【あなたの楽曲をプロがアドバイス!】プロのミキシングテクニック〜音圧を保つ中低域ベースの作り方|Send & Returnラボ Vol.1

 サンレコWeb会員が応募できる『Send & Return ラボ』は、プロがあなたの楽曲にコメントしてくれる企画。音楽制作のツールが進化し、多くの方が自宅で楽曲制作できるようになった現在、さらにスキルを向上させるためには、第三者、特にプロからの客観的なフィードバックが重要です。このコーナーでは、プロのミュージシャンや音楽クリエイター/エンジニアが会員の皆様から送られた楽曲を聴いて、具体的な改善点やアドバイスをお返しいたします。

 今回は、Kazuma Takahashiさんの作品「Night Walk(feat.JUN)」が選ばれました! 早速アドバイザーであるKSUKEさんからのコメントをご紹介します。

応募曲について

  • アーティスト名:Kazuma Takahashi
  • 楽曲タイトル:Night Walk(feat.JUN)
  • 試聴音源:

  • 応募曲についての補足:秋の涼しい夜風を感じながら、男女二人が夜道を散歩するイメージ
  • 音源や制作に関するお悩み:洋楽から多大な影響を受けており、レンジの広い音域を鳴らすよう心がけています。特に低音と高音域の処理具合の感想を頂きたいです。また、曲構成がループ主体のものが多いです。曲の途中で離脱されないようなアイデアを頂けたら幸いです。よろしくお願いいたします。

※記事におけるアーティスト名や音源の公開については“非公開”でもご対応可能です。詳細は下記をご覧ください。

音圧を保ちながら、中低域に広がりのあるベースを作る

 こんにちは、KSUKEです。この度は楽曲をお送りいただきありがとうございます。サウンドから涼し気な雰囲気を感じることができ、ギターの音色やボーカルの声色も美しく、メロディラインも非常に心地よい。軽快で素敵な楽曲ですね! 

 洋楽から影響を受け、レンジの広い音域を鳴らすよう心がけているとのことですが、音域のバランスは全体的に申し分なく感じました。ただ、ハイハットやシンバル、ハモなど一部の音色以外がすべてセンター寄りで鳴っている印象を受けました。楽曲全体にステレオ感を出すことで、より立体的でリッチな楽曲に仕上がると思います

 まず、お悩みにも記載がありました低音域についてですが、キックとベースの混ざり具合はとても良い感じです。洋楽のダンスポップ系のミックスバランスを目指すのであれば、ベースをもっと前に出しても良いと思います。現状ではキックとベースがほぼセンターに定位していますが、キックはそのままで問題なく、ベースに少し変化をつけるといいでしょう。

 具体的には、ベースにディレイをかけたあと、ステレオイメージャー系のプラグインで少しステレオ感を出し、その後にEQでハイパス処理を施し、新たに追加したミッドベース音を元のベースにレイヤーしてみてください。(※この時、元のベースはそのまま鳴らしてください)サブベースの帯域はセンターで鳴り、ミッドベースのエフェクト音だけがサイドに広がって鳴っているイメージです。この処理を行うことで、音圧を保ちながら中低音域に広がりが生まれ、より立体的で温かみのあるベースになるはずです。

キックをセンターに配置し、パーカッション類はL/Rに振り分ける

 高音域については、コードを鳴らしているプラックの音像にもっと臨場感があっても良いと感じました。このプラック音も常にセンターに定位している印象なので、既存のプラック音に似た音色で同じコードを鳴らしたレイヤートラックを新たに作成し、サイドで鳴らしてみてください。

 ハイハットやシンバルなどの金物系はシンプルで軽快なサウンドが素晴らしいです ね。ただ、クラップ(またはクラップ&スネア)のサウンドにはもっとステレオ感があっても良いと思います。これは個々の好みにはなりますが、キックをセンター に配置し、その他のパーカッション類は左右のベストなポジションに定位させて振り分けることで、電子的なドラムでも立体感を表現できます(なんとなく実際のドラムセットを想像してみると分かりやすいと思います)。私自身、ハイハットにオートパンをかけたり、シンバルにはショートリバーブをかけたりしますが、この楽曲にはドライなビートが合うと感じているので、音の位置や動きで立体感を出すのが最適だと思います

 ギターサウンドに関しては、音作りが非常に好みで良い音してますね! どんなエフェクトを使っているのか、ぜひ教えてほしいです。ただ、この音もセンター寄りなので、もっと生感や臨場感が表現できるとさらに良くなると思います。具体的には、ダブルトラックを作って左右に振り分けたり、セクションによっては「右寄りからだけ聞こえてくる!」なんてミックスバランスでも、ライブステージを連想させて面白いと思います。ただし、前述のプラックサウンドとの衝突を避けるために、各音の配置には注意が必要です。このセクションはプラック、このセクションはギター、ここはボーカル!といった具合に、セクションごとに際立たせたい音を基準にミックスすると、最適なバランスを得られるでしょう。

大きくコード進行を変えて飽きのこない展開を作る

 楽曲構成についてですが、プラックの音がループされるため、単調に感じます。曲全体の長さはちょうど良いので、改善するとすれば、コードの展開と音の抜き差しではないでしょうか。コード進行については、ボーカルメロディが素晴らしいので、それをベースにしてセクションが変わる箇所(イントロからAメロに変わる直前や、サビの直前など)でコード進行に変化を加えてみてください

 また、セクションによっては突然プラックの音が消えたり、コード進行が大きく変化する場面があっても良いかもしれません。意図していなかった展開が突如現れることは、楽曲にとってスパイスとなり、曲の展開を飽きさせない要素となり得ます。秋は感じても、“飽き”は感じさせないってとこですかね。

 最後にボーカルについてですが、この楽曲の歌声やボーカルメロディは本当に素晴らしいです。ハモリやオクターブ上下、フォルマントを変化させた音声などを重ねることで、よりリッチで洋楽らしいシンプルかつ厚みのある楽曲に仕上がると思います。また、楽曲のイメージに“男女二人が夜道を散歩する”というコンセプトがあるようなので、後半のパートだけに男性ボーカルが登場する、なんて展開も面白そうですね。

 以上、少しでもブラッシュアップの参考になれば幸いです。ありがとうございました。

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今回のアドバイザー:KSUKE

 【Profile】DJ/作編曲家/リミキサー。コロナナモレモモ(マキシマム ザ ホルモン2号店)の一員DANGER×DEERとしても活動。国内外のフェスやナイトクラブへのDJ出演をはじめ、多数の著名アーティストへのリミックス提供、楽曲プロデュースやアレンジ、アニメやゲーム音楽制作など幅広く手掛ける。

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