【音楽制作お悩み相談室】1小節分のコードがどうしてもしっくりきません......

音楽制作お悩み相談室

日々音楽生活を送っていて、ふとした疑問が湧いたり、制作がうまくいかなくて悩むことはありませんか?『音楽制作お悩み相談室』は、サンレコWEB会員の皆様が、そんな疑問をいつでもプロに投げかけることのできるコーナーです。本日は、カトウさんからの質問にお答えいたします。

Q. 曲を作った際、例えば1小節分のコードだけがどうしてもしっくりこず、DAW搭載のコード支援機能や、リハーモナイズについて提案してくれるプラグインを用いて、代替のコードを探すことがあります。

しかし、まれにどの代替案もピンとこず、頭の中で鳴っている雰囲気と一致しないことがあるのですが、特定の和音を当てはめてしまうと、成立しない曲、音楽というものもあるのでしょうか?

それとも、私が正解のコードに辿り着いていないだけ、もしくは"頭の中で鳴っている探し求めている雰囲気"自体がある種の誤解…ということもあり得るのでしょうか? 

byカトウ

A. 理論的に間違っているコードが、あなたにとっての正解かもしれません

 私もコード支援系のソフトを使ったことがありますが、いくらやっても全然ハマらないときはハマりませんよね。ハマるコードをガチャのように探していくよりも、自分が好きな響きを勉強した方がむしろ早いかもしれません。

 また、こういった支援ソフトは理論に沿った正解のコードを出してくれますが、“間違い”は提案してくれないと思うんです。ジャズ・ピアニストのセロニアス・モンクはミスタッチが多く、理論上はNGなことをしていると思ってる人も多いですが、たぶん本人は鍵盤の音から少しだけ低いブルーノートを鍵盤で表現しようとして、意図的に逸脱してると思うんですよね。微分音的な音はピアノで出せないので、濁った音を“俺はこれがカッコいいと思う”って提示してる。そういう普通じゃない響きって、支援ソフトはなかなか出してこないんじゃないでしょうか。

 質問者の方はもしかすると、“理論上は間違っているコード”が好きなのかもしれませんね。私の周りには(意図的かどうかは置いておいて)、理論に沿っていないコードを使うことで、それが耳を引く要素になっているような曲を持ってくる若者が出てきていています。特に現代では、楽器が弾けなくても理論を知らなくても、DAWで曲を作れますよね。コードが理論から外れていても、良い感じのリズムやメロディがあれば、良い曲が作れるんですよ。“理論的には一般的でないことが自分のやりたいことなのかもしれない”というのは、一度考えてみるといいと思います。

 ほかによくあるケースとしては、自分の歌や演奏をズレた状態で聴きすぎてしまって、正しい音に直したときに気持ち悪く感じてしまう、ということもあります。“ぴったりこの音が正解”ではなくて、少しずれた状態の音が、自分の中の正解としてすり込まれているんですね。

 似たような話で、“チューニングが合っていることがよくない”というケースもあります。私はヴェルヴェット・アンダーグラウンドのような、シンプルなオルタナ系の音楽を録音したことがあるのですが、ギターのチューニングを完全にそろえて録音すると、何のドラマも起こっていない、つまらない音楽になってしまったんですよ。当時本人は状態の良くないギターを使っていたはずで、それにより曲に奥行きが生まれていたんですね。

 しっくりくるコードが見つからない理由は、考え出すとキリがないです。一回全部はじめから、明らかにおかしいなというところも含めて、自分が気持ちいいと思える響きを探してみたらいかがでしょうか? 何でも試してみたらいいと思いますよ!

この質問については、サンレコTV Vol. 3(37:30〜)で詳しく語っています!

回答:中村公輔

中村公輔

 【Profile】レコーディング/ミキシング・エンジニア。近年は、折坂悠太、宇宙ネコ子、大石晴子らのエンジニアリングで知られる。アーティスト活動も行い、neinaの一員としてドイツの名門=Mille Plateauxなどから作品を発表。以降はKangarooPawとしてソロ活動を展開する。

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