1stアルバム『REAL POP』を11月20日にリリースしたAile The Shotaが、その想いや制作の裏側について語ってくれた。シティポップ調の新たな音楽スタイルを掲げ、“踊れるポップス”の魅力を詰め込んだ本作は、Chaki ZuluやSoulflex、dawgss、Taka Perryといった音楽プロデューサーらとのセッションを経て生まれたという。
本質的かつ、大衆性を持つポップスの追求とは?
──アルバムタイトル『REAL POP』についてですが、どのような意味が込められていますか?
Aile The Shota 僕の音楽のルーツには、平井堅さんやコブクロさん、Aqua Timezさんといったアーティストが持つ、美しいメロディが特徴のJ-POPがあります。その後、ヒップホップやR&Bに出会い、これまでのポップの概念をさらに深めて自分が目指す“ポップ”とは何かを突き詰めてきました。アルバムタイトル『REAL POP』は“本質的でありながら大衆性を持つポップ”という、僕の理想の音楽を象徴しています。つまり、自分に嘘をつかず、流行に流されないリアルな音楽を届けたいという想いが詰まっているんです。SKY-HIはじめ今作のプロデュースで携わっていただいたChaki Zuluさんが、この“リアルポップ”という方向性に共感してくれたことで、“これが自分の目指す音楽である”とさらに確信を持つことができました。
──アルバムは、R&Bやディスコ、ファンク、シティポップといった音楽を取り入れながらも、ポップに昇華された印象を受けます。
Aile The Shota アルバムの方向性については、初期から“ポップ”を軸にしようと決めていました。特に“良いメロディ、良い曲”を生み出すことに集中したんです。また、プロデューサー選びにはこだわりを持って臨みましたね。ChakiさんやTaka(Taka Perry)とは、“こういうポップを作りたい”というビジョンを共有しながら制作を進めていったんです。特にChakiさんとのセッションで生まれた楽曲「踊りませんか?」「さよならシティライト」はアルバム全体にもフィットし、一つのまとまりを持った作品に仕上がったと感じています。
──アルバム制作を本格的に意識し始めたタイミングは?
Aile The Shota 収録曲の中で一番古いのは「sweet」という曲です。これはオーディション『THE FIRST』(2021年BMSG主催)を受ける前に、個人で活動していたころから“いつかリリースしたい”と温めていた楽曲ですね。その後、2023年の1〜3月には「Yumeiro」や「FANCITY feat. Soulflex」といった曲が生まれました。本格的にアルバム制作を意識し始めたのは、「さよならシティライト」を制作した頃。そのときには既に数曲がそろっていて、“アルバムとしてあと数曲を追加すれば完成に近づく”という状況でした。ちなみにアルバム制作の過程でカバー曲を加える案も浮上し、“DREAMS COME TRUEの楽曲をカバーしよう”という話で生まれたのが「空を読む」です。
──DREAMS COME TRUEというと、まさにJ-POPを代表するアーティストの一つですね。
Aile The Shota そうですね、僕はDREAMS COME TRUEさんを含む、J-POPから大きな影響を受けています。特にメロディ面での影響が強いですね。
『REAL POP』の制作プロセスをひもとく
──“良い曲”というのは人によって解釈が異なると思いますが、Aile The Shotaさんにとっての“良い曲”とは、どのようなものですか?
Aile The Shota 僕の場合、特にメロディに対してこだわりが強いです。J-POPでよく使われるセブンスやナインスのコードをうまく取り入れると、“良いメロディだな”と感じられるものが自然と浮かんできます。幼少期から平成のポップスから昭和歌謡まで幅広く聴いてきたこともあり、メロディフェチとでもいうか、メロディの良さには並々ならぬこだわりがありますね。今のJ-POPシーンは以前と比べて多様性が広がっていますが、その中でもメロディを際立たせつつ、踊れる要素を大事にしているんです。
──良いメロディや歌詞を作るために心掛けていることは?
