【音楽制作お悩み相談室】アーティストとのやりとりの中で、驚いたことや新たな気づきを得たエピソードを教えてください

音楽制作お悩み相談室(照内紀雄)

日々音楽生活を送っていて、ふとした疑問が湧いたり、制作がうまくいかなくて悩むことはありませんか? 『音楽制作お悩み相談室』は、サンレコWEB会員の皆様が、そんな疑問をいつでもプロに投げかけることのできるコーナーです。本日は、ゆきまるさんからの質問にお答えいたします。

Q. 今まで依頼を受けたアーティストから、レコーディングやミックスのアプローチについて相談されたことで、驚いたり、新たな気づきを得たりしたことなどがありましたら、エピソードとともに教えていただきたいです。
よろしくお願いいたします。 

by ゆきまる

A. どんな現場でも毎回驚きや新たな気づきがあります。

どのアーティストさんの現場でも、
毎回、何かしらの驚きや、新たな気づきがあります。


例えば、
いただいた作業用のセッションデータにインサートされている未知のプラグインや、チェック用に持ち込まれたヘッドホン。持っていないものは持っているもので代用せず、直ちに購入します。

マイクのチョイスや立て位置、ミックスの際のバランス感覚なども、言われたことは、一度は実践してみます。

聴いているポイントや気にする部分、好き嫌いは人によって全然違うので、
その手法がほかでは通用しないそのアーティスト独自のものになったりするし、
逆にどこに出しても喜ばれるスペシャリテに昇華したりもしますね。

うまくいったマイキングや、教えてもらったプラグインが、そのままほかでもスタメンになることは割と多い気がします。

「これを大きく聴きたい!」と言われたときに、
実はほかの何かを小さくする、というのが正解だったり、
「ここでハッとさせたい!」と言われたところが、
実はそこまで余計なことをしなくて良かったり。

あとは、音を色や風景で表現する人もいて、
面白いなぁ〜と思います(ちなみに僕は音は図形で考える派です。詳しくはサンレコ2024年4月号を参照)。


中でもとても驚いたことを、
エピソードとともにお話ししたいと思います。

とある日のレコーディング終わりにラフミックスを作っていて、
普段は(後日、続きの作業のことなども考えて)すべてAVID Pro Toolsの中でバランスをとるのですが、
その日は気まぐれである程度のオケのステムと歌をそれぞれスタジオのコンソールのフェーダーに立ち上げて作業をしていました。


すると、後ろで聴いていた人の誰だったかが、

「歌をもう少し大きくしておいてもらっても良いですか?」

と言うので、

僕は歌を立ち上げていたフェーダーに手をかけ、ボリュームを上げようとするのですが、どうしてもそこから上へフェーダーが上がらないんです。物理的に。

おかしいな?故障かな?

と思いながら一生懸命フェーダーを動かそうとしていると、
今度は後ろで聴いていた人が全員口を揃えて

「いや、もう大丈夫です!」
「歌、上げなくても大丈夫です!」
「このバランスで落としましょう!」

※ここでの“落とす”とは、卓のアウトをProToolsに録音してラフミックスを完成させる=DAWで言うバウンス的な意味

と言うんです。

あれ、そうですか?
ではこのまま落としますね。

ということで、その日はそのバランスでラフミックスを作って終わりました。
そして、次の作業のときにこんな会話になったんです。

「照内さん、この前ラフミックスを作ってるとき、見えてなかったんですか?」

え、何がですか?

「照内さんが上げようとしてるフェーダーを、卓の上から両手で押さえている子供がいたんですよ」

そう、その子供
僕以外には全員見えていたみたいなんですよね。

あれには驚きました。
驚いたと言うか、血の気が引きましたね。

回答:照内紀雄

照内紀雄

照内紀雄(Photo:Chika Suzuki)

【Profile】青葉台スタジオ所属のエンジニア。Vaundy、ザ・リーサルウェポンズ、和ぬか、なとり、a子、キタニタツヤ、大橋ちっぽけ、[Alexandros]、マハラージャン、超ときめき♡宣伝部などを手掛ける。趣味は筋トレと野営。