こんにちはYuri Uranoです。筆者がよく行うフィールド・レコーディングで録音した素材は、さまざまな方法を使ってクリエイションに活用しています。今回は、フィールド・レコーディングを使用したドラムのサウンド・メイキングのアイディアを紹介! BITWIG Bitwig Studioならではのモジュレーションやエフェクトを使って、マシンで作るものとは一味違うユニークな質感を作ってみましょう。
SegmentsでPitchをモジュレートして、キックならではのピッチ変化を生み出す
フィールド・レコーディングに“絶対”というルールはないと思っています。自由に感じたものをレコーダーで録音することがフィールド・レコーディングの醍醐味です。筆者が制作したサウンド・パッケージ“Kodama”では、落ちていたメタルの棒をたたいたり、草を揺らしたりした音を録音し、それらを使ってドラム・キットを作りました。その場にある物で音を作り出すのも一つの方法です。
奇麗に音を録る方法は、録音の際にレコーダーのピークが点かないようにしておくこと、レコーダー本体に触れているときのタッチ・ノイズが入らないように三脚を使用することです。ウィンド・スクリーンもあるとさらに良いですね。
今回使うサンプルは、エジプトの砂漠に落ちていた石同士をぶつけて鳴らした音です。ドラムやパーカッション系の音はこのようなヒット音を使うと作りやすいでしょう。
最初にキックの低域部分を作ります。サンプルをアレンジャータイムラインに読み込んだら、サンプルをクリックして、左側のインスペクターパネルでピッチを-24.00stまで下げます。次にDrum Machineを立ち上げて、任意のドラム・パッドにそのオーディオ・クリップをドラッグ&ドロップ。スライス設定のダイアログが開くので、今回はスライスの設定で“オーディオイベント”を選択し、ほかはそのままとしました。すると、クリップが自動的にバウンスされ、Drum MachineのパッドにSamplerが立ち上がってサンプルが読み込まれます。再生ヘッドの位置を設定し、ADSRエンベロープはアタック速め、ディケイとサステインは短めにすると良いでしょう。
次にキックの“どふん”というピッチの変化を作ります。まずSamplerのPitchを-24.00stにして、モジュレーションにSegmentsを立ち上げましょう(エンベロープ・ジェネレーター系のモジュレーション・ソース)。鋭い角度で上がって下がり、それから少し緩やかに上がって終わるようなカーブを描きます。プレイモードはOne-shot、±のマークを押してバイポーラーに設定。このSegmentsでSamplerのPitchをモジュレーションします。また、音が小さいと感じたのでGAINも上げました。
音に迫力が欲しいのでFilter+を使ってひずみを加えます。SamplerのFXチェインにFilter+を立ち上げ、一旦フィルター部はオフにし、ウェーブ・シェイパーを使って音をひずませました。キャラクターはHowlを選んでいます。さらに、低域部分をもっと押し出すためにFilter+の後段にEQ+を立ち上げ、キックの重量感を得られる60Hzあたりをブーストしました。このとき、EQ+のRange部分を±30にするとより大きなゲイン幅でEQすることができます。このようなクリエイションの際には、思い切ってダイナミックな変化をつけて音作りすることも有効です。鋭いローカットで30Hzあたりまで削り、ゆるいハイカットを250Hzあたりまで入れました。
ここでFilter+のフィルターをオンにして、フィルターの開閉を使って音に変化を加えます。フィルターのモードはSVFを選択。先ほど、SamplerのPitchに使ったSegmentsをFilter+のモジュレーターへコピーし、カットオフをモジュレーションしましょう。ここではモジュレーター出力をユニポーラーにしています。
キックのSamplerを元に スネアとハイハットを制作
ここまでで低域部分ができました。次にキックのアタック部分を作って音を重ねていきます。まず現在使用しているドラム・パッド内にInstrument Layerをインサート。低域部分を担うSamplerをその中へ追加し、さらにそれを複製します。これがアタック(高いピッチの部分)を担うので“Hi”、低域部分のSamplerは“Low”など、各レイヤーに名前を付けておくと分かりやすくなるのでお勧めです。
一旦Lowのレイヤーはミュートして、Hiの音を作っていきましょう。FXチェイン内のEQ+はハイカットをオフにし、フィルターのカットオフを少し開きました。ピッチも-7.00stまで上げ、ADSRのディケイとサステインをさらに短くします。ある程度音が仕上がった時点で、ミュートしたLowをオン/オフして同時に聴きながら調節し、理想の音に仕上げていきましょう。これでパンチのあるキックが完成しました。
次はスネアです。別のサンプルを使ってもいいのですが、今回はキックと同じサンプルでスネアも作っていきます。まずキックのレイヤー(Hi)をDrum Machineの別のパッドにコピー。エフェクトは一旦すべてバイパスし、先ほどのキックと同じメソッドで音を作っていきます。ピッチは-5.00stまで上げ、Segmentのモジュレーションのアマウントを5.84まで下げました。ADSRのディケイも少し長くします。
次はエフェクトをオンにして調節していきます。フィルターのカットオフを開き、EQは胴鳴りのする200~300Hzとアタック音のする2~3kHz辺りを目安にブースト。ローカットはやりすぎると軽い音になってしまうので注意しましょう。ウェーブ・シェイパーの値は少し下げ、さらにReverbをインサートして響きに空間を生むことでよりスネアっぽくなりました。ここではプリセットのRoom Oneを使いました。
ハイハットは、スネアのSamplerをコピーして作っていきます。Samplerのピッチを−2.00stに上げ、EQ+で3kHzと8kHzをブースト、2kHz辺りまでがっつりローカットしました。ReverbはRoom Reflectverbという、筆者が制作したプリセットを使っています。
これでフィールド・レコーディングからユニークなドラム・サウンドを作ることができました! 今回紹介したのは一例ですが、ベーシックなものから、不思議なパーカッション、ベース・サウンドまで、Bitwig上でさまざまな音を作ることができます。こちらのテクニックを応用して、オリジナルなサウンドメイクを楽しんでいただけると幸いです!
Yuri Urano
【Profile】フィールド・レコーディングや声を用いたアナログ・サウンドと、シンセサイザーやコンピューターを使ったデジタル・サウンドを融合させ、独自の世界観を構築するエレクトロニック・ミュージック・アーティスト。2022年7月にPRADAとリッチー・ホウティンが共に創作、およびキュレートする「PRADA EXTENDS TOKYO」に出演、また空間オーディオ・アプリ“AURA”を用いたARサウンド・スケープ体験へのサウンド・プロデュースやTEDxKobeへの楽曲提供も行うなど、さまざまな分野で活躍している
【Recent work】
『Qualia』
Yuri Urano
BITWIG Bitwig Studio
LINE UP
Bitwig Studio
フル・バージョン:69,300円|エデュケーション版:47,300円|12カ月アップグレード版:29,700円
Bitwig Studio Producer:34,100円
Bitwig Studio Essentials:17,600円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降、macOS 12、INTEL CPU(64ビット)またはApple Silicon CPU
▪Windows:Windows 7(64ビット)、Windows 8(64ビット)、Windows 10(64ビット)、Windows11、Dual-Core AMDまたはINTEL CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
▪Linux:Ubuntu 18.04以降、64ビットDual-Core CPUまたはBetter ×86 CPU(SSE4.1対応)
▪共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インターネット環境(付属サウンド・コンテンツのダウンロードに必要)