FUMIYA(RIP SLYME)のプライベート・スタジオ|Private Studio 2025

FUMIYAのプライベートスタジオ

名曲を生み出した機材が輝き続ける トラック・メイク&DJツールの王国

RIP SLYMEのDJ/トラック・メイカーとして楽曲制作の中核を担ってきたFUMIYA。最近では、YouTube動画で「楽園ベイベー」や「FUNKASTIC」などの制作手法を詳細に解説していることでも話題を集めるこの拠点が、プライベート・スタジオ“フミヤ王国”だ。

フミヤ王国の模式図

フミヤ王国の模式図。縦長の部屋を囲むように、制作機材からレコードやCDまで、壁に沿ってずらりと並べられている

備え付けられたレコード・ラック

 「太陽とビキニ」がアレンジされてテレビCMで使われたり、「熱帯夜」がTikTokで話題になるなど、FUMIYAの生み出す楽曲は何年たってもキャッチーで人の心をつかんでいる。

 「そういうのはうれしいですよね。キャッチーであることは全然恥ずかしくないので。昔はちょっとあったんですけどね……やっぱヒップホップたるものドープじゃなきゃいけないみたいな(笑)」

 これまでの名曲の数々も、現在の制作環境でも中心で活躍するのはAVID Pro Toolsだ。

 「東京に住んでいた頃のスタジオには施工を入れてレコーディング・ブースも造ったので、AVID Pro Toolsが良いのかなと思って使いはじめたんです。昔はバウンスに時間がかかりましたが、Pro Toolsならエンジニアにセッション・データで渡せるのですごく楽でした。それからずっとMIDIでの打ち込みも録音もオーディオの編集も、全部Pro Toolsです」

デスク周り

デスクにはMIDIキーボードのROLAND A-49やシンセのJU-06、TEENAGE ENGINE ERING OP-1などが並び、右にはレコードからのサンプリングがすぐにできるようにターンテーブル&ミキサーが常設されている

GENELEC 8040A

FUMIYAは長年GENELECのモニター・スピーカーを使用してきた。現在は8040Aを採用。部屋のカラーリングに合わせてホワイト・モデルを使っている

SENNHEISER HD580 Precision

制作の際は、開放型のSENNHEISER HD580 Precisionをモニター・ヘッドホンとして愛用している

 現在のスタジオは一軒家の中にあり、都内から少し離れた海沿いの街に造られている。

 「こっちに引っ越してきてから、仕事するぞっていうよりは、もっと普通っぽい部屋がいいなって。特にそんなに吸音もしてないので、ローが少し見えづらかったりもするんですけど、慣れちゃえばいいかなって。制作用の部屋にしたので、グラスウールを全部倍の密度で壁の中に入れてもらって、外に接する面には音漏れしないように窓をつけていません。そのほかのこだわりとしては、家を造るときから、レコード・ラックだけは絶対に作ろうと思っていたんです」

レコード棚

壁に備え付けられたレコード棚は、自宅スタジオを造る際から構想していたこだわりのポイント。ネタもの、古いもの、ヒップホップ、ドラムンベース、自身の作品などに分けて収納している。サンプリング・ネタを探す際は古いレコードから探すことが多く、「海外から7インチを600枚くらい一気に買ったりもします(笑)。でもほとんどループで使わないので、何か1音良い音とかがあれば全然良くて。質感を買ってるみたいな感じですね」と話す

 そう話すスタジオの壁にはびっしりとレコードが収納されている。そこからも分かるように、FUMIYAの楽曲制作に欠かせないのがサンプリングだ。

 「レコードからサンプリングするときはTECHNICS SL-1200MK5からUREI 1620LEを通しています。やっぱりサンプリングした音が一番好きな質感で。レコード・ノイズを再現するようなエフェクトもはやってますけど、本当のレコードから録ったのとは全然似て非なるものですね。スクラッチもレコードとデジタル・データでは全然音が違いますし。レコードでやるとキックのドコドコした低域のおいしい部分が出るんです」

UREI 1620LE、TECHNICS SL-1200MK5

サンプリング用のロータリー・ミキサーのUREI 1620LEとターンテーブルのTECHNICS SL-1200MK5。レコード針はORTOFON Concorde Nightclub MKⅡを使用。1620LEは、中の配線を全部取り替えたカスタム・モデルで、EQやパンニングなどの回路も外されており、ほぼ増幅用のアンプとして機能しているという

 しかし、制作の音選びで大事なのはソフト・シンセとサンプリングのバランスだという。

 「ほかの音との対比ですよね。全部ポップな音だと薄れちゃうし、単体で聴くとそこまでポップじゃない音でも、そこに入ると浮き出てポップに聴こえるとか。例えば、一部だけサンプリングしたトランペットの音を使うと奥行きが出たりするんです」

DJセット

スタジオ後方に用意されたDJセット。こちらはDJの仕込みや練習、スクラッチ音のレコーディングに使っているという。SL-1200MK5×2台とNATIVE INSTRUMEN TS Traktor Kontrol Z2、PIONEER DJ CDJ-800MK2が並ぶ。FUMIYAはDJソフトとしてNATIVE INSTRUMENTS Traktorを長年愛用。Traktor Kontrol Z2は、YouTube『フミヤ王国』でもパートナーとして参加するMELLOW YELLOWのDJ ISOから譲り受けたもので、ghostinmpcでのホワイト・カスタム仕様になっている

