LUNA SEA『LUNATIC TOKYO 2025 -黒服限定GIG-』東京ドーム公演の音響を徹底解剖

LUNA SEA 35th ANNIVERSARY TOUR ERA TO ERA -THE FINAL EPISODE-【コンサート見聞録】

結成35周年アニバーサリー・ツアー『ERA TO ERA』最終公演の舞台は、2010年12月以来、約14年ぶりとなる東京ドーム。“覚悟の夜”として挑んだライブのサウンド・システムに迫る

結成35周年を迎えたLUNA SEAが、東京ドームでの2デイズ公演を敢行! その2日目『LUNATIC TOKYO 2025 -黒服限定GIG-』を訪れ、音響の面から一部始終を目撃した。盤石の演奏を数万人へ確実に届けるPA手法&機材とは? PAエンジニア小松久明氏へのインタビューから、ひも解いていく。

DATE:2025年2月23日(日)
PLACE:東京ドーム
TEXT:鳥居智 PHOTO:田辺佳子(ライブ)、横山マサト(機材)

東京ドームの響きが気持ち良かった

 2011年からLUNA SEAのライブPAを行う小松氏。これまであまたのアーティストのライブに携わってきたが、意外にも東京ドームでPAを行うのは初めてだったそう。

 「お客さんとしてライブをたくさん見てきて、やりづらい会場なんだろうとは思っていました。でも、もう6年くらい一緒にやっている、クレア・ジャパンのシステム・エンジニアの飯村巧さんがチューニングした音を聴いて、これはいけるなと。東京ドームの響きがとても気持ち良かったんです。今、日本ではデッドに設計される会場が多いけれど、“響きがあるほうが気持ち良いよね”とは、メンバーと今回のツアーでも話していました」

FOHのエンジニアを務めた、K.M.D Sound Design代表の小松久明氏

FOHのエンジニアを務めた、K.M.D Sound Design代表の小松久明氏

 飯村氏にも話を聞くと、「反響は多いですが、お客さんが入るとそれほど気にならないとも感じていて。基本的には小松さんがミックスした音、世界観をちゃんと表現できるバランスの出音にすることを心がけています」との答えが。チューニングでカットする帯域にも共通認識があるとのことで、その話から、互いの強い信頼関係が感じられた。また、小松氏が重視したのはステージとFOHの距離だ。

 「今回は50mで、ギリギリです。これ以上だとフェーダーを操作しても音のほうが遅れてきてしまいます。この距離だけは、どこの会場でもきっちりと守りたいんです」

FOH付近から見たステージ。2デイズの初日、2月22日に行われたGLAYとの対バン・ライブ『The Millennium Eve 2025』の公演時と異なり、客席前方にセンター・ステージが組まれている

FOH付近から見たステージ。2デイズの初日、2月22日に行われたGLAYとの対バン・ライブ『The Millennium Eve 2025』の公演時と異なり、客席前方にセンター・ステージが組まれている

 FOHコンソールはYAMAHA Rivage PM10。PM10は7年目で、YAMAHAのコンソールは10年以上前から使用している。

 「2013年のタイ公演でYAMAHA PM5000を使ってみたらすごく良かった。YAMAHAのヘッド・アンプがLUNA SEAに合っているんでしょうね。アレンジメントの幅がとても広いバンドだし、その幅広いサウンドをコントロールしやすいコンソールだと思います」

YAMAHA Rivage PM10のコントロール・サーフェス、CS-R10。Rivage PM10を使うようになったのは6〜7年前とのこと。エフェクトは、UNIVERSAL AUDIO UAD Live Rackを用意し、UADプラグインを活用している

YAMAHA Rivage PM10のコントロール・サーフェス、CS-R10。Rivage PM10を使うようになったのは6〜7年前とのこと。エフェクトは、UNIVERSAL AUDIO UAD Live Rackを用意し、UADプラグインを活用している

ステージを右側から見たところ。メイン・スピーカー(写真左下)はCLAIR CO-12×18台で、その後ろにサブウーファーCP-218×6台をリギング。サイド(写真中央)もCO-12×18台と、さらに外側に向けたサイド(写真右上)としてCO-10×8台を用意する。小松氏は自身のPA現場では、ほぼCLAIRのスピーカーを使用しているそうで、「世界中のアーティストが認めるメーカーで、技術的にも世界一だと思います。その技術をクレア・ジャパンも磨いていて、海外から“日本、音がめちゃくちゃ良いよ”という評判もあるくらい、皆さん素晴らしい働きをされています」と語る

