UNIVERSAL AUDIO Apollo 8/8p/16 発表会レポート

1176、LA-2Aなどアナログ・アウトボードの名機を多数手掛ける一方、そのサウンドのエッセンスをフィジカル・モデリングに落とし込んだUAD-2プラグインが世界中のエンジニアから支持されているUNIVERSAL AUDIO。同社が2012年に発表したオーディオ・インターフェースApolloは、優れたアナログ回路とパワフルなDSPプロセッシングを一台に集約したUNIVERSAL AUDIOを象徴するとも言えるプロダクトで、スタジオ向けのApollo 16、よりパーソナルなApollo Twinと順調にラインナップを拡張、世界のエンジニア/クリエイターから厚い支持を受けている。そのApolloがこのたび大幅にバージョン・アップ。本稿では2015年5月29日にUNIVERSAL AUDIOインターナショナル・セールス・マネージャーのユウイチロウ・ナガイ氏とエンジニアのGoh Hotoda氏を招いて開催された、この新しいApollo 8/8p/16の発表会の模様をレポートしていこう。

ハード/ソフト共に徹底して現場の声を反映

会場は東放学園音響専門学校のスタジオA。まずはナガイ氏がApolloの優位性について、①最高級のサウンド・クオリティ、②リアルタイムのUADプロセッシング、③Unison対応マイクプリ、④Thunderbolt接続という4つのポイントを挙げて解説。レベルの高いAVID Pro Toolsユーザーが集うフォーラムとして知られる「Pro Tools Expert」で2,000人を対象に使用しているI/Oのアンケートを取ったところ、「Apolloが1位となった」という事実を明らかにした。

「ApolloはアメリカではSTEINBERG CubaseやAPPLE LogicだけでなくPro Toolsユーザーにも厚く支持されています。Pro Tools|HDX環境で作業しているプロのエンジニアもセカンドI/Oとして有用であると認識されているのが、ヒットの要因と言えます」

新しいApolloのラインナップについて解説するユウイチロウ・ナガイ氏(中央) 新しいApolloのラインナップについて解説するユウイチロウ・ナガイ氏(中央)

続いてナガイ氏は新しいApollo 8/8p/16の概要を解説。前モデルで最も多かったユーザーからの要望は「より良質なAD/DAコンバーターを搭載してほしいというものでした」と明かし、以下のように続ける。

「そこで新しいApolloシリーズは全機種に最新のAKMとESSのパーツを採用し、新しく設計したアナログ回路と組み合わせました。これによってダイナミック・レンジが前モデルに比べて3dB向上したほか、全高調波歪率の性能も同じ価格帯の製品の中でも抜きんでたものとなっています」

ナガイ氏はほかに、UnisonがマイクプリだけでなくHi-Zにも対応しギター・アンプ・シミュレーター系のUADプラグインをより高精度で使えるようになったこと、Thunderbolt技術の向上で帯域幅をフルに使えるようになったため、Apolloのハードウェアデイジー・チェーンで4台まで接続が可能になった点など、新シリーズのメリットを紹介。当日はApollo 8/8p/16/Apollo Twinによる大規模なシステムが構築されており(最大で156入出力のシステムが構築可能とのこと)、Apollo 16のアナログ・アウトの音量をApollo Twinのノブでコントロールするなど、自由度の高い連携をうかがわせた。なおチェーン接続時のクロック信号は、マスターのユニットから各個体にポイント・トゥ・ポイントで送られる仕様となっている。

ナガイ氏は「こうした大規模なApolloシステムを一括して制御できるのが、新しくなったConsole 2.0ソフトウェアです」と続ける。

「ConsoleソフトウェアではApolloのユニットを4台まで認識可能で、インターフェースの上部に各I/Oとメーター・ブリッジが表示されるので、どのユニットに入力されているのか/再生しているかがとても分かりやすくなっています。プラグインの取り回しも見直されており、複数のプラグインの組み合わせをプリセットできる“Channel Preset”機能が追加されました。新しいApolloシリーズには10万円相当のRealtime Analog Classics Plusバンドルが付属しますが、これらのプラグインのみを使ってグラミー受賞エンジニアが多くのプリセットを用意しており、これだけでもクオリティの高い録音/ミキシングが行えるほどです」

IMG_7883-2 高精細なルックスとなったConsole 2.0ソフトウェア。ジャンルによるカテゴリー分けなどプラグインのハンドリングがより分かりやすくなったほか、Thunderboltのデイジー・チェーンで大規模なApolloシステムを組んだ場合も、I/Oのルーティングを一括してコントロールできる

