【会員限定】神谷洵平、5年ぶりのソロアルバム『numbnuts』をリリース 〜音楽制作への情熱とこだわり

kamiya junpei

海外のインディー音楽と日本のメジャーな音楽を行き来

東川亜希子とのデュオ=赤い靴での活動のほか、aikoや大橋トリオ、ずっと真夜中でいいのに。などのライブ・メンバーとしても活躍するドラマーの神谷洵平。彼が5年ぶりとなるソロ・アルバム『numbnuts』をリリースした。全7曲のボーカリストには親交の深いダニエル・クオンを迎え、自身のプライベート・スタジオで作曲、ほとんどの楽器の演奏、レコーディング、ミックスまで自ら行った本作。神谷に話を聞くと、そこには音作りへのこだわりや音楽愛が大いに詰め込まれていた。

曲作りの最後でドラムを入れる

──前作『Jumpei Kamiya with...』から5年ぶりとなるソロ・アルバムですね。

神谷 ここ数年、以前にも増してJポップのサポートやアレンジに関わらせてもらっていたので、最初はチャレンジとして日本語のポップスを作ろうと思ったんです。でもやっぱり好きなUSインディーやオルタナ・フォークを作りたくなって、自分が歌うのも考えたんですけど、洋楽の中に存在しても遜色がない音楽を作りたいというところに着地して、ダニエル(・クオン)をボーカリストに呼びました。

──ダニエルさんに声をかけた理由は?

神谷 ダニエルはすごくインプロに強くて、その場で歌詞をメロディに当てたり物語を作れたりしちゃうんです。今回もお願いする前にできていた曲を聴いてもらったら“今、歌詞書いて歌うよ”って。しかも僕の曲にすごく声が合うんです。毎週末うちに来てもらって7曲作りました。それを目標に僕も曲を書くのと歌ってもらった曲のアレンジを同時に進めました。

機材類

アルバムの制作に使われた機材類。デスク上には、TEENAGE ENGINEERING EP-133 K.O.Ⅱ(サンプラー)やOP-1(シンセ)、HOLOGRAM Chroma C onsole(マルチエフェクター)が並ぶ

──曲はどこから形にしていく?

神谷 基本的にはアコギの弾き語りで、歌が入ったら楽器の弾き直しとアレンジをしていきました。ドラマーがアレンジする場合、最初にドラムとか打ち込みでリズムを組む人が多いと思いますけど、僕は曲作りの最後でドラムの生音を入れる癖があって。そのほうがアレンジでアイディアが引っ張られずにいけるんです。「forgive forget」は仮歌とベースで作って、ベースはデモの演奏をそのまま採用しました。打ち込み曲の「topsy turvy」は打ち込みのドラムとシンベでメロディを作ってコードを乗せました。ドラムはAPPLE Logic Proの付属音源に生のスネアとハイハットを重ねています。スネアにはUNIVERSAL AUDIO UADプラグインのNeve 88RS Legacy Channel Stripに入っているジョーイ・ワロンカーのプリセットのドラム・ゲートを深めにかけていて、1990年代初頭みたいな音を目指しました。

──曲作りの着想はどのように得ましたか?

神谷 「ladies night」は前のアルバムみたいな雰囲気を出そうと思って、サックス奏者の副田(整歩)さんを呼んでうちで木管楽器のダビングをしました。「XYZ」はマック・ミラーをよりポップにしたらどんな感じになるんだろう?みたいなイメージでベースから作った曲です。アコギは、ブリッジにゴムをつけて弦楽器のピチカートみたいな音にして弾く“ラバー・ブリッジ”っていう奏法をやりたくて、自作の消音スポンジを挟んで弾きました(笑)。手作りだとピチカート感を出すのがうまくいかなくて難しかったですね。「deadpan」はインプロのようにできた曲で。副田さんにほかの曲の木管の録音をお願いしていた日に“あと1曲あればアルバムになる”という状況だったので、副田さんが来てくれる夕方までの時間でアコギと歌のデモを作ったんです。それにサックスを重ねてもらって。その日はダニエルも別の曲を録る予定があったから、当日の夜にサックスと仮歌とギターがある状態で歌ってもらいました。アコギとサックスのアーシーな組み合わせでドラムレスのサウンドは前作からの理想だったので、できて良かったです。

副田整歩

木管楽器の演奏は副田整歩が担当。レコーディングは神谷のプライベート・スタジオで行い、エンジニアリングも神谷が手掛けた

詩吟シンセでイントロのリフを作った

──ボーカル・レコーディングはどのように?

