STEINBERG Nuendo 7発表会レポート

去る7月3日、STEINBERG Nuendo 7の発表会が開催された。Nuendoはポストプロダクション業務で用いられることの多いDAWソフトだが、今回のバージョン・アップではゲーム・サウンド向けの機能強化がハイライトということもあり、ゲーム・メーカー所属のクリエイターを中心に、業界関係者が多数参加する発表会となった。

作業時間の短縮に寄与する新機能と新プラグイン・エフェクト

前半は、ヤマハミュージックジャパンとともにNuendo 7のマーケティングを担当するSTEINBERG PartnerとなったOM FACTORY、Audiokineticの担当者によるNuendo 7の新機能解説が行われた。

まず登壇したのは、DAW向けのWindowsパソコン・カスタマイズを手掛けるOM FACTORY代表の大島崇敬氏。「パソコンのパーツは3カ月に1回性能が向上したものが出るので、CPUベースのNuendoはそのメリットを享受できる」とし、「STEINBERGはVSTとASIOの大元であるので、その安定性に信頼が置ける」とも語る。

OM FACTORY 大島崇敬氏 OM FACTORY 大島崇敬氏

そして今回の発表会のメインとなる“Wwiseとの連携”以外のNuendo 7の新機能として、クリエイティビティにかかわるものと、作業時間の短縮につながるものとを大別。前者の例としては、任意のオブジェクトをエフェクト付き/無しで即座にオーディオに書き出せるインプレイス・レンダリング、1本のフェーダーで複数トラックのフェーダーを操作できるVCAフェーダー、Multiband Envelope ShaperやQuadraFuzz V2といった新プラグインの搭載を挙げた。

クリエイティビティの向上にかかわるNuendo 7の新機能 クリエイティビティの向上にかかわるNuendo 7の新機能

また後者では複数のオブジェクトを指定した条件で一気に書き出すレンダー・エクスポート、インストールしたプラグインの中から任意の組み合わせだけをリストに表示するプラグイン・マネージャー、映像の入れ替えがあってもタイミングを合わせたオーディオ・トラックを追従させるReConformといった機能を紹介。NuendoがMAはもちろん多用途に使えるDAWソフトであることをあらためて強調していた。

作業時間の短縮に貢献するNuendo 7の新機能 作業時間の短縮に貢献するNuendo 7の新機能

ゲーム・オーディオ用ミドルウェアWwiseと双方向に連携

大島氏はここから発表会の進行を担当し、Audiokineticの田島政朋氏が登壇。同社のWwiseとNuendo 7との連携についての解説が田島氏によって行われた。

Audiokinetic 田島政朋氏 Audiokinetic 田島政朋氏

まず、ゲーム・オーディオ・ミドルウェアと呼ばれる開発環境であるWwiseの役割についての概説が行われた。音楽やMAなど、DAWが通常想定しているのは時間軸に沿ったサウンド表現であるが、ゲームで求められるのは“銃を打つ”“銃弾が当たる”といった“イベント”に対する発音であることを説明。かつてはSEや音楽担当者が音素材を用意し、プログラマーがそれをゲームに組み込むという形が採られていたが、ゲームが高機能化していくに従って、より複雑な音響処理が求められるようになる。これをオーディオ担当者レベルで用意できるのがオーディオ・ミドルウェア。例えば4音のレイヤーで構成される拳銃の発砲音に対し、各レイヤーの音量やフィルター処理を変えることで“距離”の違いを表現する……そういった組み込みを可能とするのがオーディオ・ミドルウェアである。こうしたオーディオ・ミドルウェアはゲーム・メーカーが独自で開発することも多かったが、近年ではWwiseが採用されることも多く、田島氏によれば「6月にロサンゼルスで開催された世界最大のゲーム見本市、E3 Electronic Entertainment Expo 2015で発表されたゲームのうち、60本もの新作でWwiseが採用されている」というほど標準的な地位を占めているとのことだ。

Wwiseの概説。ビデオゲームに限らず、テーマパークのアトラクション制作なども想定しているそう Wwiseの概説。ビデオゲームに限らず、テーマパークのアトラクション制作なども想定しているそう
Wwiseの画面。右に再生レベルのメーターが見える Wwiseの画面。右に再生レベルのメーターが見える
Wwiseの別画面。これは4音をレイヤーした銃声で、距離に応じてスタート・ポイントを変える設定が施されている Wwiseの別画面。これは4音をレイヤーした銃声で、距離に応じてスタート・ポイントを変える設定が施されている

ただし、従来のDAWとWwiseとのやりとりは、WAV/AIFFといったファイルにサウンドを書き出して、それをWwiseに読み込むという手順が必要であった。当然、素材の修正にはDAWに戻る必要があり、数千〜数万ファイルが用いられるゲームでは非常に煩雑な作業であったという。特にゲームでは複数のクリエイターが共同作業することも多く、長期にわたるプロジェクトでは担当者の交代などもしばしばあるので、こうしたファイルの管理は非常に手間のかかる作業であった。

DAWとWwiseの関係 DAWとWwiseの関係
従来のゲーム・オーディオ制作のワークフロー 従来のゲーム・オーディオ制作のワークフロー

そこで開発されたのが、Nuendo 7の新機能、Game Audio Connect。Wwise上でフォルダーを選択し、Nuendo上でオブジェクトをGame Audio Connectウィンドウへドラッグ&ドロップ(またはレンダー・エクスポートするだけでWwiseへの転送が可能。一方Wwise上では「Open in Nuendo」コマンドで元のプロジェクト・ファイルが展開し、その該当部分が選択された状態になる。機能としてはシンプルそのものだが、これで短縮できる作業時間は計り知れないだろう。

