2011年に創業したWARM AUDIO。マイクやアウトボード、ギター・ペダルなど、往年の名機と言われる音響機器を忠実に再現することを目指し、ハイクオリティな製品を幅広く普及させている。その中で、UNIVERSAL AUDIO 1176 Rev.AとRev.Dを元にしたモデルWA76がリニューアルされ、WA76-AとWA76-Dとして発売。ここでは、エンジニアの染野拓に、同機の2chバージョンWA76-A2、WA76-D2を含めた計4機種を実際のレコーディングで使用してもらい、それぞれの特性や効果、有用性に関して話を聞いた。
WA76-A & WA76-A2
●外形寸法:483(W)×90(H)×159(D)mm ●重量:3.65㎏
●外形寸法:483(W)×90(H)×203(D)mm ●重量:4.81㎏
定評のあるビンテージ“Blue Stripe”をベースにしたアナログ・ディスクリートFETコンプレッサーで、1ch仕様のWA76-Aと、2ch仕様のWA76-A2をラインナップする。オリジナルと同様の機能、操作性を踏襲しながら、パラレル・コンプレッション、アクティブ&トゥルーバイパス、サイドチェイン機能、選択可能な入力インピーダンスなどを追加した。
WA76-Aには、最大10台をリンクできるステレオ・リンク・ジャックも備えており、サラウンド/イマーシブ・コンプも実現できる。WA76-A2では、3つの異なる2ch動作モードを選択でき、幅広い音作りに対応可能。またトランスはオリジナルと同様のCINEMAG製で、カスタム・メイドしたものを搭載する。
WA76-D & WA76-D2
●外形寸法:483(W)×90(H)×159(D)mm ●重量:3.65㎏
●外形寸法:483(W)×90(H)×203(D)mm ●重量:4.81㎏
スタジオ定番のコンプレッサー“1176”のRev.Dをベースに開発されたアナログ・ディスクリートFETコンプレッサー。1ch仕様のWA76-Dと、2ch仕様のWA76-D2をラインナップし、オリジナルの操作性を忠実に再現しているほか、1176と同質のカスタムされたCINEMAG製のトランスを搭載した。
WA76-D2と上記のWA76-A2も含め2ch仕様のモデルには、2ch使用時の挙動を設定する3つの動作モードを搭載している。各チャンネルが独立して動作するデュアル・モノ、大きな音量のチャンネルをトリガーとするステレオ・リンク、Lchのサイドチェインのみが両チャンネルの動作を制御するプライマリー・トゥ・セカンダリーの3種類となっている。
エンジニア染野拓がWA76-A/A2、WA76-D/D2をレビュー
オリジナルの良さだけでなく追加機能も搭載し、それらを気軽に試せる面白さはハードウェアならではだと思います
音の立ち具合をしっかりと強調してくれるWA76-A/A2
スタジオの定番コンプレッサーとして、多くのエンジニア、プロデューサーたちの愛機として活用され続け、さまざまなヒット曲の音作りに使われてきたUNIVERSAL AUDIO 1176。幾つかのリビジョンを経ながら人気を誇るりつづける1176は、現在でも多くのスタジオに導入されており、染野も例外なく使ってきたという。
「自分では所有していないんですけど、行く先々のスタジオにあります。リビジョンはさまざまですが、そのほとんどがビンテージの機種ですね。僕は、それらを歌やドラム類のレコーディングでよく使っていて、まずファースト・チョイスのコンプとして通してみることが多いんです。ミックスではエミュレートしたプラグインもよく使っています」
染野が1176のコンプに求めるのは、“前にいてほしい音像”とのこと。さらにコンプとして音をまとめる能力のほかに、同機の持つ色付けが魅力だと語る。
「サチュレーションというか、倍音が出てきて主張が強まるんです。ダイナミクスがまとまるのはもちろんなんですけど、より主役感のある音になる印象があります。例えば、ドラムのアンビエンスにかけるとより響きを際立たせることができるので、そういった色付けをしたいときに効果を発揮しますね」
