ニラジ・カジャンチがJZ MICROPHONESフラッグシップマイクをレビュー 〜The Black Hole BH-1Sがもたらす新次元のサウンド

JZ MICROPHONES The Black Hole BH-1Sをニラジ・カジャンチがレビュー

革新的なデザインと音響特性が融合したマイク。用途に応じてその真価を十分に発揮するでしょう

2007年にラトビアで誕生したマイク・ブランド、JZ MICROPHONES。その革新的なマイク・デザインや独自技術Golden Drop Technologyにより、プロの録音現場で確固たる地位を築いている。今回の記事では、エンジニアのニラジ・カジャンチに同社のフラッグシップ・コンデンサー・マイク=The Black Hole BH-1Sを使用していただき、その真価を伺った。

JZ MICROPHONES 製品紹介

The Black Hole BH-1S

The Black Hole BH-1S

The Black Hole BH-1S|オープン・プライス(市場予想価格:199,650円前後)

 同社フラッグシップ・コンデンサー・マイク。独自技術Golden Drop Technologyを採用した軽量ダイアフラムにより、クリアな音質を実現するという。3つの指向性(単一指向性/無指向性/双指向性)を切り替え可能で、セルフノイズ7.5dB-Aの低ノイズ設計かつ、127dBのダイナミック・レンジを誇る。ラトビアのマイク職人によってハンドメイド製造されているのもポイントの一つだ。

【Specification】
▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪PADスイッチ:−10dB/−20dB切り替え可 ▪電源:48Vファンタム電源 ▪外形寸法:48(W)×190(H)×22(D)mm ▪重量:590g

The Black Hole BH-2

The Black Hole BH-2

The Black Hole BH-2|オープン・プライス(市場予想価格:114,950円前後)

 Golden Drop Technolog採用のラージ・ダイアフラム・コンデンサー・マイク。単一指向性で最大SPL134.5dB、セルフノイズは6.5dB-Aの性能を備える。透明感のあるサウンドを実現するというクラスA回路を搭載。ラトビアの職人によってハンドメイド製造されている。

【Specification】
▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪電源:48Vファンタム電源 ▪外形寸法:48(W)×190(H)×22(D)mm ▪重量:590g

Vintage 12

Vintage 12

Vintage 12|オープン・プライス(市場予想価格:144,980円前後)

 AKG C12にインスパイアされたラージ・ダイアフラム・コンデンサー・マイク。Golden Drop Technologyを採用し、最大SPL134dB、セルフノイズ6dB-Aの性能を備える。トランジスター技術とビンテージ・サウンドの融合によって滑らかな低域と広がりのある高域を実現するという。

【Specification】
▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪電源:48Vファンタム電源 ▪外形寸法:71(W)×185(H)×30(D)mm ▪重量:590g

Vintage 67

Vintage 67

Vintage 67|オープン・プライス(市場予想価格:144,980円前後)

 NEUMANN U 67にインスパイアされたラージ・ダイアフラム・コンデンサー・マイク。最大SPL134dB、セルフノイズ6dB-Aの性能を備える。またGolden Drop TechnologyとトランスレスFETデザインを採用し、ビンテージ・サウンドと現代的な透明感を融合しているという。

【Specification】
▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪電源:48Vファンタム電源 ▪外形寸法:71(W)×185(H)×30(D)mm ▪重量:590g

JZ MICROPHONES インプレッション

 JZ MICROPHONESのマイク自体は、以前からその存在を知っていました。今回レビューするThe Black Hole BH-1Sをはじめ、同シリーズのThe Black Hole BH-2は、本体に縦長の穴が空いている独特のデザインが非常に印象的です。同社Vintage 12やVintage 67についてはほかのマイクと比べてかなり幅広で、全体的に大きなサイズ感。JZ MICROPHONESのマイクは、いずれも独自性が光るデザインになっています。

 今回レビューしたThe Black Hole BH-1Sについては、チェロやストリングス・カルテット、フリューゲルホルンといった楽器のレコーディングで試してみました。第一印象は、トランジェントがとても速いということ。この特性が、特にフリューゲルホルンのアタック感を際立たせるのに適しているようです。この点は、The Black Hole BH-1Sが持つ特性の中でも最も特徴的で、楽器の繊細なニュアンスやディテールを録音する際には、大きな強みとなるでしょう。

 さらにThe Black Hole BH-1Sの周波数特性についても触れておくべきです。このマイクの周波数帯域は非常に広く、全体としてナチュラルな音質を持っています。JZ MICROPHONESの公式な説明には“色付けのない音”を目指して設計されているとありますが、私自身の印象としては、むしろ独特のサウンド・キャラクターを感じました。これは悪い意味ではなく、ほかのメーカーのマイクとは一線を画す特徴であり、使い手に新たな音作りの可能性を提示するものだと思います。

 このサウンド・キャラクターの理由としては、第一にGolden Drop Technologyを採用したダイアフラムの存在が挙げられます。独自の技術によって、トランジェントの応答性が高まり、楽器の細かいニュアンスまで正確に再現されるのでしょう。このトランジェントの速さはダイナミックな音源を捉えるのに最適です。例えば、アコースティック・ギターやピアノなどに向いていると思います。

 第二に挙げるのは、マイクの外観デザイン。本体に空けられた縦長の穴が音響的な役割を果たしており、従来のマイクとは異なる音の反射や共振を生み出しています。この結果として、ローエンドがほかのマイクに比べて戻りにくいという印象を受けましたが、これは悪い意味ではありません。最初はこの特性に耳が慣れるまで少し時間がかかったものの、使い続けるうちにその意図が理解できるようになったんです。JZ MICROPHONESが“色付けのない音”と表現するのは、まさにこの点に由来していると考えられます。

 一般的なマイクは、ボディの反射や共振も含めてそのキャラクターが形成されています。しかし、JZ MICROPHONESはその要素を意図的に排除することで、ピュアでクリアなサウンドを目指しているのでしょう。こういった設計思想はほかに類を見ないものです。このサウンドを新しい基準として受け入れるかどうかは、エンジニアやアーティストの選択次第ですが、少なくとも従来の音作りに一石を投じる存在であることは間違いありません。まさに新感覚のサウンドだと言えますね。

 また、このサウンド・キャラクターはボーカルやアコースティック・ギター、ピアノなどの録音に特に向いていると感じました。ポップスやモダンなプロダクションでは少しクリアすぎる場合があるかもしれませんが、逆にクラシック音楽や広いホールでの録音には、このクリアさが非常に役立つでしょう。 

 The Black Hole BH-1Sは、革新的なデザインと音響特性が融合したマイク。用途に応じてその真価を十分に発揮すると思います。

 

ニラジ・カジャンチ

【Profile】NYやLAでエンジニアとして活動したのち、ボーイズIIメンやマイケル・ジャクソンらの作品に携わる。日本移住後は三浦大知、安室奈美恵、氷川きよし、SKY-HI、小曽根真、Hana Hope、Newspeak、T-SQUARE、あんさんぶるスターズ!!などを手掛けている

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