プロの目線でiLoud Precision MTM、iLoud MTM MKII、ARC Studioを徹底レビュー

IK Multimedia iLoud Precision MTM、MTM MKII、ARC Studioを徹底レビュー

iLoud Precision MTM、iLoud MTM MKII、ARC Studioの3製品をプロの目線でレビューしてもらおう。ファンク、R&B、ヒップホップに根差した作品を中心に手掛けるエンジニア、福田聡のプライベート・スタジオにてじっくりと試してもらった。

レビュー:iLoud Precision MTM

iLoud Precision MTM

iLoud Precision MTM:206,800 円/1台

中高域の印象が音量の大小で変わらない。細かなところまで本機だけで追い込めます

粒が細かくしなやかなサウンド

 福田は、普段からIK Multimediaのモニターを用いることがあるという。

 「サブモニターとしてiLoud Micro Monitorを持っていますし、iLoud MTMも以前所有していました。iLoudシリーズは、音のトランジェントや粒立ち、奥行き感が分かりやすいという印象があり好んで使っています。どちらの機種もスタジオ外に持ち出して使うこともありますよ。iLoud Micro Monitorが小型で持ち運びに便利なのはもちろんですが、大きめの現場にiLoud MTMを持って行って、仮設スタジオを組んでライブ・レコーディングのモニターとして使ったこともあります」

 そんな福田に今回試してもらうモニターはiLoud Precision MTMと、新機種であるiLoud MTM MKIIだ。まずはiLoud Precision MTMの印象から聞いていこう。

 「あまり見ないデザインで個性がありますね。縦長で大きさもあるんだけど重過ぎず、持ち運びもしやすかったです」

 iLoud Precision MTMは、2つの5インチ・ミッドウーファーで1.5インチ・ツィーターを挟み込んだ仕様。185(W)×459(H)×282(D)mmで9.9kg。縦置き/横置きのどちらにも対応する。

 「iLoud Precision MTMは初めて使ったのですが、音の粒が細かくてしなやかですね。中高域に癖がなく聴きやすい。チャキっとした明るい感じというよりも、マットでフラット、キメの細かい音をしているなという印象です。僕がiLoudシリーズに感じている、音のトランジェントや粒立ちが分かりやすいという特徴も持っていて、初めに聴こえてくる音の感じがつかみやすい。“聴こえる”というよりも“分かる”というイメージ。例えば、ちょっとひずんでいるキックの音のひずみ具合を細かく追い込めそうです」

 さらに福田は解像度の高さにも言及する。

 「音のキャラクターも分かりやすいです。低域も、ただローがあるというのではなくて、どんなローがいるのか。そういう質感までよく分かります。あとは、声にかかっているエフェクト。ショート・ディレイがわずかにかかっているとか、リバーブが少しかかっているとか、そういうところまでよく分かるので中域も操作しやすい感じがありました。実際、“この歌、こんなショート・ディレイがかかってたんだ”と再発見した曲があったほどです」

 福田は、音を聴きながら背面に用意されたパラメーターを調整した。

 「僕のスタジオでは少しローカットした方が良かったので、LF EXTENSION(ハイパス・フィルター)を50Hzにしました。これですごく好みの音になった。80Hzだと減りすぎる感じ。低域はかなり出ていますね。背面にバスレフも付いていて、このサイズで期待される低域は十分。足りないということはないでしょう。位相感も良いと感じました」

 iLoud Precision MTMは、96kHzで動作する内蔵DSP、デジタル・クロスオーバー、カスタム設計のクラスDアンプを搭載しており、150Hz以上の帯域でリニアな位相特性を実現している。また、2ウェイ以上のスピーカーではツィーターからの信号が早く到達することで位相ズレが生じがちだが、これを抑えるべく、クロスオーバーの設計とウーファー/ツィーター間のタイム・アラインメントが行われている。

スタジオにiLoud Precision MTMをセットした様子。福田は「うちのスタジオだとハイパス・フィルターを50Hzにすると良い感じでした。キャリブレーション後もやはりその辺りが抑えられていましたね」と語る

スタジオにiLoud Precision MTMをセットした様子。福田は「うちのスタジオだとハイパス・フィルターを50Hzにすると良い感じでした。キャリブレーション後もやはりその辺りが抑えられていましたね」と語る

利便性の高い調整ソフトを付属

 さらに、付属のMEMS測定マイク、およびさまざまな音の調整ができるMac/Windows用アプリX-Monitorを使用して行うキャリブレーション機能も備えている。ページの最後でキャリブレーション専用デバイスであるARC Studioを紹介するが、それと同じARCテクノロジーを用いたものだ。測定マイクをスピーカー背面のARC MIC INに接続し、リスニング・ポジションに設置してCAL / PRESETボタンを長押しすることで、部屋の環境に適した調整が行われる。

