SEKITOVAのプライベート・スタジオ|Private Studio 2025

SEKITOVAのプライベート・スタジオ|Private Studio 2025

タイトな鳴りの環境で“音を見る”ダンス・ミュージックの研究室

 サンレコ2024年4月の登場も記憶に新しいDJ/音楽プロデューサーのSEKITOVA。前回の取材後に新たなプライベート・スタジオに引っ越したということで、編集部は早速彼のスタジオへ向かった。

SEKITOVAのプライベート・スタジオは、部屋の形状として壁が並行ではないため、音が分散されて、長方形や正方形の部屋と比べると反射もあまり気にならないという

SEKITOVAのプライベート・スタジオは、部屋の形状として壁が並行ではないため、音が分散されて、長方形や正方形の部屋と比べると反射もあまり気にならないという

斜め向きの壁のおかげで音が分散

 この新スタジオは「短期的に制作に集中するために借りた部屋」と話すSEKITOVA。制作に集中するための物件選びにおける最重要ポイントは“防音性”だったという。

 「とにかく壁の硬さですね。ここは壁も床もめっちゃ硬いのが良くて。しかも壁が斜めになっていて真四角じゃないので、音が分散されて反射もあまり気になりません。スピーカーのボリュームも割と出せるので、“とりあえず進める”ことを大事なテーマにしている僕には、雑に扱っても許容できる部屋鳴りになっています。ただ、スピーカーやオーディオ・インターフェースが変わるたびに部屋の出音が変わってしまうので、最近はアナライザーのプラグインで視覚的にカバーしているんです。僕が使っているのはプラグインとアプリを立ち上げて使うMinimetersというソフトで、波形の色が帯域ごとに変わるのがDJ用ソフトALPHATHETA Rekordboxの見慣れた波形表示に似ていて分かりやすいので、確認しながら作業を進めています」

メイン・デスク。正面のディスプレイに映し出されているのは、ABLETON Liveとアナライザー・プラグインのMiniMeters。帯域ごとに波形の色が異なる仕様はDJ用ソフトウェアALPHATHETA Rekordboxを扱う感覚と近く、分かりやすいという

メイン・デスク。正面のディスプレイに映し出されているのは、ABLETON Liveとアナライザー・プラグインのMiniMeters。帯域ごとに波形の色が異なる仕様はDJ用ソフトウェアALPHATHETA Rekordboxを扱う感覚と近く、分かりやすいという

 前回の取材後、このスタジオへ移動してから幾つかの制作ツールに変化があったと話すSEKITOVA。

 「EVE AUDIO SC207を導入しました。これはとにかく低域の再生能力が半端じゃなくて。部屋の大きさからしたらオーバースペックなぐらいのサイズ感なのですが、小さく鳴らしても低域の鳴りが見えるのでボリュームを絞って作業することもできますし、大きく出せば低域が空気の振動として確認できるのでかなり良いスピーカーですね。オーディオ・インターフェースもAPOGEE Duet 3に変えました。持ち運びや取り回しがすごく良い機種で、ボリュームの上下も細かくできるし、大きなダイヤルですぐ調整できて楽なのが大きいですね。スピーカーもオーディオ・インターフェースもタイトに鳴ってくれるので、最近の曲を正確に再生して把握しやすくなりました。以前の環境は“好きな音”だったんですけど、今の音は“音を見る”ことにすごく向いている感じがします。自分が作る音自体が割とタイトになってきているので、より見やすいのかなと思います。僕はどちらかと言うとルーズな音が好きなんですけど、タイトな環境でルーズな音楽を聴くことはできてもその逆は難しいですからね」

モニター・スピーカーにはEVE AUDIO SC207を採用。低域の再生能力の高さをSEKITOVAは評価。「タイトな音」と表現するそのサウンドは、近年の楽曲を正確に再生してくれるという。9.5割はスピーカーでの作業で、耳への負担を少なくすること、スピーカーから鳴らす音楽を作っているから、とその理由を教えてくれた

モニター・スピーカーにはEVE AUDIO SC207を採用。低域の再生能力の高さをSEKITOVAは評価。「タイトな音」と表現するそのサウンドは、近年の楽曲を正確に再生してくれるという。9.5割はスピーカーでの作業で、耳への負担を少なくすること、スピーカーから鳴らす音楽を作っているから、とその理由を教えてくれた

