Audio-Technicaの密閉型ヘッドホンATH-M50xと、開放型ヘッドホンATH-R70x。ともに発売から約10年を経た現在も、プロフェッショナルな現場で活躍し続けるヘッドホンだ。今回は両機種を、4人組バンド“家主”のボーカル/ギターを務める田中ヤコブに試してもらい、そのインプレッションを伺った。ソロ作品では自身で録音/ミックスを手掛けるなど、エンジニアリングにも造詣が深い彼に、両機種はどう聴こえたのだろうか。
Audio-Technica ATH-M50x〜音楽に興味がある人なら誰にでもお薦めできるヘッドホンです
2007年発売のヘッドホン、ATH-M50のリニューアル・モデルとして2014年に誕生し、全世界の累計販売数が250万台を超えるロングセラー製品。解像度の高いサウンドを実現するために、大口径の45mmCCAWボイスコイル・ドライバーを採用する。イヤー・カップは90度反転する仕様で、片耳でのモニタリングも可能だ。ブラックとホワイトの2色のカラーリングをそろえるほか、Bluetooth接続への対応によりワイヤレスでの使用が可能となったATH-M50xBT2(オープン・プライス:市場予想価格26,620円前後)もラインナップしている。
SPECIFICATIONS
●型式:密閉ダイナミック型 ●ドライバー:45mm径、CCAWボイスコイル仕様 ●インピーダンス:38Ω ●周波数特性:15Hz~28kHz ●出力音圧レベル:98dB/mW ●最大入力:1,600mW ●重量:285g(ケーブルを除く) ●付属品:専用ポーチ、カール・ケーブル(1.2m)、ストレート・ケーブル(1.2m、3m)、φ6.3mm標準/φ3.5mmミニ 金メッキステレオ2ウェイ変換プラグ
ガチッと密着して遮音性が高い
自身のソロ作品においては、自らエンジニアリング分野を手掛けている田中。今回試してもらったATH-M50xの印象について、まずは遮音性の高さを挙げる。
「家でギターを弾くときのモニターや音楽を聴くのに使ったり、あとは外出時にも使ってみたところ、ガチッと密着して、遮音性の高さを感じました。自分はギターを弾くときに自然と頭を振ったりしてしまうので、動いてもズレずに固定されるのは、ヘッドホン選びの大事な要素です」
ケーブルが着脱式なのもポイントだ。
「仮に断線しても取り換えられるのは安心です。折りたためるのも便利で、意外とかさばらずにカバンに収まってくれました」
音の輪郭をつかみやすい
気になる音質についてはいかがだろうか。
「中域~高域がしっかりと出ていて、逆に低域はちょうど良いくらいというか。音量感がちゃんとあるけど、低域は奇麗に収まっている。トータルでのバランスの良さを感じましたね。あとは音の距離感みたいなものが分かりやすい……特にエレキギターやハイハットなどが、すごく分離良く聴こえてきました。“リスナーが欲しい音”にチューニングされている印象です」
エンジニアリングという観点では、“レコーディングに向いているのでは”と田中は語る。
「音の輪郭をつかみやすいなと。音の中心、外側というものがあるとして、その外側までよく聴こえるように感じます。また、例えば声の倍音だったり、“チッチッチッ”というハイハットの刻みの倍音だったりが、豊かさを保ってブーストされます。気持ちを乗せてくれる音なので、ボーカルやギターなどの楽器を録るときのモニター・ヘッドホンにはめちゃくちゃ良いんじゃないでしょうか」
「どんなジャンルでも聴きやすいし、リスニング用途にも適したヘッドホンかなと。Bluetooth(ATH-M50xBT2)でこのサウンドが聴けるのも楽しそうです」と語る田中。どういった人にお薦めかを聞いた。
「ちょっと変な答えになっちゃうかもしれないですけど、音楽に興味がある人だったら、誰にでもお薦めできます。むしろATH-M50xをディスってる人がいたら、ちょっと怖い……みたいな(笑)。それくらい使い手を選ばない、オールラウンドなヘッドホンです」
