注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップ・スタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店に話を聞くRock oN Monthly Recommend。今回はARTURIAのアナログ・シンセPolyBrute 12について、ARTURIAのニコラ・ウーリ氏と、メディア・インテグレーションの多田純氏に話を聞く。
Photo:Hiroki Obara(except*)
PolyBrute 12
699,600円
●ARTURIAは数々のハードウェアをリリースしていますが、もともとはソフトウェアの開発からスタートしたメーカーですね。
ウーリ 1999年に創業し、複数のバーチャル音源とエフェクトを備えたStormという最初のソフトウェアをリリースしました。その後にDAWが浸透してARTURIAもプラグイン開発を積極的に進めていき、Analog Labなどのモデリング・ソフトウェア・シンセを数多く作ることとなります。ハードウェア・シンセでは、エミュレーション技術を採用したOrigin(2009年)に続き、2012年にARTURIA初のアナログ・シンセMiniBruteが誕生しました。以降、さまざまなハードウェアを開発し、今年4月にはステージ・キーボードのAstroLabを発表しています。現在ARTURIAでは、AstroLabやMIDIコントローラー+ソフトウェアの“_Lab”、アナログ・ハードウェア・シンセの“_Brute”、MicroFreakやMiniFreakといったハイブリッド・シンセの“_Freak”、ステップ・シーケンサー内蔵コントローラーの“_Step”、オーディオI/OやRev Plate-140、Bus-Peakなどのエフェクトを含む“_Fuse”という5つのカテゴリーで製品を展開しています。それぞれのカテゴリーにおいて、ARTURIAはより刺激的なサウンドとさらなる可能性を求めて、限界に挑戦しているんです。
多田 ユーザーを見ていると、特に人気なのがソフトウェアのV Collectionです。シンセの名機を独自のエミュレーション技術で再現しているメーカーという印象がやはり強いですね。ライブ・シーンでは、MicroBruteやMiniFreakなどのコンパクトなハードウェア・シンセも人気があります。
●今回紹介するのは、ハードウェア・アナログ・シンセのPolyBrute 12です。昨年発売されたPolyBruteに続く製品ですが、どのような違いがあるのでしょうか?
ウーリ 大きな違いは2つあります。1つ目は、名前に12とあるように、6ボイスのPolyBruteから発音数が2倍の12ボイスへと増えたこと。両手を存分に駆使して、多くのボイスを使ったプレイが可能です。2つ目の違いは、新しいFullTouch MPEキーボード。通常のアフタータッチは、キー・ベッドを押した状態からさらに押し込むことでコントロールしますが、FullTouch MPEではキー・ベッドのストロークの全域にわたってアフタータッチ信号が検出されます。さらにポリフォニック・アフタータッチに対応しているので、押さえているボイスごとにモジュレーションをコントロールすることが可能なんです。
●実際の演奏動画を見て、複雑なサウンド変化が簡単に行える表現力の高さに驚きました。
多田 PolyBrute 12はアフタータッチへのルーティングの自由度も高く、今までのシンセになかったようなサウンドを作り出せます。FullTouch MPE用のキー・ベッドは、ほかにはない弾き心地で不思議な感覚ですが、慣れると演奏しやすく感じられるはずです。
ウーリ ARTURIAは演奏性にもすごくこだわっているんです。MPE対応コントローラーだからといって、通常のキーボードの感覚を犠牲にしてはおらず、誰でも弾きやすいと感じてもらえるようなタッチになっていると思います。
●FullTouch MPEキーボードでは、どのような設定が行えるのでしょうか?
