1994年にアメリカのコロラド州ボールダーで設立されたGRACE design。こだわり抜いた回路設計と色付けの少ないピュアなサウンドは全世界から注目され、今やプロフェッショナルには欠かせない存在となったオーディオ・カンパニーだ。ここでは、開発者/共同経営者のグレース兄弟へのインタビューとエンジニアの染野拓、プロデューサー/シンガー・ソングライターの春野による各製品のレビューを掲載。繊細かつ力強く、息遣いや空気感までサウンドのディテールを余すことなく表現するGRACE designの世界に迫っていこう。
開発者&共同経営者のグレース兄弟が語るGRACE designのこだわり
ブランド・コンセプトは“音楽と犬を愛する善良な人々によって作られる、時代を超えた美しいオーディオ機器”
GRACE designのこだわりを探るために、開発者であるマイケル・グレース氏(上掲写真左)、その弟で共同経営者であるイーベン・グレース氏(同右)にE-Mailインタビューを敢行。2人の総意としての回答をもらえたので、ここにお届けしよう。
最も重要な設計テーマは自然で透明かつ音楽的なサウンド
◼GRACE design設立の経緯
我々の父は音楽の教授で、多くのレコードを所有し、ビートルズやローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリンが私たちのベビー・シッターでした。音楽好きが高じて、イーベンは演奏に専念し、マイケルはエンジニアとしてレコーディング業界向けにカスタム・マイク・プリアンプを作るようになりました。その需要が高まり、2人でGRACE designを設立。最初は家の地下室から始まりましたが、30年かけてコロラド州リヨンに自社ビルを構える20人のチームに成長しました。
◼GRACE designのブランド・コンセプト
一言で表すなら、“音楽と犬を愛する善良な人々によって作られる、時代を超えた美しいオーディオ機器”です。信頼性が高く、機能的で、素晴らしいサウンドの機材を作ることを常に目指しています。そして、小規模で家族のような職場環境を維持しながら、これを実践しています。
◼製品設計のテーマ
最も重要な設計テーマは、機材のサウンドが自然で透明、音楽的であることです。リアリズムとディテールにこだわり、余計な色付けを避け、楽器や声が発するあらゆる輝きを保ったまま聴けるようにしています。また、音質と同じくらい信頼性を重視し、長持ちする機材を作るよう努めています。
◼デザイン面のこだわり
製品の外観をデザインする際、まず完璧を目指す部分は人間工学です。操作がシンプルかつ明確で直感的になるように、多くの時間を費やしています。このような人間工学は、特にモニター・コントローラーのm905、m908でうまく実践されていて、操作性の良さにお客様にはとても満足していただいています。
もう一つのこだわりとしては、大胆で頑丈な外観です。例えば、プリアンプのFELiXは、無垢のアルミニウムから押し出したトップ・カバーを使用しており、非常に厚いタフで丈夫な金属パネルになっています。
◼製品のクオリティを保つための極意
一生涯にわたって使用できる、そして次の世代にまで受け継がれるような製品を作ることが私たちの使命です。頑丈な設計に始まり、回路レベルの部品は音質だけでなく寿命の長さも考慮しています。品質管理の面では、どの部品も少なくとも48時間のバーンイン・テスト(高負荷テスト)を義務付けています。48時間というのは、まれに見られる初期不良が発生する期間です。そうやってすべての製品が100%テストされ、しっかりと梱包されてから出荷することで、到着時に完璧な動作状態であることを保証します。さらにご購入後の保証や修理サポートも特に充実させています。過去に製造したプリアンプが、チューンナップや修理のためにショップに戻ってくることがよくあります。このように製品をお預かりし、新品同様にして、また長い間使っていただくためにお返しするのが大好きなのです。
◼今後の展望
過去30年間の着実な成長を次の30年も続けたいと考えていますが、最も重要なのは、製品が有意義で役立つものであることを常に維持することです。テクノロジーは急速に進化し、AIの登場でさらに加速すると予想されますが、良質なハードウェアのニーズは常に存在すると信じています。新製品の開発には多くのアイディアがあり、近いうちに2つの大きなリリースを予定しています。
◼日本のユーザーへメッセージ