ナガイ氏はほかにも、デスクトップ上でDAWソフトがConsoleソフトウェアのバックグラウンドにある際もコンピューターのキーボードのスペース・バーを押すことでDAWの再生/停止を制御できる“Control Pass Through”機能や、Pro Toolsをサード・パーティ製のI/Oで使用する際に起こるインプット数の制限やハードウェア・インサートの問題を解決する“Flex Driver”などの新機能を紹介。スタジオの現場でのユーザビリティを徹底的に追求することで、エンジニアの支持を受けていることをうかがわせた。

Goh Hotoda氏によるUADを活用したミキシング・セミナー

IMG_7952-2 Goh Hotoda氏は1960年生まれ、東京都出身。1990年代のアメリカのポップ・ミュージック・シーンで頭角を現し、マドンナのほかジャネット・ジャクソン、ホイットニー・ヒューストン、坂本龍一、宇多田ヒカルなどの一流アーティストの作品を手掛け、トータル5,800万枚以上の作品を世に送り出す。2度のグラミー賞受賞作品など世界的にも高い評価を受ける

続いてはHotoda氏がUADプラグインを用いた自身のミックスをPro Toolsのセッション・ファイルを参照しながら解説。まずはイントロダクションとして、自身のエンジニアとしてのキャリアのスタートがUNIVERSAL AUDIOの創始者=ビル・パットナム・シニアがシカゴに設立したユニバーサル・スタジオでのアシスタントであったことを明かし、「僕とUNIVERSAL AUDIOは不思議な縁があるんです」と語り始めた。

「僕が入った1979年にはもうビルが作ったコンソールはスタジオに無かったのですが、1176の原型となった176の試作品などがゴロゴロしていました。当時はMIDIの出始めで、ポップスの作り方が大きく変わろうとしていた時代。エポキシ樹脂を壁に塗ったエコー・チェンバーなど、いろいろと楽しい思いをさせてもらいました。その意味でも、当時ユニバーサル・スタジオで使用していた1176LNやCOOPER Time Cubeなどが、UADプラグインとして現在ラインナップされているのは感慨深いですね」

続いてHotoda氏は、奥方であるNOKKOが所属するバンド=REBECCAのデビュー30周年を記念したハイレゾ配信プロジェクト『REBECCA-revive-』より、代表曲である「フレンズ」の再ミックスの工程について、「当時のエンジニアのところへ、どのようにミックスしたのか話を聞きに行ったんです」と振り返る。

「何せ30年前の話なのでほとんど覚えていらっしゃいませんでしたが(笑)、それでも当時録音が行われたソニーミュージック信濃町スタジオの機材を調べたりして、まずは自宅スタジオのNEVEコンソールなどを使ってオール・アナログで再現してみました。当時の2ミックスのセンターに定位した音をキャンセルして、どのようなリバーブが使われていたのか、どの楽器がどこに定位しているのかを確認したりしましたね。その上で、もう1つのバージョンとして、それらのアウトボードをすべてUADプラグインに置き換えたデジタル・バージョンを作ってみたんですよ」

出来上がった2つのミックスを、NOKKOと同じくREBECCAのメンバーである土橋安騎夫に聴かせた反応は、次のようなものだったという。

「2人とも、アナログ・バージョンは“当時の信濃町スタジオのラージ・モニターで聴いたのと、全く変わらない音がする”と言うんです。良い/悪いではなく、当時のままの音だと。次にプラグインで作ったミックスを聴かせたところ、こちらは“聴こえが新しい”との反応でした。要は、当時の機材と同じようにUADプラグインを使っても、出てくる音の印象はアップデートされたものになっていたんですね……以前はスタジオに1176LNが1台しか無いということも多く、それをどう使うかを工夫しながら音を作っていたわけですが、今は、例えば1176LNを多重がけしてサチュレーションで音を作る手法はスタンダードなものになってきています。このように、1176LNを昔と同じように使うのではなく、プラグインとしてどう応用していくかが、現代のクリエイターには求められているのではないでしょうか。それらを自由な発想に使っていくことで、リスナーの耳に新鮮に聴こえる音楽が作れるように感じます」

