Cosaqu(梅田サイファー)のプライベート・スタジオ|Private Studio 2025

STUDIO COSMIC BASE

ビート・メイクもレコーディングもミックスもお任せ。関西のヒップホップ・シーンを担う韻の発信基地

 2023年のアルバム『RAPNAVIO』でメジャー・デビューを果たした13人組ヒップホップ・クルーの梅田サイファー。その楽曲制作の中枢を担うCosaquが、新たにプライベート・スタジオSTUDIO COSMIC BASEを構えたということで、大阪へ赴きその内部を取材した。

STUDIO COSMIC BASEの図版

コントロール・ルーム、ボーカル・ブース、ミーティング・スペースの3部屋から構築されているSTUDIO COSMIC BASE。13名のメンバーを擁する梅田サイファーの制作ではスタッフも含めて10人以上が集まることも多く、制作日にはそれぞれの部屋に分かれて作業を行っている

防音工事/内装/調音をプロに依頼

 以前の制作環境は、本誌2023年6月号でも紹介したスナックの居抜き物件。スタジオに梅田サイファーのメンバー全員が入ることは難しく、屋外も使って制作を行っていた。

 「メジャーでやるにあたって作品作りの密度とペースが上がってきたので、もう少し広いスタジオで作業したいと思ったのが引っ越しを決めた大きなきっかけです。コントロール・ルーム、ボーカル・ブース、ミーティング・スペースの最低3部屋が欲しくて物件を探していたらここが見つかって、思い切って引っ越しました。メンバーにも一緒に物件を見に来てもらって決める後押しをしてもらいましたね。ここで初めてできた曲が最新アルバム『Unfold Collective』にも収録した「CONTINUE」です」

コントロール・ルームのデスク周り

コントロール・ルームのデスク周り。スタジオ名のネオン・パネル後ろは窓で、外光も取り込める。各種調音パネルとスピーカーのレイアウトはBUSHMAN ACOUSTICSに依頼して調整。スウィート・スポットでの聴こえ方をテストしながら配置を固めていった。デスク下の奥にはサブウーファーのFOSTEX CW250Aがあり、コンクリート・ブロックとWELLFL OATのインシュレーターの上に設置されている

デスク

デスクには、マイクプリやコンプを中心としたアウトボード類が並ぶ。『Unfold Collective』のレコーディングでは、曲によってSYM・PROCEED SP-MP2とVINTECH AUDIO 273のいずれかのマイクプリを使用。コンプレッサーのTUBE-TECH CL 1Bは「かなりリダクションしてもコンプくさくない自然なサウンドで録れる」と評価する

 防音工事、内装、調音をそれぞれ異なる業者に依頼して施工を行ったという。

 「以前のスタジオでDIYには限界があると感じていたので、客観的な視点が欲しいというのが今回のスタジオ造りのテーマの一つで、それぞれのプロの方にお願いしてスタジオを施工しました。ボーカル・ブースとコントロール・ルームは防音工事をしてあります。工事には立ち会い、外から音を聴きながら壁を厚くしてもらったり、窓を二重サッシにしてもらったりしました。内装は建材の中のグラスウールの密度までオーダーしました。コントロール・ルームは天井も壁も床も全部96Kの高密度のグラスウールで埋まっていて、床は15cmぐらい上がっています。施工後はBUSHMAN ACOUSTICSに制作してもらったパネル類と元から設置していたパネル類、スピーカーのセッティングを全部見直してもらって調音しました。拡散パネルも一枚ずつリスニング・ポイントに座った状態でパネルを動かしながら場所を決めて取り付けたんです。ボーカル・ブースの壁の内部には32Kの密度のグラスウールを使っています。こちらもBUSHMAN ACOUSTICSに施工をお願いしました」

デスク左

デスク左には、アイディア出しに使用するAKAI PROFESSIONAL MPC Live Ⅱや49鍵のMIDIキーボードARTURIA KeyLab 49が並ぶ。その上部にセットされているのは仮歌入れに使うというコンデンサー・マイクのTELEFUNKEN TF47

KORG MicroKey Air-25

KORG MicroKey Air-25は、膝の上に置いて作業ができるほどコンパクトなMIDIキーボード。持ち運びのしやすさも魅力だという

ラック

ラック上にはSOLID STATE LOGIC Fusion(マスター・プロセッサー)、ATOLL AM200(パワー・アンプ)、ラック内にはモニター・コントローラーのGRACE DESIG N M905のほか、メインテナンス直後だというRUPERT NEVE DESIGNS 5059 Satellite(サミング・アンプ)やPURPLE AUDIO MC77がマウントされている

 スタジオの変化によりモニター環境も改善。Cosaquは「プロに任せて正解やったなと思います」とその効果を実感している様子だ。

 「モニター・スピーカーは、以前のスタジオのときからKEF R3を使っていますが、ここに来て調音が生きている感じがします。正面上の斜めのパネルを置いたことでボーカルの明瞭度が上がりましたし、サイドのパネルにより定位感が明確になったので、調音前後で段違いのモニター環境になりました」

KEF R3

モニター・スピーカーはKEF R3を採用。インシュレーターのDMSD 60Proを使用して設置している

FOCAL Clear MG Pro

ミックス・チェックの必須ツールとしてスピーカーと併用するのはヘッドホンのFOCAL Clear MG Proで、「定位感が分かりやすく、ロー感をつかみやすいです」と話す。ミックスの最後には、APPLE AirPodsでの最終チェックも欠かさない

