日々音楽生活を送っていて、ふとした疑問が湧いたり、制作がうまくいかなくて悩むことはありませんか?『音楽制作お悩み相談室』は、サンレコWEB会員の皆様が、そんな疑問をいつでもプロに投げかけることのできるコーナーです。本日は、ポヌーソさんからの質問にお答えいたします。
Q. ボーカルミックスで、抜け感とマイルドさを両立させるにはどうしたらいいですか? 抜け感を出そうとすると、どうしても耳に痛い感じの音になってしまうし、マイルドさを出そうとするとこもりがちです……。 byポヌーソ
A. なるべく川上で問題を解消して、ミックスで大がかりな処理をしない方がすっきりした音になります
これに関しては、自分は特殊なことは何もしていません。自分で録音したものに関しては、ビンテージ系のEQを素通ししたくらいのひずみしか足していないことも多いですし、エキサイターを通すのは本当に稀です。90's的なバイブスを足したいときにはひずみを、80's的な方向ならエキサイターをかけることもありますが、ほとんどの場合、EQで10kHzを2dB程度突くくらいで、何もしていないに等しいです。
ものすごく根本的なところですが、まずボーカルが生歌の段階で痛くないかどうか。喉を締めてキンキンな感じで歌っていたり、突発的に痛く聴こえるような箇所がないかどうか。これは歌いやすいキーに変えるなり、歌い方を気をつけるなりで大幅に解消できます。
録り音に問題がない場合は、歌のバランスが小さすぎたり、アレンジが混み合いすぎているのが原因な可能性があります。例えばサビになると歌が抜けて聴こえずに、痛いところは目立っているというケースでは、単純に歌のボディになっている周波数帯が、ギターや鍵盤、中央に配置されたスネアなどでマスキングされてしまって、周波数が被っていないキンキンする帯域だけが飛び出して聴こえるのはありがちです。これは8割がた、ボーカルを大きくするか、周波数帯がかぶる楽器のパンを左右に避けることで解消可能です。
それでも解決しない場合は、ボーカルをEQでブーストしたい帯域を、中央定位した楽器にEQをカットする方向で処理してみてください。声は日常から聴き慣れているので、極端なEQやエフェクトをかけると違和感を感じやすいため、ボーカルで上げたい帯域をほかの楽器から削る方が、素直な音に聴こえやすいです。
EQもひずみも処理を増やすほど濁るので、抜けを良くしたければ処理を減らすこと。こもりの解消でかけているEQも、マイクに対して距離が近すぎるか、反射でモワモワした音になってしまう部屋で録っているのが原因かもしれないので、なるべく川上で問題を解消して、ミックスでは何もしない方がすっきりした音になります。
それでも抜けてこないと感じるなら、ボーカルが抜けて聴こえるところと埋もれて聴こえるところが混在している状態だと思うので、どこが聴こえてどこが聴こえづらいのかをメモして、フェーダーにオートメーションを書いて解消してみてください。大抵の場合は、ここまでやればマイルドで抜けた音のボーカルになるはずです。
プロは何か秘密のプラグインを使っていると思っている人が多いですが、ほとんどの場合、何かをかけて一発解決なことはなく、アマチュアの人が面倒だと思う細かい処理を愚直にやっているだけです。それかシンプルに歌がうまい、アレンジに無駄がないなど、ミックス以前に解決してしまっていて、処理でそうなっているわけではないことが多いです。
回答:中村公輔
【Profile】レコーディング/ミキシング・エンジニア。近年は、折坂悠太、宇宙ネコ子、大石晴子らのエンジニアリングで知られる。アーティスト活動も行い、neinaの一員としてドイツの名門=Mille Plateauxなどから作品を発表。以降はKangarooPawとしてソロ活動を展開する。