ヤマハ HS3をボカロPがレビュー!デスクにおけるコンパクトサイズ × 高音質なモニタースピーカー

YAMAHA HS3

 近年、自宅での音楽制作(DTM)や配信環境の整備が進む中で、“限られたスペースでも本格的なモニタリングをしたい”というニーズが高まっています。そんな中、注目を集めているのがヤマハ HS3。コンパクトな筐体ながら、ヤマハ伝統のモニター思想を継承し、原音忠実なサウンドと高い信頼性を実現したモデルです。今回は、プロのボカロP/エンジニアであるかごめPが実際の制作環境で試聴し、徹底レビューを実施。ぜひチェックしてください!

ヤマハは“グローバル楽器事業”でNo.1のシェアを持つ日本企業

YAMAHAの事業イメージ

 ヤマハは、“楽器”、“音響機器”、“その他(部品・装置など)”の3つの領域において、グローバルに事業を展開する日本の企業です。楽器事業においてNo.1のシェアを持ち、ピアノやギター、管楽器といった生楽器に加えて電子楽器も開発/生産するほか、音楽教室の運営も行っています。

 音響機器としては、ホームオーディオ系の製品から制作用のモニタースピーカーやモニターヘッドホン、配信向けのオーディオインターフェース、そしてコンサート会場やライブハウスで使用される業務用のミキサーなどのPA機器まで取り扱っています。音楽以外においては設備用のマイクやスピーカーに加え、電子部品事業として、車の内装部品や車載オーディオ、FA機器(産業用設備機器)などを生産。楽器や音響機器の開発によって培われた技術を幅広い分野で生かし、サービスや製品を提供している企業です。

HS3の特徴

音色や音像定位の微細な変化を厳密に再現することがコンセプト

YAMAHA HS3 フロントパネル

HS3のフロントパネル(Lch、Rch)

 HS3はヤマハのモニタースピーカーHSシリーズにおける最小のモデルです。HSシリーズは、「ミックスにおける音色や音像定位の微細な変化を厳密に再現できること」をコンセプトに開発されました。スピーカーの構成は、3.5インチ径コーン・ウーファー+0.75インチ径ドーム・ツィーター。LchにクラスDアンプを内蔵し、Rchは電源不要のパッシブ仕様となっています。この構成により、全体の軽量化とケーブル配線の簡素化を実現しています。

HS3 Lch ヘッドホンアウトとボリュームノブ 

Lchのフロントパネル下部には、ボリュームノブとヘッドホンアウト(ステレオミニ)を備える。両者は使用頻度の高い機能として簡単にアクセスできるよう、この位置に配置された

低域のにごりを防ぐ“ツイステッドフレアポート”を採用

 リアパネルには独自のバスレフポート、“ツイステッドフレアポート”を採用。バスレフ構造の両端で生じやすい空気の乱れを抑えることで低域のにごりを防ぎ、よりクリアなサウンドを提供します。

YAMAHA HS3 リアパネル

HS3のリアパネル。Lch、Rch両方の上部に、独自のバスレフポート“ツイステッドフレアポート”が採用されている

環境に合わせて音質の調整が可能

 HS3のリアパネルには、設置した部屋に合わせて音質を調整できる2つのスイッチが用意されています。ROOM CONTROLは低域の出力特性を補正するスイッチ。500Hz以下を、フラット/−2dB/−4dBから調整可能できるので、スピーカーを壁際に設置した際に発生しがちな不要な低域を抑えるといったことが可能でしょう。HIGH TRIMは高域のレベル調整で、2kHz以上を+2dB/フラット/−2dBから調整できます。

 

HS3 Lch リアパネル

Lchのリアパネル。右上には音質調整用の2つのスイッチ(ROOM CONTROL/HIGH TRIM)を備える。その下には、XLR/TRSフォーン・コンボ(L/R)、RCAピン(L/R)、ステレオミニ端子を装備しており、コンピューター、オーディオ・インターフェース、ミキサー、電子楽器など、幅広い機器と接続可能

HSシリーズは5サイズ+サブウーファーもラインナップ

YAMAHA HS Series

YAMAHA HS Series

 HSシリーズには、サイズ違いのHS3、HS4、HS5、HS7、HS8の5モデルに加え、サブウーファーのHS8Sがラインナップしています。

 HS4、HS5、HS7、HS8は、ツィーターは共通で1インチ。ウーファーはそれぞれ、4.5/5/6.5/8インチです。HS3のみツィーターが0.75インチで、ウーファーが3.5インチという仕様。サブウーファーのHS8Sは、8インチのコーンウーファーを採用しています。用途や設置環境に応じて選ぶことが可能です。 

 なおHS3、HS4はLchのみパワードのペア駆動ですが、HS5、HS7、HS8、HS8Sは単体で駆動します。

スペック一覧 

  • 形式:2ウェイ・パワード
  • スピーカー構成:3.5インチ径ウーファー+0.75インチ径ツィーター
  • 内蔵アンプ:クラスD
  • 出力:26W RMS(LF)+26W RMS(HF)
  • 周波数特性:70Hz〜22kHz(−10dB)、85Hz〜20kHz(−3dB)
  • クロスオーバー周波数:3.2kHz
  • EQスイッチ(背面):ROOM CONTROLスイッチ(500Hz以下をカット。0/−2/−4dBから選択可能)、HIGH TRIMスイッチ(2kHz以上をブーストorカット。+2/0/−2dBから選択可能)
  • 入力端子:ステレオミニ×1、RCAピン(L/R)、XLR/TRSフォーン・コンボ(L/R)
  • 外形寸法:132(W)×223(H)×189(D)mm/Lch、132(W)×223(H)×177(D)mm/Rch
  • 重量:2.8kg/Lch、2.1kg/Rch
  • 価格:オープンプライス/ペア