Pro ToolsをOS切り替えで使用

 続けて、愛用のソフトを尋ねてみよう。

 「ソフト・シンセはとりあえずSPECTRASONICS Omnisphereを立ち上げますね。最近はLUNACY AUDIO Cubeという無償のソフト・シンセやNATIVE INSTRUMENTS Kontaktの音源もいろいろ使っています。ソフト・サンプラーはチョップして鍵盤に並べる作業が速くできるUVI Falconを使っています」

 そして話題はソフトウェアの動作環境に。

 「パソコンは2010年のMac Proで、OSは10.13なのですごく古いんですよ。変えなきゃと思ってるんですけど、移行作業が大嫌いで(笑)。限界に近いんですけど、動きはそんなに問題なくて。ただ、“これ使いたいな”っていう新しいソフトとかは使えません(笑)」

 制作とレコーディングでは起動するOSを切り替えて作業を行うというFUMIYA。

 「オーディオI/Oは、DIGIGESIGN 192 I/OがOSに対応しなくなってAPOGEE Duetにしました。ただ、今もレコーディングだけはOSの起動ディスクを変えて192 I/Oを使い、Pro Tools|HDでやっています。マイクはNEUMANN U 87 AIで、マイクプリのAMEK System 9098 DMAからコンプのUNIVERSAL AUDIO 1176LNを通します」

APOGEE Duet

オーディオI/OはAPOGEE Duetを使用。当初は持ち運びも想定してこのサイズ感を選んだそうだ

ラック

最上段のサンプラーE-MU E4 Platinumの下には、ROLAND FantomXRやKORG Tri ton-Rack、JOMOX Air Base 99などのハードウェア音源が並ぶ

NEUMANN U 87 AI

レコーディングには、コンデンサー・マイクのNEUMANN U 87 AIを使用。以前のプライベート・スタジオでは、U 87 AIを使ってアルバムを丸ごと宅録したこともあったという

 ROLAND Juno-60などのハードウェア・シンセを取りまとめるのはコンソールのMIDAS Venice 160。「前はVenice 240を使ってたんですけど、壊れてMACKIE. 1604-VLZ Proを使ってたんです。そしたらVenice 160を持ってたPES君が取り替えてくれて」というエピソードも話してくれた。

シンセ類

FUMIYAがモチベーションを上げるために電源を付けることもあるというハードウェア・シンセ類。上から、ROLAND Juno-60、ELEKTRON Monomachine SFX-60、Machined rum SPS-1UW、MOOG Voyager。ラック下にはACCESS Virus Indigo 2も

Sid Station

ELEKTRONが1999年に発売したブランド初のシンセサイザー、Sid Station

デスク横のラック

デスク横のラック上には、MIDASのコンソール、ラック内にはAMEK System 9098 DMA、UNIVERSAL A UDIO 1176LN、DIGIDESIGN Sync I/O、192 I/Oがセットされている

 今後のスタジオ展開についてはこう話す。

 「Macを新しくして、ウーファーも入れたいですね。それから、ACCESS Virus Indigo 2ぐらいの大きさの良いハードがあるといいなって。やっぱり“物”で欲しいですよね。置いておいてテンションが上がるんです」

ギター

1976年製のFENDER Telecaster Customをはじめ、ギターやベースも多数所有するFUMIYA。奥のギター・ラックにはエレキベースのPrecisi on Bassやアコースティック・ギターも収納されている

Equipment

Computer:APPLE Mac Pro

DAW:AVID Pro Tools

Audio I/O:APOGEE Duet、DIGIDESIGN 192 I/O

Speaker:GENELEC 8040A

Headphone:SENNHEISER HD580 Precisio

Other:E-MU E4 Platinum(Sampler)、ACCESS Virus Indigo 2、ELEKTRON Machinedrum、Monomachine、MOOG Voyager、ROLAND Juno-60(Synthesizer)、NATIVE INSTRUMENTS Traktor Kontrol Z2(DJ Mixer)、TECHNICS SL-1200MK5(turntable)

Close up!

名曲の誕生に欠かせなかった サンプラーの名機

E-MU E4 Platinum

E-MU E4 PlatinumはE4 Ultraシリーズのフラッグシップ機となるサンプラー。本体左上に置かれているのが、過去作で使用したサンプリング・データなどが入った外付けハードディスクだ

 E-MU E4 Platinumは、長い期間すごく支えてくれたサンプラーですね。特に『TOKYO CLASSIC』(2002年)から『TIME TO GO』(2003年)などでよく使っていました。内蔵ハードディスクは壊れてしまっているのですが、20GBの外付けHDDには「楽園ベイベー」などで使ったデータが入っています。YouTube連載の『フミヤ王国』では、「Super Shooter」(2005年)のイントロを再現して打ち込んだりもしましたけど、すごく難しかったです。でもすごく良い音でしたね。

 

 Profile 

FYMIYA(RIP SLYME)

FUMIYA:RIP SLYMEのDJ、音楽プロデューサー。14歳でDJを始め、18歳でRIP SLYMEに加入。メジャー・デビュー以降、数々のヒット曲を手掛ける。テイ・トウワ、布袋寅泰をはじめ、他アーティストや企業とのコラボも多数。Instagram:@djfumiya_ripslyme

 Recent Work 

『フミヤ王国』(RIP SLYME公式YouTubeチャンネルにて公開)

これまで自身が制作したトラックの解説/深掘りを行う企画を連載中。お相手はDJ ISO(MELLOW YELLOW)。

特集|Private Studio 2025