ここ数年、ヒップホップのトラック・メイクにおいてサンプリングが再び脚光を浴びている。2023年のヒット曲ジャック・ハーロウ「Lovin On Me」、ドレイク「First Person Shooter」などは、いずれもサンプリングを取り入れて制作されている。この流れを作ったのがマイケル・ミューレとアイザック“ザック”デ・ボニからなるプロダクション・デュオのFNZだ。ここでは、フューチャーの「Wait For U Feat. Drake and Tems」を題材に、最新テクノロジーを用いたサンプリング・テクニックについて語ってもらった。
テンポ・アップして166BPMにした
「Wait For U」はグラミーを受賞した2022年の大ヒット作だ。シンガーのテムズによるトラック「Higher」のサンプルで構成されているが、FNZはネット・メディアGeniusで披露されたギターとベースのみの伴奏によるライブ・バージョンをサンプリングしている。デ・ボニがライブ・テイクを採用した理由を説明する。
「バイブスもだけど、音響的なバランスも良かった。何よりも彼女のパフォーマンスがオリジナルよりも優れていたのが理由だね」
セッションは6trでできており、4つのサンプリングのトラックとMOOGのトラック、それに雨音のサンプルのトラックだ 。ミューレがサンプルの詳細を説明する。
「曲中の違うセクションをサンプリングしているよ。ライブだから各サンプルのタイムを合わせるのに注意を払ったね。ワープ・マーカーを見れば、それを分かってもらえると思う。自由に切り抜けるようにすべてのビートを確実にマーキングしていった。元のバージョンはかなりスロウだから、テンポ・アップして166BPMにしたよ」
続いてデ・ボニがサンプルのトラックに挿しているプラグインについて教えてくれた。
「セッションの上にある4本のトラックがサンプリングしたトラックで、色分けして分かりやすくしている。一番上のトラックはライブ・サウンドだからコンプ以外は何もしていない。次のセクションはフック前の箇所で、SOUNDTOYS MicroshiftとEchoBoy、 VALHALLA DSPのリバーブ、EQ、Liveのmulti-bandとGlue Compressorを2本使っている。残り2本のサンプル・トラックにも同じプラグインを使ったけど設定は変えている 。かなりシンプルだね。基本的には全体のサウンドを整えて、MicroShiftでフランジャーのようなフェイズ効果を足している」
続いて、ドレイクとの仕事用に制作されたプリセットの“2021 Drake”と雨音のサンプル、さらにはその後のプロダクションの詳細についてミューレが最後に解説する。
「2021 DrakeはSPECTRASONICS OmnisphereのMOOGシンセのサウンドだね 。MOOG Modular Big Bootyというベース・サウンドが元になっているよ。このほかに雨音を足すことでちょっとしたアンビエント感を足している 。聴こえるか聴こえないかのレベルだけど、これがちょっとした良いアクセントになるんだ。ちなみにこの雨音はサンプル・パックから持ってきたものだよ。こうしてできたループをプロデューサーのATLジェイコブに送った。僕らはピッチを上げていたけど彼はピッチを下げ、そこにドラムを足している。それがフューチャーの耳に止まり、最終的にドレイクのもとに届いた。どうなるのか最後まで分からなかったけど、リリースされるやいなや大ヒットになったよ」
Release
『I Never Liked You』
フューチャー
ソニー/2022
アメリカを代表するラッパー、フューチャーの9作目のアルバム。ATLジェイコブとならび、FNZは2曲のプロデュースに参加。