 「先ほども言ったとおり、僕のスタジオでは少しローカットした方が好みの音になりましたが、キャリブレーションの結果もやはり膨らんだ低域を抑える方向になっていました」

 X-Monitorでは、ARC Systemでキャリブレーションした音を基に、厳密なリニア・フェイズ特性の“Precision”、聴きやすい“Comfort”、縦方向のスウィート・スポットを拡張した“Wide Dispersion”といったサウンド設定が行えるほか、定番とされているモニター・スピーカーの周波数や位相特性を再現したものからスマホの音まで、20種類以上のボイス切り替えを行うことが可能だ。

 「個人的には広がりのある“Wide Dispersion”が好きでした。スマホなどの音がシミュレートできるのも便利ですね。どんなデバイスで聴いても曲の印象が変わらないように突き詰めていくことはミックスにおいて大事なところなので、スマホに曲を転送して確認することもあるのですが、作業としてタイムラグができる。それが一瞬でできるのはありがたいですね。音の変化の様子がグラフで表示されるのも親切です。どの辺りが変化しているのかを理解しながら作業できるのはすごくいいと思いました」

iLoud Precision/iLoud MTM MKII専用アプリ、X-Monitorを扱っているところ。X-Monitorではキャリブレーションのほか、20種類以上のモニター・スピーカーの周波数、位相特性のエミュレーションなどから成るサウンド設定“Voice”の選択、周波数レスポンス・カーブのカスタムなどが行える

iLoud Precision/iLoud MTM MKII専用アプリ、X-Monitorを扱っているところ。X-Monitorではキャリブレーションのほか、20種類以上のモニター・スピーカーの周波数、位相特性のエミュレーションなどから成るサウンド設定“Voice”の選択、周波数レスポンス・カーブのカスタムなどが行える

 X-Monitorは、リスニング・ポジションにいながらiLoud Precision MTMのさまざまな設定や調整が行えるのもメリットだ。

 「背面に用意されているパラメーターもX-Monitorで調整できるので、後ろに回り込んで調整しているうちに調整前の音の印象を見失ったり、同じ位置にちゃんと座れたか気にしたりする必要がないのはありがたいです。ビフォー/アフターの聴き比べもクリック一つで行えて、別売りオプションのリモコン(iLoud Precision Remote Controller)を使えばフィジカルでも操作できます」

 付属品のインシュレーターiLoud Isolation Podsにも好印象を持ったようだ。

 「すごく良いと思いました。これはぜひ使ってください。インシュレーターを置くと歌の輪郭がしっかり出て解像度も上がりました」

福田が「ぜひ使ってください」と語るインシュレーターのiLoud Isolation Pods。1台につき4個付属されているほか、購入も可能だ(8,800円)

福田が「ぜひ使ってください」と語るインシュレーターのiLoud Isolation Pods。1台につき4個付属されているほか、購入も可能だ(8,800円)

 最後に、iLoud Precision MTMはプロの現場でも使えるかどうかを聞いてみた。

 「問題なく使えますよ。かなり大きい音を出しても無理している感じがしないので、少し大きめのスタジオでも使えると思います。音像的に面で大きく鳴っている感じがラージ・スピーカーのようでありながら、小回りも利くので重宝すると思います。また、歌のような中高域にキャラクターのある音色が、小さい音で聴いても大きい音で聴いても印象が変わらないのも使いやすい。本機のみでも細かいところまで追い込めます」

 iLoud PrecisionシリーズはiLoud Precision MTMのほか、5インチ・ウーファー+1.5インチ・ツィーターの2ウェイiLoud Precision 5、6.5インチ・ウーファー+1.5インチ・ツィーターの2ウェイiLoud Precision 6もラインナップされている。

こんなに簡単!iLoud Precisionキャリブレーション方法

 iLoud Precisionでのキャリブレーションは、専用アプリのX-Monitorの画面指示に沿っていけば簡単に実施可能。実際の手順としてはX-Monitorを立ち上げた後、付属するMEMS測定用マイクを、普段モニタリングする際の耳の高さに合わせる。

耳の高さに合わせる

耳の高さに合わせる

 それから、前方の左右、後方の左右と順番に1ポイントずつ測定していく。

4点で測定

4点で測定

 4ポイントの測定後、本体下部のLEDが緑色に点灯すればキャリブレーションが成功だ。なお後述するARC Studioでは7ポイント、または21ポイントでの測定となっている。