Aile The Shota 日常的に日本のポップスを中心に多くの楽曲を聴いていて、昭和〜平成時代のヒット曲などをインスピレーションとすることもありますね。メロディ作りでは自然に浮かぶものもありますが、Chakiさんとのセッションでは一音一音を吟味し、最良のメロディを見つけるために練り直すことが多く、1フレーズに数時間かけることもありました。幾つかのパターンを試しながら、直感的に“これだ”と思えるメロディを見つけるまで調整を重ねていくんです。
──一曲の制作プロセスはどのように?
Aile The Shota 例えば「愛のプラネット feat. dawgss」の場合、dawgssと一緒にスタジオで曲のジャンルや雰囲気について話し合いました。そして“この要素がいい”とか“こういう部分が好き”という意見を出し合い、Spliceを活用して音素材を探し、ビート作りに取りかかります。ここでは、いかに“踊れる鳴りか”を意識していますね。特にキックの音には強くこだわります。僕のルーツであるダンスカルチャーからの影響もあって、低域の鳴りがしっかりと“腹に響く”感覚が大切なんです。
──先にビートを作り、それからメロディを作るという流れですか?
Aile The Shota はい。完成したビートに合わせて歌詞とメロディを同時に組み立てる“ヒップホップ的な方法”を取ります。一度ビートが完成すると、そのリズムに触発されて歌詞とメロディが自然に同時に浮かんでくることが多いです。ほとんどの場合、1日のセッションでトラック、メロディ、歌詞の大枠が完成します。「愛のプラネット」もその流れで制作が進みました。
──メロディ作りは、曲のどの部分から取り掛かりますか?
Aile The Shota 最初にサビをしっかり作り込み、仮のボーカルレコーディングをします。後日、土台となるトラックを聴きながら、バースの部分を進めていくといったスタイルが多いです。自宅に宅録環境があるので、そこでコーラスを重ねたりもしています。こういったアイディアをプロデューサーに送ってから、再びスタジオでアレンジを固めることもありますし、そのまま本番のレコーディングに進むケースもありますね。レコーディング中に“こうした方がいいかも”と感じたら、トラックをその場で調整することもあります。制作のプロセスが流動的で、完成までに幾つも微調整を加えていくような感じです。
──自宅でボーカル録音する際は、どのようなDAWや制作機材を使用していますか?
Aile The Shota DAWはAPPLE Logic Proを使っていて、APPLE MacBook Airにインストールしています。オーディオインターフェースはUniversal Audio Apollo Twin Xで、UADプラグインのAuto-Tune Realtime Xでピッチを確認しながらメロディを作ることもありますね。
──マイクは何を?
Aile The Shota ハンドマイクのNeumann KMS 104をメインに使用していて、自分でEQやリバーブの調整を行います。ちなみにライブではSennheiser e 945や、同社のワイヤレスマイクを使うことが多いです。e 945は僕の声と相性が良く、ライブでも心地よく歌えますし、踊りながら歌うシーンでも声が安定しているんですよ。声に合うマイクが見つかったことでステージに立った瞬間の安心感が増し、パフォーマンスに集中できるようになりました。PA/エンジニアのソメちゃん(染野拓)が僕専用のボーカルプリセットを用意してくれたおかげで、ライブの準備もスムーズに進むんです。このプリセットがあると、細かい調整も含めていつでも最適な環境でライブができるので、本当に助かっています。
Chaki ZuluとのセッションやSHIMIとのミックスについて
──アルバム制作は、さまざまなプロデューサーとセッションを重ねて作られたと伺いましたが、特に印象に残っているセッションは?