試聴環境について

 本レビューでは、実際のホームスタジオ環境に近いセッティングを再現し、モニタースピーカーを試聴。オーディオインターフェースにはRME ADI-2/4 Pro SEを使用し、Ableton Liveを立ち上げて編集作業を行ってもらうなど、再現性の高い環境を整えた上でレビューを行った。

YAMAHA HS3試聴風景

 スピーカーの設置には、一般的なデスクトップ環境を想定。ノートパソコンを中央に配置し、その左右にスピーカーを設置することでDTMユーザーが実際に使用するシチュエーションを再現。試聴用のリファレンス音源/プロジェクトファイルは、2025年2月に集英社ゲームズからリリースされたミステリーアドベンチャー・ゲーム『都市伝説解体センター』の主題歌「奇々解体」。作詞・作編曲を手がけたMURASAKI氏による作品で、ダークでクールなサウンドと、都市伝説やSNSをモチーフにした鋭い歌詞が特徴の楽曲だ。

 今回のレビュワーであるかごめPは、「奇々解体」のボーカルレコーディング、ミックス、マスタリングを担当。テストでは、実際に同曲のプロジェクトファイルを用いて、ミックスバランスや低域から高域までのレンジ感、ボーカルの存在感などを細かくチェックしていただいた。

スピーカー徹底レビュー by かごめP

 ヤマハ HS3は、いわば“王道中の王道”といえるモニタースピーカー。第一印象として“モニタースピーカーといえばこの音”と感じさせるような、定番のサウンドキャラクターを備えており、全体的にとても自然で誠実な音がします。コンパクトな3.5インチウーファーを採用しながらも、ヤマハならではの正確な音作りにより、バランスの取れたローエンド再生を実現。サイズを超えた低域の安定感は、小規模な制作環境でも安心して使用できます。特に、無理な誇張を排した自然な低域の鳴り方は、信頼性の高いモニタリングを求めるクリエイターにとって心強い選択肢となるでしょう。今回テストに使った「奇々解体」でも、全セクション、全トラックまんべんなく高精細に鳴らしてくれ、ミックス作業が非常にやりやすく感じました。

 また、HS3は中高域のバランスに優れ、定位感も非常に明瞭。例えばハイハットを単体で再生した後に複数トラックを重ねたフルミックスを聴いて比較しても、質感がブレることなく安定して再生されるため、ミックス時の信頼性が高まります。さらに“このスピーカーでこう聴こえるなら大丈夫”と判断できる安心感もあり、耳を惑わせないリファレンスモニターとして心強い存在です。

 さらに、HS3はツィーターとウーファーがどちらもコーンタイプで構成されている点も見逃せません。方式の異なるユニットを組み合わせた構造では、高域と低域で音色の印象が変わることもありますが、HS3は全帯域で統一感のあるモニタリングが行えます。

特筆すべき操作性と使い勝手
 HS3の背面には“ROOM CONTROL(0/−2/−4dB)”と“HIGH TRIM(±2dB)”のEQスイッチを搭載し、細やかな音質調整が可能。設置環境やルームアコースティックに応じて、柔軟に補正できる設計となっています。また、DAW上に立ち上げたEQプラグインで作業をしたところ、わずかな差でも素直に反応してくれる点も特筆すべき点。EQ処理の判断がしやすく、制作作業をスムーズに進められる印象です。
 ステレオの広がりは自然で過度な演出感がなく、奥行きのある定位も再現してくれます。これは、リバーブ処理やパンニングの精度を高めたい場面で有効に機能すると言えるでしょう。特に高域の処理においては迷うことが少なく、エンジニア視点でも高評価です。
初心者向け・上級者向けの視点
 HS3は、“音を正しく捉え、整える”ためのツールとして設計されていると思います。そのため、最初は“派手さがない”と感じるかもしれません。しかし、長く使うほどにその設計意図と実力に納得がいく、まさに“耳を育ててくれるスピーカー”だと実感できるでしょう。HS3でカッコよく音を鳴らせるようになることは、音作りやミックスのスキル向上を実感する一つの指標になるはずです。
ボカロPやエンジニア志望者にとってのメリット
 色付けが少ないナチュラルなサウンド特性は、特定の音楽ジャンルに縛られないスタイルを志すボカロPや、将来的に職業エンジニアを目指す方にとっても理想的な選択肢だと言えます。インシュレーターやスタンド、ケーブルの違いにも素直に反応してくれるため、モニター環境のアップグレード効果が最も感じやすいスピーカーとも言えるでしょう。
総評とコストパフォーマンス
 HS3はペアで24,800円前後という価格帯でありながら、上位機種にも通じる“真面目な音作り”と扱いやすさを兼ね備えた一台。特にフラットでナチュラルな特性は際立っており、制作からミックスといった全工程において、安心して使用できる“基準”としての信頼感を持つモデルだと言えるでしょう。

まとめ

  • 自然で誠実な音質
  • 中高域のバランスが良く、明瞭な定位感を提供
  • このスピーカーでかっこよく鳴らせれば上達の証
  • 制作現場の“基準”として長く使える信頼性

レビュワー紹介

カゴメP

【Profile】かごめP。レコーディング・スタジオで働くかたわら、2009年にボカロPとして活動を開始。現在、ボカロPとしての活動以外にも、さまざまなアーティストのミックス/エンジニアリングを手掛ている。
 

 

製品情報

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