【会員限定】TOWA TEI最新作『AH!!』〜細野晴臣と高橋幸宏らも参加し、横尾忠則がジャケットを担当した本作の裏側に迫る

TOWA TEI

“AH!!”は自分にとっての基本

『ZOUNDTRACKS』『TOUCH』(2023年)から約2年を経て、13枚目のフル・アルバムを作り出したTOWA TEI。『AH!!』とシンプルかつ力強いタイトルが名付けられた本作は、ジャケットアートワークを横尾忠則が手掛け、参加ゲストとして細野晴臣と高橋幸宏が同曲に名を連ね、6月にはアナログ盤が発売されるなど、注目したいポイントがめじろ押しだ。さらに、最近ではディズニープラス配信のアニメシリーズ『スター・ウォーズ:ビジョンズ Volume 3』に楽曲提供を行うなど、グローバルなプロジェクトにも積極的に参加。早速、TOWA TEIに話を聞いてみよう。

作ったら出して終わりで次に進む

──『AH!!』は前作から2年ほどでの新作となりましたね。 

TEI 先に言うと、今年セミリタイアした気がしていて。デビューした30数年前はCDが売れる時代で、完成が近くなると当たり前のように取材を受けて、リリース・パーティをセッティングしてたんですけど、そういうルーティンから抜けて、作ったら出して終わりで次に進みたくなったんです。ものを作ることは好きなので、物理的にできなくなるまで作ると思うんですけど、集中と選択をしないと先に進めないので。あと、CDはダウン・コンバートする作業でしかないので出したくないと思っていたんです。『AH!!』は13枚目で、12が1ダースや十二支の単位であるように、12枚目の『TOUCH』で1サイクル終えた感じがあって。還暦になると“2周目も頑張ってください”って言われるんですけど、初心に戻ってフル・アルバムにしようと。あと、Aから考えて“AB、AC、AD……”って行くと、“AH”になって初めて音になるんです。

──あぁ、なるほど! 

TEI ほら、“あぁ”って言った(笑)。この話をすると必ずみんな“あぁ”って言う。最初のアルバムが『FUTURE LISTENING!』(1994年)っていうタイトルだったので、ビックリ・マークを2つにして2周目ということで。あと、温泉に入ると大抵“あぁ”って出ますし、“AH!!”っていう音は自分にとっての基本なんだなって気分ですかね。 

──クレジットを拝見したときから、高橋幸宏さんと細野晴臣さんのお名前が並ぶ「THE PROPHET」が気になりました。 

TEI 高橋幸宏さんがたたいてくれたドラムのマルチが最近見つかったんですよ。テープの時代に、幸宏さんとスタジオに入る機会があって、ワンループ程度のループ素材の上でたたいてもらったんです。僕のソロでたたいてもらったのはそれだけなんですけど、お蔵入りになってたんです。 

──それはなぜですか? 

TEI マルチはキック、スネア、ハイハット、オフマイクとかちゃんと録れてたんだけど、データにして持って帰ったら飛んじゃって、諦めていたんです。でも晩年の幸宏さんと過ごす中でそういえば、テイ君のソロでドラムたたいたのはどうなったの?”って言われていて。“すみません。まだできてなくて”って言ってたんです。でも近年、過去のテープをスタジオで24ビット/96kHzにデジタイズしてもらっていたら“アライメント”って書いてあるデータがあって、なんだろう?と思ったら、ループと幸宏さんのドラムが入っていたんです。

──すごく奇跡的な話ですね。 

TEI そうなんです。ずっと忘れたことはなかったんですけどね。幸宏さんも気にしてたし、形にしたいと思って、一緒に録ってあったループは使わず、今の気分で新たに構築しました。それは20世紀の幸宏さんのドラムなんですけど、そこに2025年の77歳の細野さんにベースを弾いてもらいたいなと思ったんですよね。それで相談したら、すごく忙しそうで。今回のアルバムでは無理かなとも思ったんですが、正月過ぎたころに、1テイクのかっこいいベースが来て。“そりゃそうだよね、幸宏さんのドラムかっこいいもんなあ”と思いましたね。僕はマッチング・アプリみたいなもので、20世紀の幸宏さんと2025年の細野さんが出会う空間を作ったんです。形になって良かった。

TOWA TEI & Tadanori Yokoo

TOWA TEI & Tadanori Yokoo
鮮やかなスカイ・ブルーが映え渡る『AH!!』のジャケットアートワークは、美術家・横尾忠則(写真右)による描き下ろしの作品。TOWA TEIの象徴とも言えるポートレートを描いた一枚となっている。(撮影:田島一成)

FZのフロッピーから出てきた音

──ドラムとベース以外はどういうふうに作ったのですか?