日本の友人は、私たちが知っている中で最も立派で友好的で、素晴らしい人たちです。いつか日本を訪れ、エンジニアやミュージシャンの方々とお会いし、この目で桜を見ることを夢見ています。
グレース兄弟が語る ノイズを抑えるために施された工夫
いかなる条件下でも製品が静かであるように、以下のノイズ源からオーディオ経路を守るための細心の注意を払っています。
●電源:超低ノイズの“プッシュプル”DC/DCコンバーターをベースにしています。
●RFI(無線周波数干渉):マイクプリはすべて、RFIから念入りに保護された設計となっています。マイク入力段のコモン・モード・チョークは、マイクからの信号は通過させますが、ケーブルに誘導されるコモン・モード・ノイズは遮断します。また、出力部はフェライト・ビーズとコンデンサー・ネットワークで保護しています。
●内部ノイズ源:4層のオーディオ回路基板には、低インダクタンスの銅製グラウンド・プレーンが組み込まれており、安定した信号と電源を提供します。さらに、5Vのロジック/リレーおよびLED電源には、独自のグラウンド・リターンを備えています。
●抵抗ノイズ:高精度の薄膜(金属皮膜)抵抗のみを使用することにより、非常に低く抑えられています。
GRACE design製品レビュー&カタログ
GRACE designは、ブランドを代表するスタジオ向けマイクプリやモニター・コントローラーをはじめ、近年開発されたペダル型プリアンプなど、魅力的な製品を数多くそろえている。普段からGRACE designの機器を愛用しているエンジニアの染野拓、プロデューサー/シンガー・ソングライターの春野によるユーザー・レビューも交え、現在のラインナップを紹介していこう。
Reviewer
染野拓
レコーディング/ミックス/PAエンジニア。2017年、東京藝術大学音楽環境創造科を卒業。2019年からStyrismに所属し、これまでにCHARA、SIRUP、odol、WONKなどの作品を手掛ける。最近ではTK from 凛として時雨、佐藤千亜紀、春野、AGO、くじら、NIKO NIKO TAN TAN、LAGHEADSなど、ジャンルを問わずエンジニアを担当する。
春野
作詞曲からトラック制作、ミックス、マスタリングまで自らこなす、ネット発のシンガー・ソングライター/プロデューサー。ジャズやヒップホップの素養を持ち、2020年のEP『IS SHE ANYBODY?』でiTunes/Apple MusicのR&Bチャート首位を獲得。昨年、最新アルバム『The Lover』を発表した。
m101[マイクプリ]
シングル・チャンネルのマイクプリ、m101。特筆すべき点として挙げられるのが、入力インピーダンスを8.1kΩから20kΩに切り替えることができるリボン・マイク・モードだ。リボン・マイクにはもちろんのこと、ダイナミック・マイクを使用する際に活用することで、マイクの持つポテンシャルを最大限発揮することができる。
ユーザー・レビュー by 染野拓
リボン・マイクの柔らかさはそのままに音に臨場感が加わる
入力インピーダンスを切り替える“リボン・マイク・モード”を試してみたかったので、まずはギターの録音でテストを敢行。普段私は、ギター・アンプにダイナミック・マイクとリボン・マイクの2本を立てることが多く、リボン・マイクのチャンネルでm101を使用しました。
リボン・マイクは、良くも悪くもちょっと音が遠くなる印象があるのですが、m101のリボン・マイク・モードを使用した音には、しっかりとアンプの目の前で聴いているような臨場感があり、ハイファイな印象を受けました。レンジ感もしっかり広く録ることができ、かつキリキリとした耳に痛い部分は全くなく、ちゃんとリボン・マイクの柔らかさが生きています。リボン・マイクがもともと持っている良さはそのままに、録り音の印象が新鮮に変わったので、不思議な感覚です。
帯域感は、とてもバランスが良く、フラット。ただ、フラットとうたっている製品によくあるような硬い印象ではなく、“柔らかいフラット”といったサウンドでした。また、ヘッドルームがとても高いと感じました。m101は、ピークLEDがクリップする10dB手前で赤く点灯するという仕様なので、曲中でときどき赤く点灯するくらいであれば問題はありません。実際、ちょっとレベルを入れすぎてもひずむことはなく、この懐の深さが、独特なサウンドの柔らかさにつながっているような気がしました。
圧が出過ぎる感じもなく演奏の空気感ごとキャプチャー
