触れたらすぐ音が出せるようにスタンバイ。居住空間と制作環境がシームレスにつながる
世界を舞台に活躍するDJ/プロデューサーのRISA TANIGUCHI。その重厚なサウンドの制作拠点となっているプライベート・スタジオは、居住スペースと制作スペースが一体となった環境に構築されている。
制作へのスピーディな導入を徹底
部屋のコンセプトとして「生活スペースの一部に制作機材を置いて、生活の中で作れるようにしている」ことを挙げたTANIGUCHI。
「使うものは机の上に必ず置いておいて、ハードウェア・シンセやABLETON Pushなども電源を付けたままにしています。そうじゃないと、“電源を付けなきゃ”と思うだけでやる気がそがれてしまうので、頭で考えなくてもすぐアイディアを出せる状態にしているんです」
ワインエキスパートとしての顔も持つTANIGUCHIは「この部屋では制作から食事、ワインの勉強まですべてが完結しているんです」と話し、こう続ける。
「私は結構自分にムチを打って音楽を作るタイプなので、生活スペースと音楽スペースを分けたら曲を作らなくなると思って(笑)」
この制作部屋に隣接しているリビングもTANIGUCHIの音楽活動における重要なスペースとなっている。部屋の中央にはDJ機材がセットアップされており、その奥に置かれた電子ピアノのYAMAHA CLP-775は活動を続ける上での心の支えになっているようだ。
「DJ機材はPIONEER DJ XDJ-RXで、DJ用のモニター・スピーカーは以前から使っていたKRK Rokit5です。もともとずっとクラシック・ピアノをやっていて、いかに譜面通りに弾くかという世界だったんですけど、今ではなぜかテクノを作っていて、その気分転換でピアノを弾くような感じになっています(笑)。国内外でDJをやる中で“自分でも曲を作れないとダメだ”という地点が10年前くらいにあって、そこから曲を作りはじめたんです。今も大変なことや壁にぶち当たることがたくさんあるので、このピアノがあるおかげで続けられています」
裏技的な“押し入れベース・トラップ”
以前の環境では音出しが難しかったことが、現在のスタジオを造るきっかけに。
「制作作業はほぼヘッドホンのAUDIO-TECHNICA ATH-SX1Aを使っているのですが、音響周りを整えようと思ってモニター・スピーカーのADAM AUDIO A7Vを入れました。そうすると、リリース済みの自分の曲でさえ聴こえていなかった音が聴こえてきて。ただ、ルーム・アコースティックを調整していないので、音をガッツリ出すとモコ付くんです。なんですけど......これは裏技で、制作中にふとクローゼットを開けてみたら“低音が消えてる!”と気付いて。それ以来、クローゼットを開けた状態の“押し入れベース・トラップ”を使っています。デスク横の有孔ボードやブラインドでも吸音/拡散できて、ちょうど良くベース・トラップのような役割をしてくれています」
ABLETONの制作ツールをフル活用
ここからは制作機材に着目していこう。ここでは、ABLETONLiveを軸に構築されたシステムが展開されている。
「パソコンはM1チップを搭載したAPPLE MacBook Airで、オーディオ・インターフェースのRME Fireface UFX IIを導入してからだいぶ制作がはかどるようになりました。ABLETON MoveやPush、NOVATION BassStation、ROLAND JD-XIのオーディオをFireface UFX IIに入力して、常にそれらをミキシング・ソフトのRME TotalMix FXでルーティングしてあるんです」
続けて、Liveでの楽曲制作の工程をさらに深掘りしてみた。
「基本的にLiveのセッションビューを開いたら、サイド・チェイン用のゴースト・トラック的なテンプレートが出るようにしてあります。テクノは毎回やることが大きく変わるわけではないので、面倒くさくならないような基本のテンプレートを幾つも作っておいて取っ掛かりをなるべく簡単にしようとしてますね。打ち込みは基本的にマウスとコンピューターで完結しますが、LiveのセッションビューをPushでコントロールすることもあります。PushはMPE対応しているので、一つの楽器として置いています。FXでちょっとおどろおどろしいのを作りたいとか、チューンから外れた音を出してみるとか、新しい表現方法ができる。自分が意識してこういう音を出したいというときはキーボードで作って、枠から外れて新しいアイディアが欲しいときはPushですね」
そのほか、年1回程度行っているというライブ・セットで使われる機材類は棚に美しくディスプレイ。ケーブル類は、突っ張り棒を支柱にした先述の有孔ボードにかけられている。
「よく使うケーブルは壁収納をしようと思ってここにかけています。“手の届く所全部が楽に済むように”もここの大きなコンセプトの一つかも知れませんね」
Equipment
Computer:APPLE MacBook Air
DAW:ABLETON Live
Audio I/O:RME Fireface UFX II
Speaker:ADAM AUDIO A7X
Headphone:AUDIO-TECHNICA ATH-SX1A、SHURE SRH1440
Other:ABLETON Move、Push(Groove Gear)、AKAI PROFESSIONAL LPK25 Wireless(MIDI Keyboard)、NOVATION Bass Station II(Synth Bass)、PIONEER DJ XDJ-RX(DJ Player)、ROLAND JD-XI(Synthesizer)、YAMAHA CLP-775(Piano)、etc.
Close up!
アイディア出しの初期段階で何も考えずに使える音楽制作ツール
ABLETON Moveは使うたびにどんどん良さに気付いて。Moveがあるおかげで使わなくなった機材が本当に増えちゃいました(笑)。アイディア出しの最初の段階で何も考えないで使うのがメインで、漫画を読みながらでも触れるぐらいの感覚です。ドラムを組みたいときにも、ステップ・シーケンサーで適当にフレーズを作って、良いフレーズができたらオーディオで録るようにして使ったりもしています。
Profile
RISA TANIGUCHI:東京出身のDJ/プロデューサー。世界中を飛び回って培ったDJスキルと中毒性ある楽曲プロデュース・センスで、クリス・リービング、アメリー・レンズ、シャーロット・デ・ウィットといった世界中のトップ・テクノ・プロデューサーから絶大な信頼を寄せられている。Recent Work
『Look At Hatred』
RISA TANIGUCHI
(MOOD)
特集|Private Studio 2025