ドイツのハイルブロンに拠点を構え、2024年に創業100周年を迎えた音響機器ブランド、beyerdynamic。“Made in Germany”をモットーに自社工場で開発／生産されている製品は、世界中で数多くのエンジニアやクリエイターに愛用されている。本誌では、７回にわたってbeyerdynamicをピックアップ。第2回はヘッドホンDTシリーズにフォーカスする。音響設計エンジニアのアンテ・ビヒャイ氏へのインタビューからDTシリーズ開発のストーリーを解き明かしていく。シリーズ・ラインナップも一挙に掲載しているので、ぜひ導入の参考にしてもらいたい。
Photo：Hiroki Obara（メイン画像）
音響設計エンジニアが語るDTシリーズ開発ストーリー
前回のCEOのアンドレアス・ラップ氏へのインタビューで「DT 770 PROのサクセス・ストーリーこそブランドの代名詞」という言葉があったように、beyerdynamicのヘッドホンはブランドの核となっていると言えるだろう。今回は同社でヘッドホンとドライバーの開発を担当する音響設計エンジニア、アンテ・ビヒャイ氏に、ヘッドホンのDTシリーズについて詳細に伺っていこう。
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音質に絶対の自信を持つ
“DT”の名を冠したヘッドホンの歴史は、1937年のDT 48からスタート。約半世紀後の1985年に発表されたDT 770 PROをはじめ、現在はさまざまな製品がラインナップされている。まずはシリーズの開発コンセプトを聞いた。
「第一には“信頼性の高いリファレンス・スタジオ・サウンドを届けること”です。我々は製品の音質に絶対の自信を持っています。また“長時間のスタジオ・セッションでも快適さを保つ装着性を実現すること”や“高い耐久性かつ修理が容易であること”も重要なポイントです。ドイツの本社施設で生産し、高品質の素材を利用することで、信頼性の高い製品を提供できています」
時代によって良しとされるサウンドが変わる音楽の世界にあって、現代の音楽制作者のニーズを満たすために、製品開発やチューニングで意識している点は何なのだろうか。
「beyerdynamicにとって、ゴールは常にフラットな周波数特性のサウンドであり、細部を余すところなく表現することです。これにより、我々のヘッドホンはスタジオ・エンジニアやミュージシャンにとって、なくてはならない優れたツールとなりました。今日に至るまでその考えは変わりませんが、現在では低域をより素直に再現できることが求められており、製品開発における重要なポイントとして捉えています」
快適な装着性を実現するための取り組みについては、次のように語る。
「DTシリーズの快適性は、過去数十年間にわたって実証されています。その大きな要素として、最初に目に付くのはグレーのベロア生地でできたイヤ－・パッドでしょう。柔らかくて汗をかかない快適な仕様で、長時間にわたるスタジオ・セッションも楽しむことができます。人は皆、頭の形状が異なるため、ヘッドバンドとイヤー・パッドを、社内および社外の方々も含め幅広い方にテストいただき、最適化のための改善を何度も繰り返しています」
シリーズの中でも代表的な製品、DT 770 PROについて、氏は「数十年にわたって世界中のスタジオで標準となっているのには理由があります」と語る。
「録音とモニタリングのための優れたサウンドと、頑強で耐久性の高い密閉型のDT 770 PROは、過酷なプロフェッショナルの環境でも信頼され続けています。プロのエンジニア／クリエイターは、我々の製品の耐久性と修理の容易さを高く評価してくれていますよ」
ヘッドホン開発の主役はドライバー
ここから、ブランド100周年を記念したモデル、DT 770 PRO X Limited Editionを中心に、最新の製品開発について伺う。まずはDT 770 PRO X Limited Editionの特徴から。
「ブランドにとって最初の世紀＝100年を迎え、次の世紀にはユーザーの皆様にとって根幹となっている、定番のDT 770 PROに最新の機能を盛り込んで提供したかったのです。主な特徴は、多様な用途に対応できる柔軟性です。例えば、取り外し可能なミニXLRケーブルや、多くのモバイル・デバイスにも、もちろんスタジオ環境にも完璧に適合するSTELLAR.45ドライバーが挙げられます」