Hotoda氏は「フレンズ」のUADバージョンで使用したプラグインについて解説を続ける。

「まず、当時使用していたNEVEコンソールのシミュレーションとして、全トラックにNeve 31102を立ち上げました。NEVEの卓のEQの特筆すべき素晴らしいところは、各バンドのゲインのツマミを回しきっても音がひずまないところなんです。このプラグインはその特性が忠実に再現されているところに感心しました。1176LNも同様に強めの設定にしても音像が崩れません。これならば実機を扱っている感覚とほとんど変わらず使えます。ここはエンジニアとして大事なポイントです」

タムのトラックにインサートされたNeve 31102(上)と1176LN。ともに大胆な設定にしても音として破たんすることがないため、実機と同じような感覚で使えるという タムのトラックにインサートされたNeve 31102(上)と1176LN(下)。ともに大胆な設定にしても音として破たんすることがないため、実機と同じような感覚で使えるという

ドラムに関してHotoda氏は「センドで送ってゲート・リバーブをかけています」とUADプラグインの活用法を解説する。

「リバーブはAMS RMX16やEMT 140を使い、残響音にスネアをトリガーにしたValley People Dyna-miteでゲートをかけました。恥ずかしいくらいの80’sサウンドですが、こうしないとあの音にならないので(笑)。ほかにシンセ・ベースにはDimension Dをかけています。これも独特なモジュレーションで、このニュアンスはほかのエフェクトでは再現できません。1980年代のスタジオがプラグインで新しく再現されるのが楽しかったですね」

スネアのリバーブとして使用されたEMT 140(上)、下のValley People Dyna-miteのゲート機能を使用していわゆる“ゲート・リバーブ”の効果を出しており、1980年代のドラム・サウンドを再現 スネアのリバーブとして使用されたEMT 140(上)、下のValley People Dyna-miteのゲート機能を使用していわゆる“ゲート・リバーブ”の効果を出しており、1980年代のドラム・サウンドを再現
ベースに挿されたRoland Dimension D。バケツリレー式のコーラスを忠実に再現し、ミックスの中でベースが聴こえてくるような効果を演出 シンセ・ベースに挿されたRoland Dimension D。バケツリレー式のコーラスを忠実に再現し、ミックスの中でベースが聴こえてくるような効果を演出

新しいミックスは特に低域の厚みと音のスピード感が印象的だったが、Hotoda氏はこうしたプラグイン主体のミキシングについて、「過去の名機のニュアンスやエッセンスを加えつつ、新しいミックスはやはりパワフルになっている」と語る。

「今回やってみて、“アナログ卓でミックスしたからいい音”というわけではないというところが面白いと感じました。UADプラグインを使ったミックスは、やはり“現代の音”がしています。ですから、例えばNEVE 1073の実機を買えない若い人たちも、“実機の音を知らないので……”と気後れすることなく、どんどん新しい使い方を試していけばいいと思います。1モジュールあたり100万円のNEVE 1073を使っているからといって、必ずしも音が良くなり、ヒットするわけではありません。自分の音楽に合ったエフェクト(効果)を選びやすいというのが、UADの最大のメリットと言えます」

Hotoda氏は最後に新しいApolloシリーズについても「Unisonは新しい考え方だと感じます」と語り、2時間におよんだ発表会を次のように締めくくった。

「先ほども申した通り、NEVE 1073は素晴らしいプリアンプ/EQですが、それがすべての音楽に合うわけではないんです。その点、Apolloはさまざまなブランドのマイクプリを手軽にオーディションできます。そしてそれは、プライベート・スタジオでの制作が主流になってきた昨今、ある意味で最も必要とされているテクノロジーなのかもしれません。本体にDSPを積んでいるのでコンピューターへの負荷も軽減できますし、自分のゴールに近いところまで手早くたどり着けそうです。これからの音楽制作に即した、素晴らしいプロダクトだと思います」

なお本誌7月号の特集「プレミアム・オーディオ・インターフェースの世界」では、奥田泰次、檜谷瞬六、藤巻兄将というstudio MSR所属エンジニア3氏によるApollo 8のクロス・レビューをいち早く掲載している。こちらも併せて確認いただきたい。

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Apollo 8 Duo:オープン・プライス(市場予想価格245,000円前後)
Apollo 8 Quad:オープン・プライス(市場予想価格310,000円前後)
Apollo 8p:オープン・プライス(市場予想価格370,000円前後)
Apollo 16:オープン・プライス(市場予想価格370,000円前後)

問合せ:フックアップ 03-6240-1213