SHURE、WMAS技術を搭載する次世代インイヤー・モニタリングシステムAXT Digital PSMを公開。開発者による発表会をレポート

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Shureが、Inter BEE 2024でインイヤー・モニタリングシステムAXT Digital PSMを公開。シカゴ本社から来日した製品開発担当のセルジオ・アルバレス氏が、発表会を通してその技術的な特徴や開発背景を解説した。この記事では、AXT Digital PSMの技術的な特徴やメリット、発表会の様子などについて詳しく紹介しよう。

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AXT Digital PSMの開発者として発表会に登壇したセルジオ・アルバレス氏

次世代のデジタル・インイヤー・モニタリングシステム

AXT Digital PSMの送信機ADTQ、ADTD(フロント/リア)と、8ポート・アンテナコンバイナーのAD8C

AXT Digital PSMの送信機ADTQ、ADTD(フロント/リア)と、8ポート・アンテナコンバイナーのAD8C

 AXT Digital PSMは、ShureのAXT Digitalワイヤレスシリーズの最新モデルであり、ライブサウンドや放送業界向けに設計されたプロ用デジタル・インイヤー・モニタリングシステム。WMAS(ワイヤレス・マルチチャンネル・オーディオシステム)技術*を搭載し、これまでにない柔軟性と拡張性を備えているという。
 *2024年11月現在、WMAS技術は一部の国・地域でのみ認可されており、日本国内においては今後新たな技術基準の策定が検討されています。

AXT Digital PSMのボディパック型受信機ADXR

AXT Digital PSMのボディーパック型受信機ADXR

 AXT Ditital PSMの主要コンポーネントは、4チャンネルワイヤレス送信機のADTQ、2チャンネルワイヤレス送信機のADTD、ボディーパック型受信機のADXR。専用アクセサリーとしては、8ポート・アンテナコンバイナーのAD8C、2ウェイ・パッシブコンバイナーおよびスプリッターのAD221、4ベイネットワーク充電ステーションのSBC441などが用意されている。

ワイヤレス送信機ADTQ(4ch)とADTD(2ch)、ボディーパック型受信機ADXRといった主要コンポーネントのほか、AXT Digital PSM専用アクセサリーも用意

ADXRは、AXT Digital PSM専用ボディーパック型ワイヤレス受信機。後述するトゥルー・デジタル・ダイバーシティやShowLink®リモートコントロールのほか、CueModeといった機能を備える

AXT Digital PSMの技術的特徴

WMAS技術で高効率なスペクトル管理を実現

 AXT Digital PSMのポイントとしてまず挙げたいのは、Shure初となるWMAS技術*を採用したこと。AXT Digital PSMに搭載されるWMAS技術は、帯域幅800kHzの1つのRFブロックを使用して、4チャンネルのステレオオーディオの送信を実現することで、高効率なスペクトル管理を可能にする。

 *2024年11月現在、WMAS技術は一部の国・地域でのみ認可されており、日本国内においては今後新たな技術基準の策定が検討されています。

WMAS(ワイヤレス・マルチチャンネル・オーディオシステム)は今後が期待される次世代RFワイヤレス技術*。複数のオーディオチャンネルを同時に伝送できる革新的な技術で、従来の狭帯域デバイスに比べてRFスペクトル内でより多くのオーディオチャンネルを確保できるという著しい利点を持っている
*2024年11月現在、WMAS技術は一部の国・地域でのみ認可されており、日本国内においては今後新たな技術基準の策定が検討されています。

 さらに、6MHzの帯域ではステレオ28チャンネル(モノラル換算で56チャンネル)を収容でき、複数チャンネルのモニタリングが求められるライブサウンドや放送現場での使用に適しているという。

2.9ms以下の低遅延オーディオ伝送

 AXT Digital PSMは、2.9ms以下の低遅延を実現し、高品質なモニタリング体験を可能にする。この低遅延により、アーティストやエンジニアは演奏中などでタイムラグの影響をほとんど感じることなくモニタリングができ、ステージ上での演奏が快適に行えるのだそう。

3つの送信モードに対応

 AXT Digital PSMは、ナローバンドモード、アナログFMモード、AXT Digitalスタンダードモード(ポイント・ツー・ポイント・モード*)といった3つの送信モードを搭載。特にアナログFMモードはPSM1000と互換性を持つため、PSM1000との併用が求められる場合でも柔軟なシステム拡張が実現可能だ。