神谷 最初に作った「forgive forget」だけAEA R92を使ったのですが、ほかはNEUMANN U 67で録りました。ダニエルは声量がそんなに大きいわけじゃないけどマイクによく声が乗るんです。それは僕が楽器を演奏するときにすごく近くて、良い音色、良いタッチで演奏するような感覚で。ダニエルも僕もマイクを楽器のように捉えていると思ってます。ミックスでは基本的に少しコンプをかけるくらいで、ダニエルの好みもあり極力ドライにしていますが、例えば「XYZ」ではPLUGIN ALLIANCE Brainworx BX_Console Amek 9099を通して少しコンプをかけて、バスではルーム・シミュレーターのUADプラグインOcean Way Studiosで雰囲気を出したりもしました。

──楽器録りに活躍したマイクは?

神谷 新しく導入して良かったのがリボン・マイクのALTEC 639Bです。ドラムの背後に立ててドラム全体を録音したらすごく良い音で。この1本で60’sっぽいサウンド要素が足されるかが決まります。「going down?」は639Bをガッと上げて、ドラムの高域の濁ったような成分を足しました。木管楽器のオンマイクにも使っていて、少し離したところに立てたU 67と混ぜました。639Bは中低域がうまく出て高域の嫌なところが削られるので、ミックスでもEQなしで素直に出しやすいです。

ボーカル・レコーディングの様子

ダニエル・クオン(写真右)と神谷のボーカル・レコーディングの様子。マイクはNEUMANN U 67

──上モノは何を使いましたか?

神谷 使う機会がなかったシンセをいろいろ使いましたね。「topsy turvy」のイントロは、今の音っぽくするためにLogic Proのシンセに加えて、TEENAGE ENGINEERING OP-1にUADプラグインの8ビット・エフェクターのThe OTO BISCUITをかけました。「blowfish」で薄く鳴っているのは水光社の詩吟コンダクターという詩吟練習用のシンセで、詩吟の音階でイントロのリフを作ったんです。ほかにModal Electronics ARGON8やビンテージ・オルガンのACE TONE TOP-5も使いました。エレキギターや鍵盤楽器にはテープや古いファズみたいな表現ができるエフェクターのHOLOGRAM Chroma Consoleを多用しました。

この作品は自分の家みたいな存在

──音作りで特にこだわった部分は?

神谷 僕は低音が好きで、ミックスでも低音を軸に作ってから高域を足しがちだったのですが、今回はドラムとベース以外の楽器とボーカルから作って、それが気持ち良くなるようにドラムとベースの低域成分を整理したんです。そうすることで、自ずと低域の成分がよく聴こえるようになりました。

──歌を軸に置きつつ、ドラムのニュアンスやタッチを聴かせるのがすごく心地良いです。

神谷 今回、ダニエルの歌が入ってからほかの楽器を自分で演奏して録り直したのですが、ダニエルの歌のタイムはすごく独特で自由なので、その歌を軸に演奏するとすごく演奏力を問われるんです。ドラムのサウンドにはコンセプトがあって、「blowfish」はオルタナ・フォーク系で太めのフォーキーなロック・サウンド、「going down?」はカンとルーク・テンプルを合わせたようなサウンド・メイクにしたくて。マスタリングは最終的にカナダのフィリップ・ショー・ボーヴァさんにお願いしたんです。彼は僕が好きな音楽をいっぱい担当していた上にドラマーで、この人しかいないって。

ALTEC 639B

『numbnuts』のレコーディングで重宝したリボン・マイクALTEC 639B

──制作を経て、どのような心境でしょうか?

神谷 僕はルーツ・ミュージックが好きだし、海外のインディー・ロックや洋楽が好きでドラマーになった部分もある一方で、今は日本で活動してメジャーなドラムのサポートの仕事をさせてもらっていて、その2点をうまく行き来するような音楽スタイルを持つことで、何か自分に効果的なフィードバックや表現のヒントが起こるんじゃないかなと思っています。今は日本の音楽も世界的に広がっていて、その中で自分がそういう感覚を持ちながらJポップのアレンジや音楽制作で頼ってもらえるのもうれしくて。この作品は自分の家みたいな存在で、いろいろな人に関わる上での1つの心のお守りを作れたと思います。

Release

『numbnuts』
Jumpei Kamiya

make some records

Musician:神谷洵平(all)、ダニエル・クオン(vo)、副田整歩(sax、fl) 
Producer/Engineer:神谷洵平
Studio:神谷洵平 

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