【会員限定】DJとしてプロになるには? 〜DJ NOBUが語る、DJ活動をする上で必要な“運”と“戦略”とは

DJ NOBU

“Luck”をつかんで結果を出す
その結果が次に何を生むかも考えながら

国内随一の知名度を誇るパーティ『FUTURE TERROR』を主催し、唯一無二のスタイルを持つテクノDJとして海外のトップ・フェスティバルにも出演するDJ NOBU。彼が世界で活躍するようになるまでのストーリーには、学ぶべき点が多々存在する。“Luck”(運)をつかんで成功へとつなげたエピソード、DJ活動をする上での“Strategy”(戦略)など、さまざまな角度から語ってもらった。

DJ NOBU's Steps

・主催パーティの継続と拡大

・海外DJとの共演を機にBerghainに出演

・プロモーションを兼ね海外ギグを多数経験

・戦略を持つ大手エージェンシーとの出会い

パーティは自分の表現であり世界

 DJ NOBUは、世界で最も注目を集めるDJの一人だ。彼が現在の地位を築く礎となったのは、主催のパーティ『FUTURE TERROR』(以下FT)である。DJ NOBUは、千葉で2001年に始めたこのパーティをきっかけにDJとしての活動を本格化。FTはテクノにフォーカスしつつも多種多様なアーティストを招聘(しょうへい)し、一筋縄ではいかないスタンスのパーティとして人気を得ていった。

 「パーティは自分の表現であり自分の世界だから、それによってフォロワーも増えます。似たような人が集まってくるので、そこで広がりが生まれるし、社交場にもなります。自分を発信するものとして、パーティやレーベルをやるのは大事だと思います。パーティを始めるのは簡単ですから、小箱からであってもチャレンジしてみればいいんです」

FUTURE TERROR

DJ NOBUが主催するパーティ『FUTURE TERROR』。このフライヤーは2023年12月31日にクリエイティブセンター大阪で開催された回のもの。GEZANやgoatがライブを披露し、DJは∈Y∋やShhhhh、imusら多数出演

 FTのレジデントDJとして活動を続けながら、そのフィールドを世界へと広げたきっかけは、海外アーティストとの共演だった。

 「有名なDJの前の時間帯にプレイして良い印象を残せれば、海外のパーティに呼んでもらえる場合があります。僕の場合はマルセル・デットマンと共演した後、彼が自身のアルバム『Dettmann』(2010年)のリリース・パーティでBerghain(ベルグハイン)にブッキングしてくれたのが最初で。そこからヨーロッパでの活動が始まりました」

 Berghainはベルリンのテクノ・シーンの最重要ベニューで、先述したマルセル・デットマンやベン・クロックといった著名DJ/アーティストがレジデントを務める。初めてのBerghainでのプレイは、彼のキャリアを変えるトリガーとなった。

 「振り返るとLuck(運)に恵まれた時期だったと思います。ただ、そのLuckに気づかないまま終わってしまう人もいて、Luckをつかめるかどうかは本人の気持ちによる部分が大きい。僕の場合は“これはもう、絶対にチャンスだ。乗り越えたら次に進める”と感じた現場で結果を出してきて、おかげさまで今も順調に活動できています」

ギグをこなすにしても戦略が大事

 “Luck”をつかんだとしても、そこで結果を残せるかどうかが次のステップを左右する。2010年以前、DJ NOBUは来日するビッグネームのDJたちのサポートを一手に担っていた時期があり、そのたびに質の高いプレイを披露していた。Luckをつかんで結果を残すという積み重ねが、活動範囲を広げていくことにつながったのだろう。

 「Berghainでプレイして、すぐに海外のギグが増えたわけではありません。当時は今ほどSNSの時代でもなかったので、徐々に僕を知る人が増えてブッキングしてもらえるようになり、海外でプレイする機会が増えていきました。そのうちエージェンシーからも話が来るようになって、だったら海外をメインにやってみようと思ったのが2014〜15年。そこから一気に広がっていった感じです」

 当時、DJ NOBUは渡航費を自ら負担しつつ海外でのギグを徐々に増やしていった。この時期は“自身のプロモーション”という意味も兼ねて2年ほどを費やしている。

 「ギグをこなしていくにしても、きちんとStrategy(戦略)を組むことが大事だと思います。僕は“これをやったらこういう結果が出て、次にこれをやったらこうなる。そうしたら来年にはどうなっているのか……”というのを考えて、ギグを組んでいます」

 昨今は、日本よりもヨーロッパやアメリカのクラブやフェスティバルなどでプレイすることが多いDJ NOBU。海外ギグに関して大きな影響力を持つのがエージェンシーで、現在の彼が所属するのはベルリンのTriangle Agency。DVS1、Surgeon、Dasha Rushなど実力派アーティストたちが名を連ねる大手エージェンシーだ。海外での活動を拡大させていくには、戦略を持ったエージェンシーが欠かせないという。