45mm径のSTELLAR.45ドライバーは、DT 700 PRO X、DT 900 PRO Xにも採用される独自開発のドライバーだ。
「STELLAR.45のボイス・コイルは、単純な銅線ではなく、軽量な銅メッキのアルミ・ワイヤーで作られています。このワイヤーを使用することで、可動部である振動板の質量を大幅に削減することに成功しました。これにより、インパルス応答速度を大きく改善しています」
STELLAR.45の採用により、DT 770 PRO X Limited Editionは力強い低音と精細な高音をバランスよく再現しているという。「すべてのヘッドホン開発の主役はドライバーです」とビヒャイ氏が語る。
「STELLAR.45は広範なヘッドホンで使用できる、優れたパフォーマンスを持つドライバーです。ドライバーの周波数特性は、ヘッドホンのサウンド・ディティールに大きく影響します。また、音響チューニングに関連する部品としては、イヤー・パッドやバッフル・デザイン、およびイヤー・カップ内のレゾネーターが含まれます。DT 770 PRO X Limited EditionをほかのDTシリーズと比較すると、我々の開発チームが導入した新しい要素を発見することができると思います」
新たな面は装着性にも表れている。
「DT 770 PRO X Limited Editionのヘッドバンドの中央に、これまでにない“Fontanelle Recess”（中央のくぼみ）を設けました。ヘッドホンの重量が頭頂部全体に、より均等に分散されるようになっていますよ」
業界でも比類なき伝統を持つbeyerdynamicの根底には、常に革新性を取り入れようとする精神があり、それが長く、広く愛用される製品を開発し続けられるゆえんであると強く感じられた。次回は、ヘッドホンの開発工場への潜入レポートをお届けするので、そちらも楽しみにしてもらいたい。
DTシリーズ・ラインナップを一挙紹介
※価格はすべてオープン・プライス（市場予想価格）
DT 770 PRO［密閉型］
レコーディング向け密閉型ヘッドホン。原音の忠実さが支持を得て、世界中のレコーディング・スタジオでリファレンス・ヘッドホンとして採用されている。インピーダンスが異なる3種類のモデルがあり、32Ωはモバイル端末、80Ωはオールラウンドな用途、250Ωはプロ・ユースのスタジオ環境と、ニーズに合わせて選択可能だ。
【SPECIFICATION】
●タイプ：密閉型 ●インピーダンス：32Ω、80Ω、250Ω ●周波数特性：5Hz～35kHz ●重量（本体）：270g ●付属品：ステレオ・フォーン変換プラグ、専用バッグ ●備考：32Ω：1.6mストレート・ケーブル、80Ω：3mストレート・ケーブル、250Ω：3mコイル状ケーブル
DT 880 PRO［セミオープン型］
ミックス／マスタリング向けのセミオープン型ヘッドホン。広がりのあるサウンドで、開放型の音抜けの良さ、密閉型の情報量を兼ね備えているという。イヤー・パッドはシルバー・グレイのベロア生地で、3mのコイル状ケーブルを採用する。
【SPECIFICATION】
●タイプ：セミオープン型 ●インピーダンス：250Ω ●周波数特性：5Hz～35kHz ●重量（本体）：295g ●付属品：ステレオ・フォーン変換プラグ、専用バッグ
DT 990 PRO［開放型］
ミックス／マスタリング向けの開放型ヘッドホン。低域と高域をマイルドにブーストすることで心地良さを演出しつつ、正確さも兼ね備えているとのこと。重量が250g（ケーブルを除く）と、DTシリーズの中で特に軽量な点にも注目だ。
【SPECIFICATION】
●タイプ：開放型 ●インピーダンス：250Ω ●周波数特性：5Hz～35kHz ●重量（本体）：250g ●付属品：ステレオ・フォーン変換プラグ、専用バッグ
DT 700 PRO X［密閉型］
PRO Xシリーズのレコーディング向け密閉型ヘッドホン。クリアさを保ちながら大音量再生を可能にするSTELLAR.45ドライバーを搭載し、低域は明瞭で、中高域は色付けのない音像となっているとのこと。なお、PRO Xシリーズからケーブルが着脱式に。持ち運びが容易になり、スタジオや移動時など、あらゆるシーンに対応する。
【SPECIFICATION】
●タイプ：密閉型 ●インピーダンス：48Ω ●周波数特性：5Hz～40kHz ●重量（本体）：350g ●付属品：ストレート・ケーブル（1.8m、3m）、ステレオ・フォーン変換プラグ、専用バッグ ●備考：デタッチャブル・ケーブル、ミニXLR仕様