続いて、ボーカル・レコーディングでも使用してみました。まず、感想を一言で表すとすれば、“とにかく奇麗に録れる”。テストをした楽曲は、比較的ロック調だったのですが、声を張ったときに圧が出過ぎる感じもなく、音自体をそのまま奇麗にキャプチャーしてくれました。倍音も奇麗に録れるので、ウィスパー系のシンガーにも向いていると思います。マイクプリ自体のSN比も良いので、ささやくような歌声の録り音のノイズに困っている方がいたら、ぜひお薦めしたいですね。
75Hz/−12dB/octのハイパス・フィルターが搭載されているので、吹かれの問題や、宅録の環境でマイクと十分な距離が取れない方にも便利な仕様になっています。また、クラシックなどの生楽器をメインとしたミュージシャンにはもちろんお薦めです。演奏の空気感ごとキャプチャーしたいときに、m101は最適だと思います。
m108[マイクプリ]
アナログ8イン/2アウトのUSBオーディオI/O(Mac/Windows対応)やデジタル・ミキサーとしても使用できる8chの多機能マイクプリ、m108。レコーディング時に、ブースから本機を制御したいときなどに便利な“Webブラウザーからのリモート・コントロール機能”を備えている。
ユーザー・レビュー by 染野拓
金物系の録音ではチップが当たる瞬間まで捉える
8chというチャンネル数を生かしたかったので、ロック系の楽曲のドラム・レコーディングでテスト。シンバルやハイハットなどの金物系、あとはルーム・アンビエンス用のマイクに使用しました。録り音の印象は、m101と同様とにかく奇麗で、m101以上にスッキリと整頓されているようなサウンドでした。シンバルがバシャバシャと鳴っているときも、嫌な感じになりません。例えば、ライド・シンバルを思いっきり連打したりすると、ショワーっと音がつながって、チップが当たる瞬間の音が聴こえないということがよくあります。その点、GRACE designのマイクプリだと、打っている音がしっかりと聴こえてアタック感がありつつも、その後のバシャバシャとした音もしっかりと捉えることができます。オーバーヘッドに立てたマイクは、スネアやタムの下の部分を、変なごわつきなく録れて、かつイヤなロー感がなく使いやすい奇麗な印象でした。
金物系の録音ではチップが当たる瞬間まで捉える
今回は録る機会に恵まれませんでしたが、弦カルテットや生ピアノの録音にも使ってみたいです。そのような、たくさんのマイクを使用するレコーディングでの録り音がゴワゴワとしてくる問題が、m108のクリアな音質で解決できそうだなと思いました。また、m101と同様、高いヘッドルームを有しているので、数台のm108をカスケード接続してライブ・レコーディングに使用するのも有用でしょう。割と攻めた演奏でも、ひずむことなく録ることができると思います。ほかにも、キンキンしがちなストリングスのオンマイクに使用して、痛い部分を和らげたりなど、活用できる範囲はとても広いのではないでしょうか。録りたい音をそのままに録れるので、さまざまな人の制作をスムーズにしてくれる機材だと感じました。
m103[マイクプリ]
1chマイクプリ/3バンドEQ/コンプレッサーを搭載したチャンネル・ストリップ、m103。コンプレッサーは、オプティカル・アッテネーター式を採用し、あらゆるソースに対して繊細かつナチュラルなコンプレッションが行える。各セクションの接続順は変更できるので、さまざまなシチュエーションに対応可能だ。
m801 mk2[マイクプリ]
伝統的な8chマイクプリ・シリーズの後継機、m801 mk2。精巧な金属皮膜抵抗や、電解コンデンサーの排除といったこだわりの設計を継承しつつ、ローゲイン時のノイズ・パフォーマンスや、低域のフェイズ・レスポンスの改善などにより、3.2Hz~530kHz(±3dB)というフラットかつワイドな周波数特性を実現している。
m201 mk2[マイクプリ]
m801 mk2と同等のクオリティを有したまま機能を絞ることで、より多くのエンジニアやミュージシャンの手に届きやすい価格が実現された2chマイクプリ、m201 mk2。入力インピーダンスを最適化しながら、ゲイン・レンジを10dBシフトするリボン・マイク・モードなど、こだわりの性能はそのまま継承されている。
グレース兄弟が語る ゲイン・コントロールの特長