ウーリ Mono/Poly/Altという3つのモードがあり、Monoではモノフォニックなアフタータッチ、Polyではキー・ベッドごとに反応するポリフォニックなアフタータッチが可能です。MonoとPolyは、従来のアフタータッチのようにノート・オン後に押し込むタイプの操作になっています。AltではさらにFullTouch MPE機能を使用できる幾つかのモードが選択でき、“FullTouch: Env > AT”ではストローク全域でVCAとVCFのエンベロープを、アフタータッチで任意のパラメーターをコントロール可能です。“FullTouch: AT”はノートの発音ポイントが速く、そこからキー・ベッドの下までアフタータッチ信号となります。“FullTouch: AT > Z”は、キー・ベッドのストローク全域と従来のアフタータッチの押し込みに別々のパラメーターをアサインしてモジュレーションをコントロールすることが可能です。
●キーボードの左側にある、Morphéeというコントローラーも独創的ですね。
ウーリ 上下左右のタッチと押し込みというX/Y/Z軸で操作できるので、3Dコントローラーとも呼ばれています。片手で複雑なモジュレートを行えるので、6ボイスのPolyBruteでも人気の機能となりました。
多田 操作しているMorphéeの反応具合がディスプレイに表示されるので、視覚的にすごく分かりやすいですね。
ウーリ 今シンセがどのような反応をしているのか、ビジュアルでできるだけ表現するのもARTURIAのこだわっている部分です。サイズの制限もあり、ディスプレイでは多くを表示できませんが、コンピューターと接続して専用ソフトウェアのPolyBrute Connectを使うことで、詳細にパラメーターの変化を確認することができます。ちなみに、PolyBrute Connectから音色のエディットができ、プリセットの管理も可能です。DAW上でプラグインとしても使うことができるので、オートメーションでPolyBrute 12のパラメーターをコントロールすることもできます。
●キーボード上側のリボン・コントローラー、2つのパラメーター設定をモーフィングできるMorphノブなどもあり、コントロールの幅広さはPolyBrute 12ならではのものになっています。
ウーリ それらのコントローラーは、キーボードを演奏しながらでも操作しやすいようにデザインされています。
多田 ミスで触ってしまわないように配慮された配置になっていると思います。このMorphノブは触っていてとても面白いですね。複数のパラメーターが一度に変わっていく、サウンドの大きな変化が楽しいです。
●コントローラーのモジュレーション設定を行うモジュレーション・マトリックスも、Bruteシリーズを代表する部分ですね。
多田 一見すると難しそうに見えますが、3×4の区切りでボタンが並ぶデザインで、どこに何がアサインされているのか分かりやすいんです。
ウーリ モジュレーションのアサインだけでなく、プリセット呼び出しやシーケンサー/アルペジエイターの設定もここで行えます。
●シンセ・エンジン部分はどのようなこだわりが?
ウーリ ARTURIAは、サブトラクティブ・シンセの古典的なデザインを守りながら、より豊かなサウンドを得るために、それぞれのVCOにMetalizerとSubといった機能を追加しています。モジュレーションやエフェクトなどの+αの機能が多く備わったフレキシブルなアナログ・シンセです。
多田 VCFはシュタイナー・パーカーとラダーで、2つのVCOをそれぞれどちらのVCFへ送るか決めることができるんです。この構造によって作りたい音色へたどり着くのが早くなっていると思います。
ウーリ 2種類のフィルターによって別々の世界観を表現できるようにしているんです。
●エフェクトも豊富に用意されていますね。
ウーリ モジュレーションとディストーション、EQ、ディレイ、リバーブがあります。それぞれで複数のエフェクト・タイプを選択でき、マルチエフェクターと呼べるようなラインナップになっています。
多田 使用できるエフェクトの制限があるシンセも多い中、PolyBrute 12は創造性を欠くことなく使えるのがありがたいですね。
●サウンド・エディットの可能性を広げる機能と、演奏者のことを考えた操作性が詰め込まれたシンセになっていると感じました。どのような方にPolyBrute 12を使ってみてほしいですか?
ウーリ PolyBrute 12はどんなジャンルでも活用できるアナログ・シンセとして設計されているモデルです。オーケストラでもメタル・バンドでも、いろいろなユーザーに演奏してもらいたいですね。音楽以外の場でも、例えばアート・ギャラリーなどでPolyBrute 12のシーケンサーを使って自動演奏を流す、というのも面白いと思います。
多田 何でもこなせるシンセなので、とにかくアナログ・シンセが1台欲しいという方にはかなり良い選択肢になると思います。ARTURIAは、ユーザーからのフィードバックを取り入れたアップデートやバグ・フィックスが早いメーカーだと思うので、今後のさらなる進化や別の製品の登場にも期待したいですね。
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