2024年に創業100周年を迎えた音響機器ブランド、beyerdynamicにスポットを当てた本連載。第4回はマイクMシリーズ、TGシリーズ、さらに近年ラインナップに追加されたPRO Xシリーズを中心にお届けする。電子技術およびソフトウェア・エンジニアリングのR&D(研究開発)責任者のトビアス・グモーザー氏のインタビューと、多彩なマイク製品のラインナップも紹介していこう。その精度の高さが今やゲーミング・ヘッドセットなどにも活用されるなど、自社工場で開発/生産まで行っている“Made in Germany”の技術は、マイクへいかに取り入れられているのだろうか。
Photo:Hiroki Obara(メイン画像)
R&D責任者が語るMシリーズ&TGシリーズ開発ストーリー
今回はbeyerdynamicが誇るマイクから、スタジオ定番でありながらステージでも広く用いられているMシリーズ、ライブ・ステージでの利用を念頭に置いてデザインされたTGシリーズを中心に、研究開発責任者のトビアス・グモーザー氏に話を伺った。一般的に、ダイナミック・マイクはステージ向き、コンデンサー・マイクはレコーディング向きという認識もあるが、リボン・マイク由来の高い技術を持つ同社のダイナミック・マイクは、トップ・レベルの録音現場でも多用されているとのこと。その理由を氏の話から探っていこう。
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原音に近い自然なサウンドを収音
ライブ・サウンド・エンジニアリングに情熱があり、常にマイク開発と密接に関わってきたというグモーザー氏。まずはダイナミック・マイクM 88やリボン・マイク M 160などをラインナップするMシリーズのコンセプトから聞いていこう。
「Mシリーズは、原音に近い自然なサウンドを、高いクオリティで収音できるマイク・シリーズです。ドイツの地で数十年にわたり培われたハンドメイド技術が、デザインとサウンドの実証となって表れている。スタジオやステージなど幅広い用途に対応しています」
ハンドヘルド・マイク、TG V70やクリップオン・マイク、TG-D57/58 をはじめとするTGシリーズも、beyerdynamicの主要製品だ。
「ステージ用マイクを包括するラインナップになっています。ボーカルだけでなく、豊富なドラム用マイクや、そのほか楽器用マイクもあります。スタジオ・ツールとしては、Mシリーズの補完的な立ち位置でもありますね」
各マイクに共通する音響特性はあるのだろうか。
「特定の音を強調しないナチュラルさが特徴です。楽器や状況に合わせて、エンジニアが調整できる余地を残す。一芸に秀でるのではなく、望む音の特性に応じて調整可能なことを主眼に置いています。例外的に、バス・ドラム用のTG D70やTG D71、ポッドキャスト用のM 70 PRO Xなど、シーンに合わせた音質設計のマイクもありますよ」
複雑な技術で小さな筐体を実現したM 160
ではここから、製品ごとに詳しく伺っていく。1962年の発売以来、ロングセラーとなっているM 88は、多くのスタジオで採用されているハイパーカーディオイドのダイナミック・マイクだ。
「当初はスピーチやボーカル用のマイクとして設計されました。プロのシンガーのために指向性をハイパーカーディオイドにして、近接効果を効果的に使用するなどのテクニカルな用途にも対応しています。高いフィードバック耐性を備え、周囲の環境音やほかの楽器のかぶりをアイソレーションする能力に優れています。先ほどもお伝えしたように、beyerdynamicのマイクはどれもナチュラルな周波数特性になっているので、昨今ではボーカルだけでなく、さまざまな楽器の録音に使用されていますよ」
続いて、一般的なリボン・マイクよりも小さなサイズがひときわ目を引くM 160。リボン・マイクには珍しい、ハイパーカーディオイドの指向性を持つ、非常に扱いやすいモデルだ。 2019年にはオーディオ、レコーディング分野の優れた製品をたたえる“NAMM TEC Awards Technology Hall of Fame”を受賞した。搭載されているリボンの長さ、幅が非常に小さく、グモーザー氏は「製造工程は大変複雑になりますが、筐体を小さくできると同時に、堅牢(けんろう)性と独特な音響特性が得られます」と語る。その独自性が、長きにわたり高い支持を集めているのだ。
