で、レコーディングをしたのも、フジシマとの仮歌が初めてだったそうだ。

 「いつもレコーディングなどでこのスタジオに来ると、何かしらアップデートされているんですよ、電源買ったよ、とか。私は機材のこととか全然詳しくないんですけど、実際に歌ったり音を聴いたりしてみると、だんだん聴き分けられるようになって、ちょっと教育されている感覚です(笑)」

 フジシマの機材熱は今なおとどまることを見せず、エンジニアの浦本雅史やyasu2000など、仕事で関わってきたエンジニアから、常に機材の情報を仕入れているそうだ。

シンセはソフトとハードをレイヤーする

 ハレトキドキの楽曲制作方法を聞くと、フジシマが次のように答えてくれた。

 「まずはシンセ・メロ入りのデモ・トラックを作ります。その際にサビ頭のワードやタイトルを僕が決めることが多いです。サビ頭のインパクトはすごく大事で、そのワードが決まれば9.8割方パッと曲ができるんですよ。その状態でみさつんにデータを渡します」

 みさつんの作業としては、「歌詞を完成させて、自宅で仮歌を録って送り返します。そこで何かあれば、やり取りをしつつ、OKならHTD Studioで歌を録音します」とのこと。その際のアレンジの完成度は6割程度ということだが、歌の本番レコーディングをしてからアレンジを仕上げていくのがやりやすいそうだ。

MANLEY Reference CardioidとASTON MICROPHONES Halo Shadow

真空管マイクMANLEY Reference Cardioidとリフレクション・フィルター、ASTON MICROPHONES Halo Shadowを設置。Re ference Cardioidは、幾つかのマイクを聴き比べをした上で、真空管マイクならではの抜け感とモダンな音像が気に入って購入したそう。ハレトキドキのボーカルは基本このマイクで収録しており、みさつんも「ずっとこのマイクが相棒です。プロ・グレードのマイクで録ったのも、これが初めてだったんですけど、自分の声も素直に聴けてとても歌いやすいです」と語る

 実際のアレンジでは、スタジオの機材を駆使して作業しているとフジシマが語る。

 「シンセで一番使っているのはACCESS Virus Indigo 2です。プリセット一つで求めていた2000年代のトランス・サウンドが出ますし、存在感も抜群ですね。ソフト・シンセも使いますが、ハード・シンセをレイヤーするなど、オリジナリティのあるサウンドを目指しています」

キーボード

下段のステージ・キーボードはNORD Nord Pianoで、作曲家のはらかなこより譲り受けたものだといい、楽曲制作時の鍵盤として使っている。その右上には、DAVE SMITH INSTRUMENTS Prophet 12 Moduleが置かれ、上段左にKORG Minilogue XD、右にACCESS Virus Indigo 2をセット。フジシマは「Minilogue XDは、主にライブでアシッド系のリードやSE系の音をよく使っています。ハレトキドキのプリセットも作らせてもらったんです。あとProphet 12 Moduleは、MOOGやYAMAHA、ROLANDなどいろんなメーカーのアナログ・シンセを集めていた中で、やはりProphetの音が素晴らしいと、最終的に残った1台なんです。パッドやシーケンスの音などをよく使っています」と語る

シンセ類

上段がKORG Opsixで下段がNORD Nord Wave。Opsixはモダンでレンジの広いサウンドをよく使っており、音作りの操作性も楽しいという。また、FM音源でありながらトランスに合う音色も内蔵されており、そこもお気に入りだそうだ。Nord Waveはユーロビート系の楽曲を作るときにすごくマッチするので、ウワモノやシンセ・ベースとして活用しているそう。ライブにもよく持ち出している1台

KORG MW-1608-BK

KORGのミキサーMW-1608-BK。シンセの音を録る際に、こちらに接続して使うことが多いそうだ

 シンセやボーカルはLYNX STUDIO TECHNOLOGY Aurora(n)に入力して録音されるが、OZ DESIGNのマイク・プリアンプOZ-1100や、ライン・トランスのAMATERAS 0002などのハードウェアを介し、電源やケーブルもACOUSTIC REVIVE製でそろえるという徹底ぶりで音質にこだわっている。フジシマは「ハレトキは懐かしくも新しいをテーマにしているんですけど、昔の音楽をまねしているだけではなく、今しか使えない技術や機材を使ってアウトプットしているんです。だから、今の時代に説得力のある音質を目指していますね」と語るように、ハードウェアとソフトウェアのハイブリッドな体制で作品を作っている。

ラック(アウトボード類)