DT 770 PRO X Limited Edition［密閉型］
ブランド100周年を記念して限定生産されている密閉型ヘッドホン。DT 770 PROをベースとしながらも、STELLAR.45ドライバーを採用することで、あらゆるソースに対応する再生能力を誇る。ヘッド・バンドも一新し、装着時の快適性も向上している。
【SPECIFICATION】
●タイプ：密閉型 ●インピーダンス：48Ω ●周波数特性：5Hz～40kHz ●重量（本体）：305g ●付属品：3mストレート・ケーブル、ステレオ・フォーン変換プラグ、専用バッグ ●備考：デタッチャブル・ケーブル、ミニXLR仕様
DT 900 PRO X［開放型］
STELLAR.45ドライバーを搭載するミックス／マスタリング向け開放型ヘッドホン。豊かな空間と透明さを備え、全帯域にわたってナチュラルなサウンドを出力するという。1.8mと3mのストレート・ケーブルが付属する。
【SPECIFICATION】
●タイプ：開放型 ●インピーダンス：48Ω ●周波数特性：5Hz～40kHz ●重量（本体）：345g ●付属品：ストレート・ケーブル（1.8m、3m）、ステレオ・フォーン変換プラグ、専用バッグ ●備考：デタッチャブル・ケーブル、ミニXLR仕様
DT 1770 PRO［密閉型］
ハイエンド・モデルの密閉型ヘッドホン。beyerdynamicブランドのフラッグシップテクノロジーである、250Ωの45mmダイナミック型Teslaドライバーを搭載。さらなる高解像度、高出力レベルを実現し、インパルス応答も大幅に向上しているという。ベロアとレザーの2種類のイヤー・パッドは異なる音響特性を持ち、用途に合わせて使い分けることができる。
【SPECIFICATION】
●タイプ：密閉型 ●インピーダンス：250Ω ●周波数特性：5Hz～40kHz ●重量（本体）：388g ●付属品：イヤー・パッド×2（ベロア／レザー）、ケーブル（3mストレート、5mコイル状）、ステレオ・フォーン変換プラグ、専用ケース ●備考：デタッチャブル・ケーブル、ミニXLR仕様
DT 1990 PRO［開放型］
Teslaドライバーを備えるハイエンド・モデルの開放型ヘッドホン。空間表現に優れ、ミックス／マスタリングに最適化。ケーブルは着脱式で、ストレートとコイル状を付属。イヤー・パッドは、Analytial（分析的）と Balanced（バランス型）の2種類が付属する。
【SPECIFICATION】
●タイプ：開放型 ●インピーダンス：250Ω ●周波数特性：5Hz～40kHz ●重量（本体）：370g ●付属品：イヤー・パッド×2（ベロア×2）、ケーブル（3mストレート、5mコイル状）、ステレオ・フォーン変換プラグ、専用ケース ●備考：デタッチャブル・ケーブル、ミニXLR仕様、イヤー・パッドは分析的特性、バランス特性の2種
PICK UP｜ヘッドホン・アクセサリー
音楽制作者にとって、毎日のように身につけるヘッドホンは消耗品と言えるだろう。beyerdynamicは本体の耐久性の追求に加え、簡単に交換可能なアクセサリーも充実。ここではその一部を紹介しよう。
※価格はすべてオープン・プライス（市場予想価格）
イヤー・パッド：EDT 770 V
DT 770 PROなどに対応するベロア生地のイヤー・パッド。色違いとなるブラックや、各機種用のイヤー・パッドも用意されている。
ヘッドバンド：HEADBAND BUTTONABLE
イヤー・パッドと同じく消耗パーツであるヘッドバンド。DT 770 PRO、DT 880 PRO、DT 990 PRO、DT 770 PRO X Limited Editionなどに適合する、ボタン留めで簡単に交換できる。DT 700 PRO X、DT 900 PRO X や、DT 1770 PRO、DT 1990 PRO に適合するヘッドバンドも取りそろえる。
ケーブル：PRO X Cable 1.8m
PRO XシリーズやDT 1770 PRO、DT 1990 PROといったケーブル着脱式モデルで使用可能。異なる長さやコイル式なども展開。
ケース：DT Hard Case
多くのDTシリーズ・ヘッドホンに対応するハード・ケース。内側はベロア生地でコーティングされており、持ち運びにも安心な仕様だ。
