プロがあなたの楽曲にコメントやアドバイスをしてくれる、サンレコWeb会員限定企画『Send & Returnラボ』。一流のミュージシャンや音楽クリエイター/エンジニアが会員読者から送られた楽曲を聴き、具体的なコメントやアドバイスなどをお返しいたします。ゲストにはパソコン音楽クラブを迎え、あなたの楽曲にフィードバックをお戻しします!
今回の応募曲について
- アーティスト名&曲名:伊藤誠也「Doudemoii」
- 楽曲のイメージ:初めまして! 岡山県で細々とフリーターしながら作ってます。パソコン音楽クラブさんの「Dog Fight」を愛聴させてもらってます! あのグッときた勢いをイメージした様な?してないような…。
- お悩み:ダンスミュージックにこだわりはないんですけど、グルーヴ感がイマイチぱっとしません。ここ最近ではキックを使わずにグルーヴを考えたりポリリズム的なのを入れてみたりしいるのですが、なんだかなぁという感じです。抽象的で申し訳ないんですが、グルーヴに関してご教示願います!
- 試聴音源:下記をクリック↓
楽曲リンクを送るだけ!応募詳細はこちら 〜あなたも曲を応募してみよう
※記事におけるアーティスト名や音源については、“非公開”でも対応可能です。
さらに、応募者の中から抽選で1名様にヘッドホンをプレゼント!
AIAIAI TMA-2 Studio Wireless+
商品提供:サウンドハウス
フィードバックはこちら!
メインとなるリズムのスウィング値を決め、それに合わせてほかのパートを調整しよう
パソコン音楽クラブの西山が担当させていただく『Send&Returnラボ』。今回は伊藤誠也さんの「Doudemoii」という楽曲についてフィードバックさせていただきます。さまざまな要素が混ざり合ったオルタナティブな電子音楽という印象で、楽しく聴かせていただきました! 伊藤さんご自身は「ダンスミュージックにこだわっているわけではないが、グルーヴ感がイマイチぱっとしない」と感じているとのことですので、今回は、その点に注目してみたいと思います。
「Doudemoii」を聴くと、細かい動きが多くスウィングも効いています。おそらく伊藤さん自身もグルーヴを意識し、打ち込みに工夫を凝らしているのだと感じました。しかし、全体で聴くと確かにグルーヴがやや弱い印象を受けます。要因は幾つか考えられますが、ポイントの一つとして「各パートの関係性」に注目してみるとよいかもしれません。
まずはキックとベースに注目。どちらも1小節の中で発音数が多く、テンポも速めなため、低域が詰まった印象になっています。その結果キックとベースそれぞれのアタックが埋もれ、聴こえづらくなってしまっているようです。アタックが埋もれると、グルーヴのメリハリが失われる原因となりかねません。このような場合は打ち込みを見直し、音の隙間を意識的に作ることが有効です。また、サイドチェイン・コンプレッサーを使用し、キックの発音タイミングでベースの音量を抑えることで、低域の整理をするのも効果的です。
さらにキックやベース、キーボードなどのスウィング値に注目。すると、各パートのスウィング値にズレがあるように感じました。スウィング値の異なるトラックが複数ある場合、リズムの要となる発音タイミングが揃っていないと、全体としてちぐはぐな印象になりがちです。スウィング値の違いをうまく活用すれば、有機的で素晴らしいグルーヴが生まれますが、バランスを取るのが難しく、失敗するとリズムの一体感が損なわれます。
そのため、まずは曲のメインとなるリズムのスウィング値を決め、それに合わせてほかのパートを調整していくのがよいと思います。注意すべき点として、サンプルの音色によっても発音タイミングやスウィングにズレがあるように聴こえる場合があります。数字上は同じでもズレて聴こえる場合もあるため、最終的には耳で確認しながら調整する必要があります。
良いビートは強調したいタイミングが明確で、各パートが調和しています。一方で各パートの関係性を意識せずに打ち込むとバラバラな印象になりやすく、例えばキックがシンコペーションする際にベースやキーボードを同時に鳴らすのか、ずらすのかといった基本的なことさえぼんやりしてしまいがちです。ある程度基本のループができたら、どこをリズムの基点として強調するのかを考え、それを軸にほかのリズムを重ねていくと、まとまりのあるグルーヴを作りやすくなります。
参考になる曲のグルーヴを研究することもお勧め
今回の楽曲では、リズムの指針となるパートがやや弱いように感じました。特にキックはリズムの主軸になっていますが、音数が多く複雑な動きを繰り返しているため、リズムの基点や強調したいタイミングが分かりにくくなっています。そうしたタイミングをスネアやクラップなどで補完する方法もありますが、今回はそれらのパートもないため、全体としてリズムの安定感がやや不足している印象です。リズムの基点を明確にし、その上で装飾的なリズムを加えていくように意識すると、安定感のあるグルーヴを作りやすくなると思います。
さて今回はグルーヴに注目して考えてみましたが、サンプル選びやサンプルの長さなど、グルーヴに影響を与える要素はほかにもたくさんあります。素晴らしいグルーヴを作り出していると思うアーティストが見つかれば、ぜひその楽曲を研究してみるのもお勧めです。また伊藤さんも使用されているAbleton Liveには、さまざまなグルーヴを試すことのできるプリセットが幾つも用意されています。
自分の打ち込んだドラムループにグルーヴプリセットを適用して、変化を研究するのも非常にお薦めの方法ですので、ぜひトライしてみてください。ここまで読んでいただきありがとうございました! 今回の『Send&Returnラボ』はいかがだったでしょうか? 引き続き、皆さまのご応募をお待ちしております!