
AVID Pro Toolsユーザーを訪れ、仕事で使うツールとしての魅力を語っていただくこの連載。今回は東京・目白にあるStudio Luxeを訪れた。作編曲家・斎藤悠弥が率いるプロダクションSound Driveの拠点であり、外部への貸出にも対応しているが、主用途はもちろん斎藤や所属クリエイターの日々の制作だ。斎藤に話を聞いた。
オーディオ編集は圧倒的にPro Tools
ワークフローを“分かってる感”がすごい
Jポップ/Kポップ/アニメ/ゲームの作編曲家として、2009年にSound Driveを設立。2011年にこのStudio Luxeを開設するに至った。
「社内の制作を回していくためのスタジオとして作りました。今はゲーム音楽のつながりからゲームそのものの制作にまで仕事が広がり、ゲーム関連のアプリの音声収録やイベント、アーティスト・コーディネート、プロモーション戦略立案まで仕事が広がっています。Sound Drive設立当初からアーティストやボカロPの育成/プロデュースなどもしてきた流れでそうなりました」
音を作るところから、人を育て、イベントを手掛けるようにもなったという斎藤。しかし基本は作曲/編曲家であることに代わりはない。もともと打ち込みで曲作りを始めた彼にとって、Pro Toolsは当初、“エンジニアリング&オーディオ編集ツール”として見えていたそうだ。
「ほかのDAWがMIDIシーケンス・ソフトから発展してきたのに対し、Pro Toolsはオーディオがベースになっている。スタートが違うわけですよね。使用歴で言えばPro Toolsより長いものもある中で、Pro Toolsの波形編集のしやすさ……クリップを切ったり、フェードを描いたりという操作性は圧倒的です。レコーディングも、フェーダー横にインプット・モニターのボタンがあるなど、ワークフローを“分かってる感”がすごいと思います」
自身がそう言うように、MIDIの打ち込みは他のソフトを長く使ってきたが、最近は打ち込みからミックスまでPro Toolsで通すこともあるという。
「Pro Tools 11でオフライン・バウンスが出てきてくれたおかげです。外部のスタジオに持っていくにはどうしてもオーディオ化しないといけませんでしたし、それ以前はバウンスに実時間がかかりましたから。あるいは打ち込みはほかのソフトでやっても、ギター・ダビングはPro Toolsでやるというパターンもありますね」


HD I/Oの方が優雅で良い音
でも慣れた192 I/Oで作業することが多い
Studio Luxeは広々としたコントロール・ルームが特徴。正面にボーカルはもちろんギター・アンプの収録も可能なブースを備えている。コンクリート造の半地下物件で、もともと遮音性は十分だったとのこと。ルーム・アコースティックの調整にVICOUSTIC製のディフューザーや吸音パネルを用いている。
「ドラム録音は外のスタジオを使うことにして、コントロール・ルームに余裕のある造りにしました。でも時々ドラムも録れた方が良かったかなと思います。いちクリエイターのスペースとしては、いつでもドラム/ピアノ/ギターが録れるという形もいいなぁと。でもそれだと人は呼べないですね」
現在は上階のオフィス・スペースにプリプロ・ルームを設けており、アナログ・シンセなどはそちらに移設したとのこと。厳選した機材がデスクに埋め込まれているが、Pro Tools用のAVID HD I/Oだけなぜか2Uラック・ケースに収められている。
「HD I/Oはプリプロ・ルームに持っていったり、持ち運んで使うことが多いです。機材面でお世話になっているRock oNさんでいろいろI/Oをそろえてもらって聴き比べしたんです。HD I/Oは優雅でいい音なんですが、ずっと192 I/Oを使っていたということもあってか、こちらの方が僕にはモニターしやすい。メイン・モニターとして使っているADAM AUDIO S2Xとの相性もあるのかもしれません。定番のモニター・スピーカーやヘッドフォンを使うのと同じ意味合いで、192 I/Oを使っていると言えますね。だから、作業は192 I/Oでして、クライアントに聴かせるときはHD I/Oに変えることもあります」
斎藤自身は相当の機材好きだが、トータル・リコールやサミング・バスの向上などを考慮すると、現在のDAWのスペックは十分だと考えているそうだ。
「サミング・アンプもRock oNさんで借りて片っ端から聴き比べたりもしましたが、それぞれに色があって、どれがいいか/悪いかという差はないと思いましたね。コンピューターのスペックが上がって、ノートでもこなせるし、その分、利便性を追求しても音が悪くなったりはしなくなりました。例えばギターが主役のバンドならアンプで録った方がいいでしょうけど、曲中でのシンセとの絡みを考えると後から調整できるようにプラグインを使った方が、結果として作品全体が良くなるでしょうしね。昔と違って、今は誰でも機材がそろえられる時代。でも同じ機材を使っても、センスやスピードが問われる時代なんじゃないかなと思います」
このようにハードウェアの出番は減ってきたというが、斎藤は現在の制作スタイルにあったハードがあってもいいのではないかと語る。
「演奏する楽器としての魅力はありますが、制作のハードウェアとしては、コントローラー……例えば僕がよく使っているREFX NexusとかSPECTRASONICS Omnisphere、NATIVE INSTRUMENTS Massiveなどに特化したコントローラーがあったらとは思いますね」
最後に、このStudio Luxeを軸にした理想の環境について、こう語ってくれた。
「今後は、どこでも同じ環境を再現できるようになってほしいです。遠隔でデータを作れる……外からこのStudio Luxeのディスプレイが直接操作できるようになったり、このスタジオのハード・ディスクに直接アクセスできたりできたらと。今でもクラウドがあったり、ファイル共有はできますけど、そこから一歩進めて、ローカルと変わらない環境がオンラインでできるようになってほしいなと思います」



Presented by AVID & Rock oN/ROCK ON PRO