基本スタイルは変わらず時代の雰囲気を反映
3名のエンジニアがミックスを手掛けた『Project K』。ここでは「No Limit」「TradeMark」「IWAOU」「Knock」のミックスを手掛けたD.O.I.にE-Mailインタビューを敢行。本作のミックスで使われたツールやサウンド・メイクの手法、そして長年手掛けるKREVAのサウンドの魅力を尋ねた。
すべてのリズムが整理されている
──D.O.I.さんから見たKREVAさんのサウンドの特徴や魅力は?
D.O.I. ビートは非常にシンプルな構造でラップを最大限生かすような形になっていますが、フィルターなどで細かく動きをつけて飽きさせないような工夫をしているところだと思います。ラップもご自分でするので、すべてのリズムが非常に整理されている印象です。
──これまで数々のKREVAさんの作品を手掛けてきた中で、KREVAさんの作るサウンドの変化などは感じますか?
D.O.I. 基本的なスタイルは変わっていないように感じますが、その時代時代の雰囲気はしっかり反映したものになっていると思います。恐らくちゃんと新譜は常に聴いていて、その影響をうまく自分のスタイルの中に取り入れていると思いました。このニュアンスの話はアメリカのヒップホップのベテラン勢の間でも話題になるのですが、やはり基本は、自分たちの時代のスタイルは残しつつ、プラスアルファ的な要素として新しいニュアンスを入れるのが正解な気がします。
──今作のミックスは、KREVAさんとどういった方法でやりとりをしましたか?
D.O.I. データを事前にいただいて、スタジオで立ち会いでチェックしてもらう流れでした。基本大きなリクエストはなく、ほんの微調整という感じでした。
──KREVAさんからはデータを作り込んで渡したというお話がありましたが、作り込まれたデータを受け取った場合、エンジニアとしてどのように作業を進めますか?
D.O.I. KREVA君に限らず、最近受け取るデータはミックス的な作業を仕込んでいる方も多いです。昔は、EQやコンプはもとよりディレイやリバーブも全部外してミックス・エンジニアに渡すのが常識でしたが、ここ10年くらいはやりたいことを全部やってもらったデータを受け取るのが常識になった気がします。EQやリバーブは、もはやかつてのシンセのパラメーター的な立ち位置でサウンド・デザインの大きなところです。こちらとしても素の状態をもらってラフの再現になるくらいなら元の処理はしておいてもらったほうが助かりますし、その処理前提でミックス・アプローチを考えられるのでありがたいです。近年のミックス・エンジニアのロールとしては、かなり大げさに楽曲をまるっきり変えてしまうレベルのものから、整理整頓と質感のアップデート的な微調整レベルまでかなり幅広いです。自由度が高いと判断した場合は積極的なミックス・アプローチをしますが、基本は渡されたデータを踏まえて、素材に対して自分が必要と思われる処オで立ち会いでチェックしてもらう流れでした。基本大きなリクエストはなく、ほんの微調整という感じでした。
──KREVAさんから受け取ったデータへはどのようにアプローチを考えましたか?
D.O.I. サブスクリプション・サービスなどでほかのアーティストの曲と並んで聴かれた際に質感やレンジ感で負けないようにするとか、細かいボリュームを書いて熱量的なところを付加しました。
メイン・モニターはATC
──ここからは具体的な作業について伺います。モニターは何を使いましたか?
D.O.I. モニターはATC SCM25A ProとATC SCM110A Pro+SCS70 Proがメインで、スモール・モニターはPELONIS SOUND Model 42、ヘッドホン&イヤホンはAPPLE AirPods Max、AirPods Pro(第2世代)、SONY MDR-MV1、SHURE SRH1540を使いました。
──コンピューター環境を教えてください。
D.O.I. コンピューターは56コアのINTEL Mac Proで、DAWソフトはAVID Pro Toolsのその時点の最新バージョンです。基本的にはPro Toolsのセッション・データをいただいてそのまま使うのですが、今回は32ビット/48kHzで作業しました。
──ミックスでハードウェアは使いましたか?
D.O.I. BRICASTI DESIGN M7(リバーブ)と、曲によってはSOLID STATE LOGIC Fusion(プロセッサー)を使用しました。
──D.O.I.さんの手掛けた楽曲についてKREVAさんから“曲に合わせてしっかり大きくきらびやかに鳴らしてくれる”とコメントがありました。D.O.I.さん自身はどのような鳴りを意識して取り組みましたか?
D.O.I. 周波数のレンジ感とステレオのワイド感は常に意識しています。それぞれのトラックに対してローを足すとかハイの伸びをもっと増やすとか、倍音が少ないからひずみを足さないととか、M/S系の処理が必要だなとか、その都度いろいろやっているのですが、その基準はその時々で聴いている新譜を無意識的にトレースしたものになっていると思います。
──その鳴りを表現するための具体的なテクニックも教えてください。
D.O.I. 処理的にはWAVES Renassance Bass、LEAPWING AUDIO Stageone、WAVE
SFACTORY Spectreなどをよく使いました。ドラム・バスにかけたPLUGIN ALLIANCEのBlack Box Analog Design HG-2は、往年のヒップホップのひずみ感のニュアンスを出すために使っています。
ボーカル・バスはAirEQでまとめ
──KREVAさんの声質の特徴はどのように捉えていますか?また、声質を生かすための工夫についても教えてください。
D.O.I. かなり抑揚が多いスタイルで、声の質感も1曲で結構変わるので、コンプやリミッターでレベルはしっかり抑えつつ、声の出し方で潜ったりピーキーになったところはトラックを分けて処理したりしています。ただ歌ったダイナミクスの印象はそのまま感じるように注意しています。今回全曲で使用したものとしてボーカル・バスの最終まとめでEIOSISのAirEQをほぼEQしないでかけました。これはEQ目的というより、通しただけで周波数の凸凹がうまくまとまってくれるので普段かなりの頻度で使っています。
──ラップがしっかりと映えるために施した処理があれば教えてください。
D.O.I. EQ3つとコンプ3つで基本的な処理をした後、SOUND THEORY Gullfoss Liveで最終的に微調整しました。
──今作で多用したプラグインと、その活用方法について教えてください。
D.O.I. ギター・サンプルなど突発的なピーキーな成分を抑えるためにTOKYO DAWN LABS TDR Arbiterをよく使いました。ほかでも同じような機能を持つものは多いですが、これは質感が一番自然で好きです。また、シンセなどでひずみを付加する意図ではIZOTOPE Plasmaが今回重宝しました。
──『Project K』収録曲の最終的なミックスの仕上がりについてどう感じますか?
D.O.I. サブスクの並びでも良い感じで聴こえていたので非常に満足しています。
Profile
D.O.I.:Daimonion Recordingsを拠点に活動するエンジニア。ヒップホップを中心に多彩な音楽に精通し、これまでにBTS、BE:FIRST、Number_i、三浦大知、AI、千葉雄喜など、国内外のさまざまなプロダクションに参加
Release
『Project K』
KREVA
ビクター:VIZL-2409(初回限定版)
VICL-66037(通常盤)
Musician:KREVA(rap、all)
Producer:KREVA、BACHLOGIC
Engineer:KREVA、D.O.I.、BACHLOGIC、G.M-KAZ
Studio:Studio B.i.B.、monday night studio、Daimonion Recordings、P-STUDIO