Aile The Shota Chakiさんと行った「踊りませんか?」の制作です。この曲ではコード進行とメロディをとても丁寧に作り上げました。Chakiさんがコードを弾き、自分がメロディを探求する形で進行し、時にはChakiさんから“もっとシンプルに、リスナーがカラオケで歌いやすいメロディに”というアドバイスを受けたりすることもありましたね。シンプルと複雑さのバランスを追求しながら、メロディの良さを際立たせることができたと感じています。
──Aile The Shotaさんは、ミックスにもこだわりがあると伺いました。
Aile The Shota 僕にとって一番重要なのはボーカルの質感ですね。少しでもこもった感じがあると、自分の声がベストな状態で鳴っているとは思えなくて。EQで低域を調整し、輪郭を出しつつ、自然な鳴り方になるように仕上げてもらっています。踊れる音楽が好きなので、トラックを生かしながらも、メロディの存在感を100%引き出したい……そのバランスが取れるよう、エンジニアさんと綿密にやり取りしています。
──エンジニアとしてはChaki Zuluさんのほかに、SHIMI from BUZZER BEATSさんがクレジットされています。
Aile The Shota 今回のアルバムではChakiさんとSHIMIさんがメインエンジニアで、SHIMIさんとはSKY-HI「me time -remix-」(アルバム『八面六臂』収録)のレコーディング&ミックスで出会って以来、最も長く一緒に仕事をしている方です。彼はヒップホップのミックスに詳しく、自らトラックも作るので、音の“鳴り”に関しても信頼しています。例えば「愛のプラネット」のビートはSHIMIさんのアレンジです。長年の付き合いで僕の音の好みも把握してくれているので、本当に頼りにしています。
──本作のミックスで最も印象深い曲は?
Aile The Shota DREAMS COME TRUE「空を読む」のカバーですね。原曲のバラード感と平成らしいポップスの雰囲気を尊重しつつ、僕のスタイルにも馴染むようにアレンジしました。SKY-HIが“もっとローファイ寄りにしてみたら?”とアドバイスしてくれて、それが大きなヒントになったんです。僕の声はハイファイな響きがあるので、トラックをローファイに寄せることで両者のコントラストが生まれ、最終的に僕らしい音楽になったと感じています。
──この曲のミックスはSHIMIさんが担当されていますね。
Aile The Shota はい。SHIMIさんとは“Lo-Fiに”という一言だけで通じ合えるくらい共通の感覚があるので、僕が好きなLo-Fiの質感をすぐに理解してくれます。この曲では、リバーブを効かせつつも芯がある、僕の声の独特の鳴りを目指しました。SHIMIさんには“この音はいらないかも”といった大胆なリクエストも伝え、ミックスだけでなくアレンジ部分にも踏み込んでいただいた感じですね。
──ミックスチェックはどのような環境で?
Aile The Shota 僕の場合、Apple AirPodsやiPhoneのスピーカー、大音量のクラブ音響から小型スピーカーまでさまざまな環境で行い、違和感があれば微調整しています。またこれまでのEP制作を通じて、以前よりもミックスに対する許容範囲が広がり、柔軟なアプローチができるようになったと感じていますね。例えば「Eternity」では、以前の僕なら抑えていた高域をあえて生かし、曲全体にエネルギー感を与えることができました。ソメちゃんやHIRORONさんをはじめ、さまざまな音のプロと協力してきた経験が、このような新しい試みを可能にしたと思います。
──『REAL POP』は、Aile The Shotaさんの考える“良いメロディ”や“良い楽曲”がたくさん詰まった作品だと感じました。次の作品も楽しみです。
Aile The Shota 今回の制作を通じて得たメロディへの探求心をさらに深め、“REAL POP”というテーマを軸に、より自分らしい作品を発表していきたいですね。ぜひ心地よい音楽が聴きたくなったときに、手に取ってほしいと思います。このアルバムを聴いて“踊りたい”と感じてもらえたら、なお最高ですね。そして、気がついたら“Aile The Shotaが聴きたい”と思ってもらえたらうれしいです(笑)。
Release
『REAL POP』
Aile The Shota
(Bullmoose Records)
Musician:Aile The Shota(vo)、Soulflex(gt、ba、key)、dawgss(ba、dr)
Producer:Aile The Shota、Chaki Zulu、Taka Perry、Shin Sakiura、Soulflex、dawgss、Hiromu (INIMI)、MONJOE (INIMI)、LOAR (INIMI)、edhiii boi
Engineer:Chaki Zulu、SHIMI from BUZZER BEATS、他
Studio:NEW WORLD STUDIO shibuya、Husky Studio、プライベート