*ポイント・ツー・ポイント・モードは発売時になく、今後のファームウェアアップデートで利用可能になります

AXT Digital PSMは3つの異なる送信モードを搭載。ユーザーは使用環境や既存のシステムとの互換性に応じて最適なモードを選択できる

ShowLink®で全ボディーパック受信機をリモート管理

 ShowLink®リモートコントロールは、ステージ上のすべてのボディーパック受信機をリモートで管理し、リアルタイムに調整できる送信機側の機能 。エンジニアはバッテリー残量、音量ノブの位置、ヘッドホンの接続状態などを即座に確認でき、本番中のトラブルにも対応しやすくなるとのこと。

ShowLink®機能では、ヘッドホンジャックからイヤホンが抜けていた場合はすぐに認識できるため、エンジニアも対応しやすいというメリットがある

ADTQ本体上のShowLinkに加えて、Wireless Workbenchソフトウェアからも監視・管理が行える

ADTQ本体上のShowLink®に加えて、WirelessWorkbench®ソフトウェアからも監視・管理が行える。ラック下段は充電ステーションのSBRC

広範囲かつ強固なRF信号を確保する2つのダイバーシティ技術

 AXT Digital PSMは、空間ダイバーシティ(スペーシャルダイバーシティ)とトゥルーデジタルダイバーシティ技術を採用。送信機側に搭載する空間ダイバーシティは、同じ周波数を使用して複製信号を第2の送信アンテナで送信し、大規模会場やスタジアムなど広い範囲での安定したカバレッジを提供するという。

 受信機側ではトゥルーデジタルダイバーシティが搭載され、空間ダイバーシティとの連携により、各チャンネルごとに4つの独立信号経路をデジタル技術により統合することで、受信する信号の品質を確保し、安定した音声伝送を実現するもので、マルチパス干渉に対して高い耐性を持っているとのこと。これらの技術により、AXT Digital PSMは従来のワイヤレスシステムでは達成できなかった広範囲かつ強固なRF伝送を確保するのだという。

空間ダイバーシティとトゥルーデジタルダイバーシティは、RF信号の安定性と音質を向上させるために重要な役割を果たしている

内部アンテナコンバイニング機能を搭載

 内部アンテナコンバイニング機能により、AXT Digital PSMの送信機はアンテナ出力を1つの出力ポートに集約。使用する環境やチャンネル数により、外部コンバイナーが不要となったことによって使用機材やケーブルが減り、システムのセットアップがより簡潔になった。

外部のアンテナコンバイナーを使用せずにシステム運用できるよう設計された、内部アンテナコンバイニング機能。システムのセットアップを簡素化することが可能だ

ファームウェアアップデートでさらなる追加機能も

 発表会にてアルバレス氏は“AXT Digital PSMは、従来のPSM1000との併用から最新のWMAS技術*までをフォローし、ワイヤレスモニタリングシステムのアップデートをスムーズに行えるように設計されている”とコメント。

*2024年11月現在、WMAS技術は一部の国・地域でのみ認可されており、日本国内においては今後新たな技術基準の策定が検討されています。

 また“卓越したRF性能とオーディオ品質の提供”や“WMAS技術*を用いた高度なスペクトル効率”、“ShowLink®リモートコントロールやWirelessWorkbench®との連携による優れた操作性と制御機能”など、AXT Digital PSMの導入メリットを挙げ、プロフェッショナルな現場での音響体験を次のレベルへと引き上げると語った。会場には音響業界や映像業界のプロフェッショナルたちが数多く集まり、Shureの最新技術に対する関心の高さが伺えた。

*2024年11月現在、WMAS技術は一部の国・地域でのみ認可されており、日本国内においては今後新たな技術基準の策定が検討されています。

ディスプレイに表示された、AXT Digital PSMにおける機能や特徴の一覧

  さらにAXT Digital PSMの今後の展開についても触れ、将来的なファームウェアアップデートでさらに多くの機能が追加される予定であることが明かされた。

 一方で2024年11月現在、WMAS技術は一部の国や地域でのみ認可されており、日本国内においては今後新たな技術基準の策定が検討されているという。日本での実用化に向けた法的調整が進むことが期待されている。

AXT DIGITAL PSM製品情報

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