TKの音楽は、多くの要素が噛み合った強力なサウンド
彼の天才的な頭脳がなせる技なんだ
『Whose Blue』は、レコーディングだけでなくミックスにもUKのカラーを取り入れている。収録曲「クジャクジャノマアムアイア」「UN-APEX」のミックスを手掛けたのは現地のプロデューサー/エンジニア、ロメシュ・ドダンゴダ(Romesh Dodangoda)だ。これまでにモーターヘッド、ブリング・ミー・ザ・ホライズン、フューネラル・フォー・ア・フレンドらを手掛けてきた練達で、TKとの出会いについては「僕が携わった作品を聴いて連絡してきてくれたのが始まりだ」と語る。ウェールズに構えるプライベート・スペース=Long Wave Recording Studioからインタビューに答えてもらった。
サブロー追加で蘇る“10M”の素質
──TKさんの音楽について、どういった部分がユニークだと思いますか?
ロメシュ TKが作った音楽を聴くと、彼のものだと分かるんだ。例えばギター・プレイがとても特徴的だし、たくさんの素晴らしいレイヤーや興味深いパートがうまく噛み合って、常に力強いサウンドになっている。彼の天才的な頭脳がなせる技だ。
── ボーカルに関しては、いかがですか?
ロメシュ 本当に素晴らしいと思うし、彼は常に自身の声音とアレンジに合ったメロディを作る。それに、僕は日本語の歌詞の響きや発音の仕方が大好きなんだ。
──あなたがミックスした2曲では、BOBOさんがドラムを演奏しています。彼のドラミングについて、どのように感じますか?
ロメシュ 僕は、BOBOが曲にもたらすあのスタイルが大好きなので、彼のドラミングが入っている曲をミックスするのはいつだって楽しい。彼は常にドラム以外の部分をよく支えている。ドラマーは、いかに出しゃばらずに、ほかの楽器を際立たせるか見極めないといけない。そして、フィルインで自分のプレイが盛り上がる瞬間を見つけるべきだ。
──ロメシュさんはSTEINBERG Nuendoでミックスしているのですよね?
ロメシュ そう。バージョン2のときに使いはじめて、今は最新版のNuendo 14を使っている。ほかのDAWにはない機能がたくさんあって、それらが僕のワークフローの要なんだ。TKが使っているCubaseのプロジェクトを開けるのも良い。彼は途中まで作った曲を僕と簡単に共有できるし、僕もプロジェクトを見れば、そう。バージョン2のときに使いはじめて、今は最新版のNuendo 14を使っている。ほかのDAWにはない機能がたくさんあって、それらが僕のワークフローの要なんだ。TKが使っているCubaseのプロジェクトを開けるのも良い。彼は途中まで作った曲を僕と簡単に共有できるし、僕もプロジェクトを見れば、彼が何をしようとしているのか理解しやすい。さらに、チャンネルへの番号の付け方を統一しているので、特定のサウンドについてディスカッションしたいときにも話が早いんだ。
──オーディオI/Oやモニター機器は何を使用していますか?
ロメシュ メイン・スピーカーは、YAMAHAのNS-10M StudioにGENELECのサブウーファー7360Aを加えた構成だ。近年の現場では、NS-10M Studioは薄っぺらい音だと思われているだろうが、7360Aのような優れたサブウーファーを加えることで、実に素晴らしいモニター・システムになる。サブウーファーが音を豊かにして耳障りな部分を和らげてくれるんだけど、NS-10M Studioのタイトさと周波数レスポンスはそのままだ。あと、NS-10M Studioよりもミックスの全体像が広く見えるGENELEC 8351Bも大好きで使っている。そして、各スピーカーはTRINNOV AUDIO ST2 Proを通っている。ST2 Proの位相補正は、特にサブウーファーをシステムに組み込む場合にとても良いんだ。
──ヘッドホンも使うのですか?
ロメシュ ヘッドホンでチェックする場合はHEDD HEDDphone Twoを使うのが好きだね。音が素晴らしいし、最終チェックに役立つ一台だ。そのほか、ミックスのチェックには中域にフォーカスしたシングル・ドライバーのスピーカーTANTRUM Angry Boxも使う。
──サウンド・メイクには何を使う?