LEDが緑色に点灯

LEDが緑色に点灯

レビュー:iLoud MTM MKII

iLoud MTM MKII

iLoud MTM MKII - Single:74,800 円/1台
iLoud MTM MKII - Pair:148,500 円/2台+ARC MEMS 測定用マイク
iLoud MTM MKII - Immersive Bundle:748,000 円/11 台+ARC MEMS 測定用マイク

第1世代よりも解像度やレンジ感が一段上がった。サイズから想像するよりはるかに低域が出ています

Precision MTMとの併用もお勧め

 続いてiLoud MTM MKIIを試してもらった。先述したように福田は第1世代のiLoud MTMユーザーでもあったので、2つのモデルを比較した印象も併せて聞いていこう。

 「第1世代と外見は変わらず、相変わらず持ち運びや取り回しがしやすいところは顕在です。音の方は、第1世代の流れを汲みながらもバージョンアップされている印象。粒立ちや歯切れが良く、定位感がつかみやすい特徴に加えて、第1世代よりも解像度や奥行き感、レンジ感が一段上がっている印象です。先ほど試聴したiLoud Precision MTMに比べるとやや派手めの音で、8~10kHz辺りの高域がちょっと立っている印象がありますが、癖なく聴こえる。細かい音もよく見えます。低域も十分で、サイズから想像するよりもはるかに大きく出ていると思いますよ。ニアフィールド・モニターとして、よくできています。毛色が違うのでiLoud Precision MTMと併用するのもいいのではないでしょうか。iLoud Precision MTMで大きいところをつかんで、iLoud MTM MKIIで細かいところを詰めるような使い方ですね」

 iLoud MTM MKII は、縦置き/横置きどちらにも対応する2.5kgのコンパクト・ボディに、2つの3.5インチ・ウーファーで1インチ・ツィーターを挟み込んだ仕様。この対称デザインおよびウーファー/ツィーター間の正確なタイム・アラインメントにより、優れた定位感を実現する。また、クラスDのアンプを内蔵し、DSPは第1世代の2倍の処理能力を備えている。

iLoud MTM MKIIは横置きでテスト。福田いわく「第1世代と外見は変わらないサイズ感ですね。ニアフィールド・モニターや持ち運びなど、いろいろな使い方ができそうです」

iLoud MTM MKIIは横置きでテスト。福田いわく「第1世代と外見は変わらないサイズ感ですね。ニアフィールド・モニターや持ち運びなど、いろいろな使い方ができそうです」

キャリブレーションで低域が締まった

 iLoud Precision MTMと同様に、iLoud MTM MKIIにも付属のMEMS測定マイクとX-Monitorを使用して行うキャリブレーション機能が搭載されている。

 「iLoud Precision MTMよりもこちらの方が効果が分かりやすかったです。低域の余計なところが整理されて濁ったところがなくなり引き締まった。音の焦点が合った感じで、すごく分かりやすくなりました。低域が締まったことにより、中高域や高域もよく聴こえるようになった印象があります。X-Monitorメイン画面のグラフの帯域を見てもiLoud Precision MTMのときとは異なっていて、スピーカーごとの特性をきちんと捉えているのだなというのが分かりました。X-MonitorのVoice切り替えはこちらも用意されていて、選べるスピーカーの数は本体のサイズに合わせてかiLoud Precision MTMよりは少ないですけど利便性は損なわれていません」

iLoud PrecisionシリーズとiLoud MTM MKIIのコントロール・ソフト、X-Monitor。スピーカー本体背面のUSB ポートを Mac/Windowsに接続すれば利用可能だ

iLoud PrecisionシリーズとiLoud MTM MKIIのコントロール・ソフト、X-Monitor。スピーカー本体背面のUSBポートをMac/Windowsに接続すれば利用可能だ

 iLoud MTM MKIIは、20°までの角度調整が可能なスタンドが一体化されているのも特徴だ(横置きの場合は取り外してゴム製フットを使用する)。このスタンドは設置面からのアイソレーターとしても機能している。スタンドを取り外せば、汎用のマイク・スタンドに取り付けられるネジ穴が現れるので、環境に合わせてフレキシブルな設置ができるだろう。

