日々音楽生活を送っていて、ふとした疑問が湧いたり、制作がうまくいかなくて悩むことはありませんか?『音楽制作お悩み相談室』は、サンレコWEB会員の皆様が、そんな疑問をいつでもプロに投げかけることのできるコーナーです。本日は、すぎさんからの質問にお答えいたします。
Q. 教えてください。DAWで2mixなどのステレオソースにモノラルコンプ(アウトボード)をかけるのはまちがいですか? byすぎ
A. 間違いですが、工夫して使うこともできます
モノラルのコンプをステレオ素材にかける場合、Lにコンプを通して録音、次にRにコンプを通して録音し、両方を合成して2ミックスを作る考えだと思います。このときに問題になるのが左右の音量差です。
ステレオにミックスしたドラムにかけるのを思い浮かべてもらえると分かりやすいでしょう。左右で鳴る太鼓が違うので、音量差が生じてしまうのが分かると思います。例えば、左でフロアタムが鳴っているときには左側だけ音量が上がるので、Lchでコンプが引っかかり、フロアタムが無いRchではコンプがかかりません。
フロアタムにはコンプがかかるので、一見大きいところをつぶす役割を果たしているように見えるかもしれないですが、Lchに入っているのはフロアタムだけではありませんよね。中央に定位しているキックやスネアも、半分はLchに入っています。なので、フロアタムが鳴るたびに左のキックやスネアが小さくなり、2ミックスを聴くと、フロアタムが鳴るたびにキックやスネアのパンがハイハット側に移動していくというヘンテコなミックスになってしまいます。2ミックスにモノラルコンプをかけないのは、これを防ぐ理由からです。
ただし、使い方によっては全く使うのが無理なわけではありません。コンプに“Key In”端子がついていてサイドチェイン機能が使える機種であれば、2ミックスを一旦モノラル化して、そのモノラルのファイルをソースにしてKey Inに入力すれば、L/Rを別にかけてもリダクションの分量、タイミングが同じになるため、ステレオ・イメージは崩れません。擬似的にステレオリンクと同じことをする感じです。
ビンテージの機材ではKey Inがついていないケースが多いと思うので、その際にはMSデコーダー/エンコーダーを使って、ステレオをセンターとサイドの成分に分けた後にコンプを通し、録音したファイルを再びステレオに戻すというやり方もできますね。
外部のコンプをかけるのがリダクション目的ではなく、通ったときの音質変化が欲しいだけであれば、一切コンプがかからないようにして単なるラインアンプとして使うとステレオ・イメージが崩れることはありません。コンプをかけるという目的からはちょっと外れるかもしれないですが、これが一番簡単に機材の質感を付加できるので、自分もたまに行うことがあります。
回答:中村公輔
【Profile】レコーディング/ミキシング・エンジニア。近年は、折坂悠太、宇宙ネコ子、大石晴子らのエンジニアリングで知られる。アーティスト活動も行い、neinaの一員としてドイツの名門=Mille Plateauxなどから作品を発表。以降はKangarooPawとしてソロ活動を展開する。