TGシリーズを代表するTG V70は、国内でも幅広く使用されるハンドヘルド・マイクだ。 「ソリッドな低音を持つパワフルさと同時に、EQなしでもミックスで際立つクリアなサウンドです。また、非常に高いフィードバック耐性と、頑丈なグリル、高いノイズ抑制のためのハムバッキング・コイルを搭載しています。パワフルな声を持つロック・シンガーには最適な選択肢ですが、スムーズな声を持つシンガーにおいても、その特性を強調するマイクになっています」
さらに、2021年から新たに、M 90 PRO X、M 70 PRO Xの2機種を擁するPRO Xシリーズがラインナップに加わるなど、新たな製品も開発し続けている。
「現代のモバイル制作環境において、レコーディング・スタジオでなくともスタジオ並みのクオリティの音質を得られるよう設計しています。これらマイク開発で培った技術は、近年需要の高いブロードキャスト用ヘッドセットやゲーミング・ヘッドセットなどにおいても活用され、クリアな音声伝達を実現しています」
グモーザー氏の力強い語り口から、彼がbeyerdynamic製品に強い誇りを持っていることが大いに感じられた。次回は製造現場からのレポートをお届けする。
M/TGシリーズ・ラインナップを一挙紹介
※価格はすべてオープン・プライス(市場予想価格)
M 88[ダイナミック・マイク]
1962年に発売され、フィル・コリンズがボーカル・マイクとして愛用していたことでも知られているダイナミック・マイク。バス・ドラム、サックスなどの大音量ソースにも効果的で、カプセル背面で共振を抑える構造によって優れた低音特性を実現しているという。
【SPECIFICATION】
●指向性:ハイパーカーディオイド ●周波数特性:30Hz~20kHz ●外形寸法:48.5(φ)×181(H)mm ●重量:320g
M 160[リボン・マイク]
一般的にリボン・マイクは双指向性のものが多いが、M 160は独自開発の構造によりハイパーカーディオイドを実現。軸から110°でのノイズ抑制が-25dBとなり、周囲のノイズのかぶりを低減可能。ピンポイントのサウンドを、温かな音像で捉えられる。
【SPECIFICATION】
●指向性:ハイパーカーディオイド ●周波数特性:40Hz~18kHz ●外形寸法:38(φ)×156(H)mm ●重量:156g
M 130[リボン・マイク]
双指向性のリボン・マイク。側面からの不要な干渉を抑制し、原音を色付けすることなく収録できるのが特徴とのこと。M 160をミッド、M 130をサイドとして用いれば、MS方式のレコーディングとして使用できるなど、多様な用途に対応する。
【SPECIFICATION】
●指向性:双指向性 ●周波数特性:40Hz~18kHz ●外形寸法:38.5(φ)×128(H)mm ●重量:150g
M 201[ダイナミック・マイク]
グモーザー氏いわく「小さなハウジング内で可能な限り大きなダイアフラムを採用していて、スピーチ、ボーカル、楽器など広く用いられています」とのこと。トランジェント特性に優れ、最近ではスネアやアコースティック・ギターの収録にもよく使用されている。
【SPECIFICATION】
●指向性:ハイパーカーディオイド ●周波数特性:40Hz~18kHz ●外形寸法:24(φ)×147(H)mm ●重量:228g
MC 930[コンデンサー・マイク]
スピーチおよび楽器用途のトゥルー・コンデンサー・マイク。グモーザー氏は「クリアな音像を実現するために、焼結材料で作られたフロント・グリルと、振動板のテンションを保ち続けるマウント構造が特徴です。カプセルの指向性も一つ一つ調整され、最終的な組み立て前には無響室での測定を行っています」と語る。測定結果に基づきマッチングを行うステレオ・ペア・セットも取りそろえる。
【SPECIFICATION】
●指向性:カーディオイド ●周波数特性:40Hz~20kHz ●外形寸法:21(φ)×128(H)mm ●重量:106g
MC 950[コンデンサー・マイク]
MC 930と同タイプで、指向性をスーパーカーディオイドにしたモデル。ソロ楽器など、より狙いを定めたマイキングに適している。
【SPECIFICATION】
