名曲を生み出した機材が輝き続ける トラック・メイク&DJツールの王国
RIP SLYMEのDJ/トラック・メイカーとして楽曲制作の中核を担ってきたFUMIYA。最近では、YouTube動画で「楽園ベイベー」や「FUNKASTIC」などの制作手法を詳細に解説していることでも話題を集めるこの拠点が、プライベート・スタジオ“フミヤ王国”だ。
備え付けられたレコード・ラック
「太陽とビキニ」がアレンジされてテレビCMで使われたり、「熱帯夜」がTikTokで話題になるなど、FUMIYAの生み出す楽曲は何年たってもキャッチーで人の心をつかんでいる。
「そういうのはうれしいですよね。キャッチーであることは全然恥ずかしくないので。昔はちょっとあったんですけどね……やっぱヒップホップたるものドープじゃなきゃいけないみたいな(笑)」
これまでの名曲の数々も、現在の制作環境でも中心で活躍するのはAVID Pro Toolsだ。
「東京に住んでいた頃のスタジオには施工を入れてレコーディング・ブースも造ったので、AVID Pro Toolsが良いのかなと思って使いはじめたんです。昔はバウンスに時間がかかりましたが、Pro Toolsならエンジニアにセッション・データで渡せるのですごく楽でした。それからずっとMIDIでの打ち込みも録音もオーディオの編集も、全部Pro Toolsです」
現在のスタジオは一軒家の中にあり、都内から少し離れた海沿いの街に造られている。
「こっちに引っ越してきてから、仕事するぞっていうよりは、もっと普通っぽい部屋がいいなって。特にそんなに吸音もしてないので、ローが少し見えづらかったりもするんですけど、慣れちゃえばいいかなって。制作用の部屋にしたので、グラスウールを全部倍の密度で壁の中に入れてもらって、外に接する面には音漏れしないように窓をつけていません。そのほかのこだわりとしては、家を造るときから、レコード・ラックだけは絶対に作ろうと思っていたんです」
そう話すスタジオの壁にはびっしりとレコードが収納されている。そこからも分かるように、FUMIYAの楽曲制作に欠かせないのがサンプリングだ。
「レコードからサンプリングするときはTECHNICS SL-1200MK5からUREI 1620LEを通しています。やっぱりサンプリングした音が一番好きな質感で。レコード・ノイズを再現するようなエフェクトもはやってますけど、本当のレコードから録ったのとは全然似て非なるものですね。スクラッチもレコードとデジタル・データでは全然音が違いますし。レコードでやるとキックのドコドコした低域のおいしい部分が出るんです」
しかし、制作の音選びで大事なのはソフト・シンセとサンプリングのバランスだという。
「ほかの音との対比ですよね。全部ポップな音だと薄れちゃうし、単体で聴くとそこまでポップじゃない音でも、そこに入ると浮き出てポップに聴こえるとか。例えば、一部だけサンプリングしたトランペットの音を使うと奥行きが出たりするんです」
Pro ToolsをOS切り替えで使用
続けて、愛用のソフトを尋ねてみよう。
「ソフト・シンセはとりあえずSPECTRASONICS Omnisphereを立ち上げますね。最近はLUNACY AUDIO Cubeという無償のソフト・シンセやNATIVE INSTRUMENTS Kontaktの音源もいろいろ使っています。ソフト・サンプラーはチョップして鍵盤に並べる作業が速くできるUVI Falconを使っています」
そして話題はソフトウェアの動作環境に。
「パソコンは2010年のMac Proで、OSは10.13なのですごく古いんですよ。変えなきゃと思ってるんですけど、移行作業が大嫌いで(笑)。限界に近いんですけど、動きはそんなに問題なくて。ただ、“これ使いたいな”っていう新しいソフトとかは使えません(笑)」
制作とレコーディングでは起動するOSを切り替えて作業を行うというFUMIYA。
「オーディオI/Oは、DIGIGESIGN 192 I/OがOSに対応しなくなってAPOGEE Duetにしました。ただ、今もレコーディングだけはOSの起動ディスクを変えて192 I/Oを使い、Pro Tools|HDでやっています。マイクはNEUMANN U 87 AIで、マイクプリのAMEK System 9098 DMAからコンプのUNIVERSAL AUDIO 1176LNを通します」
ROLAND Juno-60などのハードウェア・シンセを取りまとめるのはコンソールのMIDAS Venice 160。「前はVenice 240を使ってたんですけど、壊れてMACKIE. 1604-VLZ Proを使ってたんです。そしたらVenice 160を持ってたPES君が取り替えてくれて」というエピソードも話してくれた。
今後のスタジオ展開についてはこう話す。
「Macを新しくして、ウーファーも入れたいですね。それから、ACCESS Virus Indigo 2ぐらいの大きさの良いハードがあるといいなって。やっぱり“物”で欲しいですよね。置いておいてテンションが上がるんです」
Equipment
Computer:APPLE Mac Pro
DAW:AVID Pro Tools
Audio I/O:APOGEE Duet、DIGIDESIGN 192 I/O
Speaker:GENELEC 8040A
Headphone:SENNHEISER HD580 Precisio
Other:E-MU E4 Platinum(Sampler)、ACCESS Virus Indigo 2、ELEKTRON Machinedrum、Monomachine、MOOG Voyager、ROLAND Juno-60(Synthesizer)、NATIVE INSTRUMENTS Traktor Kontrol Z2(DJ Mixer)、TECHNICS SL-1200MK5(turntable)
Close up!
名曲の誕生に欠かせなかった サンプラーの名機
E-MU E4 Platinumは、長い期間すごく支えてくれたサンプラーですね。特に『TOKYO CLASSIC』(2002年)から『TIME TO GO』(2003年)などでよく使っていました。内蔵ハードディスクは壊れてしまっているのですが、20GBの外付けHDDには「楽園ベイベー」などで使ったデータが入っています。YouTube連載の『フミヤ王国』では、「Super Shooter」(2005年)のイントロを再現して打ち込んだりもしましたけど、すごく難しかったです。でもすごく良い音でしたね。
Profile
FUMIYA:RIP SLYMEのDJ、音楽プロデューサー。14歳でDJを始め、18歳でRIP SLYMEに加入。メジャー・デビュー以降、数々のヒット曲を手掛ける。テイ・トウワ、布袋寅泰をはじめ、他アーティストや企業とのコラボも多数。Instagram:@djfumiya_ripslyme
Recent Work
『フミヤ王国』(RIP SLYME公式YouTubeチャンネルにて公開)
これまで自身が制作したトラックの解説/深掘りを行う企画を連載中。お相手はDJ ISO(MELLOW YELLOW)。