ザ・キッド・ラロイの楽曲におけるサンプリング・テクニックをFNZが解説

ザ・ファースト・タイム

ここ数年、ヒップホップのトラック・メイクにおいてサンプリングが再び脚光を浴びている。2023年のヒット曲ジャック・ハーロウ「Lovin On Me」、ドレイク「First Person Shooter」などは、いずれもサンプリングを取り入れて制作されている。この流れを作ったのがマイケル・ミューレとアイザック“ザック”デ・ボニからなるプロダクション・デュオのFNZだ。ここでは、ザ・キッド・ラロイの「What's The Move  feat. Future and Baby Drill」を題材に、最新テクノロジーを用いたサンプリング・テクニックについて語ってもらった。

元はコーラスとキーボードの演奏だった

 2023年末にリリースされたこの曲のセッションは、9trのみで構成される  。内訳は2本のサンプル・トラックと2本のキーボード、さらに3本のSERATO Sampleを加えて、MOOGのベースとTR-808が各1本だ。2trのサンプルのトラックについてミューレが説明する。

 「一般的にこの曲をサンプリングとは言えないかもしれない。元はコーラスとキーボードだけで作られた“In My Car”というオーディオ・クリップがあったんだ。それを共同作業者のサイキック・ミラーのグランドIVというプロデューサーに送って作られた曲。最終的なトラックとは違ってジャジーなサウンドだった」

Liveセッション画面

「What's The Move」のLiveセッション画面。頭のtr1~2がサンプルでtr3~4がキーボード、tr5がベースだ

 2trのオーディオ・クリップをサンプルのように扱って処理をしたと、デ・ボニが説明してくれた  。

 「セッション上部の赤い2本のトラックが“In My Car”のサンプルで、BPMを137から138に上げてピッチを下げ、それを切り抜いて加工し、その上にコードやキーボードを足して合間を埋めた。黄色のトラックはMIDIトラックで、その下のピンクはMIDIで鳴らしたシンセのトラックだね。使ったのはNATIVE INSTRUMENTS KontaktのOutput Substanceというベース音源だよ。オーディオにしたほうが隙間で音が重ならずクリーンにしておける。そこにSONIC CHARGE EchoBodeでSwedish 70s TV reverbというエフェクトとEQをかけた  」

FA BFILTER Pro-Q 2

“In My Car”というサンプル・トラックでは、中低域以外はFA BFILTER Pro-Q 2でバッサリとカットしている

SONIC CHARGE EchoBode

tr1と2のサンプルに合わせて2つのキーボード・トラックを追加。SONIC CHARGE EchoBodeでリバーブの質感を付け加えている

 この楽曲の骨格となるサウンド・クリップを仕上げつつ、ミューレはさらなるサウンドのエッセンスを付け加えるために、新たにサンプルを使用している。

 「キーボードとベースを足した後で、もう一つ何かを加えてポップにしたいと思った。それで手持ちのダンス・アカペラのネタから1990年代のケリヤのハウス・トラック「Let Me Love You Tonight」を探し出し、アカペラをSERATO Sampleでチョップしたよ。主に使ったのが“don’t you feel it too?”と言う歌の箇所でそれがtr7だよ。tr6はスタッター効果として使ったボーカルのサンプル、tr8はボーカルをリム・ショットとして使った。オリジナルがとてもクリーンだったのでSOUNDTOYS Decapitatorで少しひずませた  。tr9はいい感じにひずんだRonny Jの808系の音源だね。808系のサウンドはたくさん持っているけど、今回はこれがバッチリだった。このひずんだローのバイブスが、僕が頭にイメージしていたボトムエンドを見事に表現してくれた。僕らが作ったトラックにドーパミンというコ・プロデューサーがドラムを足してくれた。この曲はラロイのボーカルを含めて、ほとんど同じスタジオで一緒に作っている。ただし、イタリアにいるパリシ・ブラザーズは別だった。彼らは後から、全体に細かな追加プロダクションを施していたよ」

サンプル

ネタの「Let Me Love You Tonig ht」をチョップしたサンプル。元のサウンドがクリーンだったこともあり、SOUNDTOYS Decapitator(画面左下)でひずみを加えている

Release

『ザ・ファースト・タイム』
ザ・キッド・ラロイ

ソニー/2023

オーストラリア出身のシンガー・ソングライター/ラッパーのファースト・アルバム。FNZは本作の5曲にプロデューサーとして参加している。

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