エフェクト駆動用のDSPを搭載したオーディオ・インターフェースのAPOGEE Duet 3。持ち運びや取り回しのしやすさに魅力を感じているという

エフェクト駆動用のDSPを搭載したオーディオ・インターフェースのAPOGEE Duet 3。持ち運びや取り回しのしやすさに魅力を感じているという

ダイナミック・マイクのBEHRINGER XM8500は、声ネタが欲しいときに使用。「ダイナミック・マイクだとどうしてもこもった音になるんですけど、僕は自分の持っているマイクやオーディオ・インターフェースに合わせたEQなどのチェインをLive内で組んでいるので、それを通せば音が奇麗になるようになっています」

ダイナミック・マイクのBEHRINGER XM8500は、声ネタが欲しいときに使用。「ダイナミック・マイクだとどうしてもこもった音になるんですけど、僕は自分の持っているマイクやオーディオ・インターフェースに合わせたEQなどのチェインをLive内で組んでいるので、それを通せば音が奇麗になるようになっています」

ヘッドホンのAUDIO-TECHNICA ATH-Pro700MK2。元はDJ用としてMK1(初代)から使っていて、買い換え続けて現在は4台目くらいだという。「生産完了になってかなり経つので、見つけ次第買う保護活動をしてます(笑)」と話すほど気に入っている。続けて「僕らはクラブで音楽を鳴らすのが大きなファクターなので聴きなじみがあり、耳全体を包み込んでくれるのでリラックスして長時間使えます」とその魅力を語った

ヘッドホンのAUDIO-TECHNICA ATH-Pro700MK2。元はDJ用としてMK1(初代)から使っていて、買い換え続けて現在は4台目くらいだという。「生産完了になってかなり経つので、見つけ次第買う保護活動をしてます(笑)」と話すほど気に入っている。続けて「僕らはクラブで音楽を鳴らすのが大きなファクターなので聴きなじみがあり、耳全体を包み込んでくれるのでリラックスして長時間使えます」とその魅力を語った

DJの仕込みはLiveでリマスタリング

 ここからは、クラブのフロアを揺らすサウンド・メイクの裏側をのぞいてみよう。

 「コンピューターはAPPLE MacBook Proで、DAWはABLETON Live 12を使っています。Liveは取り回しが良いし、作業前の障壁を丁寧に取り除いてくれるのが本当にいい。MIDIキーボードのKORG Kontrol49で弾きまくって良いフレーズができたら打ち込みます。次の制作では、これまでライブ・セットで使っていたAKAI PROFESSIONAL APC40も使えたらと思っています。オートメーションを書くときのフェーダー・ワークなどに人間味を加えたくて」

メイン・マシンはAPPLE MacBook Pro。画面上には、ソフト・シンセのSPECTRASONICS Omnisphereや、リバーブ・プラグインのVALHALLA DSP Valhalla VintageVerbなどが表示されている

メイン・マシンはAPPLE MacBook Pro。画面上には、ソフト・シンセのSPECTRASONICS Omnisphereや、リバーブ・プラグインのVALHALLA DSP Valhalla VintageVerbなどが表示されている

MIDIキーボードは49鍵のKORG Kontrol49を使用

MIDIキーボードは49鍵のKORG Kontrol49を使用

アナログ・ポリ・シンセのSIEL KIWI。以前のスタジオにいるときから所有しており、今回も運び込んできたという

アナログ・ポリ・シンセのSIEL KIWI。以前のスタジオにいるときから所有しており、今回も運び込んできたという

AKAI PROFESSIONAL APC40は、フェーダーやノブ、ボタンが豊富に装備されているのが特徴のLive専用MIDIコントローラー。これまでもライブ・セットでは使っていたそうだが、次は制作に使いたいと考えているという。いわく「細かいオートメーションを書くとき、マウスでポチポチしているとどうしても直線的になってしまうので、フェーダー・ワークの際に人間らしいダイナミクスを出したいと思っているんです」とのこと

AKAI PROFESSIONAL APC40は、フェーダーやノブ、ボタンが豊富に装備されているのが特徴のLive専用MIDIコントローラー。これまでもライブ・セットでは使っていたそうだが、次は制作に使いたいと考えているという。いわく「細かいオートメーションを書くとき、マウスでポチポチしているとどうしても直線的になってしまうので、フェーダー・ワークの際に人間らしいダイナミクスを出したいと思っているんです」とのこと

 現在は週1回ほどDJを行っているSEKITOVA。DJの仕込みにもLiveを使い、現場のサウンド・システムで流せるように整える。

 「以前は、音楽をリリースするためにはマスタリング・エンジニアを通して、間にディストリビューターがいて……というのが当たり前でしたが、最近はとにかく誰でもリリースできるので、マスタリングの基準がバラバラになってしまっているんですよね。だから、音源ごとの差を整えるため、Liveでリマスタリングするようにしています」

