AI歌声合成技術によって人間らしい歌唱表現を行えるDREAMTONICS Synthesizer V。その歌声データベースとして2024年10月に発売されたのがSynthesizer V AI 花響 琴だ。多彩なジャンルに対応する複数のボーカルスタイルを持ち、AIによる自然な表現力+圧倒的な歌唱力が注目されている。Synthesizer Vに精通する作編曲家/プロデューサーの田辺恵二に試してもらい、インプレッションを聞いた。
Overview|Synthesizer V AI 花響 琴
DNN(ディープ・ニューラル・ネットワーク)による歌声合成技術で人間らしい歌唱が可能な歌声データベース。キャラクター・ボイスは、シンガー/声優/講師として活躍する立花れおんが担当している。歌い方の特徴を切り替えられるボーカルスタイルは、デフォルト/Ballade/Cute/Dark/Falsetto/Musical/Powerの7種類を収録。テイク違いを生成できるAIリテイク機能、ラップや多言語での歌唱(日本語/英語/中国語/広東語/スペイン語)にも対応しており、幅広い音楽ジャンルに適応できるシンガーに仕上がっている。
Synthesizer V AI 花響 琴はパッケージ版とダウンロード版で発売中。Synthesizer V Studio Proがセットになったスターターパックも用意されている。
Price
●パッケージ版:10,780円 ●ダウンロード版:9,680円 ●Studio Proスターターパック:19,800円
Synthesizer V AI 花響 琴 reviewed by 田辺恵二
音楽ジャンルを選ばない声質
Synthesizer Vは歌声データベースを担当した声優の特徴が明確に表れる分、使える曲調や得意分野がはっきりしていることが多いです。しかし、花響 琴はかわいすぎない声で、かつ豊富な“ボーカルスタイル”によって声質をさまざまに調整でき、ジャンルを選ばずに歌わせることができます。
ボーカルスタイルはBalladeやCute、Darkなど合計7種類があり、それらのクオリティも高くて歌声データベースの進化を感じられました。特に注目なのはMusical。ミュージカル風に歌い上げる声で、オペラやオーケストレーションの楽曲を歌わせることができるのも面白いです。ビブラートが多い歌い方という感じではなく発声方法から変わる印象で、クラシカルなサウンド以外でも活用できると思います。
多彩な楽曲を歌い上げられるボーカルスタイル
Synthesizer Vは声優の声をキャプチャーして作られるため、その人の音域外ではうまく歌ってくれないことが多いのですが、花響 琴は音域が少し低めで比較的どの音高でも歌ってくれるのも使いやすいポイントです。また、Synthesizer Vの声は楽曲の中で抜けにくいことがあり、僕は普段EQやコンプで整えていくのですが、花響 琴は過度に調整しなくても抜けの良い響きになっており、制作において助かる場面も多いでしょう。
AIリテイクでバリエーションを生成
Synthesizer Vを使った制作のポイントも紹介しましょう。前述したボーカルスタイルでも多彩な歌い方を表現できますが、Synthesizer Vはパラメーターのエディットで全く違った印象の歌声に変えることが可能です。特にテンションやジェンダー、トーンシフトは重要。もちろんベタ打ちでも自然に歌唱してくれますが、これらのパラメーターを調整して歌声をさらに洗練させることが可能です。
Synthesizer V Studio Pro
Synthesizer Vの歌声データベースは、比較的ドライな響きになっていることが多いです。そのため歌がトラックから浮いてしまうこともあると思います。そんなときは、例えばスタジオ・ブースの響きを再現したリバーブをセンドで薄くかけると、空気感が生まれてナチュラルになじんでくれるはずです。
ピッチ・カーブは自身で細かく調整することができますが、AIリテイク機能を活用するのもお勧めです。テイクとしてピッチ・カーブのバリエーションを作ることができ、複数のノートを選択したときは、それぞれのつながりが良くなるようなカーブを生成してくれます。このAIリテイクを使いながら、好みの歌い方やニュアンスを突き詰めるとよいでしょう。
AIリテイク
Synthesizer Vによる生々しい歌声は目を見張るものがありますが、その中でも花響 琴は出色の出来だと感じました。これだけ多くのスタイルに対応した歌声データベースはなかなかないので、最初のバーチャル・シンガー音源としてもお薦めできます。