ソニーの新世代マイク、名機の血統 〜C-100以降のモデルたち〜

ソニーの新世代マイク、名機の血統 〜C-100以降のモデルたち〜

1958年に発売されたC-37Aをはじめ、ソニーは古くからレコーディング用のコンデンサー・マイクを手掛けている。中でも1988年に開発が始まり、1992年に登場したC-800Gは数々の名盤の歌録りに使われ、現在も根強い人気を誇っている。そのC-800Gの技術を受け継ぐソニーの新世代マイクがC-100(写真中央左)、C-80(同左)、ECM-100U(同中央右)、ECM-100N(同右)の4機種だ。本稿では、C-800Gを長きにわたり愛用し、C-100の所有者でもある鈴木Daichi秀行がこれらの新世代マイクをあらためてチェック。プライベート・スタジオでアコースティック・ギターの録音に使った結果から、各製品の魅力を語る。

C-100が現代の制作に合う理由

鈴木Daichi秀行

鈴木Daichi秀行
サウンド・プロデューサー。家入レオやYUI、miwa、絢香、いきものがかり、モーニング娘。など、トップ・チャートに輝くアーティストの楽曲に多く携わる。レーベルStudio Cubic Recordsを運営。

 C-800Gと言えば、10kHz前後に特徴がある明るいトーンで知られるマイクだ。まずは本機について、鈴木はこう話す。

 「倍音が少ない日本語の歌でもマイク乗りが良く、前に出てくるんです。C-800Gが設計されたのはテープ・レコーダーの時代なので、録音時に高域がなまることを見越して明るく作られていたのかもしれません。その音が今も支持されているわけですが、C-100と聴き比べてみたら、時代による音楽制作の方法の違いがマイクの音に現れていると感じます」

 2018年に発売されたC-100。クリアな音を生み出す防鳴筐体構造、音の力強さを損なわずに防振するショック・ダンパーなどをC-800Gから継承しつつ、DAWの時代を感じさせるモデルだ。「ナチュラルかつ周波数レンジが広い音で、録音後にいかようにでも加工できます」と鈴木。

 「C-800Gの音もワイド・レンジなのですが、C-100はフラットな印象で特定の帯域に耳が引っ張られない分、レンジがより広く聴こえます。DAWが普及してからは、とりあえず録っておいて後で作り込むようなプロダクションが増えました。C-100は、録り慣れない生楽器にラフに立てても失敗しにくいし、どんな方向へも持っていきやすい音に録れるので、昨今の制作スタイルに合うと思います」

鈴木Daichi秀行が10年ほど前に自身で購入し、主に歌録りに用いているというC-800/9X。機種名末尾の「/9X」は、環境対応を経たバージョンのC-800Gであり、現行品はすべてこれになる。背面に装備されているのは真空管回路とその冷却機構だ

鈴木Daichi秀行が10年ほど前に自身で購入し、主に歌録りに用いているというC-800/9X。機種名末尾の「/9X」は、環境対応を経たバージョンのC-800Gであり、現行品はすべてこれになる。背面に装備されているのは真空管回路とその冷却機構だ

自宅録音/ミックスに効くC-80

 C-100のカプセルを元にしつつ新設計したカプセルを備えるのがC-80。ダイアフラムの素材はC-800Gと同等で、ショック・ダンパー構造もC-800GやC-100から受け継いでいる。このC-80について「音の傾向はC-100と似ている」としつつも、独自の特徴があると鈴木は語る。

 「ローエンドからハイエンドまで、あらゆる帯域を収音するC-100には、裏を返せばマイキングやイコライジングの技量が求められると思います。その点、C-80は中域や中低域にピントを合わせたような設計なので、自宅録音でも環境音が気になりにくいでしょうし、特にボーカルは必要な帯域にフォーカスして録れるため、ミックスの際にも扱いやすいはずです」

 “ECM”を冠する2機種も、C-100と同傾向の音だと感じるそう。

 「ペンシル型のマイクには、高域の抜けにフォーカスした製品が多いと思うのですが、ECMの音はフラットな方向で扱いやすい感じです。単一指向性のECM-100UにはC-80に通じるところもあり、無指向性のECM-100Nは空気感があってナチュラルかつふくよかな音をしています。どちらも、いつかパーカッションに使ってみたいと思いました。パーカッションはアタックが強くてワイド・レンジだから、意外と録音が難しくてリボン・マイクやダイナミック・マイクに頼りがちになってしまうのですが、ECMのフラットな特性であればストレートかつ耳障りでない録り音が得られると思います」

 C-800Gから脈々と受け継がれるソニー製マイクのクオリティ。C-100以降の新世代を体験していない方には、本稿をきっかけにぜひ試してみてほしい。


 C-100 
メイン・カプセルに高域用カプセルを加えた2ウェイ機で、50kHzまでの高域特性を誇る。C-800Gから防鳴筐体構造を受け継ぎ、複数種の金属から構成されるボディにより、不要な共振が招く音の濁りを減じている。

●指向性:単一/無/双指向
●発売年:2018年
●価格:172,568円前後

 C-80 
歌や楽器の自宅録音に向けた25mm径カプセルの機種。C-800GとC-100から防鳴筐体構造を継承。カプセルを支えるショック・ダンパーはC-800GやC-100から受け継いだ防振仕様で、芯のある音にも寄与する。

●指向性:単一指向
●発売年:2022年
●価格:59,400円前後

 ECM-100U/ECM-100N 
ECM-100Uは原音忠実な楽器収音に向けた単一指向性モデルで、ECM-100Nは空間内の音を色付けなく収めるという無指向性の機種。防鳴筐体構造をC-800Gから継承。新規開発カプセルで50kHzまで収音する。

●指向性:ECM-100U=単一指向、ECM-100N=無指向
●発売年:2018年
●価格:ECM-100U=109,868円前後、ECM-100UMP(ペア)=218,900円前後、ECM-100N=123,068円前後、ECM-100NMP(ペア)=245,300円前後

※記載の価格は、すべてオープン・プライス(市場予想価格/税込)

製品情報

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