Repezen FoxxのビートメイカーKOERUが指南 〜音像の整理方法

KOERU

 プロがあなたの楽曲にコメントやアドバイスをしてくれる、サンレコWeb会員限定企画『Send & Returnラボ』。一流のミュージシャンや音楽クリエイター/エンジニアが会員読者から送られた楽曲を聴き、具体的なコメントやアドバイスなどをお返しいたします。

 今回から、ゲストにRepezen Foxx(旧レペゼン地球)のビートメイカーKOERUをお迎えし、あなたの楽曲をフィードバック。さらに抽選で1名様にAIAIAI TMA-2 DJをプレゼントします。皆様ふるってご応募ください!

今回の応募曲について

  • アーティスト名&曲名:GO+「Fragile / GO+ feat. 初音ミク」
  • 楽曲のイメージ:キラキラしたシンセと透明感のあるコード進行で、幻想的で未来的な雰囲気を意識しました。 厚めのリードリフとやや強めのサイドチェインで空間の広がりを演出し、主人公のどこか切なくも希望に満ちた前向きな感じをイメージしました。
  • お悩み:制作を進めるうちにトラック数が増えすぎてしまい、音像がぼやけてしまうことが悩みです。KOERUさんの楽曲のように、異なるジャンルを組み合わせながらも一貫した世界観を持ち、聴き手を引き込むサウンドを目指しています。特に、多彩な展開の中でも一体感を損なわないアレンジの工夫や、トラック数が増えてもクリアな音作りを維持するためのポイントがあればお聞きしたいです。また、普段のサンプル管理で意識されていることについても、ぜひ知りたいです。
  • 試聴音源:下記をクリック↓

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※記事におけるアーティスト名や音源については、“非公開”でも対応可能です。

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商品提供:サウンドハウス

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楽曲を採用した理由

 KOERUです。Send & Returnラボへご参加いただいている皆様、ありがとうございます。第2回目フィードバックとして、GO+さんの「Fragile (feat. 初音ミク)」を採用させていただきました。この楽曲を採用させて頂いた理由としては、以下が挙げられます。

  1. 僕自身が“制作を進めるうちにトラック数が増えすぎてしまい、音像がぼやけてしまう”という悩みを持っていたこと
  2. 展開の中でも一体感を損なわないアレンジについて、第一回のフィードバックにプラスαの深堀りができると思ったから

 まず、フラットにこの曲をを聴かせていただいて感じた個人的な第一印象は、”クオリティ高いな”でした。前回同様、あくまで”僕だったらこの部分はこうしたい!”というポイントと”なぜそうしたいのか”といった切り口で進めさせていただければと思います。

絵画と音楽の違いについて

 その前に一つ、同じ人を引きつけるアートである”絵画と音楽の違い”について、僕の意見をお話させてください。実際に絵画、特に油画を美術館で見ると、些細な色の変化によるグラデーションによる視線誘導、テクスチャーを際立たせる構図、目立たせたい部分を引き立てる異なる質感、そして、デジタルでは気づかないインクの凸凹による奥行きの表現など、多くの要素を感じ取ることができます。

 一方で音楽は、それらを目に見えない“音”で表現するアートであり、最大の違いは“時間軸上で変化する”という点だと考えています。これをふまえて上記の“制作を進めるうちにトラック数が増えすぎてしまい、音像がぼやけてしまう”という悩みについてお答えしましょう。
 僕はいつも“どの音を一番聴かせたいか。その次にどの音を目立たせたいか”を時間軸ごとに意識することを重要視しています。そのため、以下3つの軸を常に考えながらトラックを構築しています。

  1. X軸(L/R)
  2. Y軸(音域)
  3. Z軸(奥行き)

 これらの軸を“時間軸と連動して変化する部屋”として脳内にイメージし、トラック全体を構築していきます。

「Fragile」のようなボーカル曲の場合

「Fragile」のようなボーカル曲では、主役となるボーカルを引き立てることを意識しています。そのアプローチ方法を以下に説明します。

L/R(X軸)の調整 

   ボーカルは中心に置くため、邪魔にならないよう他の音はPANやステレオイメージャーを使ってL/Rに配置します。

音域(Y軸)の整理

   ボーカルと干渉する帯域をEQで処理し、音域をすみ分けます。

奥行き(Z軸)の表現

   感情的なボーカルにはリバーブやディレイを使い、空間の広がりを演出します。ボーカルを引き立てるため、奥行きの深さを調整しています。

 このように、聴かせたい音を優先的に配置し、その音に対してさらに引き立てる音に対しても同様に配置していく……この積み重ねで曲を整理することが多いです

具体的なアプローチ 〜「Fragile」の改善案

 「Fragile」ではリズム隊のキックやベースのグルーヴ感が良く、サイドチェインも奇麗にかかっており、世界観を演出できていると感じました。その中で、僕が加えるなら次のような奥行き(Z軸)を生かすアプローチです。

