【第3回】作曲時にガチ使いできるAIツール by 浅田祐介 〜「AI」と「音楽クリエイター」は共存できるか?

サンレコWEBでは異例なテーマの連載として始まった本連載。

第3回は、6/12に刊行された『AI時代の職業作曲家スタイル 逆張りのサバイバル戦略』(山口哲一 著、浅田祐介 協力)の内容を踏まえて、作曲家にとって有益なツールを、浅田さんの制作フローを通して紹介してもらいます。

浅田祐介(左)、山口哲一(右)

浅田祐介(左)、山口哲一(右)

浅田祐介

【Profile】音楽プロデューサー、コンポーザー、ミュージシャン。1991年にCharaのサウンド・プロデューサーとしてキャリアをスタートし、その後CHEMISTRY、Crystal Kay、キマグレンなどトップ・アーティストの作品を数多く手掛け、1995年にはシンガーとしてもデビュー。エニシング・ゴーズ代表。JSPA(日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ)理事

山口哲一

【Profile】音楽プロデューサー、エンターテックエバンジェリスト。起業家育成と新規事業創出を行うスタートアップスタジオ、StudioENTRE代表取締役。知的財産戦略本部コンテンツWG委員、iU超客員教授。プロ作曲家育成「山口ゼミ」主宰。Web3✕音楽の中心地「MID3M+」ファウンダー。『コーライティングの教科書』『音楽業界の動向とカラクリがわかる本』他著書多数。『AI時代の職業作曲家スタイル~逆張りのサバイバル戦略』6月12日発売予定。

AIにすべてを任せず、得意な部分はむしろ自分でやりたい

山口 今回は、音楽制作で使っているAIツールを紹介してもらえるんですよね?

浅田 はい。僕が普段の作業の中で利用しているAIツールについて、『AI時代の職業作曲家スタイル 逆張りのサバイバル戦略』から抜粋して、説明します。中には執筆以降サービスの内容がアップデートされていたりするものがあるかもしれませんが、そこはご容赦ください。

山口 まず作曲の基本として使うツールについてはどうですか?

浅田 この分野でWavToolやTuneFlowなど、VSTやAUプラグインが使えるDAW型のツールも出始めており、プロンプトを書くことによってフレーズを生成させたり、コードを提示させたりすることが可能になっていて期待できる分野です。

山口 かなり話題になっていますよね。でも浅田さんは使う気はないんでしたよね?

浅田 DAWの乗り換えの手間もありますし、さらに最大の理由としては、現状では作曲……特にメロディ作りとコード進行などについては自分が好きな部分で、あまりAIに任せたくないんです。なので、これらは機能などの確認で止まっています。この自分が得意/好きな部分に集中できるというのもAIツールの恩恵の一つなのではないかと思っています。

山口 僕も文章を書くのにChatGPTを使おうと試してみたのですが、文体が微妙に気に入らないとか、あと、そもそも自分で書くのが早い方なので、原稿やnoteなどのブログでは使わないなと思っているところです。好きで得意なところは自分でやるものなんだなと(笑)。“コード進行を考えるのが楽しいからAIにやらせたくない”という話は面白いですね。最近話題の、Apple Logic ProのAI機能はどうですか?

浅田 ドラムとベースはかなり使えて、作業時間短縮につながると思いました。キーボードのバッキングはまだ硬いというか、前記二つに比べてもう少し練り込みが必要だと思います。これは自分がキーボードを弾くからかもしれませんが。

Apple Logic Pro 11

Apple Logic Pro 11にビルトインされている「Session Players」は、曲のコード進行に合わせてAIが即興演奏をしてくれるアシスタント機能。Drummer、Bass Player、Keyboard PlayerがAI演奏を加えてくれる

山口 さて、僕らがARS(山口と浅田で設立した、AIをプロの音楽家たちで考える勉強会)を通じて、ヤマハの新技術VX-βでもプロ作家による実験をしましたが(第2回で紹介)、歌声生成AIについては?

浅田 AI歌唱ツールはかなり使います。Synthesizer V、VoiSona、VOCALOID、AceStudioと一通りそろえていますが、特にSynthesizer Vの使用頻度が高めです。仮の歌詞付きの仮歌をオーディオとして取り込んで変換の1ステップで、日本語/英語ならば歌詞も含めてかなりの精度で検知してくれるので便利。もちろん歌のピッチや強弱なども検知してくれるので、“歌える人”にはかなり使いでのあるソフトだと思います。

それまでデモ作りでは、歌詞を書いては歌ってみてハマり方を確認し、変更しては歌い直して再度確認、というプロセスがあったのですが、それが聴こえ方やハマり方のチェックをDAW上のエディットだけでその場で確認できるのは便利。ただし一点、いわゆる“東京特許許可局”のような早口ことばもAIは難なく発声してしまうので、そこは実際に歌ってみて確認するのはマストです。

1番の歌詞は自分で作り、2番以降はAIに任せるのも面白い

山口 さて、『AI時代の職業作曲家スタイル 逆張りのサバイバル戦略』を書いていて、作詞について発見ありました。ここでも浅田さんは自分で好きな作業はやる主義でしたよね?

