考える余裕がないほどの勢いで生まれた曲は強い
そこにツールの力を加えれば破壊力を増幅できる
上田剛士のソロ・プロジェクトであるAA=が、前作『#6』から約5年半ぶりとなる“#シリーズ”の新作『#7』を発表。肉体的な演奏とデジタルの可能性を追求してきた上田がたどり着いたのは、生演奏と打ち込みの垣根など聴き手には意識させない、初期衝動にあふれたラウド・ミュージックの姿だ。サポート・メンバーたちとの演奏が渾然一体となって襲いかかる一方で、細部には実に上田らしい精密なサウンド・トリートメントの跡もうかがえる。
楕円、いびつさ、ワシャワシャ感
──“#シリーズ”としては前作から5年半ぶりの新作ですね。
上田 その間にコロナがあったので、ツアーの予定などが一気に崩れてしまいましたね。ただ、そのピンチを一つの機会と捉えて、ライブでの演奏を全く想定しない『story of Suite #19』(2020年)というコンセプト作品を出せたのは有意義でした。その経験は『#7』に確実につながっていると思います。
──内省的な『#19』の反動か、『#7』は外に放つエネルギーがすさまじいです。
上田 今の時代に合う音楽かどうかは一切考えずに、1990年代終わりから2000年代前半までの、自分が好きだった音楽を久々にやろうと思ったんです。当時感じていたエネルギーは表現できたかなと思います。
──初心に戻ったという感覚ですか?
上田 新しいものを取り入れて広げていくのが自分のスタイルだったのですが、今回は“過去の自分が新しいと感じていたものを、年齢を重ねた今の自分でもう一度やってみたらどうなるか”を試したかったんです。
──音楽性は過去を振り返りつつも、音質面では現代的な鋭さがあります。
上田 当時の音そのままだと、今の時代の音にどうしても太刀打ちできないんですよね。
──例えば、生ドラムの音がしっかり制御されている印象で、どこまでエディットされているのか非常に興味を持ちました。
上田 基本は通してたたいてもらった生ドラムなんですが、今回はプリプロに時間をかけました。まず僕が打ち込んだものをドラムのYOUTH-K!!!に送り、彼が電子ドラムでたたいたものをMIDIデータで戻してもらうんです。それに対してこういうフレーズや音色にしたいというデータをまた送るという感じで、その繰り返しで細部まで話し合ってから録りに入りました。だから本番は3テイクぐらいで済んでしまう。その後にサンプルを重ねたり差し替えたりもしていますが、YOUTH-K!!!の演奏やチューニングと、エンジニア細井(智史)君の録り音による部分が大きいと思います。
──生ドラムに関して、上田さんが今回目指した音色はどのようなものでしたか?
上田 “キックは奇麗な丸じゃなくて、楕円にしてほしい”と細井君に伝えました。すごく感覚的ですけど、細井君は一発で分かってくれて。最近の傾向としてラウド系でもキックが丸い気がするので、少しいびつにしたかったんです。あとはスネアのつぶれ方やオーバーヘッドにかけたコンプのワシャワシャ感。それも細井君はすぐ理解してくれました。
位相合わせの積み重ねで全体が変わる
──ボーカルは上田さん自身と白川貴善さんが担当していますが、録りはどのように?
上田 僕の歌は自分のSWEEP-ZWEEP STUDIOで録っています。NEUMANN KMS 104とVINTECH AUDIO X73の組み合わせです。タカ(白川貴善)のボーカルは、マニピュレーターをやってくれている山下(智輝)君のスタジオで録りました。“安いマイクと高いマイクがあるけどどっちで録る?”ってタカに聞いたら、“高いほう!”と即答してテンションが上がっていましたね(笑)。
──山下さんに確認したところ、マイクはNEUMANN U 67、マイクプリはVINTECH AUDIO Model 273、コンプはTUBE-TECH CL 1Bを使ったそうですが、機材のセレクトは上田さんからのリクエストだったのですか?
上田 いえ、山下君にお任せでした。もちろん機材にこだわりはあるんですが、録りに関してはパフォーマンスの部分が重要だと思って。高価なマイクだろうがSHURE SM58だろうが、気分が乗ってきたときに録れるテイクが一番ですよね。
──上田さんのベース録りはどのように?
