ビート・ジャグリングの基本を解説 〜ターンテーブルで魅せる2枚使いの基本テクニック by DJ IZOH

ターンテーブリストへの道 by DJ IZOH

「ビート・ジャグリング」テクニック解説

スクラッチと共に主軸となる技術

 これまでの連載ではスクラッチの基本を説明してきましたが、今回からはしばらく2枚使い、特にビート・ジャグリングの基本を紹介していこうと思います。ビート・ジャグリングとは2枚使いの中でも特に高速かつ複雑にリズムを再構築していく技術で、ターンテーブリズムにおいてはスクラッチと共に主軸となる重要な技術です。クラブ・プレイで使うDJは現代では基本少ないですが、DJバトルやショーケースでは最もメインとなるスキルです。

 よく聞くのが“スクラッチはまだ理解できるがビート・ジャグリングはどうやるのか理解できない”ということ。自分のプレイ・スタイルの中で1番軸となるビート・ジャグリングを、少しでも深く理解してもらえたらと思います。

2枚のレコードをつないでループを構築

 ビート・ジャグリングの基本となるテクニックは2枚使いのループです。同じ曲のレコードを2枚使用し、曲中のドラム・ブレイク(間奏)やイントロのドラム部分を左右のターンテーブルを使って交互に繰り返しつなぎ、ループして再生させる手法となります。これはヒップホップという音楽が生まれた原点の技術として有名ですね。まずはこのドラムをループさせる2枚使いを覚えましょう。

①アナログDJの人は同じ曲のレコードを2枚用意してそれぞれのターンテーブルにセットし、PCDJの人は同じ曲を左右のデッキにロードします(以下、アナログDJ向けの解説)。

 ❶同じ曲を左右にセット 

2枚の同一レコードを左右のターンテーブルにセット

PCDJは左右のデッキに同じ曲をロード

①2枚の同一レコードを左右のターンテーブルにセット(上)。PCDJは左右のデッキに同じ曲をロード(下)

②両方のレコードで、イントロまたは間奏のドラム・フレーズの1拍目にマーキングします。

③ターンテーブルのカートリッジの針先をマーキングに合わせ、そこから一方のターンテーブルでドラム・フレーズを再生。クロスフェーダーは再生する側の端の位置にします。

 ❷❸マーキング 

ドラム・フレーズの1拍目に針先をすぐ合わせられるようマーキングのシールを貼る

②③ドラム・フレーズの1拍目に針先をすぐ合わせられるようマーキングのシールを貼る

④反対側のターンテーブルはマーキングしたポイントで待機。再生中のドラム・フレーズが2小節経ったらクロスフェーダーを反対の端へ一気に動かし、切り替えて再生します。

 ❹反対側も待機 

最初に再生したのと反対側のターンテーブルはマーキングしたポイントで待機

④最初に再生したのと反対側のターンテーブルはマーキングしたポイントで待機

⑤最初に再生したターンテーブルを1拍目まで戻し、2小節待機して、またつなぎます。

 ❺最初の位置に戻す 

最初に再生したターンテーブルを1拍目まで戻し、2小節待機して、またつなぐ

⑤最初に再生したターンテーブルを1拍目まで戻し、2小節待機して、またつなぐ

 これを繰り返すと2小節ループになります。ここでとても重要なのが、右から左、左から右へつなぐタイミングでのリズム・キープ。つなぎ目が奇麗でないと音楽として聴こえなくなります。たくさん練習して、DJソフトの自動ループと同レベルでつなげられるようになってください。リズム・キープはDJで最も大事なこと。自分は10代の頃、これを何時間も家で練習しました。飽きても続けるのは必須です。

 次に、2小節で繰り返していたループを1小節でのループにします。そしてさらに半分の2拍、最終的には1拍ループまでいきます。この1拍ループまでが2枚使いの基本。2小節→1小節→2拍→1拍へとすべてつなげてできるようになるまでしっかり練習しましょう。

 動画でチェック 

いざ挑戦!「ビート・ジャグリング」実践のヒント

レコードの戻し方を理解しよう

 早い人だと1カ月あればここまでできるようになります。1拍ループに向かっていくにつれて手は忙しくなります。ここで重要になるのが“レコードの戻し方”です。2枚使いにおけるレコードの戻し方は何種類もあります。

 それは目標の位置までマーキングを戻す距離が場面によって違うからです。この戻し方を理解、実践できているかいないかで、リズム・キープ力や、より難しいビート・ジャグリングを行ったときの精度に、確実に差が出てきます。ビート・ジャグリングがなかなかうまくできないという人は、戻し方を理解できていない場合が多いのです。