ステージを右側から見たところ。メイン・スピーカー(写真左下)はCLAIR CO-12×18台で、その後ろにサブウーファーCP-218×6台をリギング。サイド(写真中央)もCO-12×18台と、さらに外側に向けたサイド(写真右上)としてCO-10×8台を用意する。小松氏は自身のPA現場では、ほぼCLAIRのスピーカーを使用しているそうで、「世界中のアーティストが認めるメーカーで、技術的にも世界一だと思います。その技術をクレア・ジャパンも磨いていて、海外から“日本、音がめちゃくちゃ良いよ”という評判もあるくらい、皆さん素晴らしい働きをされています」と語る

ディレイ・スピーカーはCLAIR CO-12×12台で、アリーナ後方の左右に設置。東京ドームのスタンド後方に音の輪郭まで届かせるためには、これほどの規模がないと厳しいとのことだ

ディレイ・スピーカーはCLAIR CO-12×12台で、アリーナ後方の左右に設置。東京ドームのスタンド後方に音の輪郭まで届かせるためには、これほどの規模がないと厳しいとのことだ

CP-218はステージ前に24台設置し、リギング分と合わせてサブウーファーは合計で36台を用意。「すごくパワーがあるサブウーファー」と小松氏は評価している

CP-218はステージ前に24台設置し、リギング分と合わせてサブウーファーは合計で36台を用意。「すごくパワーがあるサブウーファー」と小松氏は評価している

スピーカーのパワー・アンプは、LAB.GRUPPEN PLM 20K44を使用。ボリュームやチューニングなどのシステム・コントロールはLAKE Lake Processorで行っている

スピーカーのパワー・アンプは、LAB.GRUPPEN PLM 20K44を使用。ボリュームやチューニングなどのシステム・コントロールはLAKE Lake Processorで行っている

音がFOHに来るスピードを落とさない

 次は合計で約140chというインプットについて。RYUICHIのマイクはSHURE SM58だ。

 「声量が大きくなるときのひずみを抑えるには、SM58が一番良いかなと。RYUICHIさんの私物の、TELEFUNKEN V76M(マイクプリ)とUNIVERSAL AUDIO 1176LN(コンプ)も使っています。RYUICHIさんは機材に詳しく、スタジオにはラックが山のようにあって。僕が関わる前はビンテージ機材をライブで使いたいと提案しても断られていたらしいのですが、僕はもう大好きだしウェルカムですよと(笑)。自分の設定でできるので、RYUICHIさんも歌いやすくなったんじゃないでしょうか」

RYUICHIのボーカル・マイク、SHURE SM58。30本ほどのSM58から、RYUICHIがスタジオでテストしてベスト5を選出し、その中から本番では当日の体調などに合わせたものをセレクトしているとのこと

RYUICHIのボーカル・マイク、SHURE SM58。30本ほどのSM58から、RYUICHIがスタジオでテストしてベスト5を選出し、その中から本番では当日の体調などに合わせたものをセレクトしているとのこと

RYUICHIのマイクの後段に挿しているTELEFUNKEN V76M(写真上)とUNIVERSAL AUDIO 1176LN(写真下)

RYUICHIのマイクの後段に挿しているTELEFUNKEN V76M(写真上)とUNIVERSAL AUDIO 1176LN(写真下)

 ドラムの中で、特にスネアは真矢のこだわりが反映されたマイキングだという。

 「スネアの“自分が出したい音”という圧倒的なものを持っている方ですからね。リハーサルでいろいろ試した結果、SENNHEISER MD409になりました。とにかくユニットが素晴らしく、世界中から買い集めたものを自分でチューニングしています。そのうちの1本が、真矢さんが“買い取りたい”と言うくらいスネアとの相性が素晴らしかったんです」

真矢のドラム・セット。スネアのトップに立てたSENNHEISER MD409は、タムにも複数本を使用。小松氏は「2年かけて集めたMD409を全部使いました(笑)」と語る。写真右下、奥に見えるラックにはプリアンプのAURORA AUDIO GTP8があり、主要となるパートを入力している

真矢のドラム・セット。スネアのトップに立てたSENNHEISER MD409は、タムにも複数本を使用。小松氏は「2年かけて集めたMD409を全部使いました(笑)」と語る。写真右下、奥に見えるラックにはプリアンプのAURORA AUDIO GTP8があり、主要となるパートを入力している

 先述したRYUICHIのラックも含め、各メンバーのインプットの多くは、ステージ上または袖に設置したプリアンプを通して、FOHへと送っている。

 「多くのPA機材を介すると、どうしてもFOHまで音が来るスピードが落ちる。だから、メンバーの近くにプリアンプを置き、+4dBuのライン・レベルにしてから送っています。仕込みは大変だけど、スタッフみんなが理解して協力してくれるのがうれしい限りです」