TEI 幸宏さんのドラムが見つかった後に、1996年ごろのカセットが出てきて。冒頭の英語のおばちゃんの声は、そのころ診てもらったアメリカの占い師さんの声なんです。当時は東京にいるのがしんどくて“東京以外でもやっていけますか”って聞いたら“あなたは大丈夫。時期が来れば自分で行くべきところに行くし、全然心配することないわよ”みたいな後押しをしてくれて。それをテープに録ってくれたのが残っていたんです。これまで聴いたことなかったんですけどね。GOH(HOTODA)さんにノイズを消してもらって使いました。 

──あとはどのような音を使いましたか? 

TEI 頭に出てくるピコピコって音はシンセのプリセットで、聴こえた倍音を拾って別のシンセで鳴らしたり、そこにブラスっぽい音をレコードからチャンクして貼ったりしています。サンプラーのCASIO FZを修理したら、FZのフロッピーからDeee-Liteの出ばやしで使っていた上昇音とかも出てきて、独特なカチンとした音が懐かしくて結構使いましたね。ドラムが止まるところにはDeee-Lite「What Is Love?」(1990年)の打ち込みのキックやスネアをDATから録って入れたり。「GUM」の最後に入れたブレイクビーツも「Electric Shock」(1992年)で使ったものです。 

──貴重な音が発掘されたんですね。

TEI 「Groove Is in the Heart」(1990年)でQティップがラップするときだけ出てくるブレイクビーツもフロッピーで出てきたので、同じレコードから録りなおして、その上にシンベでベース・ラインを弾いたら、「CONGRATULATIONS!」(1999年)のホイッスルのメロディと合うと思ったんです。その後付けリミックスでできたのが、1曲目の「THE FINEST」でした。自分が昔作った曲をまた違うバージョンでやり直すのは細野さんも結構やるので、それってなんて言うんですか?って聞いたら“アップデートだよ”ってポンと出てきたんですよね。それで2周目はアップデートをたまにやってもいいかなと思ったんです。 

──ほかにも今作で“アップデート”した曲はあるのでしょうか? 

TEI 「B4GP4B」は『LUCKY』(2013年)収録の「BLUE FOR GIRLS, PINK FOR BOYS」のマルチを立ち上げてステムから再構築しましたね。元は4つ打ちだったんですけど、2ステップ的な形にしました。 

──作品を通して聴くとストーリー性を感じるような気がしました。 

TEI アナログ盤の最初は音抜けが良いので、唯一生ドラムの「THE PROPHET」をB面の1曲目にしてドラムを大きくしたいと思って。デビューしてからずっと、アルバムのここまでがA面、ここまではB面というのをいつも考えるんです。近年特にそれが強まって、『LP』(2021年)辺りからはアナログ盤の特性まで考えて、面の終わりのほうは低域を効かせなくていい曲にしようとか、曲順にまで響いてきました。 

沙輔君に教わるSynthesizer V

──先行配信された「TYPICAL!」は、シングルとアルバムで展開が異なりますね。 

TEI アルバム・バージョンはアカペラを挟んだ後の展開を2回繰り返していて。7インチではそれを割ってA面とB面にしたんですけど、レゲエのレコードだとヒット曲がかかった後にそのインストやダブがかかるような繰り返しが多くて、あの感じを「TYPICAL!」でやろうと。

──曲自体はどうやって作りましたか? 

TEI 温泉に行って“TYPICAL TYPICAL♪”っていうのが頭で鳴ったんです。そのフレーズを誰が言ったらいいか考えたときに“(石野)卓球でしょう”と。ショート・メールを送ったら、30分〜1時間くらい“入力中”と表示されたから、丁寧に断られるのかと思ったら、“基本的に歌での客演はお断りしてるんですが、テイさんに頼まれたら断れないじゃないですか”って言って受けてくれました。 

──レコーディングはどちらで? 