ロメシュ レコーディングの際は、アナログ機材を多用する。僕のスタジオのレコーディング・ルームはAUDIENT ASP8024 Heritage Editionと多彩なアウトボードを中心としていて、それらで捉えたサウンドが本当に大好きなんだ。ミックスに使うのは主にプラグインだけど、プラグインでは得られないものを加える必要があれば、何らかのハードウェアを通してプリント(録音)する。プラグインに関しては、UNIVERSAL AUDIO UADの大ファンだよ。音が素晴らしいからね。
ギターの音作りにはSSL 4K E
──どのような発想でTKさんの楽曲をミックスしていくのでしょう?
ロメシュ TKのラフ・ミックスを聴くのが常にスタート地点だ。TKが何を達成しようとしていて、そこに僕が行き着くためにはどうすればいいかを考える。さらに押し進めて、彼が聴きたいと思っているものを強化することも必要。ラフ・ミックスの中で、どの要素がTKにとって重要なのかを理解し、きちんとバランスを取るように心がけている。ミックスのときは、ラフ・ミックスのステレオ・ファイルをプロジェクト最上段のトラックに読み込んで、常にリファレンスにしている。あと、僕のスタジオから日本の彼のスタジオにライブ・ストリームすることがあって、彼は僕のミックスをリアルタイムに聴けるから、その場で微調整できるんだ。
──ミックスの手順を教えてください。
ロメシュ TKの音楽に限らず、大抵はドラムを形作るところから始めて、キックの重心をしかるべき位置に定める。それからトップとスネアの位相を全個所チェックし、ドラムのサウンドにより細かく取り組む。抜け良くパンチーな音にしたいから、かなりコンプをかけるね。そのドラムにベースを持ってきて合わせる。ロック系の楽曲では、ベースにある程度のディストーションをかけるのが好きなんだ。ちょっと個性が出るからね。
──次に上モノとボーカルの処理ですか?
ロメシュ そう、ギターとボーカルをほぼ同時に持ってくる。ギターとボーカルは似通った周波数帯域にあることが多いので、両者を一緒に鳴らしたら、どうなるのかを理解することが重要だ。それに、ギターの音が大きいと楽曲のサウンドの大半を飲み込んでしまうので、注意深くバランスを取らなければならない。僕はSOLID STATE LOGIC 4K EというSL4000Eの再現プラグインでギターを形作るのが大好きなんだ。それからボーカルにかなりの時間をかける。リスナーに“語りかける”のはボーカルだからね。
Spiffをパラレルでかけて得る効果
── 各パートの処理について伺います。ドラムをハードにコンプレッションしたとのことですが、何のコンプを使いましたか?
ロメシュ ドラム・バスでの処理を例に挙げると、PULSAR 1178かWAVES API 2500を使っている。API 2500は古くからあるプラグインで、独特の音がするから大好きなんだ。手法としては、ドラムへのパラレル・コンプレッションもよく用いるね。その際に使うのは決まってIK MULTIMEDIA T-Racksのコンプで、素晴らしい“grab”(つかむような)サウンドが得られる。パラレル処理と言えば、OEKSOUNDのトランジェント・コントローラーSpiffもパラレルで使う。特定の周波数にパンチを効かすのにとても役立つんだ。
──ロメシュさんが処理したドラムを聴いていて不思議だったのですが、ハイハットを大きくLch側に寄せているのはなぜですか?
ロメシュ はは、よく気づいたね! ドラマティックでワイドなサウンドをドラム・キットで生み出すためかな。普通は、そこまで大きくLch側に寄せないんだけど、TKの音楽の“ワイドスクリーン”なサウンドを際立たせるために何でもやりたかったんだ。アレンジの情報量が多い場合は、小刻みなリズムの要素で音場を作るのが好きでね。そうすると、ほかの要素がよく伝わるようになるんだ。スクリーン”なサウンドを際立たせるために何でもやりたかったんだ。アレンジの情報量が多い場合は、小刻みなリズムの要素で音場を作るのが好きでね。そうすると、ほかの要素がよく伝わるようになるんだ。
──スクリーン”なサウンドを際立たせるために何でもやりたかったんだ。アレンジの情報量が多い場合は、小刻みなリズムの要素で音場を作るのが好きでね。そうすると、ほかの要素がよく伝わるようになるんだ。アレンジの情報量と言えば、「クジャクジャノマアムアイア」の終盤はストリングスとひずみギターが同時に鳴っていて、音を整理するのが大変だったのではないかと。
ロメシュ うまくやるのは大変だけど、正しいバランスでまとめ上げるには大量のオートメーションが必要になってくる。しかし幸いにもTKの音楽は初めからうまくまとまっているので、ほとんどの場合は単にEQですみわけを作ればいいんだ。
歌にはアナログ系プラグインを駆使
── 「UN-APEX」も音数が多い曲だと思いますが、最後のサビではタムのフィルインがワイドな音像で抜けて聴こえます。
ロメシュ がっつりパンニングしているからね! その上でローミッドを取り除き、ほかの楽器を圧倒しないようにした。
── 「UN-APEX」のボーカルは、音色が場面によってさまざまに変化します。エフェクト・センドにオートメーションを書いて音色を切り替えているのですか?
