Oddisee 〜ジョーイ・バッドアスなどの楽曲に携わるラッパー/プロデューサー

何もないところから何かを創り出すことはこの上ない喜び

世界各地で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回紹介するのはワシントンD.C.出身のラッパー/プロデューサー、オディッシー。DJ・ジャジー・ジェフのアルバムへの参加や、ジョーイ・バッドアスの楽曲プロデュース、最近では台湾のR&Bシンガー9m88のアルバムへの客演など、精力的に活動している。そんな彼に、今号の特集テーマである“クルマ”の話題も絡め、話を伺った。

キャリアのスタート

 まだ幼かった1988年頃、熱心にラップを聴いていた年上のいとこの影響でラップを聴きはじめたんだ。その後、僕はア・トライブ・コールド・クエストのファンになって、最初に手に入れたのは『ミッドナイト・マローダーズ』だった。高校生のとき、クラスメイトに“曲作ろうぜ”と誘われて、制作に興味を持ちはじめた。彼はリズム・マシンを持っていたんだけど、僕はそのリズム・マシンにすっかり夢中になった。

機材の変遷

 リズム・マシンの使い方を教えてくれた友達のショーンは、AKAI PROFESSIONAL MPC2000とENSONIQ ASR-Xを持っていて、僕にASR-Xをくれたんだ。それが僕の最初のリズム・マシンだ。それからAUDIO-TECHNICAのマイクを家電量販店のラジオシャックで手に入れた。学校が終わると毎日彼の家に行って、一緒に音楽を作っていたよ。TECHNICSのターンテーブルとミキサーでASR-Xにサンプリングして、ROLAND VS-1880でビートやボーカルを録音していた。

 現在の機材セットは、メイン・マシンがAPPLE MacBook Pro、オーディオ・インターフェースはUNIVERSAL AUDIO Apollo Twin、UAD-2プラグイン用にUAD-2 Satellite Thunderbolt、マイクはNEUMANN TLM 49、MIDIキーボードはNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S49 MK2を使っている。DAWは2006年に同僚から薦められて以来、ずっとAVID Pro Toolsを使い続けているんだ。モニター周りはスピーカーがPMC TwoTwo.8、ヘッドホンはBEYERDYNAMIC DT 770 Studio、ヘッドホン・アンプはSTERLING AUDIO SHA4を使っているよ。

楽器店のマイク専用ルームであらゆる機種をテストした結果、自分の声の聴こえ方が最も良かったことからチョイスしたというNEUMANN TLM 49

BEYERDYNAMIC DT 770 Studioは長年のお気に入りで、壊れたりなくしたりするたびに同じものを買い直しているそう。オディッシーは“低域が最高にヘビーに聴こえるんだ”と語る

ビート・メイクのこだわり

 僕のサウンドは、東海岸北部の音楽と南部のアメリカ音楽が、ジャズやファンク、ゴスペル、それからゴーゴーと呼ばれるワシントンD.C.で生まれた音楽と混ざり合っているんだ。特徴は、スウィング感とドラム・プログラミングへの複雑なアプローチ、それとメロディを重視したコード進行にある。懐かしさがありつつ、同時にモダンなサウンドになるようにも心がけているよ。

両親からの影響

 アフリカ系アメリカ人とスーダン人の間に生まれたことは、僕にポリリズムへのシンパシーと、リズムの使い方へのより深い理解を与えてくれたと思う。だから5/4でも3/4でも、異なる拍子を組み合わせたビートを制作することは、何の問題もない。それは間違いなく僕の背景に由来している。

ブルックリンの自宅から徒歩10分ほど離れたところに借りているアパートのワンルームに構築されたオディッシーのスタジオ。メイン・マシンのAPPLE MacBook Proの両脇にセットされたモニター・スピーカーPMC TwoTwo.8は原音に忠実な点と、ヘッドホンで大音量で聴いているような感覚が得られるところが気に入っているという。“僕はヘッドホンを付けて大音量で制作するのが好きなんだけど、Two Two.8はむき出しのヘッドホンって感じなんだ”とオディッシー

ビート・メイクの手順

 メロディが思い浮かんだら、まずはドラムを打ち込んで、その後にメロディをレコーディングする。それが終わったら、ベース・ラインや、中間部分、コーラス・セクションなどを付け足していく。それらが完成したら、ビートの配列をアレンジしてからリリックを書きはじめる。ボーカル・レコーディングまで進んだら、それと並行してバンドのメンバーに僕が打ち込んだものを弾き直してもらう。これが僕のプロセスだ。

ビート・メイクの醍醐味

 何もないところから何かを創り出すことは、この上ない喜びだよ。空っぽな状態から始めて、頭の中でアイディアを生み出し、それが曲という形で現実になって世界中にシェアできること、この気持ちはほかに比べようもないね。

車でのミックス・チェック

 僕にはミックス・チェックの手順がある。制作中はヘッドホンを使用していて、曲が仕上がったらモニター・スピーカーで大音量で聴く。次にスタジオを片付けながら家庭用で使われることの多いスピーカーSONOS Play:1でチェック。それから外で歩きながらAPPLE AirPods Proで聴いて、最後に子供を迎えに行きながら自分の車で確認する。それぞれの違いを聴き比べるっていうよりは、リスナーと同じような状況でチェックすることが重要なんだ。例えば車の場合だと、座る席によって印象が大きく変わる場合があるからね。

SELECTED WORK

『World On Fire』
オディッシー
(Outer Note Label)

「リリース後はリスナーのものだから、過去の作品には興味がない。だから、つい最近作り終えた「World On Fire」という曲が一番気に入っている」

関連記事