TEI 西麻布のMIXER’S LABです。『AH!!』で入っているボーカルは基本的にMIXER’S LABですね。「GUM」は池尻のSUNSHINEでした。ドイツ人のタプリックが日本語で歌ってくれているのはメールで送ってもらって。タプリックはまだ会ったことがなくてメル友なんですけど、プロフェッショナルで、オプションでドライを入れてくれたり、EQやコーラス・バランスがいつも完璧で、すごく丁寧にやってくれます。僕が送ったステムに対してボーカルだけ返してくれるんですけど、今回もハモとか付けて、僕が思いつかない感じのハーモニーにしてくれて。その部分の肉付けは原口沙輔君にも手伝ってもらいました。

ÅlborgのMIYA

MIXER’S LABで行われたÅlborgのMIYAによる「WELCOME RAIN」のボーカル・レコーディング

UYEN

「TIME IN TOKIO」に参加したUYENのレコーディング。マイクはNEUMANN U 87を使用

──原口さんとのコラボは意外でした。

TEI 沙輔君は小学生のころからよく僕のイベントに来てくれてて。お父さんがファンで小さいときから聴いてくれてたらしいんです。成人したらご飯でも行こうよって言いつつ、コロナ禍もあって2年ぐらい過ぎたころに、彼は何をやっているのか検索したら、Synthesizer Vのデモ曲を上手に作ったりしていて。それで、沙輔君にSynthesizer Vを教えてもらいながら「GUM」の仮歌を作ったんです。 

──そうだったんですか! 

TEI 合成音声では、CHATRとかコエステーションを使ってきましたけど、僕の声のテンプレートを作るのに、CHATRは3時間ぐらい、コエステーションも1時間ぐらい朗読していたのに、今は数分フィードするだけでAIがテンプレートを作れますからね。でもSynthesizer Vはもう少し進化してから参入しようかなと思っています。タプリックに歌ってもらった日本語の歌詞は全部ChatGPTを使ってAIで作りました。ゼロから作ってもらったら、使えそうな歌詞は2割くらいだったので、英語の部分は自分で作って“こういう歌詞を作ったから日本語の歌詞を続けたいんだけど”って僕が多少流れを書いてやり取りしました。優秀か分からないですけど面白いですね。5年後ぐらいが楽しみかな。

──最後が「HAPPYEND」で終わるのもすごく素敵ですね。 

TEI 良かった。実は……「HAPPYEND」は全部AIで作ったんですよ。スティール・ギターを弾いてもらった高田漣君に“展開含めてテイさんらしくて、こだわりありますね”って言われたから、そこで初めて全部AIで作ったって伝えたらすごくびっくりしていましたね。これはゼロからプロンプトに“モンド”とか“ラウンジ”とか“エキゾ”とかいろんなワードを入れて、良さそうなところを肉付けするような形で作りました。結果的に歌以外は全部録りなおして、ボーカルはステムにかぶってたりするんですけど、この感じを誰に歌ってもらうか思いつかなくて、これを超えられないと思ったんでそのまま行きました。アナログ盤のそれぞれの面が「HAPPYHOUR」と「HAPPYEND」で終わったらビートも効いてなくていいかなと思って。

高田漣

作品の最後を飾るAA面最終曲の「HAPPYEND」。AIで作られた本作だが、高田漣のスティール・ギターはオリジナルで作曲されたという

福原音

シャッポの福原音によるギター・レコーディング。福原は「THE PROPHET」「WELCOME RAIN」の2曲に参加している

──クリエイターの方々がすごい勢いでAIを駆使されていますよね。 

TEI 結局はセンスだと思いますよ。僕がデビューしたようなころには思いつかなかったテクノロジーも今はあって、体力や集中力は衰えていくけど、そういう部分でカバーできることもきっとあるんじゃないかな。僕は全部をネガティブに捉えず楽しみにしているところのほうがどちらかといえば大きい。同時に、日々平和から遠ざかっている気はしますよね。どんどん分断が進んでいるような気がして。音楽家が政治のことを言うなって人もいるけど、作っていくものとも密接に関わってくるので、政治のことも考えざるを得なくなっていますよね。それと同時に、不安とか悲しみとか怒りは決してクリエイティブにとって良い感情ではないし、やっぱり音楽を作るのは現実逃避であると同時に、自分にとっての一番のリアリティな気がしています。 

きっと良い音のレコードになる

──『AH!!』のアナログ・カッティングをPICCOLO AUDIO WORKSの松下真也さんに頼んだのはどういった流れでしたか?