Audio-Technica ATH-R70x〜スピーカーとヘッドホンの間のような印象。一つ一つの音の定位がよく分かります
470Ωという高いインピーダンスを誇るプロフェッショナル向けの開放型リファレンス・ヘッドホン。すべての音域を高純度で再現するという高磁力マグネットと、純鉄製磁気回路を採用した独自の新設計ドライバーを搭載する。通気性の高いイヤー・パッドと頭頂部の左右に配した3D方式ウイング・サポートを装備することで、快適な装着感を実現。ケーブルを除いた本体重量が210gと、軽量な仕様となっている。2015年の発売から約10年を経た今もなお、多くのクリエイター、エンジニアから支持を獲得し続けているヘッドホンだ。
SPECIFICATIONS
●型式:オープンバックダイナミック型 ●ドライバー:45mm径 ●インピーダンス:470Ω ●周波数特性:5Hz~40kHz ●出力音圧レベル:98dB/mW ●最大入力:1,000mW ●重量:210g(ケーブルを除く) ●付属品:専用ポーチ、3.0mケーブル、φ6.3mm標準/φ3.5mmミニ 金メッキステレオ2ウェイ変換プラグ
長時間作業にも適した軽さ
続いてATH-R70xについて。田中は第一印象として、その装着感に驚いたそうだ。
「ATH-M50xほどではないけれど適度な密着具合になっていて、とにかく軽い。風通しが良いというか、この軽さはすごくアドバンテージです。重いヘッドホンを長時間着けて作業すると結構身体的にもキツいので、そういった意味でもプロ・ユースなのかなと。宅録とか、個人で音楽を作っている人に合っているように感じられました」
ATH-R70xのインピーダンスは、470Ωという高い値に設定されている。
「インピーダンスが高い分、再生音量が小さいので、ヘッドホン・アンプかオーディオ・インターフェースが必要になってくると思います。段々とボリュームを上げていってちょうど良い音量になったときに、全体的にシルキーだと感じました。迫力というよりは、奥ゆかしさがあるスムーズな鳴りという印象です」
M50xで作ってR70xでミックス
サウンドについては、「スピーカーよりも近くて、ヘッドホンよりも遠い」と表現する。
「ミックス・チェックでボーカルのバランスを確認する際、スピーカーで聴くとちょっと遠くに感じて定位が見えにくい。逆にヘッドホンだと、ボーカルがすごく前に出て聴こえるから、全体像までぼやけてしまいよく分からなくなってしまう。ATH-R70xはちょうどその中間という雰囲気です。ナチュラルな広がりがありつつ、一つ一つの音の定位がちゃんと分かるように聴こえてくる。これが正しい表現かは分かりませんが、自分にとっては“フラット”だと感じられる音です」
「繊細で聴き疲れしない出音なので、そこも長時間作業に向いているんじゃないかな」とも語る田中。発売から約10年経過しているが、今もなお生産され続けていることもうなずける“マスターピース感”を、そのサウンドから感じ取れたとのことだ。
「ラーメンに例えると、ATH-M50xが味の効いた“醤油”なら、ATH-R70xは超さっぱりの“塩”という感じ(笑)。ATH-M50xでガッツリとレコーディングやトラック・メイクをして、音作りの追い込みやミックスをATH-R70xでしていくのが正しい順序かなと。そしてATH-R70xで作ったものを、またATH-M50xで聴いたときにカッコよく聴こえていれば、それはうまくできている証なんだと思います」
【Profile】シンガー・ソングライター/ギタリスト。4人組ロック・バンド“家主”のフロントマンを務め、2018年には『お湯の中のナイフ』でソロ・デビュー。最新作は、3月にリリースした家主『石のような自由』。
Recent Work
『石のような自由』
家主
(NEWFOLK)