Bitwig Studio 4のエクスプレッション・スプレッドで打ち込みに表情を加える|解説:島田尚

Bitwig Studio 4のエクスプレッション・スプレッドで打ち込みに表情を加える|解説:島田尚

 こんにちは、作編曲家の島田尚です。ドイツに本拠を置くBITWIGのDAWソフト、Bitwig Studio 4の連載、第3回は新機能の一つ“エクスプレッション・スプレッド”を中心に、初心者目線でも分かるように丁寧に紹介していきたいと思います。Bitwig Studio 4は、期間/機能無制限のデモ版(セーブとエクスポートは不可)がありますので、少しでも興味を持った方はぜひ試してみてください。

エクスプレッション・スプレッドでトップ・ノートだけを変化させる

 皆さんは打ち込みに人間味を出すために、MIDIを何度も手弾き演奏し直して時間がかかってしまったという経験はありませんか? そんなとき、Bitwig Studio 4で新たに実装されたランダマイズ機能、エクスプレッション・スプレッドが役立ちます。シンプルなフレーズの打ち込みでも、さまざまなパラメーターにランダムさを加えることで、サウンドに表情を加えることができる機能です。

 

 具体例として、MIDIで3和音を打ち込み、エクスプレッション・スプレッドを試してみましょう。新規プロジェクトを開いてみると、“Inst 1”という名前のトラックが立ち上がるので、画面右端にある“ブラウザー”から“プリセット→デバイス→Bitwig→Synth→Polysynth”と進み、下部のカテゴリーからプリセットである“Synth Pluck 3”をダブル・クリック。すると、Bitwig Studio 4付属のソフト音源、Polysynthが立ち上がります。

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Bitwig Studio 4付属のバーチャル・アナログ・シンセ、Polysynth。オシレーター・シンクやAM変調可能で生み出せる音は多彩

 次に画面左端のインスペクタ内にある“デバイス”欄を下にスクロールしていき、“Timbre”の右側にある矢印をクリック。Polysynthの画面右上にある“FILTER FREQUENCY”ノブの“←→”をドラッグし、モジュレーション・ソースとして“Timbre”を“Filter Frequency”にマッピングします。再び“Timbre”の右側にある矢印をクリックすれば、マッピングは終了です。

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エクスプレッション・スプレッドで扱うパラメーターを設定する。Timbreは発音で、ノート・オンのたびにフィルターのカットオフ周波数が動くように設定。ドラッグ&ドロップで簡単にモジュレーション・マッピングが行えるのがBitwig Studioの大きな特徴だ

 次にARRANGE画面にて1~2小節間のループ・リージョンを作成し、ループ・ボタンをオンに。Synth Pluck 3のトラックに空のクリップを作成します。そして、そのクリップをダブル・クリックして8分音符間隔でG2、C3、E♭3の3和音を入力しましょう。そうしたら、ARRANGE画面下段にあるEditor Panelから“ノートエクスプレッション”ボタンをクリックして、ノート・エクスプレッション専用レーンを表示させます。

 

 ピアノ・ロールにて、トップ・ノートに相当するE♭3の音だけをすべて選択。そうしたらノート・エクスプレッション専用レーンの左端から“ティンバー”をクリックし、今度はインスペクタ内の“エクスプレッション”セクションから“ティンバー”の右端にある三角マークをクリック。“スプレッド”の値を“0.00%→100%”にしましょう。

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エクスプレッション・セクションのティンバーにある三角ボタンをクリックして、スプレッドのパーセンテージを調整する。分かるか分からないかくらいの微妙な度合いで、さりげないランダムさを加えるのも効果的だ

 これで再生してみると、選択したトップ・ノートの音色がランダムに変化することに気付くでしょう。またノート・エクスプレッション専用レーンを見ると、ティンバーの度合いを表す緑色の縦線がループごとに変化するのが分かります。これこそがエクスプレション・スプレッドによってパラメーターがランダムにこれだけ変化しています、という表示なのです。

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エクスプレッション・スプレッドにより、現在表示しているパラメーターが画面下部の縦棒の範囲で変化しているのが分かる。耳と目で判断できるので確信を持ってランダム度合いを設定できる

 トップ・ノートが選択された状態で、今度はインスペクタから“エクスプレッション→パン”と進み、先ほどのティンバーと同様に三角ボタンを選択してスプレッドを100%にしてみましょう。再生してみると、ティンバーの変化に加えてトップ・ノートだけ、パンがランダムに変化するのが分かると思います。

 