TEI 松下さんはGOHさんが見つけたんです。“やばい若者がいますよ”と。独学で研究していて、秋葉原のほうに小さいスタジオだけど手製の機械とかもあって、テープで持ち込めるって。最初にお願いした『ZOUNDTRACKS』も「TYPICAL!」の7インチも良かったし、2024年に僕が無印良品の店内音楽の監修をやって、坂本龍一さんが演奏した未発表のバッハの曲を使わせてもらったんですけど、そのノベルティで作った7インチも非常に良い音でカッティングしてもらえました。GOHさんと松下さんを完全に信頼しているのできっと良い音のレコードになるなと。音楽はデジタルで作ってますけど、レコードを作る上では、アナログ・テープからすべてアナログでカッティングしています。

──昔の音を織り交ぜつつも、最新の音として響くのはなぜなのでしょうか? 

TEI なんででしょうね。あまり新譜を聴かなくなったし、DJの現場も減ったんですけど、古臭い音には聴こえていないと自負しています。同時に、昔作った1stアルバムとか2ndアルバムも30数年前のものにしてはいまだにクラブとかでかけても盛り上がれるし。サンプリングが面白いのはそれこそ“サウンド&レコーディング”の歴史の中で、部屋の広さや湿度、その時代のマイクやテクニックとかが作品に入っているからで、最新のテクノロジーと付き合った上で、その時々の音をサンプリングすると気持ち良いし、そういうものを同列に並べた音は近代のレコードにはないからやってるんですよね。

──最新の技術を積極的に取り入れ続ける向上心が本当に素晴らしいです。 

TEI この間AIに“DAWを使って打ち込みをしている人にとってAIの恩恵ってどうなんですか”とか、“同時にそういう音楽を作っている人は大変になるんじゃないの?”って聞いたんです。それでしれっと“TOWA TEIみたいな音楽はどうですか”とも聞いたら“彼の音楽は昔のサンプリングとかと今のテクノロジーやシンセサイザーとかを併用していて。AIにはサンプリングっぽい音は作れても、サンプリングそのものはできないので、彼のような音楽はより価値が上がっていくでしょう”って出て、分かってるじゃん!って(笑)。

──すごい分析力ですね……。 

TEI AIはTOWA TEIの音楽の特性まで知っていて面白いと思いましたよ。僕の音楽は価値が上がると思ってやっていたわけじゃないし、サンプリングは自分にとってほかにない音だからしているわけで。1990年代はバーンとサンプリングしてそのままキックとスネアを足してるようなレコードもあったけど、自分は細かくミンチしてやる方向が合っていて、シンセや生楽器が入った曲もあれば、「TYPICAL!」みたいな生楽器が全く入らない曲も、AIを使っている曲もあるし。それが自分の特性というか、自分に聴こえている音感なんじゃないですかね。サンプリングは、音を半音ずつ上げるとフォルマントが変わってきたり、後ろで鳴っているノイズとか1940年代の空気感とかも一緒に上がったり下がったりする感じが面白くて。そこに現代のシンセを合わせたりしてるんです。AIは多分そうやって分析したんじゃないですかね。面倒であまりやる人がいないから希少だと言われてるんじゃないかなと思います。

Release

『AH!!』
TOWA TEI 

MACHBEAT.COM:MBLP-2501(アナログ盤)
2025年6月6日(金)発売
*各種サブスクリプション・サービスでは現在配信中
初回限定クリアスカイブルーヴァイナル 180g重量盤
ジャケットアートワーク:横尾忠則

Musician:TOWA TEI(all、prog)、細野晴臣(b)、高橋幸宏(ds)、石野卓球(vo)、高野寛(e.sitar、ebow)、権藤知彦(flugelhorn、tb)、高田漣(g)、原口沙輔(prog)、る鹿(vo)、BAKUBAKUDOKIN(vo)、シャッポ(福原音/g、細野悠太/b)、MIYA(vo)、TAPRIKK SWEEZEE(vo)、VERBAL(MC)、他 
Producer:TOWA TEI 
Engineer:TOWA TEI、GOH HOTODA、小日向歩、松下真也、今本修、他 
Studio: PICCOLO AUDIO WORKS、SUNSHINE、他

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