すべてのプリアンプ(m108リモート・マイクプリを除く)で使用されているゲイン・コントロールは、0.5%の金属皮膜抵抗で配線された精密な金接点スイッチで構成されています。ゲイン設定のために、ポテンショメーター(可変抵抗器)ではなく固定抵抗器スイッチを使用する利点は非常に大きいです。信号がポテンショメーターを通過すると、温度が変化してしまうので抵抗値も変調します。抵抗値が変化すると、アンプのゲインも変化し、その結果、不要な動的ひずみが生じます。ほとんどの導電性プラスチック・ポテンショメーターは±1000ppm/ºCの温度係数を持ち、これは高い増幅ゲインで信号劣化を引き起こす可能性があります。それに比べ、金属皮膜抵抗器の典型的な温度係数は±50ppm/ºCで、熱安定性が桁違いに向上します。
ROXi[ペダル型マイクプリ]
ペダル型のマイクプリ、ROXi。ペダル・ボードに組み込んでエフェクターと組み合わせることで、スタジオ・クオリティのサウンドをライブ環境で実現することができる。ミッド周波数可変式の3バンドEQセクションや、+10dBのブースト・スイッチ、ハイパス・フィルターなどを活用すれば、PA卓に送る前段階で細かい音作りが可能だ。また、ライブ時のミス・タッチを防ぐため、ノブ・セッティングを保護するサイド・バーが左右に取り付けられている。もちろん自宅でのレコーディング用マイクプリとしても活躍する。
ユーザー・レビュー by 春野
ミス・タッチを防ぐサイド・バー 音作りの幅を広げるFXノブ
“ライン/マイク・レベルのソースをハイクオリティのまま卓に送れる”……これが最初の所感です。重量は1.45kgと、剛性に信頼を置ける数値。トップ・パネルにはノブのミス・タッチを防ぐサイド・バーが備わっており、ペダル・ボードの中央に配置して、ターミナル的に使うことを想定した設計だと感じました。
機能面で特にユニークだと思ったのが、外部エフェクターを併用するための“FX”。リア・パネルにはセンド&リターン端子があり、リターン端子を介して外部エフェクターの音をROXiに戻すことが可能です。また、FXノブで簡単にパラレル処理を行うことができます。ディストーションやファズなどのひずみ系のエフェクターは、パラレル処理できないものが多いので、これはありがたい仕様です。
ライブ演奏の可能性を拡充するこだわりの設計
まずは、アナログ・シンセでテスト。アナログ・シンセは、ピッチが不安定なので、マスター・チューンに合わせる作業が必要になるのですが、ROXiはチューナー用のTSフォーン出力を備えているのでとても便利でした。肝心の音の印象ですが、このサイズ感で、GRACE designのほかのプリアンプとクオリティが変わらないことにとても驚きました。
続いては、アコギ。ギターの弦が手でこすれる際の細やかなニュアンスや、演奏の空気感をしっかりと捉えてくれます。高域のスッと奇麗な質感も好印象です。ROXiからエレクトレット・コンデンサー・マイクへの給電が可能なので、バイオリンなどのアコースティック楽器に使用して、外部エフェクターでホール・リバーブをかけたりするのも良さそうです。
次に、エレキベース。少しミッドを削り、軽くハイを上げただけで、プリッとした艶のある質感を得られました。エレベやシンベはDIによって音が大きく左右されるので、ライブ会場にDIを持ちこむプレーヤーが多いですが、そういった方々にもROXiはお薦めです。
外部エフェクターからのリターン信号との干渉を防ぐ位相反転スイッチや、PAエンジニアの手を煩わせることなく楽器交換やサイレント・チューニングを行えるMUTE/TUNEスイッチなどを備え、音質面以外のこだわりも素晴らしいROXi。ライブでの音作りや音質のクオリティに悩んでいるプレイヤーの方々だけでなく、コンパクト・エフェクターをより有効活用したいと思っているミュージシャンにも最適な製品だと思います。
REX[ペダル型マイクプリ]
ROXiより一回り小さいサイズのペダル型マイクプリ、REX。ROXiの機能性を最大限に生かしたまま、シンプルな構成を実現。より演奏をピュアに表現したいプレイヤーや、簡潔なシステムを好むミュージシャンには、REXが最適だと言える。また、ROXiがAC電源だったのに対し、REXは9V DC駆動のため、よりペダル・ボードに組み込みやすい設計になっている。
グレース兄弟が語る 新機軸のペダル型プリアンプを開発した理由
