パソコン音楽クラブが解説 〜コード感を際立たせるためのテクニック

pasokon ongaku club

 プロがあなたの楽曲にコメントやアドバイスをしてくれる、サンレコWeb会員限定企画『Send & Returnラボ』。一流のミュージシャンや音楽クリエイター/エンジニアが会員読者から送られた楽曲を聴き、具体的なコメントやアドバイスなどをお返しいたします。ゲストにはパソコン音楽クラブを迎え、あなたの楽曲にフィードバックをお戻しします!

今回の応募曲について

  • アーティスト名&曲名:猫又すず「アスターラスター」
  • 楽曲のイメージ:「星々と明眸」というテーマの楽曲です。明眸とは、はっきりした目元という意味で、星空を見上げて瞳が輝いている、というイメージで創りました。それを表現するために、キラキラとしたサウンド作りをしました。具体的には、オルゴールやストリングスを取り入れたり、広く飽和したような空間(リバーブ)作りをしたりしました。
  • お悩み:サビで特に音の引き算を意識したが、どのくらいの塩梅がいいのか分からない。曲全体を通して、もっと音を足したり引いたりするべき箇所があるか、または音作りを見直すべき箇所があるか聞きたい。
  • 試聴音源:下記をクリック↓

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※記事におけるアーティスト名や音源については、“非公開”でも対応可能です。

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ベースのピッチ感を明確にして展開に抑揚を付ける

 パソコン音楽クラブの西山が担当する『Send & Returnラボ』です。 今回は猫又すずさんの楽曲「アスターラスター」についてコメントさせていただきます。ご応募ありがとうございます! ポップでありながら独特なコードワークで、とても綺麗なボーカロイド楽曲ですね。
 ご相談内容は、“サビで特に音の引き算を意識したが、どのくらいの塩梅がいいのか分からない。曲全体を通して、もっと音を足したり引いたりするべき箇所があるか、または音作りを見直すべき箇所があるか聞きたい”とのことでした。
 まず、一聴した感想ですが、巧みに複雑なコードワークで進行していく様子はドラマティックで楽しいです。歌詞や世界観と相まって、広い夜空やワクワクする感情が伝わってきます。一方で、少し調整するともっとコード感が際立ち、トラックをすっきりさせて展開に抑揚をつけられるかもしれないと感じました。今回は音の足し引きや音作りについてのご相談なので、その点を中心に考えてみたいと思います。

 トラック全体の構造を見ると、大きくボーカル、ドラム、ベース、ピアノ、その他のリード・メロディに分けられるように思いますが、今回はベースのトラックに注目してみます。ベースを聴くと、コードのルートを鳴らしている部分やサビは良いですが、パワフルなキックに潰されたり、細かいパッセージが続き音数が多くなり、音程が分かりにくくなっている箇所があります。このため、コード感をピアノだけに頼ってしまっている部分があります。ここを見直すと改善できそうです。

 まず、0:34からの展開(便宜上Aメロとします)と0:54からの展開(同じくBメロ)でルートをもう少し強調すると、コード感がより安定します。現状ではルートが分かりにくく該当箇所のコード感を主にピアノに頼っているため、例えば転調直後のAメロ頭などは、調性が曖昧で違和感が生じる可能性があります。転調後はベースの音程(ピッチ)を明確にすると、意図した展開にしやすいと思います

 キックでベースがダッキングされている箇所も、コード感への影響に注意が必要です。例えば、サビの最終部分ではベースが潰れがちなので、ここを改善すると良くなりそうです。この曲では、キックが低域をしっかり含んでいるので、ベースをその上の帯域で音程を支える役割にすると良いかもしれません。そうすると強いダッキングは必要ないはずです。

ベースの倍音を際立たせて抜けをよくするのもアリ

 さらに、ベースの音程を表現する帯域を強調することもできます。単純にEQでローミッドを調整しても良いですが、サチュレーターで倍音を加えて抜けを良くするのも効果的です。シンセベースの場合、Xfer Records Serumなど加算合成のできるソフトであればWARP機能(Osc Warp)を利用し、FM処理で倍音を足すのもお薦めです。

xfer records serum

ソフトシンセXfer Records Serumのオシレーターセクション。Serumに搭載されてた“WARP機能”は、選択した波形をさまざまな方法で変形させることができるもので、オシレーター画面の“WT POSノブ”の右側にあるノブでコントロール可能。WARP機能には複数の種類があり、その中でも“FM (FROM B)”は倍音を効果的に追加するのに有用である

 こうしてベースで和音感を明瞭にできれば、ピアノを常に鳴らし続ける必要もなくなります。例えばBメロでは、ピアノを少し抑えて展開すると、Aメロとサビとの対比が出て飽きにくくなりそうです。また、コードの構成音からベースが担当するルートを省くとすっきりし、コードの音量を少し下げることでカウンターメロディを引き立てることもできます。複数のトラックをピアノロールで重ねて見ることができれば、重複している音程が視覚的に分かりやすいです。

MIDI before after

画像上段の緑色バーは、ピアノで鳴ならしているコードの構成音。画像下段の緑色バーでは、D#4のみを鳴らしていないのが分かる

 ベースがうまく機能すれば、ほかのトラックの自由度が上がり、よりカラフルなアレンジが可能になると思いますので、ぜひ試してみてください

 さて、今回はベースを切り口に楽曲の音の足し引きや音作りについて考えてみましたが、いかがだったでしょうか。トラックメイクに正解はありませんので、今回の提案も一つの選択肢として読んでいただければと思いますが、今後の制作に少しでもプラスになればうれしいです。

 今回も『Send&Returnラボ』を担当させていただきありがとうございました。誰かの楽曲を詳細に分析することは自分にとっても勉強になりました。次回以降のこの企画もきっとタメになるはず。どうぞお楽しみに

今回のゲストアドバイザー:パソコン音楽クラブ(西山:写真右手)

【Profile】2015年結成のDTMユニット。 メンバーは⼤阪出⾝の柴⽥碧と⻄⼭真登。アナログシンセサイザーや音源モジュールのサウンドをベースにエレクトロニックミュージックを制作している。他アーティスト作品への参加やリミックス制作も多数⼿がけており、CMソング、劇伴制作、アニメ「ポケットモンスター」のEDテーマ制作など数多くの作品を担当。2024年に5枚目となるアルバム『Love Flutter』をリリースした。
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