初めまして、ターンテーブリストとして活動しているDJ IZOHです。ターンテーブリズム=ターンテーブルとDJミキサーを駆使して演奏するDJテクニックは、理解が難しい技術も多く、何をやっているか分からないという声も昔から耳にします。この連載では、謎多きターンテーブリストの技術や魅力が少しでも多くの方に伝わればと思っています。
ターンテーブリズムの基礎知識と歴史
ターンテーブリズムの歴史と変遷
そもそも“ターンテーブリズム”とは、選曲やミックスで盛り上げるクラブDJとは異なり、2台のターンテーブル+DJミキサーを使ってスクラッチやビート・ジャグリングなどを行い、楽器のように曲を演奏/エディットしていく手法や音楽のことです。このようなスタイルのDJをターンテーブリストと呼びます。そのスキルを競い合うDJバトルは世界的に行われ、同時に技術も進化しました。バトル以外にも、アーティストのライブやクラブ・プレイ、音源作品でスクラッチなどが活用されることも。ターンテーブリズムは、一部の愛好家やプレイヤーたちによって、はやり廃りに関係なく受け継がれてきた素晴らしい文化です。
独自のスタイルを探求し続ける
“ターンテーブリスト”という言葉は、1990年代にアメリカのDJ BABUが生み出したと言われ、通常のクラブ・プレイと差別化して、よりミュージシャン的なプレイをするDJとして存在が確立されていきました。現在ではさらに細分化され、クラブ・プレイを全くしないターンテーブリストや、スクラッチ・オンリーのDJも存在します。例えば、DJ Q-Bertは1990年代から現在まで最強のスクラッチャーであり、スクラッチの神様として有名です。
一般的なDJバトルではターンテーブリズムの総合的な能力が求められますが、大会によってはスクラッチのみ、ビート・ジャグリングのみ、アナログ・レコードのみ、チーム・プレイなど部門が分かれていたりもします。
チーム・プレイもターンテーブリズムの特徴的スタイルで、バンドやオーケストラと同じように、DJがドラム、ギターやベースなどのメロディ、声というように役割を分担して演奏します。フランスの4人組C2Cや、日本の2人組KIREEKなどは必見です。
ターンテーブリストとクラブDJは全くの別物とされていた時期もありましたが、今はターンテーブリズムとクラブ・プレイをハイブリッドで行うDJも増えました。自分もそのタイプで、ターンテーブリストとしての努力とクラブDJとしての努力の両方が必要なため、かなり労力がいります。ただ、選曲でフロアをキープしつつ、高度な演奏やパフォーマンスで盛り上げるプレイは自分のDJとしての理想系です。現場では毎回そこを目指していて、形にできたときは本当に幸せですね。
ターンテーブリズムに必要な機材
年々進化するDJ機材
2台のターンテーブル+DJミキサーによるアナログ・レコードでのプレイから始まったターンテーブリズム。機材は年々進化し、CDやUSBメモリーでのプレイや、コンピューター内の音楽ファイルをターンテーブルやCDJで操るDVS(Digital Vinyl System)というスタイルが主流です。さらに、パッドやエフェクトを搭載したDJミキサーや、ターンテーブルとミキサーの機能が一体となったPCDJ用コントローラーなどもあり、プレイの幅は大きく広がりました。
ターンテーブリズムの技術には、その最新機材でのプレイにも当てはめられるものがあり、現場でCDJやコントローラーでスクラッチをするDJや、ターンテーブル以外の機材でスクラッチを覚えたいという人も多くいます。
プラッターの回転と大きさを重視
ただ、こんなご時世ですが自分はターンテーブルにこだわり続けています。その理由が、“プラッター(円盤のパーツ)の大きさ”と“回転すること”です。小さいプラッターだとスクラッチは小さな動きになってしまいますし、回転しないプラッターではビート・ジャグリングはかなり難しいです。12インチ・レコードを操作できる大きさだからこそ、スクラッチやビート・ジャグリングをするときに、ダイナミックな身体の動きが出ます。会場が大きいと、身体の動きが大きいほうが映えるんです。
さらに、以前小さな子供にDJを見せたとき、明らかに回転しているターンテーブルのほうが回らないプラッターより人気で、回らないプラッターで幾らスクラッチをしても無反応なんてこともあり、回転こそがターンテーブルの魅力だと確信しました。ターンテーブルだからこそ生まれるグルーヴ感が確実にあり、そこにこそターンテーブリズムの存在意義があると思います。
スキルの種類
軸はスクラッチ&ビート・ジャグリング
ターンテーブリズムの技術は、主にスクラッチとビート・ジャグリングが軸となります。スクラッチは、レコードをこすりノイズ音を奏でるノイズ・アート。曲中の印象的なワード・フレーズ(パンチライン)を何度も繰り返し聴かせて、より強く印象付ける効果もあります。
スクラッチ
ビート・ジャグリングは、2枚のレコードの音を複雑に組み替えて別のリズムを生み出すターンテーブルでのエディット技。曲中のかっこいいドラム・フレーズやイントロ、ブレイクなどをエディットすることで、より印象に残して盛り上げる効果があります。
ビート・ジャグリング
ほかにも、ターンテーブルのピッチ・コントローラーやDJミキサーのパッドを駆使してメロディを奏でるトーン・プレイや、ワードを組み替えて新しいフレーズを作るワード・プレイ、手を背後から回したり足の下から出したり、自分が回転したりするボディ・トリック、ドラム・フレーズをスクラッチ技術で新たなリズムに作り変えるドラミングなどがあります。
ターンテーブリズムは音楽であり演奏
これらの技術の多くはパフォーマンスとしての要素も大きく、とても迫力があるため、お客さんの知識量や年代、性別を問わず盛り上げることも可能です。しかし、音楽を奏でている以上、見た目の迫力以上に絶対的に必要なのが音楽性の高さ。そこを忘れてはいけません。難しい技を並べれば良い演奏になるわけではなく、簡単な技でもとてもセンスが良い音楽にすることもできます。ただのノイズになってしまうと明らかに失敗です。“ターンテーブリズムとは音楽であり演奏である”ということ。“技術とは難易度にかかわらず良い演奏をするための手段である”ということ。この考え方が非常に大事です。
というわけで、今回はターンテーブリズムの基礎知識や必要機材などを紹介しました。次号以降はさまざまなスキルや活用方法を紹介します。今まで何がどうなってるのか分からないという方も多かった、奥深きターンテーブリズムの世界にぜひ触れてみてください。
【DJ IZOH Profile】ヒップホップ・スタイルにこだわるターンテーブリスト。世界大会入賞歴多数。2012年世界最大のDJバトル『DMC World Final 2012』優勝。第28代世界チャンピオンに輝く。DJスクール講師、プロ・バスケット・チーム“群馬クレインサンダーズ”アリーナDJとしても活躍中。