上田 キャビネットを鳴らすことはなくて、PALMERのキャビネット・シミュレーターやBOSS MT-2 Metal Zoneなど4台くらいのハードウェアをパラレルに通して録音しています。Metal Zoneをベースにかける人はなかなかいないと思いますが、ジーっというひずみでどこかシンセっぽくなるんです。
──ギターは上田さんと児島実さんが弾いていますが、どのように録りましたか?
上田 僕のギターに関しては、プラグインのNATIVE INSTRUMENTS Guitar Rigを通していて、好きなセッティングがあるので使い続けています。ほかのアンプ・シミュレーターも試してはいるんですが、僕の中ではなかなかGuitar Rigを超えてこないですね。(児島)実はSOFTUBE Amp Roomを使っています。AA=のサウンドは実機のアンプよりもソフトのほうが相性がいいんですよね。
──ミックスについて、上田さん自身でミックスまでしている作品も過去にありますが、今回は細井さんが手掛けています。
上田 客観性を加えてほしいのと、細井君マジックを期待してですね。細井君にはステムでデータを渡すんですが、サミング・アンプに通したり音像を広げたりして、新車のように磨き上げてくれるんです。リバーブやディレイもイメージを崩さないようにかけてくれて、“なるほど!”という発見がある。だから僕が気を付けているのは、意図が伝わるステムをしっかり作るということでした。
──ギターに限らず、AA=の音はひずみ要素が多いだけに音の整理が大変では?
上田 整理というのは特に意識していないんですが、入れたい音を突っ込んだ後、そこから引き算するようにしています。あと、位相合わせは結構大事ですよね。やるとやらないとでは全体で聴いたときに全然違う。面倒くさいですけど(笑)。
──これだけの熱量を持った音楽を作るための秘けつはどこにあるのでしょう?
上田 曲自身がエネルギーを持って生まれてくるかどうかだと思います。僕の経験上、何カ月も練って作った曲よりも、15分くらいでできた曲のほうがパワーがありますね。何も考える余裕がないくらいの勢いで生まれた曲は根本が強い。そういう曲に、ツールの持つ力をプラスできれば音の破壊力を増幅できる。むしろツールが自分の中のスイッチを入れてくれるときもあります。機材の変化とともに育ってきた世代なので、僕にとってツールの影響はやはり大きいです。
──THE MAD CAPSULE MARKETS時代までさかのぼると、上田さんはアナログ・テープからDAW以降の変遷をリアルタイムで体感した最後の世代かもしれませんね。
上田 フロッピーからSSDみたいな(笑)。今の時代は完成されたツールが当たり前になって、僕もすごく活用させてもらっていますが、一方で少しいびつというか、ちょっと足りていない機材にも愛着がわくんです。例えば、ライブで今もROLAND MC-307(編注:2000年発売のグルーブ・ギア)を使っているんですよ。現代からすると中途半端というか発展途上なツールなのですが、その“足りていない部分”にどこか未来を感じるというか。
──突き詰めて完成させた『#7』ですが、そうなると上田さんが今後どの方向に進むのかとても気になります。
上田 これからツアーを回ったりしていく中で、次に試したいことが出てくると思います。いつもそんな感じですね。
PLUG-INS 〜本作で上田が使用したプラグインの一部
WAVES VU Meter
UNIVERSAL AUDIO Pultec EQP-1A
WAVES CLA-76
CABLEGUYS Snapback
DEVIOUS MACHINES Duck
Release
『#7』
AA=
(ビクター)
Musician:上田剛士(vo、g、syn、prog)、白川貴善(vo)、児島実(g)、YOUTH-K!!!(ds)、Ryo Kamizuru(prog)、JUBEE(vo)、SHIGE(vo)、BALZAC(cho)、erica kamizuru(cho)
Producer:上田剛士
Engineer:細井智史、上田剛士、山下智輝、Suzuka Sato、Junya Suzuki
Studio: SWEEP-ZWEEP、SOUND CREW、VONOBA、KajigayaMixCenter
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