Game Audio ConnectでNuendoとWwiseを接続 Game Audio ConnectでNuendoとWwiseを接続
Game Audio Connectがもたらすワークフローの概念図 Game Audio Connectがもたらすワークフローの概念図
画面中央下にある小さいウィンドウがGame Audio Connectウィンドウ(発表会後半の模様より) 画面中央下にある小さいウィンドウがGame Audio Connectウィンドウ(発表会後半の模様より)
Game Audio Connectでこれだけ作業工程がシンプルになる Game Audio Connectでこれだけ作業工程がシンプルになる

Nuendoで作業環境を統一したプラチナゲームズの実例

後半は引き続き、OM FACTORY大島氏のナビゲートで、プラチナゲームズ山口裕史、中越健太郎の両氏によるゲーム『BEYONETTA 2』におけるNuendo使用例が紹介された。同社では6名のBGMチームと7名のSEチームの個人、そしてそれぞれのチーム用スタジオのDAW環境をWindowsでのNuendoに統一。Windowsを採用しているのは、ゲーム開発環境としてはWindowsが標準的であるからとのこと。外部スタジオで収録された音声がAVID Pro Toolsのファイルで持ち込まれる場合は、Pro Tools上でOMFに変換し、Nuendoにインポートして作業しているという。山口氏は全員で環境を統一したことで「情報共有と連携ができるのがメリット」と説明していた。

作業環境をすべてNuendoに統一したプラチナゲームズのサウンド制作部門 作業環境をすべてNuendoに統一したプラチナゲームズのサウンド制作部門

BGM担当の山口氏は、「Nuendo Expantion Kitをインストールしているので、テーマ曲のボーカル録音時に使う譜面もNuendoで制作」しているとコメント。『BEYONETTA 2』のテーマ曲「Tomorrow is mine」のプロジェクトを見せながら、使用しているVSTインストゥルメントやエフェクトを紹介していった。「MIDIトラックはミュートしてからフリーズしておくと、プロジェクト起動時にVSTインストゥルメントの読み込みが行われないので、起動が速くできる」という裏ワザも公開。また曲を作りつつ大まかなバランスも作っているので、ミックスは18本程度のグループ・チャンネルのフェーダーで足りるという作業プロセスも披露していた。さらに、ゲームは場面の遷移に合わせてBGMも切り替わっていくので、曲のパート同士をアレンジャー・トラックで切り替え、そのつながりを確認しながら曲を作っていくという、ゲーム音楽ならではの使い方も紹介。「ゲームの進行に合わせてBGMが変わっていく、インタラクティブ・ミュージックを作っていく際にも、Game Audio Connectとともに使える機能だと思います」とNuendoの利点を語っていた。

プラチナゲームズ山口裕史氏 プラチナゲームズ山口裕史氏
「Tomorrow is mine」のプロジェクト。VSTインストゥルメントにはRetrologueやPrologueといったSTEINBERG純正のものも見える 「Tomorrow is mine」のプロジェクト。VSTインストゥルメントにはRetrologueやPrologueといったSTEINBERG純正のものも見える

一方、BGM担当の中越氏は、先のインプレイス・レンダリングを大きな利点として挙げ、「従来は必要な部分をソロにしてバウンスしていたが、どうしてもソロのオン/オフのミスなども含め、膨大な時間がかかっていました。それが解消できるのは大きいですね」と証言。また、仮想のモニター・コントローラーとも言えるControl Roomがサラウンド対応していることで高価はサラウンド対応ハードを用意しなくても済むことや、距離感なども自然にコントロールできるIOSONO Anymix Proが標準で付属し、Nuendo 7のミキサーのパンナーとして組み込める点を高く評価していた。

プラチナゲームズ中越健太郎氏 プラチナゲームズ中越健太郎氏
高度なサラウンド・パンナーAnymix ProがNuendoにはビルトインされている 高度なサラウンド・パンナーAnymix ProがNuendoにはビルトインされている

最後に、ヤマハミュージックジャパンより、Nuendo 7のさまざまなパッケージ/ダウンロード販売の形態について説明があった。Nuendo 7通常版(オープン・プライス)、Nuendo Expansion Kit(ダウンロード販売:15,000円)のほか、Ver.4〜6.5からのアップデート版が各種(Nuendo Expansion Kitの有無の違いもあり)も用意。学校・教職員向けのアカデミック版(オープン・プライス)にはCubaseからのクロスグレード版(60,000円:本数限定)、学生対象のスチューデント版(50,000円)、学校設備向けで5ライセンスが1年使用可能なアカデミック・マルチパックもラインナップされている(詳細)。
また、Advanced Nuendo Dealerでは、AVID Pro Tools(Ver. 9以降)またはPro Tools|HD/HDX(Ver. 7)以降のユーザー向けのクロスグレードとして、通常版の優待販売が本年11月30日まで行われるとのアナウンスもあった。

●STEINBERG公式Webサイト http://japan.steinberg.net/

●Nuendo http://japan.steinberg.net/jp/products/nuendo/start.html