拍数によりレコードを戻す距離が変化

 まず2小節ループや1小節ループの場合、レコードは1周以上戻すことになります。1周以上戻す場合、レコードのラベルの外側をタッチし、回転させるように戻します。そして目的のポイントまでマーキングが戻ったら、リリースやスクラッチをするときの適正位置に手を置き換えて止めます。

 ❶2or1小節ループ 

2または1小節ループでは、1周以上戻すことに。レコードのラベルの外側をタッチし、回転させるように戻す

2または1小節ループでは、1周以上戻すことに。レコードのラベルの外側をタッチし、回転させるように戻す

 次に2拍ループでの戻し方。BPMによって多少変わりますが、このとき、レコードは半周以上1周未満の距離を戻すことになります。この場合、レコードをバックスピンさせるときのように素早く引き、手を一度レコードから離します。そして目標のポイント付近にマーキングが来るときにもう一度タッチして微調整して止めます。

 この最後にタッチする瞬間は、アナログDJの場合最も針飛びがしやすいタイミングなので、タッチの優しさも重要になります。これは戻すスピードが上がれば上がるほど難易度が高いです。 

 ❷2拍ループ 

写真左:2拍ループでは、レコードをバックスピンさせるときのように素早く引き、手を一度レコードから離す 写真右:目標のポイント付近にマーキングが来るときにもう一度タッチして微調整して止める

写真左:2拍ループでは、レコードをバックスピンさせるときのように素早く引き、手を一度レコードから離す
写真右:目標のポイント付近にマーキングが来るときにもう一度タッチして微調整して止める

 そして1拍ループですが、これはレコード半周未満の戻しになります。この場合、まずレコードの針先とは反対側の、マーキングより少し前方のスペースに手を置きそこから横にスライドするようにレコードを戻します。このときは手を一度もレコードから離しません。

 ❸1拍ループ(左) 

写真左:まずレコードの針先と反対、マーキングより少し前方のスペースに手を置く 写真右:手はレコードから離さないまま、横にスライドするようにレコードを戻す

写真左:まずレコードの針先と反対、マーキングより少し前方のスペースに手を置く
写真右:手はレコードから離さないまま、横にスライドするようにレコードを戻す

 ❸1拍ループ(右) 

写真左:右ターンテーブルでも同様に、針先と反対のマーキングより少し前方に手を置く 写真右:横にスライドするようにレコードを戻す。手はレコードから離さない

写真左:右ターンテーブルでも同様に、針先と反対のマーキングより少し前方に手を置く
写真右:横にスライドするようにレコードを戻す。手はレコードから離さない

 最終的に手の位置は針先にかなり近いところに来るのですが、リリースはその位置のまま行います。リリース前にスクラッチする場合はまた手を置き換えます。ただ、これは少々難易度が高くなるので、またいずれ紹介したいと思います。

 ここまでで紹介した3種類が2枚使いでのレコードの戻し方の基本となりますので、ビート・ジャグリングを覚えたいという人は確実に修得してください。

 動画でチェック 

見た目のインパクトが最高なスキル

 今回紹介した2小節ループ~1拍ループはすべての2枚使いの基本であり、このレベルまでならクラブ・プレイでも使いやすい技術です。

 しかし、パッドやソフトウェアのループ、ロール機能で同じような音は簡単に作れるので、時代と共に挑戦する人が少なくなっている印象です。

 では、あえてターンテーブルの2枚使いでループを作る意味とは何か。それはなんと言っても見栄えです。

 見た目のインパクトにおいて、ターンテーブルでの2枚使い(ビート・ジャグリング)にかなうDJ技術はほかにありません。恐らくどれだけ機材やソフトが進化してもこれは変わらないでしょう。

 リズム・キープやグルーヴ感の出し方という点ではほかの技術より確実に高難易度になってしまいますが、魅せるプレイという点において、ビート・ジャグリングが最強の武器になることは間違いなしです。楽器ではないターンテーブルを楽器のように操れることこそがターンテーブリズムの魅力。つまり、ビート・ジャグリングはまさにターンテーブリズムの魅力そのものなのです。

 

 今月のまとめ 

同じレコード2枚でビートを素早く再構築
奇麗に聴かせるにはレコードの戻し方が重要

 

 動画でチェック 

今回紹介したテクニックを、DJ IZOHの実践動画でチェック!

【DJ IZOH Profile】ヒップホップ・スタイルにこだわるターンテーブリスト。世界大会入賞歴多数。2012年世界最大のDJバトル『DMC World Final 2012』優勝。第28代世界チャンピオンに輝く。DJスクール講師、プロ・バスケット・チーム“群馬クレインサンダーズ”アリーナDJとしても活躍中。

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