●指向性:スーパーカーディオイド ●周波数特性:40Hz~20kHz ●外形寸法:21(φ)×128(H)mm ●重量:106g
MM 1[測定用コンデンサー・マイク]
音場への影響を最小限に抑える測定用マイク。個体別に測定した感度、周波数応答曲線データを付属し、キャリブレーションに対応する。
【SPECIFICATION】
●指向性:無指向性 ●周波数特性:20Hz~20kHz ●外形寸法:19(φ)×133(H)mm ●重量:88g
TG V70[ダイナミック・マイク]
ボーカル用ハンドヘルド・マイク。シンプルながら頑丈なデザインで、衝撃を吸収しハンドリング・ノイズを減衰する構造を採っている。指向性はハイパーカーディオイドで、ハウリング耐性にも優れている。オン/オフ・スイッチ付きのTG V70 Sもラインナップ。
【SPECIFICATION】
●指向性:ハイパーカーディオイド ●周波数特性:25Hz~18kHz ●外形寸法:54(φ)×185(H)mm ●重量:345g
TG V50[ダイナミック・マイク]
自然なサウンド・キャラクターを持つというカーディオイドのダイナミック・マイク。オン/オフ・スイッチ付きのTG V50 Sもあり、用途に合わせたチョイスが可能だ。
【SPECIFICATION】
●指向性:カーディオイド ●周波数特性:50Hz~17kHz ●外形寸法:54(φ)×185(H)mm ●重量:270g
TG V35 S[ダイナミック・マイク]
オン/オフ・スイッチを備えるエントリー・モデルのハンドヘルド・マイク。指向性はスーパーカーディオイドで、初めてマイクを使う人にとっても扱いやすい一本となっている。
【SPECIFICATION】
●指向性:スーパーカーディオイド ●周波数特性:30Hz~18kHz ●外形寸法:50(φ)×186(H)mm ●重量:305g
TG D71[コンデンサー・マイク]
バス・ドラムなどの打楽器、グランド・ピアノなどに最適なバウンダリー・マイク。最大音圧レベルは148dBを誇る。48Vファンタム電源を入れるとXLR端子右のLEDが赤く点灯する。マイク・スタンドを用いずに集音ポイントに置くだけの構造で、繊細な音質に加え設置の容易さも特徴だ。
【SPECIFICATION】
●指向性:ハーフカーディオイド ●周波数特性:25Hz~20kHz ●外形寸法:86(W)×27(H)×90(D)mm ●重量:413g
TG D35[ダイナミック・マイク]
ドラム/パーカッション収録向きのダイナミック・マイク。クリップオンで設置することが可能なため、設置が素早く容易。マイク・スタンドも不要で、ドラム演奏動画配信などによく活用されている。本機4本を含むドラム用マイクをセットにしたTG Drum Set PRO Mもリリースされている。
【SPECIFICATION】
●指向性:スーパーカーディオイド ●周波数特性:50Hz~14kHz ●外形寸法:35(φ)×72(H)mm ●重量:95g
PICK UP|モバイル環境で活躍するPRO Xシリーズ
スタジオから離れたモバイル・ホーム・プロダクションにおいても、ハイクオリティな録音を可能にするPRO Xシリーズ。その2製品を紹介しよう。
※価格はすべてオープン・プライス(市場予想価格)
M 90 PRO X[コンデンサー・マイク]
DTM環境のホーム・レコーディングやスタジオ・ユースに特化したコンデンサー・マイク。SN比が88.4dBA(1Pa)と、セルフ・ノイズを軽減した仕様となっている。ショック・マウント、ポップ・ガード、専用バッグを付属する。
【SPECIFICATION】
●指向性:カーディオイド ●周波数特性:20Hz~20kHz ●外形寸法:52(φ)×197(H)mm ●重量:296g
M 70 PRO X[コンデンサー・マイク]
ストリーミングやポッドキャスト収録に最適化したダイナミック・マイク。近接効果を抑え、かつ少し離れた位置からでもクリアな音声を収音できる。こちらもショック・マウント、ポップ・ガード、専用バッグを付属する。
【SPECIFICATION】
●指向性:カーディオイド ●周波数特性:25Hz~18kHz(集音距離1mでは40Hz〜18kHz) ●外形寸法:52(φ)×185(H)mm ●重量:320g