ラック上から、OZ DESIGN Stereo Buffer、OZ-1100、LYNX STUDIO TECHNOLOGY Aurora(n)、DANGEROUS MUSIC Bax EQ、Dangerous Compressor、Convert-AD+。オプション・カードを装備して、Aurora(n)をオーディオ・インターフェースとして使用。OZ-1100はマイクプリで、多くの機材を吟味した上で直感で購入。クリアな音像と速度が速いのが気に入っており、ボーカルだけでなく、シンセを通すなど、さまざまな場面で活躍している。DANGEROUS MUSICの機器は、デモ機を借りるなどして、フジシマが求めるクリーンかつ艶のあるサウンドが、ハレトキドキが作っているダンス・ミュージックにもマッチし購入したそう。Convert-AD+は音質の向上を追求して、ADコンバーターのみを選んだとのこと

eference Cardioidのパワー・サプライとパッシブ型ライン・トランスのAMATERAS 0002

Reference Cardioidのパワー・サプライとパッシブ型ライン・トランスのAMATERAS 0002。0002はミックスの際などに、ソフト音源やレコーディングされたオーディオ・データを通すと音像にスパイスが加わる感覚が良くて、活用しているとのこと

ハレトキドキの楽曲で使用されているソフト・シンセの一部

ハレトキドキの楽曲で使用されているソフト・シンセの一部。ROLAND JD-800、JUNO-106、KORG Triton、M1、U-HE Hive2、Diveなどが見える。これらとハードウェア・シンセ、アナログ機材、ノイズ対策された機器を駆使することで、ハレトキドキのサウンドは作られているわけだ

 みさつんもこう続ける。

 「私はトランスなどの音楽のリアルタイムを経験していないんですけど、ルーツを感じさせながら自分なりにアップデートさせるのが個性だと思っているので、好きなポイントを一緒に探しながら作っていくのはすごく楽しいですね。機材の話は全く未知の世界だったんですけど(笑)、話を聞いて自分でも音を確認してみると違いも分かってきて、それも楽しいです」

 現在3rdアルバムに向け制作中とのこと。このHTD Studioから懐かしくも新しいサウンドが現在進行系で作られている。

ハレトキドキがこれまでリリースしてきた楽曲、映像作品

ハレトキドキがこれまでリリースしてきた楽曲、映像作品は、サブスクリプションなどインターネットで配信されているだけでなく、12cmCD、8cmCD、カセット・テープ、VHSビデオでも製作されている。フジシマいわく、「当時の憧れとリスペクトを込めて、いろいろなつてを頼って作りました。収録されている音楽はトランスなんですけど、当時はなかった音楽が収録されることで未知のメディアになっている感じがすごく良いなと思って、毎回こだわっていますね」

ブラウン管テレビやVHSビデオ・レコーダー

スタジオの一角に置かれたブラウン管テレビやVHSビデオ・レコーダーなど。当時のリスペクトから所有しており、ビデオ・レコーダーは、映像作品のダビング用にも使用された

YAMAHA TX81Z

FM音源ユニットYAMAHA TX81Z。当時のFM音源の実機を一台は持っておきたいということで手に入れたという。エレピやベースのサウンドがお気に入りで、ハレトキドキの曲では「キスミー」で活躍したそう。1980年代のサウンドを再現するには、ソフトウェアではなく実機が一番だとフジシマが教えてくれた

Equipment

Computer:APPLE Mac Studio

DAW:AVID Pro Tools、PRESONUS Studio One

Audio I/O:LYNX STUDIO TECHNOLOGY Aurora(n)

Speaker:FOCAL Trio6 BE

Headphone:FOCAL Clear Mg Professional、Listen Professional

Other:ACCESS Virus Indigo 2(Synth)、DAVE SMITH INSTRUMENTS Prophet 12 Module (Synth Module)、KORG Minilogue XD(Synth)、Opsix(Synth)、NORD Nord Piano、Nord Wave(Synth)、YAMAHA TX81Z(Synth Module)

Close up!

小室哲哉を象徴するショルキー

YAMAHA KX-5

KX-5は、小室哲哉が使用していたことでいまだに注目される1台だ

 小型軽量のショルダー・キーボードYAMAHA KX-5は、MIDIで外部音源をコントロールするキーボードで、ハレトキのライブで活躍しています。10mのMIDIケーブルをつないで、ステージを練り歩いています!

 Profile 

ハレトキドキ

ハレトキドキ:2018年結成、トラック・メイカーのユウフジシマ(brinq)とボーカルのみさつんによるユニット。1980年代~2000年代と時代をまたぎ、現代のサウンドをミックスさせた新次元の楽曲を発信し、ライブ活動も精力的に行っている。現在3rdアルバムを制作中。

 Recent Work 

『innocence』

ハレトキドキ

(HTD TRAX)

特集|Private Studio 2025