SUGIZOのギターはBOGNERの3台のキャビネットで出力。それぞれクランチ、メイン、ディレイと音色ごとに分けている。マイクも各3本ずつで、白のSENNHEISER MD421とJOSEPHSON ENGINEERING E22Sは、キャビネット上にあるプリアンプAPI 3124Vを通してFOHへ、黒のSENNHEISER MD421はモニターへ送出し、FOHとモニターで異なる音作りを行っている

SUGIZOのギターはBOGNERの3台のキャビネットで出力。それぞれクランチ、メイン、ディレイと音色ごとに分けている。マイクも各3本ずつで、白のSENNHEISER MD421とJOSEPHSON ENGINEERING E22Sは、キャビネット上にあるプリアンプAPI 3124Vを通してFOHへ、黒のSENNHEISER MD421はモニターへ送出し、FOHとモニターで異なる音作りを行っている

INORANは、写真中央上のギター・アンプFENDER Vibro-KingにSENNHEISER MD409とEARTHWORKS SR314を、写真右のFENDERのキャビネットにはUSA製のSHURE SM7とCAD E100Sを立てている。背面には4chプリアンプのFOCUSRITE Red 1を設置し、上記の4chを入力している

INORANのギターには、写真中央上のギター・アンプFENDER Vibro-KingにSENNHEISER MD409とEARTHWORKS SR314を、写真右のFENDERのキャビネットにはUSA製のSHURE SM7とCAD E100Sを立てている。背面には4chプリアンプのFOCUSRITE Red 1を設置し、上記の4chを入力している

Jのベースの出力として、AMPEGのキャビネットにダイナミック・マイクのBEYERDYNAMIC M99を立てているが、こちらは緊急時の対応用で、メインはベース・アンプのダイレクト・アウトとFOCUSRITE Red 8Preのライン出力となっている

Jのベースの出力として、AMPEGのキャビネットにダイナミック・マイクのBEYERDYNAMIC M99を立てているが、こちらは緊急時の対応用で、メインはベース・アンプのダイレクト・アウトとFOCUSRITE Red 8Preのライン出力となっている

 LUNA SEAと言えば、過去に本誌でも取り上げたように、ライブやレコーディングの楽器用電源として水素燃料電池を活用することでも知られている。東京ドームでの使用は初だったが、全く問題なかったそう。

 「発電所がすぐ近くにあるようなもので、ピュアな電源を扱えるからギターやドラムの立ち上がりがすごく良いんです。どうしても持ち込めない会場だと、“やっぱり水素のほうが音が良い”という話にはなりますね」

水素燃料電池を備えるTOYOTAの燃料電池自動車CROWN FCEV。その前にあるのが外部給電器のHONDA Power Exporter 9000だ。水素燃料電池への取り組みは、本誌2024年8月号の特集『自動車(クルマ)でサウンド・プロダクション!』にて、SUGIZOにインタビューを実施し詳しく伺っているので、そちらもぜひご覧いただきたい

水素燃料電池を備えるTOYOTAの燃料電池自動車CROWN FCEV。その前にあるのが外部給電器のHONDA Power Exporter 9000だ。水素燃料電池への取り組みは、特集『自動車(クルマ)でサウンド・プロダクション!』にて、SUGIZOにインタビューを実施し詳しく伺っているので、そちらもぜひご覧いただきたい

 メンバー全員の、このライブにかける熱い気持ちが音になって表れていたと言える本公演。そのサウンドの迫力は大観衆の反応からも明らかで、今後の展開も非常に楽しみだ。

 「僕自身はメンバーを誇張するつもりはありません。100%で来たものを100%で出せば良い結果になるので、いかにそのままストレートに出すかを心がけています。終演後に楽屋へ行くと、皆さん良い顔していましたよ」

 RELEASE 

2023年の『DUAL ARENA TOUR』、2024年の35周年ツアーより6つの新作LIVE Blu-rayを連続リリース! 詳しくは特設サイトへ

 MUSICIAN 

RYUICHI(vo)、SUGIZO(g)、INORAN(g)、J(b)、真矢(ds)

 MUSIC 

  1. LOVELESS
  2. G.
  3. Déjàvu
  4. DESIRE
  5. JESUS
  6. gravity
  7. RA-SE-N
  8. VIRGIN MARY
  9. IN FUTURE
  10. I for You
  11. FAKE
  12. BELIEVE
  13. ROSIER
  14. HURT
  15. NIGHTMARE
  16. LOVE SONG
  17. TONIGHT
  18. WISH
  19. FOREVER & EVER

 STAFF 

主催:テレビ朝日
企画:LUNA SEA Inc.
制作:avex live creative

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