 鳴りの整え方が分かったところで、制作工程を巻き戻し、話題はSEKITOVA流のアイディアの引き出し方について。なんと「最近、匿名掲示板でいろんな人の音楽制作の質問に答えまくってるんです」というから驚きだ。

 「ちゃんと返事をするためにはDAWを立ち上げていろいろやってみる必要があって、自分と違う壁にぶち当たっている人がいたりとか、発見できることが多くて。ほかには、曲の耳コピをちょくちょくやってます。僕は主にテクノとかハウスを作りますけど、作れない音楽が存在していることがすごく嫌で。聴いて良かった曲とか、“この曲のこの音ってどう作ってるんですか?”って質問が来た曲はぱっと全部作っちゃうんです。僕自身、制作の手数は年々シンプルになっていってるんですけど、それと逆行するようにアイディアの源泉はどんどん増えています」

 「東京に引っ越してきてからは普段と違うジャンルの制作依頼も結構やるようになった」と話すSEKITOVA。このスタジオで日々進化を続ける彼の、次なるダンス・ミュージックに期待が高まるばかりだ。

椅子選びは制作においてとても重要だと力説。「椅子については、みんな本当にだまされたと思って良いものを買った方がいいです。僕は基本的に長時間使用が想定されているゲーミング・チェアの中から選びます。椅子のせいで集中力が落ちる原因になってほしくはないなと。音楽的じゃないことには頭がいかないようにしたいんです」

椅子選びは制作においてとても重要だと力説。「椅子については、みんな本当にだまされたと思って良いものを買った方がいいです。僕は基本的に長時間使用が想定されているゲーミング・チェアの中から選びます。椅子のせいで集中力が落ちる原因になってほしくはないなと。音楽的じゃないことには頭がいかないようにしたいんです」

楽しんで弾くために使っているというアコースティック・ギター。「制作用というよりは“ラフのラフ”くらいの段階でインスピレーションをもらったりする感じで、全然録音などには使っていないですね。遊ぶ用です」とSEKITOVA

楽しんで弾くために使っているというアコースティック・ギター。「制作用というよりは“ラフのラフ”くらいの段階でインスピレーションをもらったりする感じで、全然録音などには使っていないですね。遊ぶ用です」とSEKITOVA

Equipment

Computer:APPLE MacBook Pro

DAW:ABLETON Live

Audio I/O:APOGEE Duet 3

Speaker:EVE AUDIO SC207

Headphone:AUDIO-TECHNICA ATH-Pro700MK2

Other:AKAI PROFESSIONAL APC49(Controler)、KORG Kontrol49(MIDI Keyboard)、ROLAND System-1(Synthesizer)

Close up!

制作メモをヒントにアイディアの源泉をつなぎ合わせる

 “制作メモ”はかなり取るようにしていますね。テクニカルな話よりアイディアの源泉となるもっと抽象的なワードとかをいっぱい出して、それをどう形にしていくかっていう道のりを書いてて。

 歌詞を書く人ならその道のりを言葉にできるけど、その反面、言葉にしなかった分がそぎ落とされちゃうんです。でも言葉のない音楽なら、矛盾したアイディアを解決しないまま突っ込める。物理的に成り立たないものも音の上だったら成り立つのが音楽の魔法的な部分ですね。

制作メモの一部。企業案件の依頼時に“ネジ”を題材にアイディアを広げていったといい、“ネジは回しているのに前後に進むのが面白い”“ネジだけでは何もできないけど、ネジがないと何も始まらない→それは愛と同じかもしれない……”といったふうにアイディアを広げていく。さらには、ネジの規格となる角度を実際のシンセの波形として使ってみるなど、音としての表現に結びつけていくという

制作メモの一部。企業案件の依頼時に“ネジ”を題材にアイディアを広げていったといい、“ネジは回しているのに前後に進むのが面白い”“ネジだけでは何もできないけど、ネジがないと何も始まらない→それは愛と同じかもしれない……”といったふうにアイディアを広げていく。さらには、ネジの規格となる角度を実際のシンセの波形として使ってみるなど、音としての表現に結びつけていくという

 Profile 

SEKITOVA

SEKITOVA:大阪出身、1995年元旦生まれのDJ/プロデューサー。CMやTVゲームへの楽曲提供のほか、花火やドローンを中心としたエンターテインメント・ショー『STAR ISLAND』での音楽制作など、その活動は多岐にわたる。

 Recent Work 

『topi(SEKITOVA DGD mix)』
tsumasaki
(finestylewest)
*『TEC EP』に収録

特集|Private Studio 2025