 これは完全に僕の個人的な好みですが、音が前に張り付くようなJポップ特有のドライなミックスよりも、空間の奥行きを感じさせる洋楽的なウェットなミックスが好きです。そのため、“あくまで僕であれば”ですが、以下のような+αのアプローチを加えると思います。

セクション切り替え前のアプローチ

ボーカルのリバーブをオートメーションで調整

→ リバーブの余韻を使い、ボーカルに感情的な奥行きを与えつつ、空間の広がりを印象付けます。

セクションごとにボーカルMIXを調整

→ 例えば、3:00〜のブレイクパートではリリックにあわせて軽いグリッチ処理を加えるなどの“変化”を演出してあげます。

パート展開のアプローチ

ドロップ直前のベースとボーカルを処理

→ 2:32〜、明るいパートからアグレッシブなパートに転換する場面で、ドロップ1拍目のスライド・ダウン・ベースに沿わせ、ボーカルの“私になってく”の“く”を子音部は残したまま、母音部を36 or 48 セミトーン、ピッチベンドで下げます。これにより、リズム隊の“止め跳ね”を際立たせます。

無音の“溜め”を作る

→ 2:39付近など、リズムのグルーヴ感を活かすため、不要な音をカットしあえて無音部分を設けます。それにより解放感を演出します

セクション別アプローチ <ビルドパート編>

ボーカルのリバーブを深くする

→ プリドロップに向けて、徐々にボーカルのリバーブを深くして空間を広げ、ドラムやシンセ群にはローカットを加え音場を段階的に狭めます。  

音圧のオートメーションで変化を演出

→ マスターボリュームとWidthなどを調整し、プリドロップまで徐々に音場を狭めて、ドロップのインパクトを相対的に増します。

マスターオートメーション

ドロップ前にかけて、マスターにボリュームやステレオワイドのオートメーションを書くことで、ドロップの印象を強くすることができる

セクション別アプローチ <ドロップパート編>

効果音でメリハリを強調

→ “ドロップに入りました感”を強調するため、クラッシュシンバルやホワイトノイズ系のダウンフィルターを使用。帯域の干渉を避けるため、これらをL/Rにパンニングします。

クラップの存在感を高める

→ クラップをL/Rに配置するか、ショートディレイを使用してクラップの位置を調整。これによりトラックに埋もれず、音場を広く見せられます。

ボーカルに変化を加える

ドロップセクションのラスト“探してる”の部分にリバーブのオートメーションをかけ、音が空間に広がっていくように演出。これが次のセクションの余韻と感情を引き継ぎます。

スタッカートアルペジオを調整

→ センターに位置するアルペジオをL/Rに大きく振り分け、音場を広げます。

クラッシュシンバルをランダム化

→ 1:35付近などで、クラッシュシンバルをL/Rへランダムに振ることで、帯域の混雑を防ぎつつ全体を広く使った音像を作ります。

サンプル素材の管理について

 最後に、お悩みにあった“サンプル管理で意識していること”について。……正直に言いますと僕は“整理整頓デキナイマン”なので、未整理のサンプルパックを詰め込んだUSBメモリーから毎回サンプルを選んで使っています。そのため、サンプル管理の具体的なアドバイスは難しいです……スミマセン! それではまた次回!

今回のゲストアドバイザー:KOERU

KOERU

【Profile】ビートメイカー/音楽プロデューサー/DJ。年齢非公開。音楽ユニット「Repezen Foxx(旧・レペゼン地球)」のビートメイカーとして、グループ解散まで数々の楽曲を手掛ける。その後も、バンダイナムコエンターテインメントによる音楽プロジェクト「電音部」をはじめ、芸人、YouTuber、アイドルなど、ジャンルやシーンを越えた楽曲提供を行う。 和の要素を取り込んだビートメイクと、目まぐるしく展開するビートアプローチで、リスナーの感情を揺さぶるスタイルが持ち味。現在はプロデュースワークに加え、自身名義での楽曲リリースに向けた制作活動も精力的に行っている。
KOERU's PLAYLIST

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