「スクラッチの小技」テクニック解説&実践のヒント
スキルとスキルのつなぎを意識
今回は、スクラッチ・プレイをしていく上で必要となる小技を紹介します。いろいろなスクラッチを曲に乗せてフレーズを組み立てていくとき、ある程度うまいDJは自然と使う大事なテクニックでもあります。
これまで、スクラッチ・フレーズの終わりは基本的にリリースで終わると説明してきました。リリース後に別のスクラッチや同じスクラッチのパターン違いに移る場面では、ちょっとした技術が重要になります。
例えばドゥルチキを4小節行い、次の小節頭で別のスクラッチに移る場合、4小節目の3拍目でリリースし、レコードの再生位置をネタの先頭へ戻します。このとき、クロスフェーダーをクローズにして音を出さずに戻す人も多いですが、あえてオープンにして戻す音を出してみましょう。この音がスクラッチとスクラッチの間に入ることで、2種類のスクラッチがブツ切りにならずに“つながる”ことになるのです。単純で簡単でありながら、非常に重要なテクニックです。動画にもいろいろ載せますが、さまざまなスクラッチのリリース後に入れて試してみてください。
スクラッチ後の締め方3選
スクラッチ・プレイをし、そのセクションでのスクラッチは完全に終わるという場面の終わり方には、ネタをリリースして終わる以外の方法が幾つかあります。
①手動エコーで終わる
現代のミキサーにはエフェクト機能が搭載されているものも多いので、フレーズにエコーをかける終わり方がポピュラー。ですが、クラシックなターンテーブリズムでは、このエコーを、縦フェーダー(チャンネル・フェーダー)を使って手動で行うやり方があります。
縦フェーダーは通常、上端の位置でマックスの音量、徐々に下に動かせば音量も徐々に下がり、下端で無音になります。縦フェーダーでフォワード・スクラッチをすることもできますが、上端から下端まで一気に下げてクローズにし、そこからまた上端まで一気に上げてオープンにしないと、クロスフェーダーを使ったときと同様の音にはなりません。
これを応用して、縦フェーダーを下端から上げてオープンにしていくときに、1回目を上端、2回目をその少し下、3回目をさらに下、4回目をまたさらに下へと、オープンでフェーダーを持っていく位置を徐々に下げていくことで、オープンになったときの音量が徐々に下がるため、エコーをかけたときと同じような状態にすることができるのです。
❶手動エコーで終わる
注意点としては、下げるときは毎回下端へと一気につまみを移動させること。下げるスピードが遅いとレコードを戻す音が漏れてしまって奇麗になりません。
機材にエフェクトが付いてなかった時代は、この手法を使ってエコーを表現するターンテーブリストがたくさんいました。現代では化石のような技術ですが、あえて使って違いを見せるのも粋な遊びですね。
②バックスピンやストップ・ボタンで終わる
この手法はリリースの最後に行うのが基本です。バックスピンは、リリース後にレコードを勢いよく戻して、速い逆再生の音を作る方法です。そして最後にフェーダーをクローズにします。CDJやコントローラーでも可能なので、使う人も多いです。
❷バックスピンで終わる
ストップ・ボタンで終わる方法では、ターンテーブルのスタート/ストップ・ボタンを、リリースしたフレーズの最後で押します。タイミングよく押すと、ターンテーブル特有の“ドュン……”といった音になります。
❷ストップ・ボタンで終わる
この2つの終わり方はターンテーブルを駆使した音として代表的な小技で、難易度も低く、ミックスのつなぎ終わりにも使われたりするのでぜひ覚えておいたほうがよいです。
③ベイビー・スクラッチをフェードアウト
これは、リリースをせずにスクラッチ自体を縦フェーダーやフィルターなどでフェードアウトしていく手法です。
片方の手が縦フェーダーやフィルターつまみに触れていてクロスフェーダーに触れていないので、ターンテーブル側の動きは基本的にベイビー・スクラッチになります。ベイビーをしたまま、縦フェーダーを任意の間隔で下げていきましょう。
❸ベイビー・スクラッチをフェードアウト
このほかにも、①と②、②と③の複合や、①の手動エコーを、ターンテーブルの電源をオフにしてから行うというマニア向けな手法もあります。さらに、①と③に関してはスクラッチ始めのフェードインに使うこともできます。修得するとどれも便利ですね。
リリースを変化させるドラグ・スクラッチ
先述のスクラッチ間を“つなぐ”技と使うタイミングが似ていますが、レコードの押しや引きのときに音を抑えるような力加減で、ゆっくりと押し(引き)をする小技が“ドラグ・スクラッチ”です。ネタの出音が低い音になり、スクラッチとスクラッチの合間のリリースに変化をつけることができます。
スクラッチというのは、各技を覚えただけでは良いフレーズを作ることはできません。今回紹介したような細かなスキルを使いこなすことにより、例えるなら、単語だけや箇条書きだったものが文章になってまとまることになります。それはつまり、8〜16小節ほどのフレーズをスクラッチで構成する上でとても重要なことなのです。
ほかにもたくさん小技がありますが、それはまたいずれ紹介していこうと思います。
今月のまとめ
スキルのつなぎ目で小技を挟んでみる
細かいスキルの習得はフレーズの構成に重要
動画でチェック
今回紹介したテクニックを、DJ IZOHの実践動画でチェック!
【DJ IZOH Profile】ヒップホップ・スタイルにこだわるターンテーブリスト。世界大会入賞歴多数。2012年世界最大のDJバトル『DMC World Final 2012』優勝。第28代世界チャンピオンに輝く。DJスクール講師、プロ・バスケット・チーム“群馬クレインサンダーズ”アリーナDJとしても活躍中。