1932年にイギリスで創設された名門音響ブランド、WHARFEDALE(ワーフデール)。そのプロ・オーディオ部門として1980年に誕生したのがWHARFEDALE PROだ。ラインアレイ・システムからフロア・モニターまで、ツアー/固定設備問わず多様なシチュエーションに対応するスピーカー、パワー・アンプやプロセッサーなどをラインナップしている。その中でも同社が本格的に同軸を採用した初の2ウェイ・パッシブ・スピーカーがGPLシリーズだ。固定設備用として設計/開発されたモデルだが、これを音楽制作のモニター・スピーカーとして採用したプライベート・スタジオがある。一体なぜなのか? 12インチ・ウーファーのGPL-12を導入したスタジオテルのオーナーであり、エンジニアの鈴木てるのぶ氏に、導入の経緯や実際の使用感などについて詳しくお話を伺った。
Photo:Takashi Yashima
低域がしっかり止まるBEYMAのユニット
まずは、あらためてGPLシリーズの概略を紹介しよう。製品ラインナップは、フルレンジ・タイプが5インチ・ウーファーから15インチ・ウーファーまで、ハイインピーダンス・モデルも含めて8種類、それに加えてサブウーファー4種類も用意されている。
フルレンジ・タイプのドライブ・ユニットにはBEYMA製の同軸タイプを採用。指向角度はウーファー・サイズによって異なり、5/8インチ・モデルは円すい状に70°、12/15インチ・モデルは同じく円すい状に60°だ。さらに製品名にHQが付いているモデルは左右80°、上下40°と間口の広い空間に適した設計となっている。いずれもオリジナル・デザインのウェーブ・ガイド・ホーンが装着されており、不要な反射を抑えて高域を正確にリスナーへ届けることができるという。また前面には低域のレスポンスを高めるためのポートが2つ用意されている。
キャビネットは硬質なバーチ合板が用いられており、長く使える堅牢性を確保。フルレンジ・タイプにはスチール製U字ブラケットまで付属するという、まさに固定設備に向けた製品という印象だ。
なお、WHARFEDALE PROが同軸を採用したのは、国内代理店であるイースペックからの要望が大きく影響している。イースペックは、同軸がもたらす良好な定位感が固定設備用スピーカーに適していることをWHARFEDALE PROに伝え製品開発をリクエストしたという。
そんな経緯を経て誕生したGPLシリーズの12インチ・ウーファー・モデル、GPL-12をスタジオに導入した鈴木てるのぶ氏は、ライブ・レコーディングやミックス、マスタリングまで手掛けるエンジニア。その鈴木氏がGPL-12を見かけたのは本誌掲載の広告だったそう。
「もともと、12インチ・ウーファーで同軸のスピーカーを使っていたのですが、古いモデルだったので現行品で同じような仕様の製品がないか探していたところだったんです」
12インチというサイズは、プライベート・スタジオで使用するには大きめという印象を受けるが、鈴木氏いわく「大きなコーンの振動がもたらす解像度の高さや再生可能な周波数帯域の広さに慣れているので、少なくとも10インチ以上のサイズが欲しかった」とのこと。
「しかし、12インチ・ウーファーの同軸タイプで現行品となると、選択肢は非常に限られるんです。そんなときにWHARFEDALE PROが、高価格帯の製品にも使用されているBEYMA製同軸ユニットを、GPLシリーズに採用していることを知って興味を覚えました」
BEYMAはスペインに拠点を置くスピーカー・ユニット・メーカー。コンシューマー向けからプロ・オーディオまで、さまざまなメーカーにユニットを供給している。鈴木氏もそのことを以前から知っていたため、イースペックに問い合わせて試聴させてもらったそうだ。
「実際にGPL-12を聴いてみて、これは間違いないなと思いました。BEYMAの音がきちんと生かされていたんです。BEYMAのユニットの特徴は、低域がしっかり止まるところだと思います。キックやベースが鳴ったときに、ボワンとならず、ドフッと止まって鳴り終わったところが見えるんです。また以前に使っていた同軸のスピーカーでは、ルーム・チューニングしなくても、そのスピーカーに変えただけで周波数特性や定位感が良くなった印象がありました。それと同じ感覚をGPL-12でも受けました。欲しい音が、スウィート・スポットに真っすぐ飛んでくるんですよね。これは同軸だからこその特徴だと思います」
シグナル・プロセッサーでチューニング
柔軟な発想で、設備用スピーカーを音楽制作用モニター・スピーカーとして使用することに着眼した鈴木氏。試聴してみて、その狙いが的中したことも分かったわけだが、それでも抵抗感や不安は全くなかったのか気になるところ。この点について率直に尋ねてみたところ、「以前から、PAスピーカーには高性能な製品が多いと感じていた」と鈴木氏は語る。
「ライブの現場で壊れたりしたら困りますから、PAスピーカーのキャビネットやユニットの頑丈さ、ネットワークの安定性といった基本性能は高いはずですし、それに加えてライブでも音の良さを求められるのは当然ですからね」
ただし、モニター・スピーカーとして使用するには、多少の工夫や調整が必要とのこと。
「ユニットを保護するために前面に取り付けられているグリルは音色にかなり影響するので、まずはこれを外しました。またパワー・アンプやシグナル・プロセッサーとの組み合わせで音は変わります。ですから、そうした調整を行わずに聴いてしまうと、“こんなものか”と思ってしまうかもしれません。僕の場合、パワー・アンプは以前から所有していたAMPHION Amp700を使っていて、シグナル・プロセッサーは同じWHARFEDALE PROのSC-48 FIRを導入しました。このプロセッサーでGPLシリーズ用のFIRプリセットを適用し、SC-48 FIRのEQでチューニングを行っています。GPL-12のユニット自体は低域まで再生するポテンシャルを持っていますが、サブウーファーと組み合わせて使用することが想定されているようで、チューニングをしない素の状態では低域の量感が少ない印象だったんです。そこで主に低域をブーストして調整しています。それによって超低域まで見えるようになりました」
こうしたチューニングを行った結果、ミックスからマスタリングまで行える「ある意味、シビアなスピーカー」になったと鈴木氏は語る。
「音源のアラを見つけることができる音ですね。小音量での再生でもそれは変わらないですし、EQも細かい調整をしやすいんです。あとはコンプレッサーのかかり具合が非常にわかりやすいのも特徴だと思います。マスタリング・エンジニアの友人にも聴いてもらったのですが、他のマスタリング・スタジオに引けを取らないサウンドに仕上がっていると評価してもらいました」
GPL-12を導入して「大正解でした」と語る鈴木氏。
「音がとても見えやすいので、実際の作業に役立つだけでなく、このスピーカーで新しくリリースされた楽曲を聴くだけでも勉強になるんですよ。価格的には決して手頃とは言えないかもしれませんが、この価格帯以上の音質を体感できる製品だと思います」