 「スピーカー・スタンドの上に正面に向けて置いたり、作業用デスクのディスプレイ脇に上向きに煽って置いたり、いろいろな使い方ができます。スタジオじゃないところ……ライブ会場でレコーディングやミキシングを行いたいときもマイク・スタンドに付けられるので環境が作りやすい。意外とあるんですよね、スタジオ外でちょっとモニタリングしたいけどサイズはそこそこ欲しいというケースが。iLoud MTMの第1世代もその用途で重宝していました」

iLoud MTM MKIIの角度は0~20°で調整可能

底面のスタンドには数値の表記があるので左右の角度を正確に合わせられる

iLoud MTM MKIIの角度は0~20°で調整可能。底面のスタンドには数値の表記があるので左右の角度を正確に合わせられる

 福田は、iLoud MTM MKIIをプロの現場で使うならどのように活用するだろうか。

 「今言った外に持ち出すケースはもちろんですが、スタジオでもニアフィールド・モニターとして優れていると思います。小規模なスタジオのモニタリングに適していますね。音の立ち上がりが分かりやすいのでレコーディングでもミキシングでも使える。定位も分かりやすいです。例えば、遠くで鳴っているクラップのような、ヘッドホンでないと聴こえないような細かいニュアンスも分かる。この解像度はすごいと思います」

iLoud MTM MKIIを福田に持ってもらった。重量は2.5kgで、写真からもそのコンパクトさが分かるだろう

iLoud MTM MKIIを福田に持ってもらった。重量は2.5kgで、写真からもそのコンパクトさが分かるだろう

 iLoud MTM MKIIを使うことによって引き出されるサウンドにも期待を示す。

 「先ほど、キャリブレーションによって低域が引き締まった話をしました。ビフォー/アフターで聴き比べても如実にその違いが分かるほどです。これだけ引き締まった低域の中で、しっかりと本物の低音感を出すべく音作りをしていけば、かなり良いものが作れるんじゃないかと思います」

レビュー:ARC Studio

ARC Studio

ARC Studio:52,800円
ARC Studio アップグレード:44,000円

霧が晴れるように奥行きが見えた。スピーカーを買い換える前に試す価値はあります

 最後に、キャリブレーション専用デバイスであるARC Studioを試してもらおう。こちらはiLoudシリーズに限らず、あらゆるスピーカーのキャリブレーションを行えるシステムで、iLoudシリーズでは4ポイントで測定するところを、7ポイントもしくは21ポイントで測定する。測定ユニットとマイクがセットになっており、ソフトはX-MonitorではなくARC 4という専用のものを使用する。

 「普段使っているスピーカーで試してみました。21カ所で行いましたが、1ポイントずつ短いテスト・トーンを鳴らすだけなので作業自体は大変ではなかったです。個人的には、こちらのキャリブレーションの方がiLoudのものよりも好きでした。キャリブレーション後の変わり方が優しい感じで、ほどよく低域が分かりやすくなり、高域もそこまでシャキシャキしていない。もうそのまま作業に入ろうかと思える感じの音になりました」

普段はモニター・スピーカーとしてATC SCM25A Proとサブウーファーを使用。ARC Studioのキャリブレーションによる変化を、福田は高く評価していた

普段はモニター・スピーカーとしてATC SCM25A Proとサブウーファーを使用。ARC Studioのキャリブレーションによる変化を、福田は高く評価していた

 普段使用しているキャリブレーション・システムとの違いについても聞いたところ「ARC Studioの方がレンジ感が広い」とのこと。

 「仕事用の環境をARC Studioで作るとしても問題ないです。オン/オフするとすごく違いが分かる。キャリブレーションしていないときは低域にモワッとした膜のようなものがあるのですが、それがなくなって、霧が晴れるように奥行きが抜けて見えるようになる。起こりがちな“モアモアしたローがあるので低域が出ていると思ったら実はすっからかんだった”という問題もなくなると思います。低域だけでなく、中高域の解像度も上がる。歌の、声の周りにまとわりついている成分の加減も分かりやすく、ピントが合う感じもいいですね。若干ぼやけているボーカルとかハイハットとかギターとか、そういうもののピントがピシッと合います。いま使っているスピーカーに疑問を感じているなら、買い替えを検討する前にARC Studioを試してみる価値はあるのではないかと思います」

 以上、福田によるiLoud Precision MTM、iLoud MTM MKII、ARC Studioのレビューをお届けした。全体を通して「以前からiLoudシリーズに持っていたイメージが、時代に合う形で、良い方向にバージョンアップされていると感じた」という。プロの現場でも活用の幅が広がっていきそうだ。

 

福田 聡
【Profile】レコーディング/ミキシング・エンジニア。ファンクを軸として、主にグルーヴ重視のサウンドを手掛ける。また、リズム録りが生きがいのひとつであり、ジャンル問わず多くの生バンド作品でも腕を振るう。

 Release 

『A museMentally』
スキマスイッチ
(AUGUSTA RECORDS)


こちらもチェック…IK Multimediaの最高技術責任者が語るiLoudに込めた正確さと芸術性

製品情報

関連記事