DIGIGRIDのコンパクト機「Desktopシリーズ」のアドバンテージ

プラグイン・エフェクトのWAVESとPA用デジタル・コンソールのDIGICOがコラボレーションし生まれたDIGIGRID。同ブランドはこれまでに、WAVESプラグイン用DSPを備えたイーサーネット接続のオーディオ・インターフェースDigiGrid IOSやAVID Pro Toolsシステムを“SoundGrid”ネットワークに取り入れるためのDSP搭載ネットワーク・ハブDigiGrid DLSなどを発売してきた。その製品ラインナップは1〜2Uのラックマウント・タイプがメインであったが、このたびコンパクトなDesktopシリーズを発表。オーディオ・インターフェースのDigiGrid DとDigiGrid M、ヘッドフォン・アンプのDigiGrid Q、ネットワーク・スイッチDigiGrid Sの4機種が出そろった。先ごろ来日したDIGIGRIDのプロダクト・スペシャリスト=ダン・ペイジ氏(メイン写真)に会うことができたので、Desktopシリーズについて話を聞いた。

オーディオ・インターフェースとして
ハイエンドなレンジを目指し開発

DIGIGRIDは、オーディオ・インターフェース製品を核としたソリューションを提供してきた。そのメリットはと言うと、本体内のDSPでWAVESプラグインを処理できること、イーサーネットによって大規模かつ柔軟なシステムを構築できることなどであり、現在もユーザー層を拡大し続けている。

しかしここへ来て、DSPを搭載しないコンパクトなモデル=Desktopシリーズを発表。アナログ4イン/6アウトのオーディオ・インターフェースDigiGrid D、2イン/2アウトのDigiGrid M、ヘッドフォン・アンプのDigiGrid Q、ネットワーク・スイッチのDigiGrid Sの4機種がラインナップされているが、どのようなユーザー&用途を想定しているのだろう? ダン・ペイジ氏に聞いてみた。

ペイジ「既にDigiGrid IOSやDigiGrid DLSなどを使っている人がそのシステムに追加する用途、もしくはそれらを使ったことのない人が“初めてのDIGIGRID”として導入することを想定しています。オーディオ・インターフェースのマーケットは大きく、中でも安価でそこそこの性能を備えたモデルは既に多くの製品が市場に出ています。しかし我々はそのレンジではなく、よりハイエンドなところを目指しました。DIGIGRIDには、DIGICOがコンソールで培ったハードウェアの技術がありますし、マイク・プリアンプ一つを取ってもそのクオリティには自信があります。ですのでデスクトップ型のオーディオ・インターフェースに関しても、既存ブランドに匹敵するものを作れるのではないかと思ったわけです。あとはSoundGridの技術(編注:WAVESの開発したイーサーネット・ベースのネットワーク・プロトコル)。DigiGrid IOSなどのDSP搭載機と併用すれば、WAVESプラグインのかけ録りやネットワーク上のハードウェアの柔軟なルーティングが行えます。そうしたメリットを提示できるのも、パーソナル・ユースなマーケットに参入しようと考えた理由です」

▲Desktopシリーズ。DigiGrid S(ネットワーク・スイッチ/写真中央奥)にDigiGrid M(オーディオI/O/左)、DigiGrid D(オーディオI/O/中央手前)、DigiGrid Q(ヘッドフォン・アンプ/右)がイーサーネット接続されている ▲Desktopシリーズ。DigiGrid S(ネットワーク・スイッチ/写真中央奥)にDigiGrid M(オーディオI/O/左)、DigiGrid D(オーディオI/O/中央手前)、DigiGrid Q(ヘッドフォン・アンプ/右)がイーサーネット接続されている

DIGICOのハイエンド・コンソールから
幾つかのコンポーネントを継承!

価格については、DigiGrid D83,000円ほどDigiGrid M55,000円ほどDigiGrid Q50,000円ほどDigiGrid S36,000円ほどと、ハイエンドと言うにはリーズナブルな設定。これについてペイジ氏は次のように説明する。

ペイジ「見た瞬間にビックリするような数字にはしたくなかったのです。あくまで“手に取りやすい価格”をリミットにして設計を進めました。とは言え、安ければ安いほど良いという考え方ではなく、クオリティにこだわりながら既存ブランドと渡り合っていける価格を追求しています」

では、DigiGrid DやDigiGrid Mを“初めてのDIGIGRID”として導入する場合、既存のUSBオーディオI/Oなどに比べてどのようなメリットがあるのだろう?