ロメシュ ボーカルの音色に“場面転換”が必要だと思ったら、1本のボーカルを幾つかのトラックに分割して、それぞれのエフェクトのかけ方を多少変えるかもしれない。そのほうが、1本のボーカル・チャンネルにオートメーションを書くよりも楽だと思う。
── TKさんのボーカルには、どのようなエフェクトを使いましたか?
ロメシュ 彼のメイン・ボーカルには、常にUNIVERSAL AUDIO UADの1176 Bluestripeをかけている。このコンプでTKのボーカルにできる限りエナジーをもたらすよう心がけているんだ。さらに、UADのTeletronix LA-2A Tube Compressorで多少厚みを加える。演出的なエフェクトとしては、ACUSTICA AUDIO LemonのAMSディレイ・モデリングでスラップ・ディレイをかけ、その後段にSOUNDTOYS Radiatorを挿してディレイをひずませている。使用したリバーブはUADのHitsville Reverb Chambersに搭載されている僕のプリセットなんだ。SOUNDTOYSのMicroShiftでボーカルに若干のステレオ・スプレッドをかけるのも好きだね。TKの声をひずませることはないけど、特定の効果を狙う場合はARTURIAのDist Tube-Cultureを使うことがある。
──TKさんに“こんな曲を作ってほしい”というリクエストがあれば教えてください。
ロメシュ 僕がTKに提案するのはミックスに関することだけだ。プロデューサーは彼だからね。僕は彼のビジョンを実現するためにいるわけだから、僕が何かコメントするとしたら、それは大抵ミックス関連のことなんだ。TKは本当に素晴らしいソングライターでありパフォーマーだから、僕は彼の音楽に取り組むたびにとても楽しんでいるよ!
──日本のリスナーにメッセージをお願いできないでしょうか。
ロメシュ 日本発の音楽に取り組めるのはとても光栄なこと。TKやUVERworldといった素晴らしいアーティスト、そして最近、僕がミキシングを手掛けたレジェンド布袋寅泰といった日本の音楽に取り組めて、とても楽しいよ。君たちの国の音楽に信頼されていることを本当にありがたく思うし、今後も日本の音楽を手掛けたいと思っている。それから、近いうちにまた日本に行きたいね!
Release
『Whose Blue』
TK from 凛として時雨
(ソニー・ミュージックレーベルズ:AICL-4729/通常盤初回仕様)
Musician:TK(vo、g、prog)、稲葉浩志(vo)、suis(vo)、BOBO(ds)、Tatsuya Amano(ds)、Tobias Humble(ds)、吉田一郎不可触世界(b)、中尾憲太郎(b)、山口寛雄(b)、須原杏(vln)、大谷舞(vln)、中島優紀(vln)、大嶋世菜(vln)、亀井友莉(vln)、吉田篤貴(vln)、河村泉(vla)、秀岡悠汰(vla)、菊地幹代(vla)、飯島奏人(vc)、内田麒麟(vc)、村岡苑子(vc)、高杉健人(cb)、Brazilian Horn(Horn)、和久井沙良(p、cho)、平井真美子(p)、小松陽子(p)、ケンモチヒデフミ(prog)、kent watari(prog)、Giga(prog)、Cena(cho)
Producer:TK
Engineer:TK、染野拓、ロメシュ・ドダンゴダ(Romesh Dodangoda)、采原史明、川島尚己、石井翔一朗、小林廣行
Studio:Metropolis Studios、ONKIO HAUS、Studio SAUNA、Sony Music Studios Tokyo、BIRDMAN WEST、STUDIO MECH