FELiX、AliX、BiXといった当社のアコースティック楽器用プリアンプの製品ラインは、読者の皆様もよくご存じかと思います。これらは大きな成功を収め、当社がアコースティック・ミュージシャンの間で人気を得るきっかけとなりました。これらの製品が登場するまでは、アコースティック・ミュージシャンにとって、スタジオ・クオリティの仕様で作られたステージ・プリアンプの選択肢は、あまりありませんでした。そこで、これらの製品の幅をさらに広げるために、私たちはREXとROXiを作ることにしました。ステージ上でマイクを使う人なら誰でも、この2つのペダルがあれば頑丈で非常に高品質なマイク・プリアンプを足元に置くことができます。これらは弦楽器奏者だけでなく、シンガーや管楽器奏者にも最適です。
m900[モニター・コントローラー]
モニター・コントローラー、DAC/ヘッドホン・アンプのm900。トップ・パネル中央にボリューム・コントローラーが1つというシンプルな構成が特徴だ。2系統のヘッドホン出力に加え、RCAピンのライン出力を装備。部屋で実際にスピーカーを鳴らしたときのアコースティックを再現する“クロスフィード回路”というユニークなモードや、4種類のDACフィルターを搭載している。
ユーザー・レビュー by 春野
ユーザビリティの高いシンプルな構成
数年前、新しいヘッドホン・アンプを探していたときに、m900がちょうど良さそうだなと思って買ってみたのがGRACE designとの出会いでした。まず外観ですが、とにかくシンプルで分かりやすい。0〜99の数字でレベル設定値を表示する7セグメントLEDのディスプレイと、ボリューム・コントローラーのノブのみという構成なので、どんな方でもすぐに使いこなせると思います。
レベルの設定値は、起動時に自分が好みの数値で立ち上がるように設定が可能なので、立ち上げるたびにノブをぐるぐる回す必要がありません。ロータリー・エンコーダー式のボリューム・コントローラーは、軽く1回プッシュするだけで音声をミュートにすることが可能なので、スピーカーとヘッドホンを切り替えて作業したいときなどにとても便利です。ユーザーのことを考えて実用的に設計されているんだな、というGRACE designチームのこだわりが随所に感じられます。
ノイズ・チェックにも有用な音への反応の速さ
音質は、誇張がとにかくなく、忠実。モニターに適したサウンドで、いい意味で色付けがなく、さらっとした印象です。DACフィルターは4種類用意されているので、自分好みのサウンドを選ぶことができます。フィルターの種類によって極端に音が変わってしまうようなことはなく、それぞれ繊細な違いなので、ここにもGRACE designの精巧さが表れていると感じます。
私の実際の作業では、m900はミックスの最終段階で、ノイズ・チェックも兼ねてヘッドホンでチェックするときに使うことが多いです。GRACE designの製品はどれも、とにかく音への反応が速くて、リップ・ノイズとかのノイジーな音がすごい分かりやすいんですよ。これが、ほかのヘッドホン・アンプを使っているときにはノイズが全体の中に混ざって鳴ってしまって気づかないことが意外と多くて。その点、m900ならリミッターなどに突っ込み過ぎたときのバリバリとしたノイズにもすぐに気づけるので、とても信頼を置いています。
m905[モニター・コントローラー]
2Uサイズのメイン・ユニットと、視認性の良いLCDを搭載したリモート・コントロール・ユニットから成り、9系統の入力をセレクトしてモニターすることができるモニター・コントローラー、m905。アナログ入力オンリーのm905 Analog(594,000円)も用意されており、スタジオ環境に応じて柔軟なセット・アップを可能にしている。
m908[モニター・コントローラー]
ステレオおよび22.2chまでのサラウンド/イマーシブ・フォーマットに対応したモニターコントローラー、m908。最大24chのスピーカー・システムで利用可能。パワフルなDSP機能を有し、すべてのチャンネルに対して、ルーム補正EQ、包括的なベース・マネジメント機能、および個別のチャンネル・ディレイを設定することができる。
グレース兄弟が語る アナログ部(回路など)の設計のこだわり
m905のDAコンバーターは、BURR BROWN製のPCM1796をベースにしています。これは電流出力DACで、電流から電圧への変換をトランス・インピーダンス・アンプに供給します。この組み合わせは完璧で、トランス・インピーダンス・アンプはDACの高速スイッチング過渡現象でスルーレート制限を受けないため、DAC出力はTIM(過渡相互変調ひずみ)から解放されます。その結果、カラレーションやそのほかの影響を受けず、非常にオープンで自然な音質が得られます。