▲DigiGrid D(83,000円ほど)。Mac/Windowsに対応で、形式はイーサーネット接続。アナログ4イン/6アウトとなっており、最高24ビット/96kHzをサポートする ▲DigiGrid D(83,000円ほど)。Mac/Windows対応で、イーサーネット接続。アナログ4イン/6アウトとなっており、最高24ビット/96kHzをサポートする。マイク/ライン・イン×2、インスト/ライン・イン×2、それらのゲイン・コントロール、レベル固定のライン・アウト、レベル・コントロール可能なモニター・アウトなどを装備
▲DigiGrid M(55,000円ほど)。Mac/Windows対応で、形式はイーサーネット接続。アナログ2イン/2アウトとなっており、最高24ビット/96kHzをサポートする。マイク/ライン・イン、インスト/ライン・イン、それらのゲイン・コントロール、ヘッドフォン・アウトなどを装備 ▲DigiGrid M(55,000円ほど)。Mac/Windows対応で、イーサーネット接続。アナログ2イン/2アウトとなっており、最高24ビット/96kHzをサポートする。マイク/ライン・イン、インスト/ライン・イン、それらのゲイン・コントロール、ヘッドフォン・アウトなどを装備

ペイジまずは内蔵マイクプリのクオリティです。DigiGrid IOSなどと同じくDIGICO製のものを採用していますが、専用ソフトSoundGrid Studioからのデジタル制御ではなく、完全にアナログでコントロールできるようになっているんです。音質は従来機と同等に設計していますが、連続可変でコントロールできたり、ゲイン・アップの最大値が従来機よりも+10dB高い+70dBになっていたりと独自性を持たせていますね。マイクプリのほかは、アルミ押出形成による頑丈なボディ、操作子の品質や使いやすさを考え抜いたレイアウト、DIGICOのフラッグシップ・コンソールSD7から受け継いだヘッドフォン・アウトの回路“Constant Current Drive”なども特徴。こうした“所有欲”を満たす仕上がりでありながらSoundGridネットワークへの接続にも対応しているので、拡張性が高いところもアドバンテージと言えます。例えばバンドのメンバーがDigiGrid Dを導入すれば、自らのDigiGrid Dと同じネットワークにぶさ下げて、両者を1台の多チャンネルI/Oのように使うことも容易です。またDigiGrid Mはマイク・スタンドにマウントできますので、コントロール・ルームから離れたブースに設置して“オーディオ・インターフェース兼キュー・ボックス”として使っても良いでしょう。USBインターフェースで同じことをやろうとすると、環境によってはケーブルを引き回す距離が長くなり過ぎるでしょうが、DigiGrid Mならブースにスイッチを置いておけば最短距離でネットワークに接続可能です」

ネットワーク・スイッチのDigiGrid Sは
イーサーネット経由の電源供給に対応

そのネットワーク接続に便利なのが、DIGIGRID純正のスイッチとして発表されたDigiGrid Sである。

▲Desktopシリーズに電源供給できるコンパクトなネットワーク・スイッチ。4つのネットワーク端子を備える ▲Desktopシリーズに電源供給できるコンパクトなネットワーク・スイッチ、DigiGrid S(36,000円ほど)。4つのCat5端子を備える

ペイジ「WAVESの推奨しているスイッチをはじめ、他社のものでもネットワークに接続できます。しかしこのDigiGrid Sは、我々が動作保証するもので、そこが大きな違いです。またPoE(Power Over Ethernet)をサポートしているので、イーサーネット接続した最大4台のDIGIGRID製品に電源を供給可能です。言わずもがなDigiGrid DやDigiGrid M、それからDigiGrid Qにも電源供給が行えますよ」

そのDigiGrid Qも、SD7から受け継いだヘッドフォン・アウトの回路Constant Current Driveを採用。ただ、DigiGrid Qは単体のヘッドフォン・アンプであり、インターフェース製品ほど他の回路の数が多くないため、よりローノイズな仕上がりになっているという。

▲DigiGrid Q。レコーディングからリスニングまで、さまざまな用途で活躍しそうなヘッドフォン・アンプだ。SoundGridネットワークに接続するためのCat5端子、Bluetooth、XLRのAES/EBU、RCAピンのアナログといった音声入力を装備 ▲DigiGrid Q(50,000円ほど)は、さまざまな用途で活躍しそうなヘッドフォン・アンプだ。SoundGridネットワークに接続するためのCat5端子、Bluetooth、XLRのAES/EBU、RCAピンのアナログといった音声入力を装備

ペイジConstant Current Driveは、接続するヘッドフォンのインピーダンスによって適切な出力が得られるよう設計されています。このDigiGrid Qに関しては、音楽制作時のモニターだけでなく、通常の音楽鑑賞などにも使ってもらいたいですね」

モデルごとに個性際立つDesktopシリーズ。国内での発売は2016年7月下旬が予定されており、ペイジ氏も「早くユーザーからのフィードバックを聞いてみたいです」と話していた。興味のある人は、サンレコ本誌での続報を楽しみにしておいてほしい。