浅田 作詞に関しては、1番まではほぼ自力で書きます。その後の2番以降はAIにお任せ。

山口 1番は書きたいけれど、2番は任せたい。ソングライター浅田にとって、歌詞の1番はクリエイティブだけど、2番はスキルということですか?

浅田 LLM(大規模言語モデル)であるChatGPTもよく利用しています。もともとの歌詞の題材の取材や要約にも使いますが、よく使うのが2番の歌詞作成。プロンプトとしては1番の歌詞を貼り付けた後、“この歌詞と同じ文字数で、語尾に韻を踏みながら書いてください”などと指示して第一稿を書かせ、気に入らなければ“もっとドラマチックに”とか“逆説的に”などというキーワードを織り交ぜながら、プロンプトを作成してリテイクを重ねます。気に入ったものが出てきたら、それを元に文字数を調整したり、言葉の乗り方や響き方などを訂正し完了になります。

さらにGPTs(カスタムGTP)を使ったサービスも充実しており、Lyric Composerや、面白いところでは1990年代Jポップ風の歌詞を生成してくれる90’s J-Pop Lyricistなど、きっかけ作りや刺激を受けるのに使ったりしています。

山口 作詞ではShikakiもよくできたサービスですね。

浅田 日本初のサービスとして期待していShikakiですが、文字数が指定できたり日本語歌詞の生成に特化しており、うまく使えば生産性向上を期待できそうです。

山口 AIやロボットについて考えることは、人間について考えることになるといつも思うのですが、Shikakiを触ってみて、Jポップという様式について考える機会になりました。

浅田 そうですね。歌詞についてはAIの特性上、比較的優等生的な歌詞を提案してくることが多く、いろいろ試した挙句、1番の歌詞を書きその歌詞を音素的にだったり、語彙だったりのルール付で書かせると、思いも寄らないものが生成されて刺激的です。

AIツールはサッと試して取捨選択する時代

山口 アレンジ/ミックス面で、AI的な再現性を音楽制作で最初に見せつけてくれたのが、iZotopeですよね?

浅田 そうですね。言わずと知れたOzone11。Neutronなど他のiZotope製品も使っていますが、初期のAIを自分の環境で実行するとイメージよりローミッドをカットしたり、上の帯域をひずませたりして今一つ好みではなかったのですが、Ozone 10以降は音楽のジャンルを指定できたりして追い込むことができ、お気に入りのエンジニアが作業をしながらバランスを取ってくれている感じで便利です。

iZotope Ozone 11

AIを備えたマスタリング・ツール、iZotope Ozone 11

浅田 それからTechivationというメーカーは、技術力が高くて注目しています。AIを利用していないプラグインも非常に重宝しているのですが、そんな開発陣がいよいよAI技術を導入してきたプラグインが、AI-ClarityとAI-Loudenderです。それぞれレゾナンス・サプレッサーとラウドネス・プロセッサーなのですが、機械学習を利用し、極めて音楽的な変化をします。特にレゾナンス・サプレッサーはミックスの不要な共鳴を取り除くのに重宝しています。

この他にもたくさんのツールが出てきていて、非常に活発な状況になっていますよね。クリエイターも構えずに、さっと使ってみて取捨選択する時代だと痛感しています。

山口 そう言えば、『AI時代の職業作曲家スタイル 逆張りのサバイバル戦略』の出版イベントの参加者コメントで、“20代で音楽を諦めたが、30代になりAIを使って音楽にもう一度チャレンジしようと思っている”というものがありましたね。

浅田 個人的に心に響きました。音楽だけに限らず“若ければ若いほど良い”という風潮がありますが、社会経験などを通し多様な視野を得てから作られるものに意味があるかもしれません。

山口 音楽制作がDTM……自宅でのパソコンの作業になって、1人で完結できるからこそ、他人との化学反応を呼ぶコライティングが重要になり、そこにテクノロジーの進化によって、AI活用、AIとの共同作業が加わることで音楽の進化があるような気がします。

浅田 コライティングのパートナーの一人が実はAIだった、という時代がくるのはそう遠くない未来だと思います。

山口 次回は、よりクリエイターにとっての実践ということで、僕らがこれから始めるAIシンガー・プロジェクトについてご紹介したいと思います。“クリエイターエコノミーって、こういうことですよね?”という活動がお見せできるかなと思っています。

お知らせ

山口 8/10にAIシンガー・レーベル&メディア「GEMVOX」とアニメ会社GONZOとのコラボイベントが行われます。 SAMURAI cryptos企画で、横山愛さんによるキャラクターの主題歌を、AIシンガー「トパーズ」が歌うというコラボレーションが行われ この日に詳細発表と、横山愛さんのライブ・ペインティングが行われいます。夏コミの前夜祭でもあります。 浅田・山口もトーク出演しますので、ぜひ、チェックしてみてください。

【イベント詳細】http://rmaigonzo.peatix.com/

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