 このようにエクスプレッション・スプレッドを使うと、一聴したところ同じコードやフレーズの連続でも、生き生きとした変化を加えることができます。このエクスプレッション・スプレッドは、前回紹介したオペレーターと同じでMIDIだけではなくオーディオにも適用できるため(ゲイン/パン/ピッチ)、ちょっとしたひと手間で、あらゆるトラックに多様な変化を付けることができるでしょう。

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前回紹介したオペレーター(上段)と今回登場したエクスプレッション(下段)は、MIDIだけでなくオーディオにも適用可能。音量やピッチ、パンの変化をクリップ内の特定のリージョンだけに適用することができる

ランダマイズを活用して同じパターンから展開を生み出す

 ここまで紹介した方法では、毎回結果が異なるランダムな変化が生まれます。ですが、クリップごとに結果を“固定”したい場合もあるでしょう。そこで、先ほど作成した3和音のクリップ“Synth Pluck 3 #1”を選択し、インスペクタの中段辺りにあるサイコロ・マークの“シード”ボタンをクリックします。すると、この右側にある“Random”と書かれていた部分がマトリクスの表示に変化しました。

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サイコロ・マークのシード・ボタンもパラメーターをランダマイズをする機能だが、再生に応じてランダム化されるのではなく、右のマトリクス部分をクリックするたびにパラメーターが変わる。これを利用して、同じフレーズのクリップであってもニュアンスの違うものを用意することが可能になる

 ループ再生してみると、何度ループしても同じように聴こえるのが分かるでしょうか? 今度はマトリクス部分をクリックして再生すると、先ほどとは異なる聴こえ方になりました。このように、気に入ったランダムな結果が出るまで、何度もマトリクス部分をクリックすればよいということが分かります。

 

 この機能はクリップごとに適用できるため、ランダマイズして良い感じのループができたら、それを1コーラス目はリピートして、2コーラス目でまた新たにランダマイズして変化を付ける、といったことができるでしょう。場面に応じて変化をランダムにするか、固定にするかを使い分けるのも良さそうです。

 

 このようにエクスプレッション・スプレッドは曲のきっかけとなるモチーフ作りのときや、また1コーラスのデモからフル尺の完パケにブラッシュ・アップする際など、まるで頼もしいアシスタントのようにあなたの制作をサポートしてくれるでしょう。

 

 Bitwig Studio 4の新機能ではありませんが、そのほかの特筆すべき機能として、オーディオ・クリップの中にも複数のオーディオ・イベントを配置できるということが挙げられます。ほかのDAWであれば、分割したイベント=クリップですが、クリップ内でオーディオ編集を行い、そのまとまりをさらにクリップとして扱えるところがBitwig Studioの魅力の一つなのです。

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複数のオーディオ・イベントをクリップに内包できるのがBitwig Studioの強み。MIDIとオーディオを区別せずにクリップ単位で楽曲を構築できる。この画面では“!ChB”という黄色いオーディオ・クリップの中身を下段に表示しているが、それが切り分けた複数のオーディオ・イベントで構成されているのが分かる

 また既に説明した通り、各オーディオ・イベントに“オペレーター”“エクスプレッション”(スプレッドも含む)を適用できます。当初からMIDIとオーディオの垣根を無くそうとするBITWIGの開発思想が表れているとも言えるでしょう。

 

 ここまで3回にわたってBitwig Studio 4の新機能、“コンピング”“オペレーター”“エクスプレッション・スプレッド”についてかけ足でお話ししてきましたが、いかがでしたでしょうか? それでは、また会う日まで、ごきげんよう!

 

島田尚

【Profile】作編曲家/ギタリスト/キーボーディスト。秋元康が総合プロデュースを行う48グループや坂道シリーズなどのほか、TV番組やCMの音楽を手掛ける。王道ポップスからエレクトロ、ストリングス/ブラス・アレンジ曲までオールマイティに対応。クラシック/ジャズ、両方の音楽理論に基づいた、楽曲に相応しいプロデュース能力に定評がある。

【Recent work】

『ゾッとする』
ソノコモノガタリ
(SwiTch music)

 

BITWIG Bitwig Studio 4

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LINE UP
フル・バージョン/ダウンロード版:50,875円|クロスグレード版またはエデュケーション版:34,100円|12カ月アップグレード版:20,900円
※2022年1月11日(火)までBITWIGウィンター・スペシャル・セール開催。上記価格より最大1万円オフ

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以上
▪Windows:Windows 7/8/10/11(64ビットのみ)
▪Linux:Ubuntu 18.04以上
▪共通:SSE4.1に対応したCPU

製品情報