Liveで骨組みを作ってPro Toolsへ

 スタジオでは10人以上で作業を行うことも。あらためて制作の流れを聞いてみよう。

 「テーマを決めるときは1回みんなで集まって話すんですけど、そこからはちりぢりで、リリックを書けた人からどんどん録っていきます。一通り録ったら“このバースもうちょい詰めたほうがいいんちゃう?”みたいにみんなで意見を出しながら循環させていく感じです」

ボーカル・ブースの全景

ボーカル・ブースの全景。マイクの後ろに立てているのは、SHIZUKAの音響パネルSDM SDM-1800だ。ブースの壁には32Kのグラスウールが埋め込まれているという

NEUMANN U 87 AI

梅田サイファー『Unfold Collective』のボーカル録りでは、全員のラップ録りにNEUMANN U 87 AIを使用。「マイクは変えず、レコーディングするメンバーに合わせてマイクの高さだけ調整して、どんどん形にしていくことを優先しました。それがクイックにできるようになったのは、引っ越した最大のメリットです」とCosaquは話す

Cosaquが所有しているマイク

Cosaquが所有しているマイク。左から、BLUE MICROPHONES Kiwi、AKG C 414 XLⅡ、NEU MANN U 87 AI、TELEFUNKEN TF47、SHURE SM7B。TF47はコントロール・ルームのデスク横にセッティングしてあり、仮歌録りなどに使用している。Cosaqu自身のラップを本録りする際は、自らレコーディング・ブースに入って、ほかのメンバーと同様にU 87 AIでレコーディングを行うという

OZ DESIGN OZ-802

ボーカル・ブースで使用しているキュー・ボックスのOZ DESIGN OZ-802は、ヘッドホン・アウトを2系統搭載したモデル

 以前よりスペースが広くなったため、ビート・メイクとミックスをそれぞれ別の部屋で行うこともでき、作業効率が上がったという。

 「以前はスタジオの中と外で謎の分離があったんですけど、今は同じ空間にいるので、歌詞を書いている途中にコミュニケーションを取れる機会がとても増えた印象がありますね。このスタジオになってから梅田サイファーでの制作日数がめちゃくちゃ増えたので、ビートはそのほかの日に作りためています」

 梅田サイファーのみならず、ソロ活動やほかのラッパーへの楽曲提供も行うCosaqu。そのトラック制作の環境も進化を続けている。

 「パソコンはAPPLE Mac StudioのM2 Ultraに買い換えました。DAWは、使い慣れたAVID Pro Tools以外のソフトも使ってみようと思って、ABLETON LiveやIMAGE-LINE SOFTWARE FL Studioなどを使っているメンバーのpekoにいろいろ聞いたら、Liveが自分に合いそうだったのでその場ですぐ買いました。そこからは、ビート・メイクではLiveで骨組みを作ってPro Toolsに移行することが増えましたね。「BOW WOW」はそれで初めて作った曲です」

 Cosaquが大人数での制作で大切にしているのは“コミュニケーションの密度”。より密度を高めるための改善策として、「ミーティング・スペースでレコーディング中の音が聴こえるようにしたり、ボーカル・ブースでDAWの画面共有ができたりすることも視野に入れてます」と教えてくれた。しかも、今回のスタジオ造りはまだ“第一段階”だと話すCosaqu。

 「今回いろいろな業者の方に自分がやりたいことを実現してもらったので、次は音の鳴りをもっと突き詰めたスタジオを造りたいです」

ミーティング・スペース

物件探しにおける条件の一つでもあったミーティング・スペース。制作の打ち合わせのほか、リリックを書いたりビートを作ったりする空間としても重宝している。写真左のカウンター上に置かれているのは、Cosaquが梅田サイファーのメンバーから引っ越し祝いでもらったというコーヒー・メーカー

Equipment

Computer:APPLE Mac Studio(M2 Ultra)

DAW:ABLETON Live、AVID Pro Tools

Audio I/O:ANTELOPE AUDIO Orion 32 HD

Speaker:KEF R3

Headphone:FOCAL Clear MG Pro、SONY MDR-CD900ST

Other:AKAI PROFESSIONAL MPC Live Ⅱ(Sampler)、ARTURIA KeyLab 49(MIDI Keyboard)、SOLID STATE LOGIC Fusion(Master Processor)、NEUMANN U 87 AI(Microphone)、 OZ DESIGN OZ-802(Cue Box)、TUBE-TECH CL 1B(Compressor)

Close up!

プラグインでは出せない ステレオ・イメージャーの質感

SSL Fusion

Fusionはフル・アナログのマスター・プロセッサー。VINTAGE DRIVE、VIOLET EQ、STEREO IMAGEなど6つのアナログ・プロセッサーが搭載されていて、SOLID STATE LOGICの新旧のテクノロジーが集約された一台となっている

 SOLID STATE LOGIC Fusionは、D.O.I.さんがスタジオで使っていて、良いなと思って導入しました。ドライブ、ハイパス・コンプ、ステレオ・イメージャーなどのセクションがあって、特にステレオ・イメージャーはプラグインでは表現できない精度の高さだと思います。音質的には、ハイをたたくコンプを入れたときにとてもナチュラルに高域が抑えられるのが良いですね。

 Profile 

Cosaqu

Cosaqu:大阪のヒップホップ・クルー梅田サイファーのメンバーとしても活躍するビート・メイカー/ラッパー/エンジニア。「KING」「かまへん」、ヒプノシスマイクのどついたれ本舗「なにわ☆パラダイ酒」、『キングオブコント2024』オープニングなどの作曲も手掛ける。

 Recent Work 

『Unfold Collective』

梅田サイファー

(ソニー)

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