タイトな鳴りの環境で“音を見る”ダンス・ミュージックの研究室
サンレコ2024年4月の登場も記憶に新しいDJ/音楽プロデューサーのSEKITOVA。前回の取材後に新たなプライベート・スタジオに引っ越したということで、編集部は早速彼のスタジオへ向かった。
斜め向きの壁のおかげで音が分散
この新スタジオは「短期的に制作に集中するために借りた部屋」と話すSEKITOVA。制作に集中するための物件選びにおける最重要ポイントは“防音性”だったという。
「とにかく壁の硬さですね。ここは壁も床もめっちゃ硬いのが良くて。しかも壁が斜めになっていて真四角じゃないので、音が分散されて反射もあまり気になりません。スピーカーのボリュームも割と出せるので、“とりあえず進める”ことを大事なテーマにしている僕には、雑に扱っても許容できる部屋鳴りになっています。ただ、スピーカーやオーディオ・インターフェースが変わるたびに部屋の出音が変わってしまうので、最近はアナライザーのプラグインで視覚的にカバーしているんです。僕が使っているのはプラグインとアプリを立ち上げて使うMinimetersというソフトで、波形の色が帯域ごとに変わるのがDJ用ソフトALPHATHETA Rekordboxの見慣れた波形表示に似ていて分かりやすいので、確認しながら作業を進めています」
前回の取材後、このスタジオへ移動してから幾つかの制作ツールに変化があったと話すSEKITOVA。
「EVE AUDIO SC207を導入しました。これはとにかく低域の再生能力が半端じゃなくて。部屋の大きさからしたらオーバースペックなぐらいのサイズ感なのですが、小さく鳴らしても低域の鳴りが見えるのでボリュームを絞って作業することもできますし、大きく出せば低域が空気の振動として確認できるのでかなり良いスピーカーですね。オーディオ・インターフェースもAPOGEE Duet 3に変えました。持ち運びや取り回しがすごく良い機種で、ボリュームの上下も細かくできるし、大きなダイヤルですぐ調整できて楽なのが大きいですね。スピーカーもオーディオ・インターフェースもタイトに鳴ってくれるので、最近の曲を正確に再生して把握しやすくなりました。以前の環境は“好きな音”だったんですけど、今の音は“音を見る”ことにすごく向いている感じがします。自分が作る音自体が割とタイトになってきているので、より見やすいのかなと思います。僕はどちらかと言うとルーズな音が好きなんですけど、タイトな環境でルーズな音楽を聴くことはできてもその逆は難しいですからね」
DJの仕込みはLiveでリマスタリング
ここからは、クラブのフロアを揺らすサウンド・メイクの裏側をのぞいてみよう。
「コンピューターはAPPLE MacBook Proで、DAWはABLETON Live 12を使っています。Liveは取り回しが良いし、作業前の障壁を丁寧に取り除いてくれるのが本当にいい。MIDIキーボードのKORG Kontrol49で弾きまくって良いフレーズができたら打ち込みます。次の制作では、これまでライブ・セットで使っていたAKAI PROFESSIONAL APC40も使えたらと思っています。オートメーションを書くときのフェーダー・ワークなどに人間味を加えたくて」
現在は週1回ほどDJを行っているSEKITOVA。DJの仕込みにもLiveを使い、現場のサウンド・システムで流せるように整える。
「以前は、音楽をリリースするためにはマスタリング・エンジニアを通して、間にディストリビューターがいて……というのが当たり前でしたが、最近はとにかく誰でもリリースできるので、マスタリングの基準がバラバラになってしまっているんですよね。だから、音源ごとの差を整えるため、Liveでリマスタリングするようにしています」
鳴りの整え方が分かったところで、制作工程を巻き戻し、話題はSEKITOVA流のアイディアの引き出し方について。なんと「最近、匿名掲示板でいろんな人の音楽制作の質問に答えまくってるんです」というから驚きだ。
「ちゃんと返事をするためにはDAWを立ち上げていろいろやってみる必要があって、自分と違う壁にぶち当たっている人がいたりとか、発見できることが多くて。ほかには、曲の耳コピをちょくちょくやってます。僕は主にテクノとかハウスを作りますけど、作れない音楽が存在していることがすごく嫌で。聴いて良かった曲とか、“この曲のこの音ってどう作ってるんですか?”って質問が来た曲はぱっと全部作っちゃうんです。僕自身、制作の手数は年々シンプルになっていってるんですけど、それと逆行するようにアイディアの源泉はどんどん増えています」
「東京に引っ越してきてからは普段と違うジャンルの制作依頼も結構やるようになった」と話すSEKITOVA。このスタジオで日々進化を続ける彼の、次なるダンス・ミュージックに期待が高まるばかりだ。
Equipment
Computer:APPLE MacBook Pro
DAW:ABLETON Live
Audio I/O:APOGEE Duet 3
Speaker:EVE AUDIO SC207
Headphone:AUDIO-TECHNICA ATH-Pro700MK2
Other:AKAI PROFESSIONAL APC49(Controler)、KORG Kontrol49(MIDI Keyboard)、ROLAND System-1(Synthesizer)
Close up!
制作メモをヒントにアイディアの源泉をつなぎ合わせる
“制作メモ”はかなり取るようにしていますね。テクニカルな話よりアイディアの源泉となるもっと抽象的なワードとかをいっぱい出して、それをどう形にしていくかっていう道のりを書いてて。
歌詞を書く人ならその道のりを言葉にできるけど、その反面、言葉にしなかった分がそぎ落とされちゃうんです。でも言葉のない音楽なら、矛盾したアイディアを解決しないまま突っ込める。物理的に成り立たないものも音の上だったら成り立つのが音楽の魔法的な部分ですね。
Profile
SEKITOVA:大阪出身、1995年元旦生まれのDJ/プロデューサー。CMやTVゲームへの楽曲提供のほか、花火やドローンを中心としたエンターテインメント・ショー『STAR ISLAND』での音楽制作など、その活動は多岐にわたる。
Recent Work
『topi(SEKITOVA DGD mix)』
tsumasaki
(finestylewest)
*『TEC EP』に収録