 「戦略を考えられる相手じゃないとダメですね。今のエージェンシーを選んだのも、僕の年齢を考慮して将来的なビジョンを持ってくれていたというのが大きかった。そして、エージェンシーがクラブやオーガナイザーに対して、きちんとネゴシエーションしてくれることも重要です。これがあると、各国をツアーで回るときにギャラ以外の費用にも融通が利いて楽なんです」

“余計なことをしない”のも活動のうち

 DJ NOBUが言う戦略は海外活動に限ったことではなく、DJ活動のすべてにあてはまる。DJのスタイルやDJ自身の考え方によって目標は違ってくるが、どんな目標でも、それを達成するための戦略が必須だ。

 「DJは経験が大事だから、最初のうちはギグをたくさんこなしたほうがいい。フロアを読む力は、事前の準備でどうにかなるものではなく、経験から生まれるものだから。そういう経験を積む時期にギャラが安いというのは、日本でも海外でも変わらないと思います。そこから次のステップを踏むときに戦略を持っていることが大事です。僕の経験から言うと、“余計なことをしない”。例えばAというパーティでプレイしたければ、そのパーティに気に入られるDJになるべきで、それも戦略のうちだと思います。だから関係がない場所でやっても、あまり意味がないと思う。もちろん、小さい店で楽しくやりたいっていう考えもあるから一概には言えないけど、大きいところでプレイしたければ、大きいパーティに率先して遊びにいって、自分を売り込んだほうがいい」

 DJにとって重要なのは、プレイのスキルだけでなく人気(=集客力)。これらの総合的な評価として、プレイから発生する対価(=ギャラ)が決まる。

 「ギグの話をもらった時点で、自分でギャラを決めて交渉して、それで納得できないなら引き受ける必要はないと思います。中には薄利多売でも楽しいというタイプの人はいるし、それはそれでいいと思うけど、ギャラには相応の理由があることを理解するのも大事です。例えばオーガナイザーに“このDJがいれば、お客さんが入る”と思われればギャラも自然と上がっていく。だから自分が決めるものというより、客観的な判断で決まっていく部分が大きい。僕は20年ほど前からオーガナイザーにギャラを上げてもらえるようになって、クラブやパーティのサイズに合わせて“今はこれくらいもらっています”という交渉をしてきました」

 もう1つ、DJ NOBUが重要と言うのがコミュニケーション・スキルだ。海外での活動が増えるほどに、コミュニケーション能力が求められるようになる。1人でさまざまな現場を渡り歩くDJにとっては必須のスキルと言えるのかもしれない。

 「僕は英語が堪能じゃないけれど、コミュニケーション・スキルで乗り切ってきました。たとえ英語が話せなくても、“面白いやつだな”と思ってもらえたら呼んでくれることがあるんです。もちろん、それでDJが良くなかったらダメですよ!」

 近年は、自身が注目するDJ/アーティストを紹介するパーティ『Reprise』を渋谷のWOMBで主催し、国内のシーンにも変わらず貢献しているDJ NOBU。最後に、現時点での心境を語ってもらった。

 「面白いと思うから人が来るんです。海外でやるにしても、日本で培ってきたものを見せないと、逆に向こうでは面白がられないと思います。“NOBUでしか聴けない”っていうものを求めて来るわけですから。どんなDJでも、個性がないと呼ばれないですよ。だから面白いか・面白くないかが明暗を分ける。ちなみに、呼んでもらってDJするときや海外のギグではプレイのことしか考えませんが、日本で自分のパーティを開催するときには、事前にいろんな人にメールで案内していますよ。50人くらいに送ったら成果が出るかな?って思いながら。それは、いまだにね」

Reprise

渋谷の大箱WOMBで主催している『Reprise』。今年の2月1日に開催されたばかりの回のフライヤーだ。マカオからDJ Gordon、ソウルからKugelを迎えてメイン・フロアを飾った

Essential Works

DJ Nobu - Flares / Wata Igarashi - 泡(Abuku)

『DJ Nobu - Flares / Wata Igarashi - 泡(Abuku)』
DJ Nobu | Wata Igarashi

テクノにアルペジオの概念を持ち込んだWata IgarashiとのスプリットEP。DJ NOBUは「シーケンスを組むのに考慮を重ねて完成したフロア・ユースな個人的傑作。自分らしいエモさを出せました」と振り返っているい

IIII(DJ Nobu Remix)

『IIII(DJ Nobu Remix)』
Föllakzoid

チリのミニマル・サイケデリック・バンドのリミックス。「原作の良さを引き出し、壊さず、最も悩み抜いて生み出しました。過去最多のパーツと構成に自分らしさも足せた個人的に最もお気に入り」とDJ NOBUは語る