ビンテージの1176を多く使ってきた染野には今回、その機能&操作性を完全に踏襲し、さらに現代的なプロダクションに対応する機能を追加したモデル、WA76-A/A2、WA76-D/D2の4台を試してもらった。実際のレコーディング現場において、ピアノ、ボーカル、スネアをソースとしてテストを行ったとのこと。まずはピアノに用いた際の印象を、次のように話す。
「アコースティック・ピアノに立てたステレオ・マイクにWA76-A2、WA76-D2を直列でつなぎ、バイパス・スイッチで切り替えてすぐ比較できるようにして使ってみました。楽曲は2曲あり、1曲は派手めなもの、もう1曲はちょっとおとなしめの質感のある楽曲です。派手めな曲には、ブルー・ストライプ系のWA76-A2が合いましたね。通しただけでもちょっとしたにじみが加わるので、そこはオリジナルの良さを踏襲している印象です。また、音の立ち具合もしっかり強調してくれてより聴こえやすくなりました。ロック系の楽曲だし、バキッとしたコンプをかけたかったので狙い通りでした」
もう一方の落ち着いた楽曲にはWA76-D2を使用。そのサウンドについて「オリジナルのRev.Dのマイルドなかかり方を踏襲していて、こちらもイメージ通りに色付けできた印象です。両曲とも本チャンまで採用できました」と、即実践での活躍ぶりを語ってくれた。
オリジナルとの近似性について、さらに深掘りして聞いていこう。
「ひずみ感、トーンに関して言うと、両方ともオリジナルよりスッキリしている印象です。あとオリジナルの場合は、音を“握りつぶす”というイメージもありますが、今回試した両方ともジェントル寄りというか、破壊し切らない上品な感じがありました。しかも、しっかりコンプはかかるけどレンジは広い印象で、良い意味でプラグインにも通じるかかり具合です」
しっかりとコンプがかかりながらもレベラーとして優秀なWA76-D/D2
続いて、モノラル・バージョンのWA76-A、WA76-Dの印象を伺った。
「WA76-AとWA76-Dは、スタジオへ入る前に家で検証してみて、ボーカルとスネアにはWA76-Dが断然合うだろうと思ったので、スタジオではWA76-Dを使いました。オリジナルは、コンプがかかり過ぎてしまう瞬間があって、それをうまくコントロールして音を作るのがキモであり、WA76-Aはよく再現されていると感じました。ただ、慣れが必要なところでもあって。WA76-Dは、もちろんコンプはかかるんですけど、そういった失敗を回避しやすい印象です。1176らしさもありつつ、レベルを整えてくれる部分が優秀なんです。だから、失敗できない歌録りには最適だと思い使ってみました。スネアも同様ですね」
パラレル・コンプや入力インピーダンスの切り替えスイッチ、またWA76-A2とWA76-D2には3種類の2ch動作モードなど、オリジナルにはない機能が搭載されている。実際に使用する上で、それらの機能はどのようなメリットになるのだろうか?
「パラレル・コンプをスネアに使ってみたところ、目指している音像へとスムーズにたどり着けました。普通にコンプをかけていくと、ハイハットのかぶりまで大きくなってしまうところを、パラレルで緩やかにすると、ちょうど良いバランスになりました。ミックス・バランスは70~80%くらいですね。ピアノでも強めにコンプをかけた上で50%くらいに設定したら、欲しい成分だけしっかり拾ってくれました。こういった機能は現代のモデルならではの利点だと思います」
パラレル・コンプを実現
入力インピーダンス切り替え
最後に、数多くのプラグインがリリースされている昨今、ハードウェア・コンプの魅力について、染野に語ってもらった。
「シンプルに、手で触れて操作できるという点が便利です。インプットとアウトプットを両手で同時に回していく、という定番の使い方もできます。プラグインだとどうしてもマウスで1つずつの操作になってしまいますから。レシオのスイッチもポンポン押してかかり具合を変更できるし、4つ押しはもちろん、2つ押し、3つ押しもできる。そういうことを気軽に試せる面白さはハードウェアならではだと思います。もちろんレイテンシーも気にならないですしね。個人的にはWA76-D/D2はレベラーとして、WA76-A/A2は色付けとして、録りにもミックス時のリアンプにもお薦めです」
操作しやすいツマミ
レシオの同時押しも可能